クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...

がいとう

6話 朝チュン的なアレ

 
 風舞



 ボタンさんとエルセーヌさんに連行されて、良い匂いのする酒のボトルや上品なおつまみのあるソレイドを一望出来るお高そうな部屋に連行されてから数十分後。
 緊張でガチガチになっていた俺がようやく冷静さを取り戻してみると、ふとある事に気がついた。


「あれ? 意外とまとも?」


 てっきりボタンさんとエルセーヌさんの事だから組んず解れつのドロドロの夜が待っているのだろうと思っていたが、2人とも話をしながら俺に酌をしてくれたり、軽くマッサージをしてくれるのみで心地よさしか感じない。
 話の内容が裏の世界に関する微妙に物騒な話ではあるが、意外と普通にキャバクラしていた。
 いや、俺には実際のキャバクラがどんな所か分からないんだけどね。


「オホホホホ。どうかなさいましたか?」
「いや。なんか普通に楽しくてビビってるだけだ」
「あらあらあら。ここはうちの経営する店なんやから、フーマはんが期待していた様な事をいきなりする様な品の無いことはせえへんよ?」
「俺の寝ていたベッドで全裸で寝ていた人が何言ってんだよ」
「あれはフーマはんをからかおうと思うただけやからなぁ。それに、うちは仲良うしたい相手とはゆっくり関係を進めていく派なんよ」


 ボタンさんがそう言いながらふんわりと微笑み、俺のグラスにとくとくと桃の香りのする酒を注いでくれた。
 あれま、これは駄目だ。
 さっきからボタンさんと目を合わせるだけでドキドキする。


『ふむ』


 こうやって俺が鼻の下を伸ばしていたらいつも小言を言ってくるフレンダさんは、さっきから『ふむ』と『なるほど』しか言わなくなってるし、今の俺は完全にボタンさんとエルセーヌさんに翻弄され放題になっていた。
 正直今なら、ボタンさんとエルセーヌさんのお願いならなんでも頷きそうな気がする。


「オホホホ。ご主人様? あまり早いペースで飲むと明日に響きますわよ? お酒以外も飲むようにしてくださいまし」
「あ、ああ。ありがとう」
「ところで、フーマはんは以前暗殺者に興味を持ってはったみたいやけど、まだ興味あるん?」


 あぁ、そういえば日本にいた頃は小説とかゲームの影響で暗殺者に憧れてたな。
 アサシンってなんかこう、カッコいい気がしてたんだよ。


「いや、今はそんなにだな。シルビアを助けに行くときに初めて対人の実戦をしたけど、あんまり楽しくなかった」
「オホホ。命のやり取りをする訳ですから、それは当然ですわ」
「そうやねぇ。確かにフーマはんが人の命を奪う事に楽しみを見出してたらうちも嫌やなぁ」
「俺は狂人とかじゃないからそうはならないと思うぞ」
「オホホホ。しかし、ご主人様に殺しの才能はあると思いますわよ?」
「そうなのか?」
「オホホ。初めての実戦で1人殺しているのに、次の日にはケロリとしていたと聞きましたわ」
「いやいや流石にケロリとはしてないぞ。それなりに嫌な気分になったし、なんか今までと違う自分になった気がした」
「オホホホ。今までと違う自分ですの?」
「なんていうか、殺した事に罪悪感を感じつつもどこかで割り切っているみたいな…。殺すまではそこに線引きが無かった気がする」
「多分やけど、フーマはんは理性と感情の間に距離があるんやろうね」
「ん? どういう意味だ?」
「そうやねぇ。例えば……普通の人なら足がすくんでしまう事でも、フーマはんは恐怖を感じつつも理性も働いているから自由に動けるとかやろか」
「まぁ確かに、怖くて腰を抜かした事は無いかもな」
「オホホホホ。もしよろしければ、そんな才能溢れるご主人様に暗殺の技術をお教えいたしますわよ?」
「いや、なんか怖そうだから良いや。エルセーヌさんにそういう仕事を頼まなくちゃいけなくなってからまた考える」


 俺は仮とはいえエルセーヌさんの主人なのだから、最低限彼女の仕事は把握しておくべきだろう。
 流石にエルセーヌさんに何も知らずに暗殺の依頼をするのは、人としてどうかと思うし。


