乙女ゲームの村人に転生した俺だけど悪役令嬢を救いたい

白濁壺&タンペンおでん

プロローグ

 電車が走り去ったホームで三人の男女が揉めていた。
 女は言う、この男に痴漢をされたと。
 だが男は冤罪だと容疑を否認ひにんする。
 もう一人の女性は男は痴漢をしていない、自分は見ていたと言う。

 男は不細工でいつも馬鹿にされて生きてきた。そんな男を彼女は擁護してくれた。それだけで男は幸せだった。

 だが、悲劇は起きた。逆上した女が男を突き飛ばしたのだ。男は倒れそうになる手で突き飛ばした女の腕を引っ張った。
 もう一人の女は男を助けるため手を伸ばし腕をつかんだが、男の体重が平均よりも重いため三人は線路下に落ちてしまった。

”プアァァァアアアアン”

 電車のホーンとブレーキ音がけたたましく鳴る。辺りには悲鳴が響き渡り、卒倒する人、ホームを覗く人達で辺りは騒然となった。

 路線に降りた作業員が首を横に振る。車両を移動させた線路上に有ったのは首を切られた三体の死体だった。


「イタタタ」
 男は頭部に大きなたんこぶを作り辺りを見回す。

「ここはどこだ?」
 周囲を木々に囲まれ男は混乱する。先ほどまでいた駅とはほど遠い自然溢れる世界に何が起こったのか理解できずにいた。
 呆然としている男の頭に光が走る。それは走馬灯のようでもあり、殴られたときに出る火花のようでもあった。
 別人の情報が頭の中に流れ込んできたのだ。男は鼻血を垂れ流し倒れる。

「どう言うことだよ。俺の名前はビィティ? いやいや。俺は成瀬なるせ明人あきとだぞ」
 起き上がった自分の服装を見ると、記憶にあるいつもの貧相な村人の服で、手には木を切るための手斧が握られていた。
 どうやら頭のたんこぶは手斧で切った木が太すぎて切れずに反射して頭に当たったのだと記憶を思い出すように頭をさする。

 思い出す村の名前や、国の名前。その瞬間、成瀬なるせ明人あきとはここがどこで、自分が何者なのか悟った。

「ここは乙女ゲーム『メアリーランド』の世界の中だ」

 それは老若男女に愛され累計500万本を越えるメガヒットを叩き出したゲームの名である。
 ちなみにメアリーなんてキャラはいなくプレイヤー間でも七つの謎の一つと言われ不思議がられている。

 では、なぜ成瀬なるせ明人あきとが乙女ゲームを知っていたのか。いやプレイしていたのか。それは彼の容姿にある。

 彼は控えめに言って、いや言わなくても不細工なのだ。そしてデブなのだ。そんな彼がゲームの中だけでもイケメンになりたくて、攻略対象を自分に置き換えて乙女ゲーのヒロインに一途に愛されると言うシュチュで楽しんでいたのだ。

 それならギャルゲでも良いのではと思うだろうが、ギャルゲの主人公は顔がなくパッと見モサイ容姿が多いのである。
 つまり端的に言えば自分と大差ない容姿なのである、不細工なのである。

 現実逃避のためにゲームをするのに現実を突きつけられる。だったらイケメンが出てくるゲームをすれば良いと始めたのが乙女ゲームである。

 明人《あきと》はこのゲームを昼夜を問わずやり込んだ。webサイトをチェックして寝る間も惜しんでこのゲームに没頭した。寝不足で目が血走りフラフラしていたせいで痴漢冤罪などに巻き込まれたのだ。
 ある意味自業自得なのだが。

「俺死んだのか……。いやそれよりなんでゲームの世界に転移してしまったんだ」
 いや、死んだんだから転生かと明人《あきと》は自虐の笑みを浮かべる。

「まあ、良いか。死んでしまったものは仕方ない、とりあえず今日の糧を得るために働かないといけないな」
 この世界の転生後の名前はビィティ、10歳で両親は他界、孤児となった彼はクローディアの村で育てられ現在13歳になる。
 ただ、育てると言っても低賃金で働かせる、ていの良い奴隷のような存在だ。

「しかし、人生はやっぱり糞だな、せっかく転生したと言うのに、その日暮らしとは」

 彼のこの世界での役割はヒロインでも悪役令嬢でもイケメンの王子でもない、村人Aなのだ。

 お腹の虫の音を聞きながらこの生活を改善する方法がないかを考える。
 今のままの奴隷生活じゃそう遠くない未来死ぬだろう。だから生活を変える努力をするべきだと。

 ビィティは前世の記憶で『メアリーワールド』のマップを思い出す。
 クローディア村はミニゲームをするための村で、近くには数種のミニゲームがある。

 ミニゲームとは、恋愛シュミュレーション等に良くある、同じ作業を続けていると飽きてしまうので気分転換用に作られたゲーム内のゲームである。
 気分転換的ゲームと言っても、ここでしかもらえないドレスや装飾品等のアイテムがある。

