クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...
106話 決着と復讐の誓い
風舞
「ほら! やっぱりナイチチじゃないですか! これならユーリアの方がまだあります!!」
「ユーリアは男でしょう! 流石にユーリアには負けません!」
「いいえ! こんなものはおっぱいとは言えません! なので、ブラジャーは没収します!」
「止めてください! そこまで言うのなら貴方の胸も見せてください!」
「なっ!? いつの間に私の服を脱がせたのですか!」
「今の私はフーマと魂が繋がっていますから、ここの権限の一部を持っているのです」
「そ、そんな。しかし、ここで負ける訳にはいきません!」
気を失って倒れてから白い世界で目を覚ますと、フレンダさんとトウカさんが脱がしあっている現場に遭遇してしまった。
図々しくも2人とも俺の事を心配してくれていたんだろうなとか考えていたのだが、2人とも俺の事をそっちのけで服を脱がしあっている。
2人とも下着とガーターベルトとニーソックスしか残って無いけど、まだ脱がし合うのか?
………。
よし、このまま黙って見てるか。
「どうしたのですか?  まさかフレンダ様ともあろうお方が私に負けるのが怖いのですか?」
「そ、そんな訳ありません!」
「では、ブラジャーは自分で外したらどうです?」
「良いでしょう! ただし、貴女も私と同時に外してください」
「もちろんです! まぁ、私が負ける訳無いですがね」
組みあっていた2人がボサボサになった髪を手櫛で直しながらそう言い、2人揃って自分のブラジャーのホックに手をかける。
因みに、トウカさんは背中ホックでフレンダさんはフロントホックだ。
「それでは、1、2、3で外しますよ。」
「はい。今更怖気付くのは無しですよ?」
「もちろんです。トウカこそ逃げ出さないでくださいよ?」
「言われるまでもありません」
「それでは行きますよ…」
「「1、2、3!!」」
フレンダさんとトウカさんが3カウントが終わると同時にブラジャーを勢いよく外した。
それと共に2人の胸が衆目、というか俺の目に晒される。
「ま、まさかこの様な事が」
「だから言ったでしょう? 私の方がフレンダ様よりも胸が大きい事などブラジャーを外す前から分かっていたのです」
どうやら勝負に勝ったのはトウカさんらしい。
フレンダさんが四つ足をつきながらガックリとうなだれている。
いや、でもしかし……
「変わんなくね?」
2人のおっぱいの大きさ勝負を見ていた俺はついそんな事を言ってしまった。
それと同時にフレンダさんがとても嬉しそうな感動した顔を俺に向け、トウカさんが絶望した様な怒った様な顔を俺に向ける。
やば、余計なことを言うんじゃなかった。
「流石はフーマ!! 忠順な下僕は好きですよ!!」
「フーマ様! もっとよく見てください!! どう見ても私の方が大きいではないですか!!」
フレンダさんとトウカさんがそう言いながら勢いよく俺に近寄って来る。
2人ともほとんど全裸だから目のやり場に凄い困る。
「よし、今日の私はとても機嫌が良いですから、特別にフーマに私の胸を触らせてあげます!」
「見て分からないというのならどうぞ触ってみて下さい! 私の方が大きいはずです!」
「いやいやいや、流石に触れませんから! 2人とも少し冷静になってください! 今自分達がどんな格好をしているのか分かってるんですか!?」
俺がそう言いながら目を背けると、フレンダさんとトウカさんが互いの体を見た後に自分の体を見下ろし、急激に顔を真っ赤に染めた。
あ、これはアカン奴や。
「フーマ。何か言い残す事はありますか?」
「フーマ様が望むのでしたらいつでも見せてあげますが、覗きは良く無いと思います」
「流石に理不尽すぎません?」
「「問答無用!!」」
そうして、恥ずかしビンタを左右からもらった俺は吹っ飛ぶ事も出来ずにその場で顔を潰された。
まぁ、2人の裸が見れてビンタで済んだんだから儲けものだよな。
俺はそんな事を考えながら、ゆっくりと目を閉じてその場に倒れこんだ。
「良かった。目が覚めたのですね」
「どこか痛いところはございませんか?」
トウカさんとフレンダさんのおっぱい対決からビンタでお仕置きをもらうというラッキーイベントを終えた後、再び目を開くとフレンダさんとトウカさんが心配そうなホッとした様な顔をして俺を覗き込んでいた。
別に気を失っていたという訳でもなくただ目を閉じていた俺は普通に知っている事なのだが、2人は話し合いの結果先程の騒動は無かった事にするらしい。
お二人共仲が良ろしいですね。
「あぁ、はい。ありがとうございます」
「そうですか。トウカがギフトを使ってフーマの魂を治療しなくてはかなり危なかったのですよ?」
「いえいえ。フレンダ様が手伝ってくださったから何とか一命を取り留める事が出来たのです。お礼を言うのならどうぞフレンダ様に」
「そうでしたか。トウカさんもフレンダさんもありがとうございました。それで、状況はどんな感じですか?」
「ユーリアとターニャがフーマとトウカの肉体を守り、お姉様とマイがオーキュペテークイーンを抑えています」
「それじゃあ、早く戻らないとですね」
「待ってくださいフーマ様! フーマ様の魂もお体もまだとても起き上がって良い様な状態ではありません! ここはマイ様とミレン様にお任せして…」
「ごめんなさいトウカさん。でも、俺は行かないとダメなんです」
「それは、マイ様が戦っていらっしゃるからですか?」
「ま、まぁそれもありますけど、一番の理由は俺が勇者だからですかね」
「それは、どういう意味ですか?」
「困っている人が側にいるのに助けに行かないのは勇者じゃないと思うんですよ。この世界に来て色んな事を体験して最近思ったんですけど、俺は誰かを助けるのが仕事っていうかやるべき事だと思うんですよね」
「では、フーマ様が私を助けてくださったのはフーマ様が勇者だからなのですか?」
「いや、それは俺がトウカさんを助けたいと思ったからです。それが何でかって言われたら困りますけど、流石に何でもない人のために命をかけられません」
「おいフーマ。それでは話が矛盾していませんか?」
「じゃ、じゃあ大切な人達を守りたいから戦うって事で」
折角カッコつけて話をしたのに、フレンダさんにダメ出しをされてしまった。
まぁ、これからもこの世界で生きていく訳だし、その辺りの事は後でゆっくり考えれば良いだろう。
そんな事を考えながらトウカさんの方を向くと、パッと目を逸らされてしまった。
「あれ?」
「そういえば聞いてくださいよフーマ。トウカったらフーマの魂をギフトを使って回復させる直前に…」
「わーっ! わーっ! それは私とフレンダ様だけの秘密です! フレンダ様!!」
「え? 何ですか?」
「実はトウカは!」
「お願いします!! お願いですから言わないでください!」
「あぁ、トウカのあれがあんな感触だったとは…」
「もうやめてください!!」
え?
