乙女ゲームの村人に転生した俺だけど悪役令嬢を救いたい

白濁壺&タンペンおでん

氷の魔物と氷の聖者

『魔物でちゅ』
「どこだ? ホワイトアウトしていて何も見えないぞ」

『あるじぃ、この吹雪全部が魔物なんだよ』

「おい、どういうことだ」

『魔物のお腹の中にいるでちゅ』

『あるじぃ、どうするんだよ』

「カマクラだ、とりあえずカマクラを作れ!」
『分かった!』
 ビィティの周囲の雪が盛り上がり雪のドームを形成していく。なんとか人心地つけたが以前として危機なのはかわりがない。

「しかし、魔物の中か……師匠の本になにかヒントはないだろうか?」
 ビィティはバッグの中を漁り魔物関連、特に雪関係の書物を引き出す。
 引き出された書物は三冊、そのうちの一冊をめくるとそれほど難しくない文字でかかれておりビィティでも読むことができた。

 雪の魔物は魔石じゃなく魔結晶が核にある。
 弱点は熱。魔法の火は火と言う概念でありそのものに熱はない。故に火魔法では倒せない。

 一体一体には攻撃力は無く最弱の魔物なのだが、集団になるととたんに最強になりどうあがいても倒せないのだと言う。
 挿し絵には魔結晶の形も書いてありまるで雪の結晶そのものだった。

「これ、もしかして雪自体が魔物なのか? この吹雪は魔物の集合体?」
 ビィティはさらに他の書物を漁る、二冊目、三冊目は難しくほとんど読むことができなかったが、あり得ないほどの吹雪に遭った場合、雪の魔物を統率してる巨大な魔結晶の核があると言う。

「しかし、熱なんかないぞ。松明に火をつけてもこの吹雪じゃすぐに消えちまう。剣を熱して振り回してもすぐに覚めてしまうし戦いようがないじゃないか」
『火の精霊がいればオレとの合わせ技で熱を発生させられるのにな』

「よし、今度火の精霊増やしとこう」
『ご主人ちゃま、現実逃避でちゅ』

 ビィティはクリンに言われそうだ大事なのは今だと思い出すように頭を振る。
 熱を発するものを考える。手を擦って摩擦熱を作ってみたり、息を吹き掛けて体温で溶かしてみたり。
 全部、徒労に終わる。

「あと考えられるのは圧縮熱だけか」

 道具を探すが圧縮できるような道具はなにもない。ビィティは熱、熱、熱、熱になるものはないかと。
 だがそんなものは無い、無いものはないのだ。

 諦めかけたときベルリがビィティの目の前を通る。呑気に鼻唄混じりである。

「これだ!」
『ひゃ!なんだよあるじぃ』

「逆転の発送だよ」
『へ?』

 ビィティはベルリを使って水を撒く。ミスト状にした水は空気中の魔結晶を捕まえ固まる。固まった魔結晶は地面に落ちるが落ちる前にクリンに固めてもらい氷の煉瓦を作る。
 これで氷に閉じ込められた魔結晶は動くこともできず制止する。まさに氷の牢獄だ。

『オレたちが役に立つのか!?』
「二人が居たお陰でなんとかなりそうだよ」

『そうか、へへへ』
『でちゅ』

 数時間後、当然のごとく巨大な氷の城が出来上がったのは言うまでもない。

 吹雪も、もはやそよ風、粉雪が舞うだけである。

「見えた。あのどでかい魔結晶が小さな魔結晶を操っているんだ、ベルリ!」

『あいよ』
 ベルリの口から鉄砲魚のごとく水が噴射されると魔結晶が水で固められる。
 固められた大元の魔結晶は逃げることも戦うこともできない。

「さて、さんざんやりたい放題やってくれたな氷の結晶さんよ! ベルリ、クリンやっておしまい!」

『『サー、イエッサー!』でちゅ』

 二体の精霊は沸かしておいた鍋を持ち上げると一気に魔結晶の頭から流し込んだ。

 あり得ないほどの湯気が立ち上ぼりスターダストとなってキラキラ光る。
 パキッ、パキッと音をたてて魔結晶は粉々に砕け水と交わり氷になって消え去った。
 魔結晶があった場所には一つのアイテムが転がっていた。

「おお、戦利品だ!」
 ビィティはそれを拾いあげてすぐに気がついたアーティファクト精霊だと。

「アーティファクト精霊:氷。って壊れてやがる……」

 結局、あの吹雪はアーティファクト精霊の暴走が原因で起こっていたと言う結論にビィティは至った。
 ただ惜しむらくはせっかくのアーティファクト精霊を手に入れられなかったことだろう。
 なんども壊れたアーティファクト精霊を見てはため息をつく。

『あるじぃには俺たちが居るんだから良いじゃんか』
『でちゅ』

「そうだけどさ、手駒は多い方がいいじゃない?」

『じゃあまた仲間作れば良いじゃんよ』
『これ以上うるさいのはいらないでちゅ』

『あ? うるさいって誰のことだよ!』
『つーんでちゅ』

 二人の喧嘩を尻目に、ビィティはアーティファクト精霊を細かく観察する。
 割れているのは中央のクリスタルだけで外郭には傷一つ無い。
 つまりクリスタルさえ修理、交換できれば直せるんじゃないかと。

『なあ、あるじぃ買い物いかなくて良いのか?』
「あ! そうだこうしちゃいられなかった」

 ビィティはクリンをせかせ次の町まで向かった。

 ビィティは知らない自分が氷の聖者に成ったことに。そして、それが原因で王子と揉めるようになることを……。

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