乙女ゲームの村人に転生した俺だけど悪役令嬢を救いたい
育成ゲームのステータスで乙女ゲームのイケメンを堕とそう。
数時間後、アンジュの体温と焚き火で暖められビィティはようやく起き上がることができた。
「ありがとうアンジュ」
「どういたしまして……」
お礼をいうビィティはまだ小刻みに震えているのでアンジュは焚き火の前に座らせ皮の敷物でビィティを包み込むとそのまま肩が付くほどの至近距離に座る。
隣に座ったアンジュはビィティが意識を失っている間に湧き上がった疑問を口にする。
「……この世界って本当に『メアリーワールド』なの?」
ビィティにはその質問の意味が理解できなかった。アンジュもいるしクラリスもいるミニダンジョンもあるこの世界は紛れもなく『メアリーワールド』なのだ。
質問の意味を理解しないビィティに、先程ベルリとクリンがアニメチックだったことを例えに話す。
「リアルだったから気がつかなかったんだけど、ビィティが連れてる精霊だけどフェイク精霊のレインボーバスとアルカディアバードだよね?」
「……そうだけど」
ビィティの相づちにアンジュは満足するとコインを一枚弾いてビィティに見せる。
それはミニダンジョンで大量に確保した金貨だった。
「これはバルムントコイン」
バルムント金貨をアンジュはバルムントコインと呼ぶ、少しの違いはあれどたいした違いはないのでビィティは頷く。
「今あげた名前はスマホゲームの『精霊ファーム』のキャラとアイテムなんだけど」
「なんだって!?」
確かに知らないアイテムがあったり、いないはずの精霊が居たりと『メアリーワールド』から逸脱してる部分があった。
それが他のゲームが介入したために起こったことだとしたら、この世界の乙女ゲームはどうなるんだと言う疑問がビィティの頭をよぎる。
シナリオの崩壊、今のビィティにはそれがとても恐ろしかった。
アンジュの話とビィティが知りうる『メアリーワールド』以外のアイテム等の相違点を話し合ってみると確実に『精霊ファーム』と言うゲームが関係していることが分かった。
『精霊ファーム』とは
突如現れた精霊達は人間の精気を糧としている。生きるために精霊達は人間に取り憑き支配した。
その精霊達はナチュラルと言われた。
精霊に支配された世界で人間達は家畜同然の扱いを受けており、まるで乾電池を交換するように精気を吸われ死んでいった。
精霊は精霊でしか倒せない。
滅亡するだけに思えた人類に一人の天才科学者ツルミが現れ、精霊達と戦う術を産み出した。
ツルミは動物を精霊化する技術を開発したのだ。
ツルミが作った精霊はレベルアップが可能で少しの精気でナチュラルに匹敵する力を出すことが可能だった。
だが王級ナチュラルは強くフェイクでは到底勝てなかった。
そこでツルミはフェイクをパワーアップするためのアイテムを数種類考え出した。
その一つがアーティファクト精霊なのだ。アーティファクト精霊は二種類の系統が存在する。
八百万神系と付喪神系があり。前者は精霊と融合し後者は精霊に武装を授ける。
作り方はスマホで写真を撮って精霊化できるようであれば、バルムントコインを100枚支払うと製造できる。
写真は魂を吸うことができるから写真を撮るのだ。
「明治かな?」とビィティは声をだして笑う。自分が好きなゲームを笑われたのでアンジュはビィティの脇腹をつねる。
「ごめんごめん、でも面白そうなゲームだね」
「そうでしょ、あっちで知り合ってたらレイドとか協力プレイできたのに」とアンジュは悔しがる。
ただビィティはあちらの世界ではスマホにはゲームを入れない主義なのでそれは無理な話なのだが。
「でもアンジュの話を聞いて得心したよ。この世界は二つの世界、『メアリーワールド』と『精霊ファーム』が合わさった世界なんだよ」
「二つの世界が?」
「そう、だけどメインは『メアリーワールド』で、その世界に『精霊ファーム』が組み込まれた感じだね」
「なんでそう思うの?」
「ナチュラルは人間と敵対しないで共生してるからね」
『精霊ファーム』のストーリの骨子であるナチュラルが人間を餌にして敵対していない時点でこの世界は『メアリーワールド』なんだとビィティは言う。
「あー、確かにそうね」