一体俺は気絶している間に何をされたんだ?
もしかして顔に落書きとか?
酷くない!?
「はぁはぁはぁ。フーマ様。今からフーマ様の意識を肉体に戻します。準備はよろしいですか?」
「良いんですか?」
「はい。あの様な事を言われてはフーマ様を止められるはずがありません」
「そうですか。ありがとうございます!」
「っっ! それでは行きますよ」
「フーマ。これが終わったら何かご褒美をあげますから頑張って来なさい」
「ん? フレンダさんは行かないんですか?」
「私はフーマの魂を維持するためにここに残ります。トウカ、フーマを頼みましたよ」
「はい。その、フレンダ様。ありがとうございました」
「小娘の世話をするのも淑女の務めですから気にする事ありませんよ」
「え? フレンダさんが淑女?」
「おいフーマ! それはどういう意味ですか!」
「トウカさんお願いします!」
「ひゃっ、ひゃい!」
俺がトウカさんの後ろに回り込みながら手を掴むと、なんだか上擦った声をあげた。
今まで転移魔法で手を繋ぐ時は大丈夫だったのに、どうしたんだ?
「頑張りなさいフーマ。貴方の無事な帰りを待っています」
「はい!」
「それでは行きますよ、外の状態は分かりませんから警戒してください!」
こうして、俺とトウカさんは白い世界から現実の戦場へと向かった。
◇◆◇
風舞
「良かった。目が覚めたんだね」
「ああ。回復魔法ありがとな」
白い世界から目を覚ますと、ユーリアくんが俺の回復魔法をかけているところだった。
俺はここ最近無意識に落とすことの出来ていた魔力の循環速度をもっと下げてユーリアくんの回復魔法を受け入れやすくする。
「ユーリア。状況の説明をお願いします」
「僕とター姉は姉さんの言いつけ通りフーマの回復と姉さん達の護衛をして、マイムとあの女性…多分ミレンさんは2人でオーキュペテークイーンを相手にしてるよ」
ユーリアくんの指差した方向に目を向けると、ここからそこそこ離れた森の中で爆音を撒き散らしながら戦うオーキュペテークイーンの姿が見えた。
どうやら舞とローズが俺達からオーキュペテークイーンを遠ざけてくれたみたいである。
「それじゃあ、俺もあそこに行ってくる。ユーリアくんはトウカさんを…」
「もちろん私もフーマ様と共に向かいます」
トウカさんが凄みのある笑みを浮かべながらそう言った。
何だかやる事が舞に似てきている気がする。
「あぁ、はい。分かりました。それじゃあユーリアくんは…」
「僕ももちろん一緒に行くよ」
「えぇっと、ターニャさんは…」
「私がいれば100人力だから連れてかない手は無いっしょ!」
「あぁ、そうっすね」
いつの間にか俺たちの側に寄ってきたターニャさんを含め、この3人は本当に仲が良いな。
いつの間にかトウカさんとターニャさんの仲が良くなっているみたいだし、何かあったのか?
「それじゃあ、そろそろ行くとしますか」
「その前にフーマ様。少しだけ宜しいですか?」
「あぁ、はい。何ですか?」
「私はフーマ様の事をお慕い申し上げおります」
「はい?」
「それでは行きますよ。ユーリアとターニャも準備はよろしいですか?」
「うん!  いつでも行けるよ!」
「僕も準備出来てるよ」
「それではフーマ様。よろしくお願いします」
「は、はぁ」
トウカさんが何かとんでもない事を言っていた気がするんだけど、もしかして聞き間違いか?
ユーリアくんもターニャさんもオーキュペテークイーンとの戦闘に向けて真剣な顔をしているし、当のトウカさんは俺と手を繋いだまま普段通りの顔をしている。
あぁ、多分さっきトウカさんの裸を見たばかりだし、体調も万全ではないから俺が勝手に聞き間違えたのだろう。
………一応お礼は言っておくか。
「トウカさん」
「どうかなさいましたか?」
「ありがとうございます。凄く嬉しいです」
「ふふっ。私は何もしていませんよ?」
「そ、そうですか」
「ふふっ。フーマ様はとても可愛らしいお方ですね」
「……。もう行きますよ!  テレポーテーション!!」
こうして、気恥ずかしさからトウカさんと手を繋いでいるのが辛くなってきた俺は、トウカさんとターニャさんとユーリアくんを連れて舞達の戦っている森へと向かった。
◇◆◇
「はぁ、これはまるで千日手ね」
「どういう意味じゃ?」
「お互いに決め手が無くて戦局が動かないって意味よ」
私とローズちゃんでオーキュペテークイーンとの戦闘が始まって数分。
森の中で派手に戦ってはいるもののお互いの攻撃はほとんど当たらず、状況は硬直していた。
オーキュペテークイーンの攻撃は私とローズちゃんはほとんど躱せるし、たまにある避けきれないサイズの魔法もローズちゃんが魔法を放って相殺してくれるから爆風から身を守るだけで済む。
一方の私達の攻撃も空中を高速で移動するオーキュペテークイーンにはほとんど当たらず、クロスカウンターを狙おうにもオーキュペテークイーンが魔法を多用するためあまり良い機会が訪れなかった。
「なるほどのう。確かに外面的にはマイの言う通りかもしれぬ」
「外面的には?  内面は違うって事かしら?」
「うむ。簡単なところをあげるとすればオーキュペテークイーンの魔力は確かに減っておるし、妾達を中々倒せないためにストレスが蓄積しているはずじゃ」
「なるほど。確かに言われてみればそうね」
「それに、あやつは妾との戦闘に慣れ始めておる。マイがこの状態の妾に慣れたのと同じ様にの」
ローズちゃんが森の中を走りながら意地悪そうな顔でそう言った。
先程まではかなり美人で途轍もないオーラを放っているローズちゃんの雰囲気にのまれていたけれど、共に戦う内にその雰囲気に慣れてきた事を言っているのだろう。
まぁ、まだ面と向かい合うと緊張しちゃうのだけれどね。
「慣れね。確かに慣れてきた時が一番危険ね」
「うむ。今まで体験したことのある事でも、何か別の事に慣れておっては瞬時に切り替えるのが難しい。ほれ、ちょうど慣れを崩しに来た様じゃ」
ローズちゃんがそう言いながら目を向けて方向を見ると、かなり上空にフーマくん達の姿が確認できた。
良かった。
無事だったのね。
「それじゃあ、一瞬だけ隙を作るとしますか」
「そうじゃな。ここはひとつ派手に行くとしよう」
私とローズちゃんはそう言いながら森の中の開けた場所で足を止め、横に並んで武器を構えた。
今なら魔力もそこそこ回復しているし、雷魔法を纏った攻撃も問題なくできるだろう。
ギュアァァァァ!!!
