乙女ゲームの村人に転生した俺だけど悪役令嬢を救いたい

白濁壺&タンペンおでん

師との出会い

 ”チュンチュン”

 鳥のさえずりがビィティの耳をくすぐり目を覚ます。そこは丸太で作ったログハウスの一室でビィティはベッドに寝かされていたのだ。

「ここはどこだ?」

 部屋の扉が開き白髪の老人紳士が入ってくる、ビィティが起きているのに気がつき声をかける。

「目が覚めたようだな。だが、まだ寝ていなさい。折れた骨や切れた筋肉は繋げておいたがまだ完全に繋がってはいない。数日寝てれば動けるようになる。今は安心して休みなさい」
 白髪の老人は手をビィティのまぶたの上に置くとビィティはまた深い眠りへといざな われた。


 ◆◆◆夢◆◆◆

「くそ、またクラリスが斬首された!」
 クラリスが救われるエンドはヒロインと王子が結婚する以外無いものかと、俺は何度も何度もゲームをやり直している。
 このクラリスという子は悪役令嬢なのにデザイン的に優遇されていてヒロインよりも美人とネットで騒がれ、むしろ悪役令嬢でやらせてくれと開発会社に要望が殺到したほどの人気を誇る。
 俺も御多分にもれずクラリスが大好きなのである。

「しかし、結局この仮面の騎士は誰なんだろう」

 それはヒロインと王子が結婚をして、悪役令嬢クラリスに恩赦が与えられた後の話。
 悪役令嬢が女勇者だった話。恩赦を与えられたクラリスは国外追放となるも一緒に着いてきてくれた仮面の騎士と魔王を倒す。
 魔王を倒した後で仮面の騎士は仮面をはずす。

『あなただったのですか……』

 というクラリスの言葉でゲームは終わる。

 この仮面の騎士はゲーム中にも重要なストーリーの時には必ず出てくる。特に魔族が何度も襲ってくるのだが必ず最後に出てきて美味しいところをかっさらうのが仮面の騎士なのだ。
 ついたアダ名がトンビ騎士やまぼろし騎士だ。

 そして王子エンドで新たな疑問が出来た。この仮面の騎士はヒロインではなく元々クラリスを助けるために現れていたかもしれないという疑惑だ。
 王子エンドでクラリスと共に魔王を倒す、つまりクラリスが勇者だと知っていて助けてたのではないかということだ。
 ならこの仮面の騎士の正体は誰だということになる。攻略対象はヒロインのアンジュにみんなベタ惚れである。念のため攻略対象の好感度を最低値と最高値で進めた時でさえ重要なイベントでは出てきた。

 つまり仮面の騎士は好感度に左右されないキャラなのだ。この時点で攻略対象が仮面の騎士という線はなくなる。
 だが、何度考えても仮面の騎士は誰なのか分からなかった。

「まあ、考えてもわかんないんだ。クラリスを救うついでに、お前の正体も暴いてやるよ仮面の騎士」

 キラキラと輝く白銀の鎧を見ながらそう言う放ちリスタートを選ぶと、もう一度ゲームを始めた。




 ◆◆◆◆◆◆


 ”カコン、カコン、カコン”

 リズミカルに木が切られる音が響き渡りビィティは目を覚ます。この部屋を見るのは二回目だ、体を起こすと精霊たちが現れる。

『あるじぃおはよう。寝過ぎじゃね?』
『ご主人ちゃま!』
 ベルリは悪態をつきクリンはビィティに抱きつき泣いている。
 いつもの光景だ。

 ベッドから降りたビィティは自分の身体を見て不思議に思う。あれほどの怪我がたった数日寝ただけで治っていることに。
 ピョンピョンと軽く飛んでみるが痛みもない。
 その動作を真似してピョンピョン飛ぶクリンの鼻をツンと叩くと、テーブルに置いてある服を羽織る。

 ”カコン、カコン、カコン”

 目が覚めたとき聞こえた音と同じ音が聞こえたのでビィティは音のする方へ向かった。
 外では老紳士が細い剣で器用に木を空中にあげると”カコン、カコン、カコン”と一瞬で切り裂き薪を作っていた。

「おお、起きたな坊主」

 坊主という言葉にデオゼラを思い出し少し身構える。そんなことを知ってか知らずか老紳士はにこやかに笑い「助けたのは私だぞ、そんな身構えることもあるまい」と言う。

「助けていただいて、ありがとうございます」

「ハハハ気にするな。私も君に借りがあるしな」

「借りですか?」

「うむ、それはおいおいな。それよりも腹が減ったろう飯にしようか」
 食事をしながらお互いの自己紹介をする。老紳士の名はベスタ・ボイドと言った。
 グダグダに煮込んだスープは野菜の形はなく、三日も寝ていた胃にはちょうど良い食事だ。