「オホホホ。やはりフウマ様に主人になっていただき正解でしたわ」
「はいはい。こちらこそいつもどーも」


 ちっ、不覚にもエルセーヌさんにドキッとしてしまった。
 って、おい。
 俺が照れてるのを見てニヨニヨ笑うんじゃないよ。


「さて、暗い話はここまでにしましょか。明日から忙しいフーマはんにはしっかりと疲れをとってもらわないとやしなぁ」
「あぁ。そういえばそうだった」
「オホホ。ブラックオーガの変異種と戦うと聞いていますが、算段はついていますの?」
「空間魔法をLV6まで覚えればなんとかなる気がするんだけど、いかんせんステータスポイントが足りないんだよなぁ」
『確かにLV2にあげる所で13となると、ステータスポイントを使ってLV6にするには最低でも100は必要でしょうね』
「となると、あと20から30はレベルを上げないとですよね」
「そのぐらいなら1日あれば何とかなるんやない?」
「いやいや。俺はシルビアみたいにソレイドのダンジョンを1日で攻略できないからな」
「それじゃあ…」
「あ、ドラゴンももちろん無理だ。シルビアは幼生でもかなり強かったって言ってたぞ」
「オホホ。しかし、ご主人様は転移魔法を駆使して擬似的にメテオを生み出せるではありませんか。レベルを上げるだけなら簡単なのではないですか?」
「あぁ、言われてみれば確かに」


 舞やローズと一緒にグリフォンと戦った時は俺は転移魔法でグリフォンを転移させていただけだけど、それなりに経験値が入っていたし、ああいう楽な方法でも経験とみなされるならチートみたいなレベリングも出来なくないか。
 そう考えて問題の解決の糸口を見つられたと思ったその時、ボタンさんが待ったをかけてきた。


「でも、フーマはんのあの魔法で魔物を倒すとなると、経験値が入るか少し微妙やね」
「え? 石を降らせるだけじゃダメなのか?」
「グリフォンの時はフーマはんも攻撃をくらう可能性があったから戦闘とみなされて経験値が貰えたみたいやけど、相手の攻撃の届かない所から一方的に攻撃をするだけでは経験とはみなされへんのよ」
「マジか」
『以前実験で私も森に火を放って魔物を焼き殺した事がありますが、森から逃げ出て来た分の魔物の経験値しか入りませんでした』
「やっぱそう簡単にはいかないか」
『しかし、経験値は命の危険があればある程多くなる事は確認されています。フーマが一撃で倒せてかつ、攻撃力の高い魔物と戦えば良いのではないですか?』
「そんな都合の良い魔物いますか?」
「オホホ。それではエンシェントキラー…」
「却下だ。そんなヤバ気な名前の魔物とは戦いたくない」
「なら、ジェノサイド…」
「そっちの方がエンシェントキラーなんとかよりヤバそうだろ」
『では、翡翠馬などどうでしょうか』
「ひすいば? なんすかそれ?」
「翡翠色の角が特徴の馬型の肉食の魔物やね。100匹以上の大きな群れで行動して獲物を仕留めるんよ」
「へぇ。それって強いんですか?」
『個体としてはレベル70相当でしょうか。動きは素早いですが今のフーマなら十分に対処できる範囲内でしょう』
「でも、群れで行動してるんですよね?」
『していますが、翡翠馬の生息地は主に草原です。海や大きな湖にでも落としてやれば簡単に倒すことができますよ』
「あぁ、なるほど」


 馬もそれなり泳ぐ事が出来ると聞いた事があるが、いくら魔物とはいえども体力は無尽蔵じゃないし、広大な海のど真ん中に落とせば楽に倒せるか。
 フレンダさんの提案にしては割と良いかもしれない。