オーキュペテークイーンが私達が足を止めた今を絶好の機会とばかりに飛び込んでくる。
どうやら先程トウカさんとターニャさん達を追い詰めた時に見せた攻撃をするつもりらしい。
面白い。
これは腕がなるわ!
私とローズちゃんは一度目を閉じ、2人揃って雷魔法を発動させる。
私は気持ちの赴くままに雷魔法を妖刀星穿ちに纏わせ、想いを刀に乗せた。
妖刀星穿ちは私の想いに答えるかの様に、その刀身を真っ白に染め上げていく。
「悉くを斬り裂き焦がしなさい!  土御門舞流剣術  天の型 壱の奥義 風舞くん大好きいぃぃぃぃぃ!!」
「ただ我が敵を屠るがために唸れ! 双・雷鳴轟く開闢!!」
そうして放たれた私とローズちゃんの雷の斬撃がオーキュペテークイーンとぶつかり、派手な爆発音をあげながらオーキュペテークイーンの動きを止める。
そこへ……
「テレポーテーション!!」
風舞くんがやって来てオーキュペテークイーンを上空へと転移させた。
転移魔法により運動量をリセットされたオーキュペテークイーンが自分の得意な領域である空に在りながらも大きな隙を晒す。
「貫きなさい!  ウォーターランス!!」
「痺れろ! パラライズショット!!」
「砕け!  ヨトゥンフィスト!!
そこへトウカさん達が渾身の魔法を撃ち込みオーキュペテークイーンに大きなダメージを与えた。
「待たせたな2人とも」
「ええ。全くよ。お陰でローズちゃんと2人っきりだったから凄い緊張したわ」
「まぁ、今のローズはかなり美人だしな」
「そ、そうか!  ふふん!  そうじゃろう?  そうじゃろうとも!」
ローズちゃんが嬉しそうな顔をしながら身体をくねくねさせている。
か、可愛らしいのに色っぽいわ。
「さて、強力な助っ人も来てくれたしクライマックスと行こうぜ」
「うむ!  さっさとこれを終わらせてフーマと存分にイチャイチャするとしよう!!」
「えぇ!!?  それじゃあ私もするわ!  フーマくんとくんずほぐれずするわ!!」
「えーっと、俺はとりあえず寝たいんだけど」
「駄目じゃ!!」「駄目よ!!」
私とローズちゃんはフーマくんにそう言い残して、オーキュペテークイーンの落下地点へと走った。
フーマくんはそんな私達を見てやれやれといった顔をしながら転移魔法でトウカさん達の回収に向かう。
ふふん!
遂にフーマくんとくんずほぐれずイチャイチャきゃっきゃウフフ出来る日が来たのだから、こんなカラスもどき瞬殺してやるわ!!
私はそんな事を考えながら全速力で森の中を駆け抜けた。
◇◆◇
「マジかぁ。俺は寝たいんだけどなぁ」
舞とローズが俺をおいて入り去ってしまった後、俺はそんな事を言いながらトウカさん達の元へ転移した。
全力で魔法を放った後のトウカさん達が俺が転移した事に気がついて空中で寄って来る。
「どうだった師匠!?  私とお姉ちゃんどっちの魔法の方が凄かった?」
「うーん。同じくらいじゃないですか?」
「それでは困ります!  現在私とターニャは魔物の討伐数が全く同じなのでここで決着をつけねばならないのです!」
「えぇ、ユーリアくんはどう思う?」
「2人とも罰ゲームを受けるのが面白いと思うよ」
「それもそうだな」
確かにトウカさんのポエムノートもターニャさんの日記帳も両方興味があるし、別に引き分けでも良い気がする。
むしろ引き分けてくれ。
「えぇ!?  引き分けの場合は2人とも罰ゲームなのですか?」
「え?  当然でしょう?」
「師匠!  早く私を転移させて!  マイム達にオーキュペテークイーンが倒されちゃう!」
「私もお願いします!  ここでターニャに負けるわけにはいきません!」
「はいはい。それじゃあ、テレポーテーション!」
俺は必死な顔をする姉妹を舞達の少し後ろに転移させ、周囲を見回した。
「そういえば、ファルゴさん達は?」
「ファルゴ達は変異種の魔物を倒して回ってるよ。エルセーヌも一緒だね」
「マジで?  これは今回のMVPはファルゴさん達だな」
「そうなのかい?」
「ああ。だって変異種ってあの金色の目のサイクロプスみたいなのだろ?  あんなの倒して回ってるって尋常じゃないだろ」
「まぁ、言われてみればそうかもね」
「全体への貢献度で考えたら間違いなくトップだろうな。流石はプロの傭兵だ」
「エルセーヌも何だかんだ頑張ってたみたいだし、後で褒めてあげなよ?」
「そうだな。後で何かご褒美でもやるか」
俺とユーリアくんはそんな話をしながら落下を続けた。
俺達の下ではバーサーカーと化した女性陣が魔法を放ち、斬り裂き、殴り、貫き、オーキュペテークイーンをどんどん追い詰めて行く。
うわぁ、流石にこれはオーキュペテークイーンが気の毒だな。
「さて、それじゃあそろそろ僕たちも行こうか。僕のかけた麻痺ももう直ぐ解けるだろうからね」
「そうか。それじゃあ早く行かないとな」
俺とユーリアくんはそんな事を言いながら空中で拳を突き合わせ、オーキュペテークイーンのそばに転移した。
グガァァァ!!
