クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...

がいとう

5話 キャバクラ


 風舞



 ミレイユさんに手を引かれて冒険者ギルドの二階にある事務室へ足を運ぶと、眼鏡をかけて事務仕事をしていたガンビルドさんと目が合った。
 そういえばこの人は普段は剛毅な漢気溢れるマッチョだけど、根っこの部分は優しくて真面目な人だったな。
 ていうか、上裸のゴリマッチョに丸メガネって全然似合わないな。


「こんばんはガンビルドさん。お忙しい時にすみません」
「お、おう。よく来たなフーマ。会いたかったぞ!」


 ガンビルドさんが少しだけ恥ずかしそうにしながら眼鏡を外し、俺の方へやって来ながらそう言った。
 別に眼鏡くらい恥ずかしがる事じゃないと思いますよ。


「挨拶が遅くなっちゃってすみませでした」
「なに、全然気にする事じゃねぇよ!」
「ふふっ。ギルマスはこう言ってますけど、ここ最近はずっとフーマは来てないかって私に尋ねていたんですよ」
「ゴホンっ!! あぁ…まぁ…その、なんだ。フーマが元気そうで安心したぞ!!」

『図体は大きいのに可愛らしい男ですね』


 俺もそう思う。
 まぁ、このあたりがガンビルドさんのチャーミングなところなのだろう。


「そうだ。ガンビルドさんにもお土産屋があるんですよ」
「お、フーマから土産か! 俺は一体何を貰えるんだ?」
「これです。エルフの巫監修のエナジードリンク10本です」


 これもカグヤさんが新しく特産品として売り出す予定のもので、世界樹の朝露を希釈した物をハチミツとかハーブとかで味付けしたものである。
 実際にエルフの里で売り出す時はエルフの巫が監修したという事を前面に押し出して、宮廷絵師に描かせたトウカさんの特大ポスターを張り出す予定らしい。

 商売のためには嫌がる娘の反対も押し切る。
 やはりカグヤさんは恐ろしい女である。


「おおっ! エルフの巫が監修っていうのは凄いな!」
『監修とは言ってもトウカが不眠不休で働く時に飲んでいた物がベースになっているだけなのですがね』


 そういう事は言うもんじゃないと思うよ。
 ちなみに、俺はそんなトウカさん監修のエナジードリンクをポスター用のラフスケッチ数枚と共に、数十本単位で貰ったりしている。
 もちろんトウカさんのポスターが完成した日にはカグヤさんから数枚ほどいただく予定だ。


「気に入ってもらえたみたいで良かったです」
「ふふふ。それじゃあ隣の部屋に行って少しお話ししましょうか」
「そうだな! 嬢ちゃん達にエルフの里で何があったのかは何となく聞いているが、フーマの口からも教えてくれ!」
「もちろんです。それと、俺もデモンストレーションで戦う件について聞きたいので、良かったら教えてください」
「おう! ちょうど今その計画の最終確認をしていたところだからフーマも意見があったら遠慮なく出してくれ!」


 こうして、俺は約1時間ほどミレイユさんとガンビルドさんと雑談や情報交換をして有意義な時間を過ごした。
 ガンビルドさんとミレイユさんはここ最近かなり忙しいみたいだったが、こうやって俺の為に時間を割いてくれたし、討伐祭が終わった辺りに舞やローズ達も交えて打ち上げを企画しよう。
 俺はそんな事を考えながら討伐祭前夜の冒険者ギルドを後にした。



 ◇◆◇



 風舞



 ミレイユさんとガンビルドさんに別れを告げて冒険者ギルドを後にした俺は、すっかり日の暮れたソレイドの街をぶらぶらと歩いていた。
 ソレイドはお祭り前夜という事もあってどこもかしこも前夜祭と称して賑わっており、皆が幸せそうな顔で浮足立っているのを感じる。
 なんか文化祭前日の学校にお泊りと似たような雰囲気だな。


