乙女ゲームの村人に転生した俺だけど悪役令嬢を救いたい

白濁壺&タンペンおでん

飛べないビィティはただの村人だ

 肉を手にいれたビィティは一路アンジュ達のもとへ戻った。
 帰る前にビィティは博士に追加で金貨5枚とアイテムバッグを一つ進呈した。
 アイテムバッグに遺物を入れておけば盗まれる心配はないからだ。

 途中、川にかかる橋を探したが、やはりどこにも橋はない、すべてが白一色で覆われ川すら凍りついて雪の下だ。
 季節はまだ冬だ、晴れてはいても気温が低いため雪は溶ける気配を見せない。
 季節はまだ冬なのを考えると1ヶ月は最低でも閉じ込められることになる。
 雪が溶けるのを待ってたら2ヶ月かとビィティは表情を曇らせた。

 途中アイテムバッグから背中に荷物を移したので、クリンはその重さを支えるのでてんてこまいになっていた。

「ごめんなクリン無理させて」
『だいじょうぶでちゅ。ご主人ちゃまの為になら頑張れるでちゅ』
 風で空を飛ばすと言う行為はかなりの力を消費する。
 ベスタの形見のペンダントの精霊石が精霊達に力を与えてくれる、だからこそ長時間飛ぶことができるのだ。
 ただ、それよりもビィティとの心の絆が深くなったことが精霊達に力を与えているのをビィティはまだ知らない。

「おかえりなさいビィティ」
 帰還するとアンジュが出迎えてくれた。自分が帰ってくる前から外で待っていたようで身体がかなり冷えている様子だ。

「ただいま戻りましたアンジュ様。」

「すごい荷物ね」
 アンジュはビィティが抱える荷物を下ろすのを手伝おうとするのでサファイヤに止められて顔をむくらせる。

「ええ、牧場の方に一杯詰め込まれまして。それにいつ出発できるかも分かりませんしね」
 ビィティの帰還に腹を空かせた兵士達がワラワラと集まる。食料を渡しみんなは早速鍋を作る。アンジュを焚き火に当たらせるとビィティはサファイヤに橋の状況やこの先の雪の状態を説明した。

「雪が溶けるにはまだ早いか」
 サファイヤはビィティの報告を受けて青い顔をする。食料が圧倒的に足りないのだ。

「春は一ヶ月先ですね。雪が溶けるのはもっと先です」

「一月以上も足止めになるのか……。やはりアンジュ様だけでも王都に戻られた方が」

「みんなを残して帰れる訳ないでしょ!」

「アンジュ様」

 部下の兵士達は皆その言葉に感動している。
 今までわがまま放題で兵士のことをなんとも思っていなかったアンジュが兵のことにまで気にかけているのだから当然と言えば当然なのだが。
 不良だったやつが真面目になっただけで誉められる効果だなとビィティは思った。

「私もアンジュ様は先に城に帰った方がいいと思います」
「なぜ?」
 ビィティの発言にアンジュは首をかしげる。兵を大事にしろと言うのはビィティの教えだからだ。

「雪解けによる雪崩です。今はまだ寒いから大丈夫ですがここは山間部です、雪解け時に雪崩が発生する場合があります」

「でも、今は平気でしょ」

「それに衛生面でも問題があります。1ヶ月ですと相当量の糞尿がでます。夏ではないとはいえ綺麗とは言えません。アンジュ様は排便の臭いに耐えられますか?」

「……耐えられるわよ」

「だとしても、帰るべきですね。ここへは私が責任をもって食材を運びますし薪も調達します。皆さんを絶対に死なせませんのでアンジュ様はご帰宅なさった方がいいと思います。システム的に」
 ここに居るとイベントが発生してしまう可能性がある。フィールド系のイベントは命にか関わるものが多い。アンジュ自身は無事だとしても兵士の命を奪ってしまう場合が多々ある。
 この世界ではアンジュ以外の命は軽いのだ。

「ビィティの言うとおりですアンジュ様」

「そうですよアンジュ様、俺たちは大丈夫ですから」
「アンジュ様に何かあったら俺たちみんな死んでお詫びしなくちゃなんないですよ」
「「アンジュ様」」

「……分かったわ。では戻ります。でも皆さん絶対に死なないでくださいね。父上にも救援するように伝えますので、それまで頑張ってください」

「「「はい!」」」
 帰ることを承諾してくれたアンジュに兵士達は安堵する。自分達のせいで守るべき対象が死ぬのは騎士として最大の屈辱なのだ。

 食事を終え、帰ることになったアンジュを連れていく前に、数種類のカマクラを作り薪や食材を貯蔵した。
 当然トイレ用のカマクラもあるがそれは生活区より下に設置して汚物が流れ込まないように配慮した。
 カマクラがある場所も氷で壁を作り、万が一雪崩が起きたときも左右に流れるような形状にした。

「まるで駐屯基地だな」
 サファイヤが出来上がった壁やカマクラを見て感慨深そうに言う。サファイヤは戦争経験者で取りでを見ると血が騒ぐのだ。

 すべての準備が整うと竹で作った篭を背中にしょい、そこにアンジュを入れるとビィティは宙を舞う。

「ビィティ、アンジュ様を頼んだぞ」

「はい、任せてください。送り届けたら戻ってきますので」

「ああ、食料はなるべく大切に食べるように勤めるからアンジュ様の身の安全だけを考えてくれ」

「わかりました」

 空を飛ぶとアンジュは子供のようにはしゃぐ。髪は乱れぐちゃぐちゃだがお構いなしだ。
 娯楽が少ないこの世界ではこういうことでも十分楽しいのだ。

「やっと二人きりになれたわね」

「まるで不倫している恋人みたいな言いぐさですね」

 二人きりになったとたんアンジュが馴れ馴れしくビィティの肩から手を回し寄りかかる。

「バカね、これで敬語禁止でしゃべれるじゃない」
「ああ、そうですね」
 敬語と言うのは普段からしゃべっていないとどうしても地が出てしまう。だから普段でも敬語で話したいとビィティは思っている。特にアンジュには思うところもあるので。

「はいダメ、今の敬語です!」
「そうだね」

「まだ固いかな」
「オ~イエイ」

「バカかな?」
 軽いチャラ男のノリにアンジュは本気で嫌がる。前世で何かあったのではと思うくらいに。

「杏子って毒舌だよね」

「そう? 優しい方が良いならそうするけど?」
 そういうと首筋に指を当てなぞるように耳まで手を伸ばすとクリクリと耳をいじりる。好きでもない相手に身体をいじくられると言うのがこれほど不快なのかとビィティは痴漢をされる女性の気持ちが少しわかる気がした。

「毒舌で良いです」
「プフフフ、ウブなんだぁ~」
 笑うアンジュに腹を立てていると高度がガクンと下がる。

「クリンどうした!?」
『だめでちゅ、力が出ないでちゅ』

 クリンは泣きそうな顔をしながらビィティを見て精一杯力を振り絞ったが、高度はぐんぐん下がり二人は凍った山の壁面に叩きつけられた。


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