俺が転移して来た事に気がついたオーキュペテークイーンが俺にガンガンと殺気を飛ばしながら睨みつけてくる。
オーキュペテークイーンはすでに満身創痍となり、残りの翼三枚全てに穴が空き片目も潰れていた。
もう飛び立つこともおろか、身動きをとることも出来ないだろう。
「別にお前に恨みはないけど、これは俺達人族とお前達魔物の戦争なんだ。悪いがここで討ち取らせてもらう」
俺はそう言いながらオーキュペテークイーンにゆっくりと近づき、炎の魔剣を燈らせた。
ローズとターニャさんはオーキュペテークイーンの上にのってその身体を抑え込み、ユーリアくんは少しだけ離れた位置からオーキュペテークイーンに状態異常魔法をかけ続けている。
俺の横に寄り添う様に立っている舞が同じく俺の横に立っていたトウカさんの顔を覗き込みながら話しかけた。
「ねぇ、トドメはトウカさんが刺さなくて良いのかしら?」
「はい。私がここにこうしていられるのは皆様やフーマ様のお陰ですし、私はこれで十分です。」
トウカさんがそう言いながら炎の魔剣を握る俺の手に自分の手を添える。
舞はそのトウカさんを見て軽く微笑み、同じ様に俺の右手に手を重ねた。
「お疲れ迷宮王。もう二度と出会わない事を願っている」
俺はそう言いながら炎の魔剣をオーキュペテークイーンの頭に突き刺し、その命を絶った。
それと同時に、オーキュペテークイーンが黒霧に変わって空気中に溶け消え、ゴトリと魔石を落とす。
「ふぅ」
「ほれ、溜息をついてないで早く勝鬨を上げんか」
「ああ。そうだな」
とは言ったものの、勝鬨って何て言えば良いんだ?
えいえいおーっは違う気がするし、勝ったぞーも何か違う気がする。
そんな感じで微妙に困っていると、俺の左隣の立っていた舞がこっそり耳打ちしてきた。
あぁ、なるほど。
「超絶可愛いエルフの巫トウカさんに万歳!」
「えぇっ!?」
「「「「万歳!!」」」」
「え?  ええっ!!!?」
「トウカさんが凄い可愛かったから無事に勝てたわね」
「そうだな。俺もトウカさんが可愛かったから死なずに済んだ」
「ふむ。確かにトウカの可愛さは目を見張るものがあるからの」
「そうだね。トウカ姉さんの可愛さは世界に通じると思うよ」
「今回の勝負は私の負けかな。可愛さ的に」
俺と舞の悪ノリに次々と皆が便乗してくる。
トウカさんは顔を真っ赤にして自分のスカートをギュッと握りしめてプルプルしていた。
「恥ずかしがるトウカさんも可愛いな」
「そうね。普段の清楚な感じとのギャップがたまらないわ」
「良いかユーリア。こういうのを萌えと言うんじゃ」
「なるほど。今の姉さんの可愛さは萌えって言うんだね」
「いやぁ、こんなに可愛いお姉ちゃんがいて私は幸せだなぁ」
「も…」
「も?」
「も、もう勘弁してください!!」
「あ、逃げた」
トウカさんが両手で顔を抑えながら顔を真っ赤にして走り去って行った。
転移魔法を使えば簡単に追いつけるが、流石にそれは可哀想だしやめておこう。
トウカさんが走って行った先にはエルフの里があるし、危険もないはずだ。
「なんて言うか、申し訳ないけれど走る姿も可愛かったわね」
「そうだな」
「そうじゃな」
「うん。僕もそう思うよ」
「流石お姉ちゃんだね」
俺たちはそんな事を言いながら、道中に見かけた魔物を倒しつつエルフの里に戻った。
まだエルフの軍隊と魔物の戦闘は続いているが、魔物の数が大分減って来ているし、このまま進めば問題なく勝てるだろう。
いやぁ、これで一件落着だな。
と思っていた時期が俺にもありました。
「魔族だ!  捕らえろ!!」
「おい!  こっちの人間も目が赤いぞ!!」
「そいつも魔族かもしれん!!  一緒に捕まえておけ!!」
「おい!  何をする!  妾を誰だと思っとるんじゃ!!」
「知らん!  だが、この様な緊急時を狙ってくるとは卑怯な奴め!」
「あぁ、すっかり忘れてた」
疲労困憊でエルフの里に何とか戻った俺達を待っていたのは歓声でも感謝の声でもなく、逮捕だった。
正確には、どっからどう見ても吸血鬼のローズと目が赤くて若干犬歯が伸びている俺が捕まった。
「ぷぷぷ。まさかこんな事になるなんて凄く悲しいわ」
「いやぁ、これは大変な事になったね」
「その2人はかなり強いよ!  みんな気をつけてね!!」
舞とユーリアくんとターニャさんは俺達が連行されるのを止めず、笑いを堪えている。
このヤロウ!
