クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...

がいとう

85話 元暗殺者の総指揮官

 風舞






 ソレイドのダンジョンは内部での長距離転移をすると魔力の消費量がかなり多かったし、迷宮王の部屋から転移魔法で出る事も出来なかった。
 ましてや、ダンジョンの外から中に転移魔法を使って入ろうとしても魔法自体が発動しなかった程である。
 しかし、世界樹の場合は外から中に転移魔法で入る事ができるし、階層を跨いだ転移も問題なくできる。


 という事は、ターニャさんのいる場所さえわかれば一気にそこの階層まで転移できるんじゃないか?
 そう考えた俺は、宮殿の会議室から第5階層に転移してすぐそばにいたユーリアくんにいくつか質問をしてみる事にした。




「なぁユーリアくん。ターニャさんがどこにいるか分かるか?」
「うーん、……ダメみたい。僕の感知系のスキルじゃここから5階層分ぐらいしか感知できないや。多分ター姉はもっと上にいるんだと思うよ」
「それじゃあ、第10階層ってどのくらい上にあるか分かるか?」
「ええっとねぇ、だいたい宮殿の高さと同じくらいかな。ちなみにここから真上に行けば第10階層の真ん中に出ると思うよ」
「第10階層に迷宮王はいるか?」
「いや、第10階層に魔物はいないみたいだね。迷宮王のいる階層には他の魔物は入り込まないんじゃないかな」
「やっぱりそうなのか」




 転移した先に他の魔物がいたら面倒だと思って舞が倒した迷宮王のいた第5階層に転移してみたが、やはり迷宮王の出る階層には他の魔物が入り込まない仕様らしい。
 このスタンピードという魔物の大発生の間にも周囲に魔物の姿は確認できないし、このルールは世界樹にとってかなり優先度の高いものなのだろう。
 そういえば、世界樹のてっぺんのあたりも魔物が一切いなかったけど、何か関係があるのかね。


 そんな事を考えながら周りをキョロキョロと見回していると、頭の中のフレンダさんからヤジが飛んできた。




『おいフーマ。何を呑気に考え事をしているのですか。それだからフーマは皆に愚鈍だと言われるのです』




 いやいや、俺を愚鈍だなんて言うのはフレンダさんだけなんだけど。
 なんて事を思いもしたが、フレンダさんの言う様にあまり時間をかけていられないのも事実であるため、俺は次の行動に移す事にした。




「それじゃあ、パパッと第10階層まで転移してくるんで皆はちょっと待っててください」
「いや、妾達も一緒に行こう。どうせフーマが転移事故を起こしたら今回の作戦は失敗に終わる訳じゃし、悪運の強いお主なら転移魔法で失敗はせんじゃろう?」
「まぁ、俺は失敗するつもりで転移はしないけど万が一があるぞ?」
「大丈夫よフーマくん。私達はフーマくんの転移魔法とユーリアさんの感知能力を信じているから早く転移してちょうだい」
「オホホホ。わたくしもここから宮殿と同じくらいの高さに転移すれば問題ないと思いますから、サッサと転移してくださいまし」
「あぁ、はいはい。それじゃあ行きますよ、テレポーテーション!」




 かくして、第5階層に転移した俺達一行はユーリアくんやエルセーヌさんの感知を元に5階層ずつ転移魔法で登っていく事となった。
 一応転移事故が起きない様にその都度感知をしてもらったのだが、世界樹は全ての階層の高さがほぼ同じであるため特に大きな問題も無く転移する事が出来た。


 そんな感じで誰もいない迷宮王の部屋を転移で移動しながら進む事第20階層。
 毎度の如くユーリアくんに5階層上の状況を尋ね様としたところで、ユーリアくんが先程までの魔物がいないという旨以外のセリフを吐いた。




「あ、多分だけどちょうど今第25階層でター姉が戦ってるね」
「第25階層にいたのか。想定していたよりもかなり早いペースで登ってたんだな」
「ふむ、それならばこのまま第25階層まで転移して加勢に行くとするかの」
「そうね。きっとターニャちゃんも夜通し戦って疲れてるでしょうし、さっさと助けに行きましょう」
「そうだな。移動距離は同じで良いのか?」
「うん。それで大丈夫だよ」
「よし、それじゃあ行くぞ。テレポーテーション!」