その後も色々『精霊ファーム』の情報をアンジュに聞いた。ただ、そこで分かったのはアンジュに死ぬ可能性ができてしまったと言うことだ。
通常『メアリーワールド』でどんなにピンチな出来事があってもアンジュは死なない。あのビィティが頑張って倒した魔結晶も兵士は全滅したとしてもアンジュは一人で倒しているのだ。
精霊と言う余計な成分が予測不能な事態を引き起こしてしまっているとビィティは考える。
「でも、これなら王子と結婚しなくてもビィティと結婚すれば良いんじゃない? 同じ世界の住人だしたぶん楽しく暮らせると思うよ」
顔を赤らめながら言うアンジュにビィティは頭を下げる。
「……ごめん、俺はアンジュに謝ならければいけないことがあるんだ」
そう言うとビィティは今までの経緯をすべて話した。好きな女性のこと、アンジュを王子と結婚させてクラリスを救おうとしたこと。
ビィティは頭を下げたまま顔をあげなかった。自分がどうしようもなくゲスに思えて。
アンジュにゲスな自分を見られたくなくて。
「そう、そう言う経緯があったんだね」
「ごめん、俺は最低だ」
「いいよ、私、王子と結婚する。玉の輿なんて最高じゃない?」
ビィティの顔をあげさせ、にこやかに笑うアンジュの顔に迷いは無かった。
ビィティの為、いや明人のために自分を犠牲にしても彼に幸せになって欲しいのだ。
「いや、それは――」
「良いんだよ! 私は王子と結婚したいの、自由でいるために。クラリスの為でもビィティ為でもないよ」
「本当に良いのか?」
「ただクラリスと一緒に旅立つ日までは私の側で私を守る騎士様でいてくださいね?」
「もちろん、アンジュは絶対に俺が守るよ」
「良かった……」
そう言うとアンジュはビィティの肩に頭を置いて焚き火を見た。
「でも、安心した。明人さんが明人さんで。命を懸けてクラリスを救うなんて、まるで新聞に載っていた出来事と同じじゃない」
「そんなに立派なものじゃないよ。俺のせいで師匠が死んでしまったんだし」
だが、アンジュはそれは思い違いだとビィティに言う。ベスタは魔王を倒す旅には同伴できないはずだと。
ナチュラルはフェイクと違ってレベルがない。だからナチュラルを使う人間は精気を大量に消費してしまう。
若いときから戦っていたなら、すでにボロボロだったのではないかと言う。
だから人里離れた山の中で暮らしていたのではないかと。
「そんな都合が良い話……」
「でも、純然たる事実よ」
師匠が自分のせいで死んだのは変わらないが、アンジュの言葉でいくらか救われた自分がいるのを感じていた。
「ビィティこれって精霊石じゃない?」
アンジュはビィティの首もとにかけてあるネックレスを指差して言う。
「これがなんだかわかるの?」
「青い精霊石なら精霊石(中)ね。それは生気の使用量を25%減らす効果があるわ」
アンジュは精気と生気の違いに疑問を持ったが、誤植かなと思いその後は特に気にすることもなかった。
「これも『精霊ファーム』のアイテムなのか、命の恩人の師匠の形見なんだよ。でも、すごいね見ただけで分かるなんて、かなりやりこんだの?」
「ん? 違うよ私の目にはアイテムの名前が写っているの、効果までね」
その言葉を聞いてビィティの背筋が一瞬凍った。
アイテムを鑑定できる目、それはシステムに起因している。ビィティでもアイテム名は見えない。
それなのにアンジュはアイテム名が見えると言う、情報まで……。
「……アンジュ、ゲーム画面みたいなのでないか?」
ビィティに言われアンジュは首を捻りながら考える。
「うーん。あ! でた!」
「それってどんな画面だ?」
「普通に『精霊ファーム』の画面だよ」
それは、ビィティにとって死刑宣告に近かった。つまり、アンジュにはレベルはおろか攻略対象との親愛度を計るパラメーターが無いのだ。
つまり、このまま攻略対象を堕とすのは画面を見ずにプレイするウルトラハードモードと一緒なのだ。
見た目はアンジュだが、このアンジュは『精霊ファーム』のプレイヤーでしかない。
乙女ゲームをするために必要な機能を持っていない。
モンスター育成ゲームの主人公が乙女ゲームのイケメン男子を堕とさなければいけないのだ。