「のうフーマ。脱獄してあの3人を恐怖のどん底に落とすというのはどうじゃ?」
「ああ。絶対に復讐してやる」
「おい!  無駄話をするな!!」
こうして、復讐を誓った俺とローズは宮殿の牢屋へと連行されたのだった。
「ほら! やっぱりナイチチじゃないですか! これならユーリアの方がまだあります!!」
「ユーリアは男でしょう! 流石にユーリアには負けません!」
「いいえ! こんなものはおっぱいとは言えません! なので、ブラジャーは没収します!」
「止めてください! そこまで言うのなら貴方の胸も見せてください!」
「なっ!? いつの間に私の服を脱がせたのですか!」
「今の私はフーマと魂が繋がっていますから、ここの権限の一部を持っているのです」
「そ、そんな。しかし、ここで負ける訳にはいきません!」
気を失って倒れてから白い世界で目を覚ますと、フレンダさんとトウカさんが脱がしあっている現場に遭遇してしまった。
図々しくも2人とも俺の事を心配してくれていたんだろうなとか考えていたのだが、2人とも俺の事をそっちのけで服を脱がしあっている。
2人とも下着とガーターベルトとニーソックスしか残って無いけど、まだ脱がし合うのか?
………。
よし、このまま黙って見てるか。
「どうしたのですか?  まさかフレンダ様ともあろうお方が私に負けるのが怖いのですか?」
「そ、そんな訳ありません!」
「では、ブラジャーは自分で外したらどうです?」
「良いでしょう! ただし、貴女も私と同時に外してください」
「もちろんです! まぁ、私が負ける訳無いですがね」
組みあっていた2人がボサボサになった髪を手櫛で直しながらそう言い、2人揃って自分のブラジャーのホックに手をかける。
因みに、トウカさんは背中ホックでフレンダさんはフロントホックだ。
「それでは、1、2、3で外しますよ。」
「はい。今更怖気付くのは無しですよ?」
「もちろんです。トウカこそ逃げ出さないでくださいよ?」
「言われるまでもありません」
「それでは行きますよ…」
「「1、2、3!!」」
フレンダさんとトウカさんが3カウントが終わると同時にブラジャーを勢いよく外した。
それと共に2人の胸が衆目、というか俺の目に晒される。
「ま、まさかこの様な事が」
「だから言ったでしょう? 私の方がフレンダ様よりも胸が大きい事などブラジャーを外す前から分かっていたのです」
どうやら勝負に勝ったのはトウカさんらしい。
フレンダさんが四つ足をつきながらガックリとうなだれている。
いや、でもしかし……
「変わんなくね?」
2人のおっぱいの大きさ勝負を見ていた俺はついそんな事を言ってしまった。
それと同時にフレンダさんがとても嬉しそうな感動した顔を俺に向け、トウカさんが絶望した様な怒った様な顔を俺に向ける。
やば、余計なことを言うんじゃなかった。
「流石はフーマ!! 忠順な下僕は好きですよ!!」
「フーマ様! もっとよく見てください!! どう見ても私の方が大きいではないですか!!」
フレンダさんとトウカさんがそう言いながら勢いよく俺に近寄って来る。
2人ともほとんど全裸だから目のやり場に凄い困る。
「よし、今日の私はとても機嫌が良いですから、特別にフーマに私の胸を触らせてあげます!」
「見て分からないというのならどうぞ触ってみて下さい! 私の方が大きいはずです!」
「いやいやいや、流石に触れませんから! 2人とも少し冷静になってください! 今自分達がどんな格好をしているのか分かってるんですか!?」
俺がそう言いながら目を背けると、フレンダさんとトウカさんが互いの体を見た後に自分の体を見下ろし、急激に顔を真っ赤に染めた。
あ、これはアカン奴や。
「フーマ。何か言い残す事はありますか?」
「フーマ様が望むのでしたらいつでも見せてあげますが、覗きは良く無いと思います」
「流石に理不尽すぎません?」
「「問答無用!!」」
そうして、恥ずかしビンタを左右からもらった俺は吹っ飛ぶ事も出来ずにその場で顔を潰された。
まぁ、2人の裸が見れてビンタで済んだんだから儲けものだよな。
俺はそんな事を考えながら、ゆっくりと目を閉じてその場に倒れこんだ。
「良かった。目が覚めたのですね」
「どこか痛いところはございませんか?」
トウカさんとフレンダさんのおっぱい対決からビンタでお仕置きをもらうというラッキーイベントを終えた後、再び目を開くとフレンダさんとトウカさんが心配そうなホッとした様な顔をして俺を覗き込んでいた。
別に気を失っていたという訳でもなくただ目を閉じていた俺は普通に知っている事なのだが、2人は話し合いの結果先程の騒動は無かった事にするらしい。
お二人共仲が良ろしいですね。
「あぁ、はい。ありがとうございます」
「そうですか。トウカがギフトを使ってフーマの魂を治療しなくてはかなり危なかったのですよ?」
「いえいえ。フレンダ様が手伝ってくださったから何とか一命を取り留める事が出来たのです。お礼を言うのならどうぞフレンダ様に」
「そうでしたか。トウカさんもフレンダさんもありがとうございました。それで、状況はどんな感じですか?」
「ユーリアとターニャがフーマとトウカの肉体を守り、お姉様とマイがオーキュペテークイーンを抑えています」
「それじゃあ、早く戻らないとですね」
「待ってくださいフーマ様! フーマ様の魂もお体もまだとても起き上がって良い様な状態ではありません! ここはマイ様とミレン様にお任せして…」
「ごめんなさいトウカさん。でも、俺は行かないとダメなんです」
「それは、マイ様が戦っていらっしゃるからですか?」
「ま、まぁそれもありますけど、一番の理由は俺が勇者だからですかね」
「それは、どういう意味ですか?」
「困っている人が側にいるのに助けに行かないのは勇者じゃないと思うんですよ。この世界に来て色んな事を体験して最近思ったんですけど、俺は誰かを助けるのが仕事っていうかやるべき事だと思うんですよね」
「では、フーマ様が私を助けてくださったのはフーマ様が勇者だからなのですか?」
「いや、それは俺がトウカさんを助けたいと思ったからです。それが何でかって言われたら困りますけど、流石に何でもない人のために命をかけられません」
「おいフーマ。それでは話が矛盾していませんか?」
「じゃ、じゃあ大切な人達を守りたいから戦うって事で」
折角カッコつけて話をしたのに、フレンダさんにダメ出しをされてしまった。
まぁ、これからもこの世界で生きていく訳だし、その辺りの事は後でゆっくり考えれば良いだろう。
そんな事を考えながらトウカさんの方を向くと、パッと目を逸らされてしまった。
「あれ?」
「そういえば聞いてくださいよフーマ。トウカったらフーマの魂をギフトを使って回復させる直前に…」
「わーっ! わーっ! それは私とフレンダ様だけの秘密です! フレンダ様!!」
「え? 何ですか?」
「実はトウカは!」
「お願いします!! お願いですから言わないでください!」
「あぁ、トウカのあれがあんな感触だったとは…」
「もうやめてください!!」
え?