 そうして第25階層に転移した直後、俺の目の前に立っていたローズが声を張り上げながら、迷宮王と戦闘中のターニャさんの方へ走って行った。




「加勢するのじゃ!  各自散開して状況確認の後、遠距離攻撃を出来る者は準備せよ!」




 そのローズの言葉に即座に反応した俺以外の全員は、迷宮王を半円状に囲む様に展開してそれぞれの武器を構えた。


 ま、まぁ俺の周りには誰もいないみたいだし散開出来たから良いか。
 とか考えながらローズの吸血鬼の顎門アルカード・スレイヴの大剣に吹っ飛ばされるどデカいカマキリの迷宮王を眺めていると、つい先程まで一人で戦っていたターニャさんが俺の隣にやって来て話しかけてきた。




「ねぇ、師匠。もしかして時間切れ?」
「そうですね。既に日も昇ってますし、時間切れです」
「そんなぁ。折角1秒も休まずに攻略して来たのに、ここで時間切れなのか〜」
「はい。ですんで、ターニャさん達を宮殿まで送ろうと思うんですけど、ハシウスと忍者達はどこですか?」
「あぁ、パパならあそこで寝てるよ。ごちゃごちゃ煩かったから黙らせちゃった」




 そう言ったターニャさんの指差す方向に目を向けると、3人組の忍者に守られながら泡を吹いて気絶しているハシウスの姿を確認できた。
 おいおい、煩かったから黙らせたって腹パンでもして気絶させたのか?




「そ、それじゃあターニャさんをハシウス達と共にファーシェルさんの元へ送るんで、この後の指示はファーシェルさんにもらってください」
「もしかして、かなりヤバい感じなの?」
「はい。このウザい音は全部魔物の鳴き声です。宮殿に戻ったら少しだけ休憩した後で里の防衛戦に参加する様に言われると思います」
「マジかぁ。それじゃあ早く戻ってママに状況を聞かないとだね」
「はい。それじゃあ早速転移させますね」
「あ、ちょっと待って。もしかして時間切れだったから、私は罰ゲーム決定?」




 あぁ、そういえば朝までに攻略できなかったらターニャさんの日記帳を公開するって言った気がする。
 とはいえ流石に一晩で世界樹を攻略しろってかなり無茶だしなぁ。




「いえ。流石にそれは可哀想なんで、全部が終わった後にエルフの里への貢献度で判断します」
「マジで!?  それじゃあ、トウカよりも活躍したら私の罰は無くなって、トウカのポエムノートが街中で音読される事になる?」
「じゃあ、そうしましょうか」
「フーマ様!?」




 あ、迷宮王に弓矢を構えていたトウカさんがビックリした顔でこっちを向いてる。
 こらこら、戦闘中に余所見しちゃいけませんよ。




「よし!  それじゃあ早く戻って戦いたいから、ママの所に送って!」
「はい。ぜひ頑張ってください」
「うん!  師匠も頑張ってね!」




 俺はそう言い残してニッと笑ったターニャさんをファーシェルさんのいる宮殿の会議室に転移させ、地面に転がっているハシウスとそれを3人で護衛する忍者達の元へ向かった。




「あのー、そういう訳なんで貴方達も送ろうと思うんですけど良いですか?」
「………大丈夫」




 うわっ!!?
 絶対返事しないだろうと思って話しかけたから凄いびっくりした。
 返事をしたのは忍者3人組の中の唯一の女忍者だったんだけど、こんなに可愛い声をしていたのか。




「じゃ、じゃあ転移させますね」
「いや、問題ない」




 ぴっちり忍装束女エルフはそう言うと、残り二人の忍者とハシウスに手を触れて姿を消した。
 え?  もしかして転移魔法が使えたのか?


