乙女ゲームの村人に転生した俺だけど悪役令嬢を救いたい

白濁壺&タンペンおでん

野盗の夜襲

『ご主人ちゃま敵でちゅ!』

 怒声が鳴り響き剣と剣がぶつかる音が響く。
 クラリスは恐怖でビィティに抱きつき小刻みに震える。

「大丈夫、クラリスは俺が絶対に守るから」

「わたし、あなたに守られるような女じゃ――」
 ビィティはクラリスの口を自分の口で塞ぐ。安心させるために。信じてもらうために。何より自分自身を奮い立たせるために。
 クラリスの温もりがビィティの身体に伝わり心が満たされるのを感じた。

『あるじぃ馬車で待機してる兵士が殺されたぞ』

「クラリス、他のみんなを連れてくる。ここで待ってるんだよ」
 だがクラリスはビィティの裾を握ったまま離さない。

「行かせません……。死んでしまいます」

「死なないよ。クラリスは俺が守るって約束したろ?」
 そう言うとビィティは優しく頭を撫でる。クラリスはビィティの瞳を見る、目を離さずに。そしてつかんでいる裾を離すと後ろに下がり頭を下げる。

「みんなを助けてください」

「約束するよ。それと、できるだけ身を低くして敵に見えないようにして隠れるんだよ」

「はい」

「クリン、風を纏わせてくれ」
『あいでちゅ!』

 ビィティは風を纏うことで身体を軽くする。二階のテラスに降りるとドアを蹴るがドアは開かない、外からかんぬきをかけられているようだった。

「ベルリぶち壊せ」
『おう!』

 水弾がドアをぶち壊すと二人の男が吹き飛ばされる。そいつらをお構いなしに踏みつけ廊下に出る。
 角部屋のドアはすでに開け放たれ男二人がドアの前に立っていた。
 ビィティは角部屋に押し入ろうとしている男達に水弾をお見舞いするようにベルリに命令する。

 水弾が炸裂して野盗が吹き飛ばされ気絶する。
 急いで角部屋に入るとデオゼラがメルリィに覆い被さっていた。

「こいつは裏切り者だ!」
「違うわ! 裏切り者はこいつよ!」

 二択、まるで死ぬ前の俺じゃないかとビィティは嫌な過去を思いだし顔を歪める。

「ベルリ吹き飛ばせ」
『おう!』

 水弾がデオゼラを吹き飛ばす。

「なぜ!?」
 そう言うと壁にぶつかりデオゼラは気絶した。

「お前は馬鹿か、お前が宿屋を探しに行くときベルリ精霊に後を着けさせてたんだよ、お前を守るためにな」
 そう言うとビィティは貰った金貨を倒れて延びているデオゼラに投げ捨てる。

 宿屋に向かったデオゼラは野盗と合流していた。そこで自分だけ助かる代わりにクラリスを差し出す約束をした。我が身可愛さに主人を裏切ったのだ。

「残念だよ、良い奴だと思ったんだが」

「ありがとう助かったわ」
 メルリィは乱れた衣服を直し剣を持つとクラリスの所在を聞く。
 ビィティは屋根にいることを教えるとメルリィはすぐに屋根に行こうとするので、ビィティは腕を掴み行くのを止めた。

「ヴィックスを見つけてからだ」

「あんな奴どうでもいいわ姫様の方が重要なのよ!」
 メルリィはヴィックスのことなど関係ないとばかりに自分勝手に振る舞う。
 それだけクラリスが大事だと言うことなのだが完全に冷静さを欠いている。
 見つかる可能性があるのでヴィックスも一緒だと言っても聞かないので、お前が勝手に行動するとクラリスが危険にさらされると伝えると渋々承諾した。

「で、あいつどこにいるんだ」

「どうせ部屋で震えてるんでしょ」

 そう言うとさっさとしろと言わんばかりにメルリィは反対部屋のドアを蹴破り部屋の中に入る。
 室内を探すと隅っこでブルブルと震えるヴィックスの姿があった。

「おい、逃げるぞ!」

「無理だ、僕たちはここで死ぬんだ!」
 ビィティは泣き言を言うヴィックスの胸ぐらを掴み立たせる。

「お前の主人のクラリスの命がかかってるんだ、泣き言は死んでから言え!」
 ビィティは引きずるようにヴィックスを部屋から出すと角部屋へ戻りテラスからクリンの風で屋根へと上がった。

「二人とも無事だったのですね」

「姫様こそ無事で何よりです」
 メルリィはクラリスの前でひざまずき涙を流すクラリスに生きて会えたことを喜んでいるのだ。
 方やヴィックスは膝を抱えて泣いているだけだ。