一体俺は気絶している間に何をされたんだ?
もしかして顔に落書きとか?
酷くない!?
「はぁはぁはぁ。フーマ様。今からフーマ様の意識を肉体に戻します。準備はよろしいですか?」
「良いんですか?」
「はい。あの様な事を言われてはフーマ様を止められるはずがありません」
「そうですか。ありがとうございます!」
「っっ! それでは行きますよ」
「フーマ。これが終わったら何かご褒美をあげますから頑張って来なさい」
「ん? フレンダさんは行かないんですか?」
「私はフーマの魂を維持するためにここに残ります。トウカ、フーマを頼みましたよ」
「はい。その、フレンダ様。ありがとうございました」
「小娘の世話をするのも淑女の務めですから気にする事ありませんよ」
「え? フレンダさんが淑女?」
「おいフーマ! それはどういう意味ですか!」
「トウカさんお願いします!」
「ひゃっ、ひゃい!」
俺がトウカさんの後ろに回り込みながら手を掴むと、なんだか上擦った声をあげた。
今まで転移魔法で手を繋ぐ時は大丈夫だったのに、どうしたんだ?
「頑張りなさいフーマ。貴方の無事な帰りを待っています」
「はい!」
「それでは行きますよ、外の状態は分かりませんから警戒してください!」
こうして、俺とトウカさんは白い世界から現実の戦場へと向かった。
◇◆◇
風舞
「良かった。目が覚めたんだね」
「ああ。回復魔法ありがとな」
白い世界から目を覚ますと、ユーリアくんが俺の回復魔法をかけているところだった。
俺はここ最近無意識に落とすことの出来ていた魔力の循環速度をもっと下げてユーリアくんの回復魔法を受け入れやすくする。
「ユーリア。状況の説明をお願いします」
「僕とター姉は姉さんの言いつけ通りフーマの回復と姉さん達の護衛をして、マイムとあの女性…多分ミレンさんは2人でオーキュペテークイーンを相手にしてるよ」
ユーリアくんの指差した方向に目を向けると、ここからそこそこ離れた森の中で爆音を撒き散らしながら戦うオーキュペテークイーンの姿が見えた。
どうやら舞とローズが俺達からオーキュペテークイーンを遠ざけてくれたみたいである。
「それじゃあ、俺もあそこに行ってくる。ユーリアくんはトウカさんを…」
「もちろん私もフーマ様と共に向かいます」
トウカさんが凄みのある笑みを浮かべながらそう言った。
何だかやる事が舞に似てきている気がする。
「あぁ、はい。分かりました。それじゃあユーリアくんは…」
「僕ももちろん一緒に行くよ」
「えぇっと、ターニャさんは…」
「私がいれば100人力だから連れてかない手は無いっしょ!」
「あぁ、そうっすね」
いつの間にか俺たちの側に寄ってきたターニャさんを含め、この3人は本当に仲が良いな。
いつの間にかトウカさんとターニャさんの仲が良くなっているみたいだし、何かあったのか?
「それじゃあ、そろそろ行くとしますか」
「その前にフーマ様。少しだけ宜しいですか?」
「あぁ、はい。何ですか?」
「私はフーマ様の事をお慕い申し上げおります」
「はい?」
「それでは行きますよ。ユーリアとターニャも準備はよろしいですか?」
「うん!  いつでも行けるよ!」
「僕も準備出来てるよ」
「それではフーマ様。よろしくお願いします」
「は、はぁ」
トウカさんが何かとんでもない事を言っていた気がするんだけど、もしかして聞き間違いか?
ユーリアくんもターニャさんもオーキュペテークイーンとの戦闘に向けて真剣な顔をしているし、当のトウカさんは俺と手を繋いだまま普段通りの顔をしている。
あぁ、多分さっきトウカさんの裸を見たばかりだし、体調も万全ではないから俺が勝手に聞き間違えたのだろう。
………一応お礼は言っておくか。
「トウカさん」
「どうかなさいましたか?」
「ありがとうございます。凄く嬉しいです」
「ふふっ。私は何もしていませんよ?」
「そ、そうですか」
「ふふっ。フーマ様はとても可愛らしいお方ですね」
「……。もう行きますよ!  テレポーテーション!!」
こうして、気恥ずかしさからトウカさんと手を繋いでいるのが辛くなってきた俺は、トウカさんとターニャさんとユーリアくんを連れて舞達の戦っている森へと向かった。
◇◆◇
「はぁ、これはまるで千日手ね」
「どういう意味じゃ?」
「お互いに決め手が無くて戦局が動かないって意味よ」
私とローズちゃんでオーキュペテークイーンとの戦闘が始まって数分。
森の中で派手に戦ってはいるもののお互いの攻撃はほとんど当たらず、状況は硬直していた。
オーキュペテークイーンの攻撃は私とローズちゃんはほとんど躱せるし、たまにある避けきれないサイズの魔法もローズちゃんが魔法を放って相殺してくれるから爆風から身を守るだけで済む。
一方の私達の攻撃も空中を高速で移動するオーキュペテークイーンにはほとんど当たらず、クロスカウンターを狙おうにもオーキュペテークイーンが魔法を多用するためあまり良い機会が訪れなかった。
「なるほどのう。確かに外面的にはマイの言う通りかもしれぬ」
「外面的には?  内面は違うって事かしら?」
「うむ。簡単なところをあげるとすればオーキュペテークイーンの魔力は確かに減っておるし、妾達を中々倒せないためにストレスが蓄積しているはずじゃ」
「なるほど。確かに言われてみればそうね」
「それに、あやつは妾との戦闘に慣れ始めておる。マイがこの状態の妾に慣れたのと同じ様にの」
ローズちゃんが森の中を走りながら意地悪そうな顔でそう言った。
先程まではかなり美人で途轍もないオーラを放っているローズちゃんの雰囲気にのまれていたけれど、共に戦う内にその雰囲気に慣れてきた事を言っているのだろう。
まぁ、まだ面と向かい合うと緊張しちゃうのだけれどね。
「慣れね。確かに慣れてきた時が一番危険ね」
「うむ。今まで体験したことのある事でも、何か別の事に慣れておっては瞬時に切り替えるのが難しい。ほれ、ちょうど慣れを崩しに来た様じゃ」
ローズちゃんがそう言いながら目を向けて方向を見ると、かなり上空にフーマくん達の姿が確認できた。
良かった。
無事だったのね。
「それじゃあ、一瞬だけ隙を作るとしますか」
「そうじゃな。ここはひとつ派手に行くとしよう」
私とローズちゃんはそう言いながら森の中の開けた場所で足を止め、横に並んで武器を構えた。
今なら魔力もそこそこ回復しているし、雷魔法を纏った攻撃も問題なくできるだろう。
ギュアァァァァ!!!