 そして唯一金を稼げるのがダンジョンである。

 王子を攻略するならダンジョン攻略は必須であるとさえ言われるほどのゲーム内で使えるアイテムが産出される。
 廃プレーヤーは自虐を込めて、こっちが本編とか言ったりするほどボリュームのあるダンジョンなのだ。

 だがダンジョンの話は同じ村の仲間から聞いたこともないと明人《あきと》はビィティの記憶を思い出す。

 レベルもなにも無い、ただの村人Aにダンジョンの魔物が殺せるのか、明人《あきと》には自信がなかった。
 だがダンジョンがあって魔物がいるなら、働くよりもそちらを倒した方が稼ぐと言う意味では効率的だ。

 なにせ一番弱い魔物でも1Gゴールド、つまり金貨一枚を落とすのだ、薪を拾って売っても銅貨二枚にしかならない。
 今の貧乏生活を脱するには必要なことなのだと明人あきとは自分自身に言い聞かせる。

 一念発起した明人《あきと》改めビィティはダンジョンの場所を探す。ゲームの縮尺とリアルの縮尺は違う。
 これは探すのは骨が折れそうだとビィティは鬱蒼うっそうとした木々を掻き分け前に進む。

 だが、それほど遠い距離じゃないはずだとも思う。なぜならそのダンジョンは滝のある川の側にあるからだ。
 そしてその滝の位置をビィティは把握している。

 ”ざざざざっざざぁぁぁ”

 水が高所から勢いよく落ちる音がする、音のする方へ行くとまるでパワースポットかと言うくらい荘厳な風景が姿を表し、マイナスイオンが身を清めてくれそうな気さえした。

 川辺に降りると大きな岩が散乱しており行く手を阻む。一際大きな岩の上にピョンと飛び乗るとビィティは辺りを見回す。

「滝の左側の森の中にダンジョンがあるはずなんだが」
 だが川の左側は木々が繁っており、見ただけではダンジョンがあるか判断できなかった。

 川幅の狭い場所へいき川の中にある石ををケンケンパと飛び越えて対岸に渡る。
 生い茂る草木を掻き分けて森の中へ分け入ると開けた場所にたどり着いた。
 その場所の中央には一つの大きな岩が何人なんびとも立ち入るべからずと言う威圧感を出しており、ダンジョンの入り口など、どこにもなかった。

「雰囲気は間違いなくフィールド上にあるダンジョンの入り口だが。肝心の入り口がないぞ」
 ビィティはゲーム画面を思い出す。ゲームではこの岩のある場所に祠がありダンジョンへ続くトンネルがある。
 だが現実は目の前に大きな岩があるだけである。
 もしかしてこの岩がダンジョンへ続くトンネルじゃないのかと訝しむ。

「よくよく考えれば、トンネルじゃなくて岩に穴が開いてたのかもしれない」

 秘密の入り口でもないかとビィティは岩をペシペシと叩く。
 岩の周囲を回りなが叩く手がスルッと岩に吸い込まれた。

「お!?」

 岩に吸い込まれた手はまるで手品のように肘まで岩の中に入っていた。
 ビィティは恐る恐る、体を侵入させると岩の中は明るい洞窟へと続いていた。

「ゲームと同じでダンジョンでも明るいんだな」
 光苔でもなく蛍光灯をつけたように明るいダンジョンに戸惑いながらもビィティは一歩進んでは一歩戻る。

 このダンジョンのモンスターはエンカウント方式なので一歩歩くことに魔物との遭遇のサイコロが振られている。だから安全マージンを取り、最初の段階ではいつでも出れるように入り口をうろうろする作戦をとっているのである。

 ビィティは斧を水平に突き出しながら歩く。それはエンカウント方式によるシステムが現実では弊害があると言うことを如実に語ることを証明するビィティの実験なのだ。

 一歩下がるとビィティの正面の空間に魔物の輪郭が浮き上がる。
 突き出した斧を心臓の位置に動かすと、姿を表した魔物は断末魔と共に消え去り金貨を一枚地面に落とした。

「よし成功だ!」
 ビィティは自分の作戦が成功したことに安堵のため息をつく。

 ビィティはろくな食事を与えられていないせいで筋肉が無い、下手をすればヒロインより無いのだ。
 ヒロインが一撃で倒せる魔物でも一撃で倒せない可能性がある。反撃をされると言うのはそれだけで死亡確定なのだ。
 だから考えた、なにもない空間に突如現れるのだから、武器を置いておけばそれを巻き込んで死ぬんじゃないかと。
 自分の考えがピタリと的中したビィティはホクホク顔でまた前進と後退を繰り返す。

 ただこの作戦が使えるのはこの階だけだった。下の階へ行くほど魔物の数が増える。
 つまり多数の魔物が同時出現した場合、一体目はこの方法で殺せても、二体目の魔物は殺せないのだ。

 この日二十匹の魔物を倒しビィティは金貨20枚、20Gゴールドを手にいれた。

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