 ま、まぁ、これでハシウスと忍者達も避難出来たみたいだから別に良いんだけど、まさかあのぴっちり忍装束女エルフがあんなに可愛い声で話すとは思ってなかったし、転移魔法を使えるとは予想だにしなかったから気になってしょうがないんですけど。
 全部が終わった後に打ち上げとかでお話しする機会を貰えたりするのだろうか。


 なんて事を考えながらその場で立ち尽くしていると、後ろから何かが飛んでくる気配を感じた俺は直感のおもむくままにその場にしゃがみ込んだ。
 どうやら今し方飛んで来た物はそこそこに大きな魔石である様である。


 って、魔石?




「おいフーマ!  何をボサッとしておるんじゃ!  早くこっちに来い!」
「は?  もう迷宮王を倒し終わったのか?」
「事前に飛行出来る魔物じゃったら瞬殺すると言っておいたじゃろうが!  妾達は転移の準備は既に出来ておるから、お主待ちじゃ!」
「あ、はい。すみません」




 そうして謝りながら皆のいる方に走って行くと、ファルゴさんがニヤニヤとした表情で話しかけてきた。




「やーい、女忍者に見惚れてボケっとしてたら怒られてやんの」
「え!?  そうなのフーマくん!?」
「そうなのですか!?」
「い、いや、あの忍者が転移魔法を使ったからびっくりしただけだから!  全然見惚れてないから!」
「おい、その話は後で妾も混ぜてゆっくりやってくれ。それよりも、次はいよいよファルゴとシェリーの戦場じゃ。第30階層に転移したら妾達はすぐに次の迷宮王の階層へと向かい、そこから先は各々の場所で戦闘となる。引き返すなら今の内じゃが………いや、どうやら愚問だった様じゃな」
「そうね。ここに立っている皆は既に覚悟は出来ているわ。それにほら、次の第30階層で戦うシェリーさんとファルゴさんもヤル気みたいよ」
「ああ、血が滾ってしょうがねぇ」
「俺もとっくに準備は出来てる。いつでもやれるぞ」
「うむ。どちらも戦意は十分の様じゃな。それではフーマ、お主も準備は良いかの?」
「ああ。俺が皆を責任を持って迷宮王の前まで送り届けるから任せてくれ」
「うむ。戦場こそ違えど妾達は志を同じくする仲間じゃ!  一人も欠ける事なく完勝して皆で帰るぞ!」
「「「おう!」」」「ええ!」「はい!」「うん!」「オホホホ」




 こうして全員で顔を見合わせて互いに頷きあった俺達は、始めの戦場である第30階層へ転移した。








 ◇◆◇






 ファーシェル






「始まったか」




 戻って来たターニャやハシウス達を食堂やら治療班やらに送り出した後、一人になった会議室で兵の配置を確認していたら世界樹から一斉に魔物の大群が波の様に溢れ落ちて来た。
 世界樹からすぐそばのこの里では枝の上に蔓延っていた魔物を視認する事は出来なかったが、枝葉に姿を隠すように無数の魔物が今か今かとこの時を待っていたらしい。
 いや、らしいと言うのは適切では無いか。




「お待たせ」




 会議室の窓からスタンピードの始まった世界樹を眺めていると、私の直属の部下である一人の忍が音もなく現れた。
 こいつの名前はスーシェル。
 私の幼馴染で共にハヤテさんの教え子だ。




「ああ。面倒をかけたな」
「大丈夫」
「そうか」
「始まっちゃったね」
「ああ」




 私は世界樹がダンジョンである事をフーマに説明される前から知っていた。
 いや、正確にはハヤテさんが生きていた頃に彼から聞いていた。


 私はハヤテさんが長老衆を皆殺しにするまで、長老衆の中の一人の下で暗殺者をやっていた。
 里や長老衆に対して謀叛を企てる者や、反乱分子になりそうな者を秘密裏に殺すのが私の役目だった。
 ハヤテさんが長老衆を殺した後、私は生きる目的を失った。
 それまでの私はただ殺すために生き、ただ殺すために死んでいた。