「オホホ。それでは早速明日、翡翠馬の討伐に向かってはいかがですの?」
「そうやね。うちは公爵はん達の護衛があるから一緒に行けへんけど、行って来たら良いと思うんよ」
「ちなみに、その翡翠馬がいる草原ってどのあたりにあるんだ?」
「オホホホ。魔族領域の東端、ジェイサット王国の領内ですわ」
「ジェイサットって確かラングレシア王国と戦争するところだよな? そんな所に行って大丈夫なのか?」
「草原の辺りなら遊牧民族ぐらいしか住んでないやろうし、問題ないんやない?」
「えぇ。微妙に不安なんだけど」
『では、エリスも連れて行けば良いではありませんか。その娘なら護衛も索敵もそれなりにこなせると思いますよ』
「オホホホ。お任せくださいまし」
「それじゃあ、そうするか。よろしくなエルセーヌさん」
「オホホ。それでは明日に響いてはいけませんし、湯浴みを済ませて早く寝てしまいましょう」
「そうやね。裏についても概要は話し終えたし、そろそろお風呂で綺麗しようなぁ」
「え? マジで?」
「オホホホ。マジですわ」
「フーマはんと一緒にお風呂なんて楽しみやわぁ。うちが隅々まで洗うてあげるから、フーマはんはただうちの体を見てるだけでええよぉ」
「な、何で急にハードモードなんだよ」


 そんな悪態をつきつつも、酒が入ってテンションが上がっていた俺はエルセーヌさんとボタンさんに抵抗する事なく手を引かれてすぐ側にあったお風呂へと運ばれて行った。
 フレンダさんは『ボタンとエリスに魅了されたく無いので今晩はお先に失礼します』と言って白い世界に戻ってしまったが、お風呂場でのエルセーヌさんとボタンさんは文字通り隅々まで体を洗ってくれただけで、そういう方面のあれやそれは全く無かった。

 透けるぐらい薄い湯浴み着のお姉さん2人に全身を余す所なく洗われるのがプレイだと言えばそうかもしれないが、男子高校生の男子高校生を念入りに洗われるという事も無かったから、多分セーフだろう。
 セーフのはずだ。



 ◇◆◇



 風舞



「あばばばばば。完全にアウトだわ」


 ボタンさんの経営するキャバクラで楽しんだ翌朝、ベッドの上で目を覚ますと、エルセーヌさんとボタンさんに抱き枕にされている事に気がついた。
 ちなみに、3人とも裸だったりする。


「いくらエッチな事はしてないとは言っても、これはダメだろ」


 昨晩はエルセーヌさんとボタンさんに酒を飲むペースを管理されていたため、今日の目覚めはスッキリしているのだが、言い換えればそれは限界ギリギリの酩酊状態を2人に維持されていたという事に他ならない。


「こ、これが世界最高峰の技術か」


 まんまと2人の色香に流されて、色んな意味で綺麗な体の俺は身動きが取れない状態のままそんな事を言った。
 そんな俺の元へ、白い世界からやって来たフレンダさんが爽やかな挨拶と共に話しかけてくる。


『おはようございますフーマ。どうやら最低限の貞操のみを守った様ですね』
「はい。守ったというよりは加減されたという方が正しい気もしますが、今日も俺は童貞です」
『はぁ、そんな情け無い事はキメ顔で言うもんじゃありませんよ。それより、今日は翡翠馬の討伐に行くのでしょう? いつまでボタンとエリスの胸に身を埋めているのですか?』
「何ですか? 自分には無いものを押し付けられて胸が苦しいんですか?」
『殺しますよ? 今の私はフーマに力を奪われていない事を忘れたのですか?』
「マジすんません。調子に乗りました」
『よろしい。それより、その2人はとっくに起きていますから早くどいてもらいなさい。別に羨ましい訳ではありませんが、この胸が鬱陶しいです』
「フレンダさんがどいてくれってさ」
「オホホホ。もう少しご主人様の温もりを感じていたかったのですが、そう言われては仕方ありません」
「そうやね。うちもそろそろ起きて出かける支度をしないとなぁ。ふわぁぁ」


 ボタンさんがそう言いながら状態を起こし、大きく伸びをしながら欠伸をした。
 ボタンさんの鮮やかな髪が肩からスルリと滑り落ち、大きな胸の横を流れていく。


「フーマはん?」
「あぁ、いや。なんでもない」


 やべ、普通に見惚れた。
 ボタンさんの獣人ならではの鋭い牙と、しなやかな女性らしい肢体に完全に目を奪われてたな。


「オホホ。ご主人様は朝からお盛んですわね」
「はいはい。それより、俺の服はどこだ?」
「あぁ。それなら洗濯に出しておいたから、代わりの服をうちが用意しておいたんよ。ほら、そこにあるやろ?」