「それで、借りってなんですか?」

「ふむ、しかし君はなかなかのおとこだな」
 おもいきりスルーしたと言うことは聞くなと言うことなのだろうと

「ええと」

「見ていたのだよ、君が仲間を助けるために一人残ったのをな」

「ハハハ」
 愛想笑いをするビィティの前に急に二体の精霊が現れる。

『ナチュラルだ! それもダブル』
『でちゅ!』
 二匹の精霊はブルブルと震え、ナチュラルの精霊の前に跪く。
 位が遥かに上な精霊だと言う証明である。

「ふむ、すまないな」
 二匹のビィティの精霊を撫でるとベスタは自分の二体の精霊を引っ込める。

「この二人がここまで怯えるなんて初めてですよ」

「同じ属性だからだろうな。私のナチュラルも風と水なんだよ。それも二体とも王級だ」

「ナチュラルとフェイクとか王級とかなんなのですか。特にフェイクって……」
 ビィティは気にくわなかったのだ自分の精霊がフェイクと言われることが。

「知りたいのか? 絶望するぞ」

「教えてください。絶望なんかしません」

「存在しないのと同じだ」

「え?」

「ナチュラルからすればフェイクはいてもいなくても変わらないんだ」

「ですが、あのマリアと言うレジスタンスには――」

「あの女は本気で戦っておらんよ。遊んでいたのだ。本気だったら1秒で負けておるぞ」
 仮にもし本気だったら自分が助けに入っていたとベスタは言う。
 本気じゃないのにあそこまでやられたのかとビィティは自分の弱さと向き合わされる。

「それほど……。それじゃ王級と言うのは――」
「王級とは精霊のランクだ」

 精霊にはそれぞれランクがある。

      MP換算
・歩級   1~10
・香車級  10
・桂馬級  30
・銀級   50
・金級   100
・角級   150
・飛車級  200
・玉級   500以上
・王級   1000以上

 フェイクは歩級になり、ナチュラルは香車級以上を与えられる。
 そしてナチュラルとは神の分け御霊と言われ、主人とつがいになって生まれてくる。
 精霊使いは生まれながらにして精霊使いなのだ。

 フェイクと言うのはごく稀に発生する生物系の精霊で契約によって使役できるようになる。
 存在事態がレアでナチュラルのように完全解明はなされていないが、歴代のフェイクはあまり強い力を発揮できなかったと言われている。
 ちなみにMP換算で1~10とあるがフェイクは下級魔法程度の力しか使えず、ナチュラルは上級魔法や神級魔法に匹敵するほどの力を使えるので仮にMP換算が10のフェイクがいたしても香車級には遠く及ばないのである。

  白濁壺書房 「SAY REI」 著者ハゲ&マシタより

「と言うわけなのだが……」

「そうなんですか」
 王級って将棋の王だったのか、てっきり神級とか災害級とか中二病全開のクラスだと思っていたのにとビィティは残念がる。
 それは良いとしても、自然に生まれてくるフェイクの方がナチュラルっぽいじゃないかとビィティは憤慨する。
 しかもフェイクに関してはろくな研究もされていない。
 まあ、言わせたい奴には言わせておけばいいかとビィティは気持ちを切り替える。

「しかし、お主の精霊は普通のフェイクよりも少し強い気がする。少し手合わせをしてみんか?」

「手合わせですか?」

「なに、こちらは精霊を出さないから軽い稽古みたいなものだ」

 稽古ならとビィティは手合わせを承諾した。身体の調子も見たいのとナチュラルの精霊使いの戦い方を見て損はないと思ったからだ。
 庭に出た二人はビィティだけ精霊をだし、ベスタは剣で戦うことになった。
 ベスタが精霊を出すとビィティの精霊が使えなくなってしまうからだ。

「いつでもきたまえ」
 精霊の強さを知りたいなら精霊だけで攻撃すべきと金貨や複合技を使わずに通常の攻撃を加えた。
 しかし、その攻撃をベスタは剣の捌きだけで見事にいなす。
 どんな攻撃も、どんな技もベスタには効かなかった。

「フム、やはり普通のフェイクより強いな。坊主のフェイクはMP換算で言えば銀級レベルだな」
 
「そうですか、ですがこいつらは俺の相棒バディです。強くても弱くても関係ありませんよ」
『あるじぃ……』
『ご主人ちゃま……』
 その言葉に二体の精霊は喜びビィティの周りをクルクル回る。

「ハハハ、ワタシもな精霊を道具と考えてる輩は嫌いでな、坊主を気に入ったぞ」

「そうですか、ありがとうございます」
 気に入ったと言われてありがとうございますは変かとビィティは思ったが、ベスタは気にした様子もなく話を続ける。

「もし、よければワタシの剣術を教えてやろうか?」

「剣術と言うのは先程精霊の攻撃を捌いたものですか?」

「そうだ主人が強くなればそれだけ精霊の負担が減るからな強くなっておいて損はない」
 主人が強くなれば精霊の負担が減る。それはビィティにはとても魅力的な言葉でもあり、強くなろうとする努力を怠った自分自身に対しての戒めの言葉にも聞こえた。

「お前達にばかり強くなられたら、どちらが主人か分からないもんな」
『あるじぃ』
『ご主人ちゃま』

「お願いしますベスタさんの剣術を教えてください!」
 力なき正義は無力だと誰かが言った。だけど正義とか正義じゃないとか、そんなことはどうでもいい。
 ただ好きな人を守れる力が欲しいんだとビィティは思い、クラリスを泣かせた自分に彼女に会う資格はない。ただ強くなって仮面の騎士のように陰で彼女を守りたいのだとビィティは願う。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品