オーキュペテークイーンが私達が足を止めた今を絶好の機会とばかりに飛び込んでくる。
どうやら先程トウカさんとターニャさん達を追い詰めた時に見せた攻撃をするつもりらしい。
面白い。
これは腕がなるわ!
私とローズちゃんは一度目を閉じ、2人揃って雷魔法を発動させる。
私は気持ちの赴くままに雷魔法を妖刀星穿ちに纏わせ、想いを刀に乗せた。
妖刀星穿ちは私の想いに答えるかの様に、その刀身を真っ白に染め上げていく。
「悉くを斬り裂き焦がしなさい!  土御門舞流剣術  天の型 壱の奥義 風舞くん大好きいぃぃぃぃぃ!!」
「ただ我が敵を屠るがために唸れ! 双・雷鳴轟く開闢!!」
そうして放たれた私とローズちゃんの雷の斬撃がオーキュペテークイーンとぶつかり、派手な爆発音をあげながらオーキュペテークイーンの動きを止める。
そこへ……
「テレポーテーション!!」
風舞くんがやって来てオーキュペテークイーンを上空へと転移させた。
転移魔法により運動量をリセットされたオーキュペテークイーンが自分の得意な領域である空に在りながらも大きな隙を晒す。
「貫きなさい!  ウォーターランス!!」
「痺れろ! パラライズショット!!」
「砕け!  ヨトゥンフィスト!!
そこへトウカさん達が渾身の魔法を撃ち込みオーキュペテークイーンに大きなダメージを与えた。
「待たせたな2人とも」
「ええ。全くよ。お陰でローズちゃんと2人っきりだったから凄い緊張したわ」
「まぁ、今のローズはかなり美人だしな」
「そ、そうか!  ふふん!  そうじゃろう?  そうじゃろうとも!」
ローズちゃんが嬉しそうな顔をしながら身体をくねくねさせている。
か、可愛らしいのに色っぽいわ。
「さて、強力な助っ人も来てくれたしクライマックスと行こうぜ」
「うむ!  さっさとこれを終わらせてフーマと存分にイチャイチャするとしよう!!」
「えぇ!!?  それじゃあ私もするわ!  フーマくんとくんずほぐれずするわ!!」
「えーっと、俺はとりあえず寝たいんだけど」
「駄目じゃ!!」「駄目よ!!」
私とローズちゃんはフーマくんにそう言い残して、オーキュペテークイーンの落下地点へと走った。
フーマくんはそんな私達を見てやれやれといった顔をしながら転移魔法でトウカさん達の回収に向かう。
ふふん!
遂にフーマくんとくんずほぐれずイチャイチャきゃっきゃウフフ出来る日が来たのだから、こんなカラスもどき瞬殺してやるわ!!
私はそんな事を考えながら全速力で森の中を駆け抜けた。
◇◆◇
「マジかぁ。俺は寝たいんだけどなぁ」
舞とローズが俺をおいて入り去ってしまった後、俺はそんな事を言いながらトウカさん達の元へ転移した。
全力で魔法を放った後のトウカさん達が俺が転移した事に気がついて空中で寄って来る。
「どうだった師匠!?  私とお姉ちゃんどっちの魔法の方が凄かった?」
「うーん。同じくらいじゃないですか?」
「それでは困ります!  現在私とターニャは魔物の討伐数が全く同じなのでここで決着をつけねばならないのです!」
「えぇ、ユーリアくんはどう思う?」
「2人とも罰ゲームを受けるのが面白いと思うよ」
「それもそうだな」
確かにトウカさんのポエムノートもターニャさんの日記帳も両方興味があるし、別に引き分けでも良い気がする。
むしろ引き分けてくれ。
「えぇ!?  引き分けの場合は2人とも罰ゲームなのですか?」
「え?  当然でしょう?」
「師匠!  早く私を転移させて!  マイム達にオーキュペテークイーンが倒されちゃう!」
「私もお願いします!  ここでターニャに負けるわけにはいきません!」
「はいはい。それじゃあ、テレポーテーション!」
俺は必死な顔をする姉妹を舞達の少し後ろに転移させ、周囲を見回した。
「そういえば、ファルゴさん達は?」
「ファルゴ達は変異種の魔物を倒して回ってるよ。エルセーヌも一緒だね」
「マジで?  これは今回のMVPはファルゴさん達だな」
「そうなのかい?」
「ああ。だって変異種ってあの金色の目のサイクロプスみたいなのだろ?  あんなの倒して回ってるって尋常じゃないだろ」
「まぁ、言われてみればそうかもね」
「全体への貢献度で考えたら間違いなくトップだろうな。流石はプロの傭兵だ」
「エルセーヌも何だかんだ頑張ってたみたいだし、後で褒めてあげなよ?」
「そうだな。後で何かご褒美でもやるか」
俺とユーリアくんはそんな話をしながら落下を続けた。
俺達の下ではバーサーカーと化した女性陣が魔法を放ち、斬り裂き、殴り、貫き、オーキュペテークイーンをどんどん追い詰めて行く。
うわぁ、流石にこれはオーキュペテークイーンが気の毒だな。
「さて、それじゃあそろそろ僕たちも行こうか。僕のかけた麻痺ももう直ぐ解けるだろうからね」
「そうか。それじゃあ早く行かないとな」
俺とユーリアくんはそんな事を言いながら空中で拳を突き合わせ、オーキュペテークイーンのそばに転移した。
グガァァァ!!