 ボタンさんがそう言って指差した先には、綺麗に畳まれた着物が置いてあった。
 今日は魔物と戦うと言っていたためか、着流しではなく袴も用意されている。


「暑くないか?」
「上等な生地を使うてるから、そこまで暑くないはずやよ。それに、羽織は邪魔やったら着なくても良いしなぁ」
「そんなに上等な服を用意されても困るんだけど」
「これはうちがフーマはんに着てもらいたくて用意しただけやから、嫌なら別の物を用意するんよ」


 うっ、なんか微妙に罪悪感を感じるな。
 仕方ない。
 取り敢えず着てみるか。


『一晩で完全にフーマを物にするとは、流石はボタンですね』


 俺もそう思う。
 けど、何故か悪い気はしないんだよな。
 俺はそんな事を考えながらボタンさんの用意してくれた着物に身を包み、ついでに用意されていたタスキもかけた。


「へぇ。そこまで暑く無いって言ってたけど、かなり涼しいな」
「そうやろ? ヤマガラスいう魔物の素材を使うてるから、防御力もそれなりなんよ。この前ソーディアで買うた礼服と上手く使い分けてくれたら嬉しいわぁ」
「使い分けたらってくれるのか?」
「折角フーマはんに似合うてるんやから、当然やろ?」
「オホホホ。良いものをもらいましたね」
「ああ。ありがとうボタンさん。一生大事にするわ」
「かまへんよぉ〜。その代わり、ちょいちょいその着物に袖を通して見してくれると嬉しいわぁ」


 こうしてボタンさんのくれた着物に身を包んだ俺は、今日はこれを着たまま過ごす事にした。
 ボタンさんが防御力がそれなりというくらいなら大抵の魔物の攻撃では破れない気がするし、このまま翡翠馬との戦闘に向かっても大丈夫だろう。


『それでは準備も済んだ様ですし早く出かけましょう。あまりここに長居してはいつマイが襲撃してくるか分かりません』
「そうっすね。ちなみにエルセーヌさん。俺の部屋の書き置きにはなんて書いたんだ?」
「オホホ。修行に出るから帰りが遅くなると書きましたわ」


 これならもしかすると、舞やローズによるお咎めは無いかもしれない。
 エルセーヌさんのこの書き方なら、ボタンさんの経営するキャバクラで一晩明かしたとは思わないだろう。


「よし、それならこのまま翡翠馬を倒しに行こう。何かの間違いでここにいる事が舞にバレたら不味い事になる」
「オホホホ。それでは早速向かうと致しましょう。道中の案内は私が責任を持ってさせていただきますわ」
「ああ。よろしくな。ボタンさんもありがとう。凄い楽しかった」
「あらあら。ほんならまたうちと遊んでなぁ」
「ああ。今度は絶対俺から誘う」
「あらあらあら。それは楽しみやねぇ」


 いつもの様に着物を着たボタンさんがそう言いながらコロコロと笑った。
 次はボタンさんに満足してもらえる様な何かを用意して来よう。


「よし、それじゃあ行ってくる」
「気ぃつけてなぁ」
「ああ。テレポーテーション!」


 こうして、俺はソレイド真東の草原の上空にエルセーヌさんと共に転移した。
 さてと、ブラックオーガ変異種を倒すためにレベリングに勤しむとしますかね。



 ◇◆◇



 風舞



 エルセーヌさんの指示で警戒領域を避けつつ転移魔法で東へ進む事数分。
 俺たちは魔族領域のジェイサット王国領内の草原に立っていた。
 魔族領域の草原だからてっきり紫色の草が生い茂って、凶暴な魔物が跋扈する危険地帯なのかと思っていたが、見渡す限り穏やかな普通の草原が広がっているのみである。


「さてとここに来るのにそこそこ魔力も消費したし、朝飯にするか」
「オホホホ。そうですわね」
「それじゃあはい、今日の朝飯だ」


 俺はそう言いながら、エルフのスタバで買ったサンドイッチをアイテムボックスから取り出してエルセーヌさんに差し出した。
 おいおい。
 俺だけ良いものを食ってエルセーヌさんにだけ携帯食を食わせる訳ないだろ。
 だからそのワザとらしいビックリした顔をやめろよ。