「さてと、折角外出したんで他にもどこか寄って行きたいんですけど、どこが良いと思いますか?」
『あまり遅くなってはお姉様を心配させてしまいますし、今日はもう帰った方が良いと思いますよ』
「えぇ。ちょっとだけどっか寄って行きましょうよ」
『はぁ。それでは酒を飲まないという条件付きで少しだけ許可してあげましょう』
「あざっす。それで、どっか行きたい場所とかあります?」


 ちなみに俺はある。
 こうして今俺が歩いているのはソレイドの中でも所謂繁華街と呼ばれるところなのだが、先程からセクシーなお姉さんが客引きをしているお店が沢山あるし、俺はこの内のどこかに入りたいのだ。
 だが、ソレイドでそこそこ顔が割れている俺が冒険者御用達のお姉さんのお店に行くと、間違いなく噂になって舞達に問い詰められ兼ねないし、出来ればフレンダさんが言うから仕方なくという体で入店したいんだけど……。


『何ですか? フーマはあれだけ容姿の整った女性にチヤホヤされていながらこういった店にまで興味があるのですか?』


 どうやら俺の考えはフレンダさんに筒抜けらしい。
 だって、男子高校生だしそういうお店に興味を持っても仕方ないじゃん。
 男子高校生なら誰しも異世界に来たら可愛い奴隷との暮らしと、美人なお姉さんとキャッキャウフフするお店には憧れるもんだと思うぞ。


「ち、違いますよ。興味はありますけどそれは学術的探究心であって、やましい気持ちとかは一切ありません」
『嘘おっしゃい。先程から客引きの娘の胸や脚に視線が吸い込まれているではありませんか』
「ぐっ…、すみません。前の世界にいる時からこういう店にちょっと憧れてました」
『初めからそう言えば良いのです。それに、私はフーマの体を操れないのですから好きにすれば良いではありませんか』
「え? それじゃあ行っても良いんですか!?」
『はぁ。フーマがこんなに嬉しそうな声で話すのを始めて聞きました』


 フレンダさんが何やら呆れた様な声で何やら小言を言っている気がするが、どうやら行っても良いみたいだしさっさとどっかの店に入るとしよう。
 そんな事を考えながらどこの店に入るかキョロキョロ見回していると、派手な格好をしたお姉さんが一際大きなお店から出て来て俺の元へやって来た。

 お、おお。
 凄いセクシー。


「そこのお兄ぃさん♪ 今夜の予定は決まってますかぁ?」
「い、いえ。まだです」
「じゃあじゃあ。私達と一緒に…楽しい事しませんか?」
「た、楽しい事ですか?」

『はぁ。小僧丸出しの反応ですね』


 だって、こういうお姉さん達と話すのって独特の雰囲気があって緊張するじゃん。
 普通の男子高校生はこういうお姉さんとの接点とか無いのが普通なんだぞ。


「ふふふ。もしかして、お兄さん。こういうの初めてですかぁ?」
「こ、こういうのとは」
「もう。こんな所で言わせ様だなんて、お兄さんのえっち」


 分かってる。
 この甘ったるい声とボディタッチが商売のための物だとは分かってるんだ。
 でも、なんかこう。
 グッと来るものがあるんだよ。


「あ、あのー。俺、今はそんなに金持って無いんですけど」
「ふふっ。お兄さんここ最近有名なルーキーさんですよね? ここらでも有名になってますよ?」
「きょ、恐縮です」
「いやぁん! もう、赤くなっちゃって可愛い! そんなルーキーさんは特別に席代だけにしてあげても良いですよ?」
「ま、マジっすか」
「でもでも。今度またうちのお店に来る時は、私達を指名してくださいね?」
「もちっす。次来る時は大金貨を持って来ます」
「さっすがルーキーさん! それじゃあ…」
「「期待の一名様ごあんなぁ〜い!!」


 いやぁ。
 こういうお店に全財産注ぎ込む人もいるって聞いた事あるけど、これは分かる気がするわ。
 なんかこう、抗い難い魅力があるよな
 そんな事を思いながらニヤニヤと笑みを浮かべつつお姉さん達のお店…つまるところのキャバクラに足を踏み入れると、見知った2人の姿が目に入って来た。