俺が転移して来た事に気がついたオーキュペテークイーンが俺にガンガンと殺気を飛ばしながら睨みつけてくる。
オーキュペテークイーンはすでに満身創痍となり、残りの翼三枚全てに穴が空き片目も潰れていた。
もう飛び立つこともおろか、身動きをとることも出来ないだろう。
「別にお前に恨みはないけど、これは俺達人族とお前達魔物の戦争なんだ。悪いがここで討ち取らせてもらう」
俺はそう言いながらオーキュペテークイーンにゆっくりと近づき、炎の魔剣を燈らせた。
ローズとターニャさんはオーキュペテークイーンの上にのってその身体を抑え込み、ユーリアくんは少しだけ離れた位置からオーキュペテークイーンに状態異常魔法をかけ続けている。
俺の横に寄り添う様に立っている舞が同じく俺の横に立っていたトウカさんの顔を覗き込みながら話しかけた。
「ねぇ、トドメはトウカさんが刺さなくて良いのかしら?」
「はい。私がここにこうしていられるのは皆様やフーマ様のお陰ですし、私はこれで十分です。」
トウカさんがそう言いながら炎の魔剣を握る俺の手に自分の手を添える。
舞はそのトウカさんを見て軽く微笑み、同じ様に俺の右手に手を重ねた。
「お疲れ迷宮王。もう二度と出会わない事を願っている」
俺はそう言いながら炎の魔剣をオーキュペテークイーンの頭に突き刺し、その命を絶った。
それと同時に、オーキュペテークイーンが黒霧に変わって空気中に溶け消え、ゴトリと魔石を落とす。
「ふぅ」
「ほれ、溜息をついてないで早く勝鬨を上げんか」
「ああ。そうだな」
とは言ったものの、勝鬨って何て言えば良いんだ?
えいえいおーっは違う気がするし、勝ったぞーも何か違う気がする。
そんな感じで微妙に困っていると、俺の左隣の立っていた舞がこっそり耳打ちしてきた。
あぁ、なるほど。
「超絶可愛いエルフの巫トウカさんに万歳!」
「えぇっ!?」
「「「「万歳!!」」」」
「え?  ええっ!!!?」
「トウカさんが凄い可愛かったから無事に勝てたわね」
「そうだな。俺もトウカさんが可愛かったから死なずに済んだ」
「ふむ。確かにトウカの可愛さは目を見張るものがあるからの」
「そうだね。トウカ姉さんの可愛さは世界に通じると思うよ」
「今回の勝負は私の負けかな。可愛さ的に」
俺と舞の悪ノリに次々と皆が便乗してくる。
トウカさんは顔を真っ赤にして自分のスカートをギュッと握りしめてプルプルしていた。
「恥ずかしがるトウカさんも可愛いな」
「そうね。普段の清楚な感じとのギャップがたまらないわ」
「良いかユーリア。こういうのを萌えと言うんじゃ」
「なるほど。今の姉さんの可愛さは萌えって言うんだね」
「いやぁ、こんなに可愛いお姉ちゃんがいて私は幸せだなぁ」
「も…」
「も?」
「も、もう勘弁してください!!」
「あ、逃げた」
トウカさんが両手で顔を抑えながら顔を真っ赤にして走り去って行った。
転移魔法を使えば簡単に追いつけるが、流石にそれは可哀想だしやめておこう。
トウカさんが走って行った先にはエルフの里があるし、危険もないはずだ。
「なんて言うか、申し訳ないけれど走る姿も可愛かったわね」
「そうだな」
「そうじゃな」
「うん。僕もそう思うよ」
「流石お姉ちゃんだね」
俺たちはそんな事を言いながら、道中に見かけた魔物を倒しつつエルフの里に戻った。
まだエルフの軍隊と魔物の戦闘は続いているが、魔物の数が大分減って来ているし、このまま進めば問題なく勝てるだろう。
いやぁ、これで一件落着だな。
と思っていた時期が俺にもありました。
「魔族だ!  捕らえろ!!」
「おい!  こっちの人間も目が赤いぞ!!」
「そいつも魔族かもしれん!!  一緒に捕まえておけ!!」
「おい!  何をする!  妾を誰だと思っとるんじゃ!!」
「知らん!  だが、この様な緊急時を狙ってくるとは卑怯な奴め!」
「あぁ、すっかり忘れてた」
疲労困憊でエルフの里に何とか戻った俺達を待っていたのは歓声でも感謝の声でもなく、逮捕だった。
正確には、どっからどう見ても吸血鬼のローズと目が赤くて若干犬歯が伸びている俺が捕まった。
「ぷぷぷ。まさかこんな事になるなんて凄く悲しいわ」
「いやぁ、これは大変な事になったね」
「その2人はかなり強いよ!  みんな気をつけてね!!」
舞とユーリアくんとターニャさんは俺達が連行されるのを止めず、笑いを堪えている。
このヤロウ!
「のうフーマ。脱獄してあの3人を恐怖のどん底に落とすというのはどうじゃ?」
「ああ。絶対に復讐してやる」
「おい!  無駄話をするな!!」
こうして、復讐を誓った俺とローズは宮殿の牢屋へと連行されたのだった。
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