「オホホ。感謝いたしますわ」
「あいよ」
「オホホ。故郷を思い出す味ですわ」
「スカーレット帝国にも似た様な料理があるのか?」
『いえ。我が国は基本的に辛いものが多いので、こういった素朴な料理は無いと思いますが…』
「オホホホ。エルフの里は私の第二の故郷なのですわ。あぁ、スーちゃんの顔が脳裏をよぎりますの」


 スーちゃんって、エルフの里の諜報員であるスーシェルさんの事だよな。
 あの短い期間でどんだけ仲良くなってんだよ。
 そんな事を考えながら、エルフの里での思い出を語るエルセーヌさんを他所にキョロキョロと周囲を見渡していると、微妙に潮の香りがする事に気がついた。


「この辺りって海が近いんですか?」
『そうですね。ジェイサット王国の草原の東は海があります。この海岸線に沿って南下して行くと、フーマが召喚されたラングレシア王国がありますね』
「ふーん。ちなみに、ラングレシア王国ってジェイサット王国以外にはどんな国に面してるんですか?」
『ラングレシア王国は北と西はジェイサット王国に接し、南はいくつかの小国に接しています』
「へぇ。それじゃあ、ラングレシア王国って結構広い国なんすね」
『そうですね。比較的温厚な王が多いと知られていますがその政治手腕は目を見張る物があり、ここ200年は一度も戦争をしていなかったはずです』
「それじゃあ、今回のジェイサット王国との戦争はラングレシア王国にとっては望まないものなんですかね」
『はい。ラングレシア王国は人口と領土の釣り合いが上手くとれていますし、仮にジェイサット王国に勝ったとしてもラングレシア側にそこまでの利益は無いでしょう』


 うーん。
 なんか最近、ラングレシア王国の事がよく分からなくなってきたな。
 つい最近まではラングレシア王国は勇者を大量に召喚して、その圧倒的な武力でジェイサット王国に攻め込むのだと思っていたが、話を聞く辺り防衛戦しか視野に入れてない気がする。
 となると、あの姫様は本当の事しか話していなかったのか?


「フレンダさん。1つ聞きたい事が…」
『話は後です。どうやら私達が縄張りに足を踏み入れた事に気がついて襲って来た様ですよ』
「オホホホ。さて、それでは早速始めるとしましょう。ご主人様は迫り来る翡翠馬を片っ端から海上に転移させてくださいまし」
「ああ。分かった」


 そう言ってフレンダさんの見つめる方向に俺も目を向けると、物凄い地響きとともに迫って来る大規模な馬の大群が目に入った。
 迫り来る馬の額には深緑色の角が太陽光をキラキラと反射しつつ生えている。
 あれが今回の目的である翡翠馬で間違い無いだろう。


「って、おいおい。いくらなんでも多すぎないか?」
「オホホホ。それはほら…」


 エルセーヌさんの指差した方向では、何やら怪しい粉の入った袋が紫色の煙を出しながら燃えている。
 これってもしかして……。


『魔物寄せの香ですね』
「おい! 俺は100匹前後を一日かけて少しずつ倒す予定だったのに、どうしてお前は余計な事をするんだよ!」
「オホホホ。ご主人様に強くなってもらいたいという純粋な忠誠心ですわ。バインド」


 エルセーヌさんさんが何かの魔法かスキルを使って俺の左腕を鎖で縛り付けた。
 そしてその反対側を、物凄く大きな杭で地面に打ち込む。


「おい。これは何だ?」
「オホホホ。ご主人様に死ぬ気で戦ってもらうためのちょっとした拘束具ですわ」
『なるほど。フーマなら転移魔法を使って簡単に逃げてしまいますし、魔物と死ぬ気で戦ってもらうための策ですか。エリスにしては中々考えましたね』
「言ってる場合ですか! あぁ、もう! 急いで戦う準備をしないと」
「オホホホホ。ファイトですわご主人様。エルセーヌは陰ながらにご主人様の奮闘する姿を見守っていますの」


 ちっ、何が偵察と護衛をするだ。
 とんでもない数の魔物を呼び寄せて、その上俺を逃げられなくして、完全に俺の邪魔しかしてないだろうが。

 昨日のお淑やかで世話を焼いてくれる美人なエルセーヌさんはどこに行ってしまったのだろうか。
 俺はアイテムボックスから戦闘のための道具を片っ端から出しながらそんな事を思った。

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