「……グスッ」

 宿の中はすでに野盗で一杯、そして馬車や町の入り口にもクラリス達を逃がさないために野盗達が張り付いている。
 まさに前門の虎、後門の狼。絶体絶命のピンチである。

「ベルリ、この街に霧を発生させろ。出来るか?」

『ちょっとむずかしいな、あるじぃの周囲10m位が限界だ』

「それで十分だ」

「どうするのですか?」
 クラリスが心配そうにビィティの袖を掴む。メルリィはその行為にビックリしてクラリスを見るが、その目は恋する乙女の物だった。
 その事にメルリィの心は苛立ったが、その事を咎めるとメルリィとの仲にヒビが入りそうな気がしてなにも言えなかった。

「俺が三人を馬車まで運ぶ。馬車の操車を出きる奴はいるか?」

「ぼ、僕が出来る」
 なんとか勇気を振り絞りヴィックスは立ち上がる。その顔は涙と鼻水でグチャグチャになりとてもイケメンとは思えなかったがビィティは勇気を出してる今の方がイケメンだぞと心の中で応援した。

「よし! ヴィックス、クラリスの命はお前にかかってる死に物狂いで走らせろ。お前が頼りだからな!」

「ま、まかせてくれ!」
 頼りにされてることでヴィックスは元気を取り戻した。ヴィックスは今まで誰にも頼られたことがない三男だから、オマケだからと蔑まれた。
 そんな彼を強いビィティが頼ってくれる。クラリスの命を守れるのは俺だけだと言ってくれる。
 その言葉でヴィックスの小さな勇気に炎が点ったのだ。

「ベルリ霧を発生させろ」
『おう!』

 ビィティ達の周囲に濃霧が発生する。ビィティは屋根の瓦を数枚拝借してクリンの風で一階に降り、手探りで馬車へと向かった。

 だが当然のごとく馬車には盗賊がいる。微かに浮かぶ影で二人の野盗がいることがわかる。

 ベルリは霧の作成で攻撃できない。
 クリンでは攻撃力が高すぎて殺してしまう。
 何か手はないかと考えた末にビィティはぶん殴ることを決めた。子供とは言え13歳でステータスオール+5修正されている。大人と変わらないんじゃないかと言う予想からである。

 レベルを持っているのはこの世界では動物以外はヒロインだけだ。だからこそ、この無謀とも思える作戦に打ってでるのである。

「今から馬車の前にいる野盗を倒す」
 ビィティがそう言うとメルリィも自分も行くと立候補する。二対二の方が早く決着つくし倒しやすいからと言う理由である。
 確かにメルリィの言うことが正しいとビィティは納得したが、できれば殺さないでくれと言って瓦を手渡す。

「お優しいことで」となぜか険のある言葉でビィティを睨む。メルリィは瓦を引ったくるように奪うと奥の野盗へと向かった。
 バキッと言う音が響きメルリィが野盗を倒したのを合図にビィティも野盗の頭に瓦を叩きつけるが一撃で仕留め損なった。
 野盗がこちらに向くとビィティは思いっきりジャンプして顎にヘッドバットを食らわした。この技もクリンとのコンビネーションで敵と戦っている時に、何もないのにしゃがんだら下から風を送って飛ばすようにと言い渡してあるのだ。
 ジャンプする力と風の力が合わさりまさに人間ロケットであるその力は3倍のスピードで盗賊のアゴを打ち砕く。

 危なかったとビィティは大きく息を吐き頭をさする。大きいたんこぶが出来あがりズキズキと痛む。
 ビィティは反省する。
 村人が+5されても大したことがないのだと理解した、調子に乗っていたと。

「俺が強いんじゃなくて精霊が強いんだな」

 だがステータスを上げるのは間違っていないと言うのも分かった。子供がこの巨体の盗賊を倒せたのだから。

 ビィティが盗賊を倒すのを確認するとヴィックスが馬車の御者台に乗り込む。クラリスとメルリィが乗り込むのを確認するとビィティに導かれ走り出した。
 ビィティはそのまま走り馬車の前を行き馬車は彼の後を追うようにそろそろと走る。

『あるじぃ門の前に4人いるぞ』

「珍しいなベルリが先に敵を発見するなんて」

『へへへ、湿気が強いからな水の中みたいなもんだよ』
 クリンより先に敵を発見できたのが嬉しかったのかベルリは得意気にヒレを動かす。

「よし、霧を解除して、水弾を打て!」

『おう!』

 一気に霧が晴れると馬車が走っているのが野盗達にバレる。
 門の前の野盗たちが武器をかまえてビィティたちを迎え撃つ。
 だが野盗たちはベルリの水弾で弾かれると道路の反対側まで吹き飛ばされまるでビリヤードをするかのごとく木にぶつかりお互いの頭をぶつけ合う。
  念のためとビィティはクリンの風刃で武器をなます切りにしてから門を出た。
 ビィティはヴィックスの手を借り馬車に飛び乗ると一路王都へ向け馬車は走り出した。

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