 へ?
 なんでこの2人が一緒にいるんだよ。
 ていうか、何でまるで俺を待ち構えるみたいに入ってすぐの所に立ってるんだよ。


「オホホホ。こんばんはご主人様。今宵は良い夜ですわね」
「あ、ああ」
「あらあらあら。フーマはんは中々雲龍には来てくれへんかったのに、ここにはあんな楽しそうな顔をして来るなんて、いけずやわぁ」
「そ、そんなんじゃないよ。今日は社会勉強だよ。これは勉強だから楽しそうな顔なんてしてないよ」
「オホホ。やはりご主人様の気配を感じて話し合いの場所を変えて正解でしたわね」
「そうやなぁ。さてフーマはん。こんなところで立ち話も難やし、上へ行こか」
「お、俺は今日このお姉さん達と遊ぶんだよ」
「それなら心配あらへんよ。2人はうちが雇ってるここの従業員やから」
「はい?」
「ふふっ。ごめんなさいねルーキーさん。オーナーに頼まれてルーキーさんを客引きしたの」
「でもでも。ルーキーさんと遊びたいのは本当だから、今度私達を指名してね!」
「あ、うん。分かった」
「オホホ。それではご主人様。早速参りましょうか」
「なぁ? 帰って良い?」
「あらあらあら。折角ソレイド1の女郎屋の店主が直々にフーマはんのお相手をさせてもらおう思うてたんやけど、帰ってええの?」
「ぐっ。で、でも、マイム達が心配するから早く帰らないと……」


 しなだれかかってくるボタンさんはめっちゃ大人可愛いけど、このまま流されたらマジでヤバい気がする。
 俺はどっかの公爵さんみたいにボタンさん恐怖症になりたくは無いぞ。


「オホホ。そう言うと思って予めご主人様の部屋に今晩は帰らないと書き置きを残しておきましたわ」


 ダメだこりゃ。
 もう完全に逃げ場が無いわ。
 転移魔法でなら逃げられそうか? と思った時には既に2人とも俺の腕を完全に抱きしめていたし、ステータス的にも技量的にもこの2人からは逃げられないわ。

 あぁ、叔母様が言っていた転移魔法を過信するなってこう言う事だったのか。


『はぁ。こうなっては仕方ありません。ボタンは裏の世界ではかなり有名ですし、今晩は世界でもトップクラスの技術を見せてもらうとしましょう』
「あらあら。魔族でも有数の女傑であるフレンダはんにそう言ってもらえるなんて光栄やわぁ。こうなると、うちも火の国の女として本気を出さないわけにはいかんなぁ」


 へぇ、リアルタイムで俺の記憶を読めばボタンさんもフレンダさんと話が出来るのか。
 って、いつの間にか俺達の周りに遮音結果が張られていてボタンさんも扇子で口元を隠してるし、2人とも凄いプロっぽいな。
 いや、この2人はガチもんのプロだったか。


「オホホホホ。本日はご主人様にこのエルセーヌめが大人の世界を教えて差し上げますわ」
「え、えぇっと。優しくしてね」
「オホホ。ご主人様には我が主として最低限のマナーと女性の扱いを一晩でマスターしていただきますの」
「マジかいな」
「あらあらあら。フーマはんにはあんな雑なハニートラップにかからへん様な一人前の男になってもらうから、覚悟しておいてなぁ」
「ま、マジかいな……」

「頑張ってねぇ〜」
「陰ながらに応援しておきますねぇ〜」


 こうして、悪いお姉さん2人の罠にまんまと嵌った俺は、悪いお姉さんの親玉達に最上階の豪華な個室へと連行される事となった。
 こういうお店が未経験な俺は出来れば優しいお姉さんにチヤホヤして貰いたかったんだけど、いきなりボタンさんとエルセーヌさんが相手とかハードモード過ぎるだろ。
 はぁ、こんな事なら大人しく家に帰って舞達と一緒に穏やかで暖かい食卓でも囲むんだった。

 俺はそんな事を考えながら、店中の客やお姉さん達に見送られつつズルズルと引き摺られて行ったのだった。


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