その事実にビィティは無理ゲーだと肩を落とすのであった。
「ありがとうアンジュ」
「どういたしまして……」
お礼をいうビィティはまだ小刻みに震えているのでアンジュは焚き火の前に座らせ皮の敷物でビィティを包み込むとそのまま肩が付くほどの至近距離に座る。
隣に座ったアンジュはビィティが意識を失っている間に湧き上がった疑問を口にする。
「……この世界って本当に『メアリーワールド』なの?」
ビィティにはその質問の意味が理解できなかった。アンジュもいるしクラリスもいるミニダンジョンもあるこの世界は紛れもなく『メアリーワールド』なのだ。
質問の意味を理解しないビィティに、先程ベルリとクリンがアニメチックだったことを例えに話す。
「リアルだったから気がつかなかったんだけど、ビィティが連れてる精霊だけどフェイク精霊のレインボーバスとアルカディアバードだよね?」
「……そうだけど」
ビィティの相づちにアンジュは満足するとコインを一枚弾いてビィティに見せる。
それはミニダンジョンで大量に確保した金貨だった。
「これはバルムントコイン」
バルムント金貨をアンジュはバルムントコインと呼ぶ、少しの違いはあれどたいした違いはないのでビィティは頷く。
「今あげた名前はスマホゲームの『精霊ファーム』のキャラとアイテムなんだけど」
「なんだって!?」
確かに知らないアイテムがあったり、いないはずの精霊が居たりと『メアリーワールド』から逸脱してる部分があった。
それが他のゲームが介入したために起こったことだとしたら、この世界の乙女ゲームはどうなるんだと言う疑問がビィティの頭をよぎる。
シナリオの崩壊、今のビィティにはそれがとても恐ろしかった。
アンジュの話とビィティが知りうる『メアリーワールド』以外のアイテム等の相違点を話し合ってみると確実に『精霊ファーム』と言うゲームが関係していることが分かった。
『精霊ファーム』とは
突如現れた精霊達は人間の精気を糧としている。生きるために精霊達は人間に取り憑き支配した。
その精霊達はナチュラルと言われた。
精霊に支配された世界で人間達は家畜同然の扱いを受けており、まるで乾電池を交換するように精気を吸われ死んでいった。
精霊は精霊でしか倒せない。
滅亡するだけに思えた人類に一人の天才科学者ツルミが現れ、精霊達と戦う術を産み出した。
ツルミは動物を精霊化する技術を開発したのだ。
ツルミが作った精霊はレベルアップが可能で少しの精気でナチュラルに匹敵する力を出すことが可能だった。
だが王級ナチュラルは強くフェイクでは到底勝てなかった。
そこでツルミはフェイクをパワーアップするためのアイテムを数種類考え出した。
その一つがアーティファクト精霊なのだ。アーティファクト精霊は二種類の系統が存在する。
八百万神系と付喪神系があり。前者は精霊と融合し後者は精霊に武装を授ける。
作り方はスマホで写真を撮って精霊化できるようであれば、バルムントコインを100枚支払うと製造できる。
写真は魂を吸うことができるから写真を撮るのだ。
「明治かな?」とビィティは声をだして笑う。自分が好きなゲームを笑われたのでアンジュはビィティの脇腹をつねる。
「ごめんごめん、でも面白そうなゲームだね」
「そうでしょ、あっちで知り合ってたらレイドとか協力プレイできたのに」とアンジュは悔しがる。
ただビィティはあちらの世界ではスマホにはゲームを入れない主義なのでそれは無理な話なのだが。
「でもアンジュの話を聞いて得心したよ。この世界は二つの世界、『メアリーワールド』と『精霊ファーム』が合わさった世界なんだよ」
「二つの世界が?」
「そう、だけどメインは『メアリーワールド』で、その世界に『精霊ファーム』が組み込まれた感じだね」
「なんでそう思うの?」
「ナチュラルは人間と敵対しないで共生してるからね」
『精霊ファーム』のストーリの骨子であるナチュラルが人間を餌にして敵対していない時点でこの世界は『メアリーワールド』なんだとビィティは言う。
「あー、確かにそうね」
その後も色々『精霊ファーム』の情報をアンジュに聞いた。ただ、そこで分かったのはアンジュに死ぬ可能性ができてしまったと言うことだ。