 そんな私に対し、ハヤテさんとその仲間の皆さんは人として生きる生き方を教えてくれた。
 美味しい物を食べる方法、気持ちのいいベッドで寝る方法、人と話す方法、人を愛する方法、色々な事を教えてくれた。


 そうしてハヤテさんに様々なことを教わりながら暮らしていたある日、ハヤテさんに呼び出された私は世界樹と巫について全ての話を聞いた。
 ハヤテさんは「この話を聞いてどうするかはお前に任せる。ただ、可能ならば俺の息子と娘の力になってやってくれると嬉しい」と言っていた。
 その時のハヤテさんの顔は今でも覚えている。
 その顔は死ぬ覚悟を決めて戦いに挑む勇者の顔だった。


 そうしてハヤテさん達の死を聞いた後、私は泣きじゃくるハシウスの元へ行って殴り飛ばした。
 私がハシウスと顔を合わせるのはこの時が初めてではなかったが、ハシウスと接点を持つのはこの時が初めてだった気がする。
 その後、共に暮らす内に色々とあって結婚をして愛娘を授かる訳だが、今はそれは良い。


 ハシウスはハヤテさんと奥方が守っていたという世界樹を信仰視していた。
 ハヤテさんに聞いた話をハシウスに話すべきだとは分かっていたのだが、私にはそれが出来なかった。
 幼い頃からハヤテさんの話を嬉しそうにするハシウスに残酷な真実を伝える事が出来なかった。




「結局、今日この日が来るまで私は何も出来なかったな」
「そうなの?」
「ああ。文献の多くを燃やして巫の役目を引き継がせないように工作したが、トウカは巫の役目に苦しみカグヤ様は旦那様と共に世界樹に向かったまま戻って来ていない」
「でも、軍をここまで強くして装備も沢山作ったでしょ?」
「私にはそれしか出来なかっただけだ」
「相変わらずファーシェルは弱虫だね。そんなんじゃ死んだ時にハヤテさんにヨシヨシしてもらえないよ?」
「もう頭を撫でてもらって喜ぶ様な歳ではないよ」
「ふーん。あのフーマとかいう人間と話してる時のファーシェルはハヤテさんと話してた時みたいに楽しそうだったけどね」
「それはあいつが面白い人間だってだけだ。別にそれ以上の意味はない」
「本当に?  ハヤテさんと重ねて見てたんじゃないの?  私は結構似てると思うけど」
「仮にそうだったとしても私には既に夫もいるし娘もいる。今更他の男に現を抜かす気は無いよ」
「ふーん。それじゃあ私は後で頭を撫でて貰おうかな。あ、後、ニホンについての話も教えてもらおっと」
「……、好きにするといい」
「それじゃあ好きにするよ。まったく、ハシウスなんかよりもフーマって人間の方がずっといい男だと思うんだけど、どうしてファーシェルはハシウスごときと結婚しちゃったんだろうね」
「私の夫を悪く言うな。あいつはあれでも里の為に一生懸命でカッコいい奴なんだよ」
「ま、ファーシェルの男の趣味が悪いのは今に始まった事じゃないしそれは良いとしても、いつまでここにいるの?  護衛は私がしてあげるから早く外に行こうよ」
「そうだな」




 そう言って私が会議室のドアに手をかけたその時、スーシェルが後ろから声をかけてきた。




「大丈夫だよ。ファーシェルは今までよくやって来たし、それは私が一番よく知ってる。あのうるさい奴らを全部殺せば平和になるんだから、早く終わらせてゆっくりお酒でも飲も。なんだかんだ言っても私達は殺すのが得意でしょ?」
「あぁ、そうだったな。永きに渡る因縁を今こそ断ち切るとしよう」
「うん。総大将閣下の仰せのままに」
「閣下は止してくれ。お前に言われるとむず痒い」
「そう?  それじゃあ行こっか、閣下」




 こうして、ファーシェルに腕を掴まれた私は彼女の転移魔法で前線基地へと向かう事となった。
 さて、エルフの軍隊の総指揮官として最高の勝利を収めるとしよう。

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