通常『メアリーワールド』でどんなにピンチな出来事があってもアンジュは死なない。あのビィティが頑張って倒した魔結晶も兵士は全滅したとしてもアンジュは一人で倒しているのだ。
精霊と言う余計な成分が予測不能な事態を引き起こしてしまっているとビィティは考える。
「でも、これなら王子と結婚しなくてもビィティと結婚すれば良いんじゃない? 同じ世界の住人だしたぶん楽しく暮らせると思うよ」
顔を赤らめながら言うアンジュにビィティは頭を下げる。
「……ごめん、俺はアンジュに謝ならければいけないことがあるんだ」
そう言うとビィティは今までの経緯をすべて話した。好きな女性のこと、アンジュを王子と結婚させてクラリスを救おうとしたこと。
ビィティは頭を下げたまま顔をあげなかった。自分がどうしようもなくゲスに思えて。
アンジュにゲスな自分を見られたくなくて。
「そう、そう言う経緯があったんだね」
「ごめん、俺は最低だ」
「いいよ、私、王子と結婚する。玉の輿なんて最高じゃない?」
ビィティの顔をあげさせ、にこやかに笑うアンジュの顔に迷いは無かった。
ビィティの為、いや明人のために自分を犠牲にしても彼に幸せになって欲しいのだ。
「いや、それは――」
「良いんだよ! 私は王子と結婚したいの、自由でいるために。クラリスの為でもビィティ為でもないよ」
「本当に良いのか?」
「ただクラリスと一緒に旅立つ日までは私の側で私を守る騎士様でいてくださいね?」
「もちろん、アンジュは絶対に俺が守るよ」
「良かった……」
そう言うとアンジュはビィティの肩に頭を置いて焚き火を見た。
「でも、安心した。明人さんが明人さんで。命を懸けてクラリスを救うなんて、まるで新聞に載っていた出来事と同じじゃない」
「そんなに立派なものじゃないよ。俺のせいで師匠が死んでしまったんだし」
だが、アンジュはそれは思い違いだとビィティに言う。ベスタは魔王を倒す旅には同伴できないはずだと。
ナチュラルはフェイクと違ってレベルがない。だからナチュラルを使う人間は精気を大量に消費してしまう。
若いときから戦っていたなら、すでにボロボロだったのではないかと言う。
だから人里離れた山の中で暮らしていたのではないかと。
「そんな都合が良い話……」
「でも、純然たる事実よ」
師匠が自分のせいで死んだのは変わらないが、アンジュの言葉でいくらか救われた自分がいるのを感じていた。
「ビィティこれって精霊石じゃない?」
アンジュはビィティの首もとにかけてあるネックレスを指差して言う。
「これがなんだかわかるの?」
「青い精霊石なら精霊石(中)ね。それは生気の使用量を25%減らす効果があるわ」
アンジュは精気と生気の違いに疑問を持ったが、誤植かなと思いその後は特に気にすることもなかった。
「これも『精霊ファーム』のアイテムなのか、命の恩人の師匠の形見なんだよ。でも、すごいね見ただけで分かるなんて、かなりやりこんだの?」
「ん? 違うよ私の目にはアイテムの名前が写っているの、効果までね」
その言葉を聞いてビィティの背筋が一瞬凍った。
アイテムを鑑定できる目、それはシステムに起因している。ビィティでもアイテム名は見えない。
それなのにアンジュはアイテム名が見えると言う、情報まで……。
「……アンジュ、ゲーム画面みたいなのでないか?」
ビィティに言われアンジュは首を捻りながら考える。
「うーん。あ! でた!」
「それってどんな画面だ?」
「普通に『精霊ファーム』の画面だよ」
それは、ビィティにとって死刑宣告に近かった。つまり、アンジュにはレベルはおろか攻略対象との親愛度を計るパラメーターが無いのだ。
つまり、このまま攻略対象を堕とすのは画面を見ずにプレイするウルトラハードモードと一緒なのだ。
見た目はアンジュだが、このアンジュは『精霊ファーム』のプレイヤーでしかない。
乙女ゲームをするために必要な機能を持っていない。
モンスター育成ゲームの主人公が乙女ゲームのイケメン男子を堕とさなければいけないのだ。
その事実にビィティは無理ゲーだと肩を落とすのであった。
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