クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...
83話 吸血鬼とエルフとバニーとオセロ
風舞
「ほーん。つまり、トウカさんは俺の魂の治療をするために来てくれたという訳ですか」
「は、はい。その通りです」
「で、ギフトを使って俺の魂に干渉したらこの世界に迷い混んで、俺が起きるまでトウカさんとオセロをしていたと」
「はい。私も人族の魂に干渉した事はあまり無いのですが、この様に明確な世界をお持ちの方はかなり珍しいと思います」
「へぇ」
「そ、その、フーマ様?  そろそろお許しいただけませんか?」
「もちろん駄目です」
俺は学校の安っぽい椅子に偉そうにふんぞり返りながら、眼の前のウサミミエルフ、じゃなくてバニーガールの格好をしたトウカさんにそう言った。
ちなみに、トウカさんにこの格好をさせる様に俺に勧めてきたフレンダさんは俺とトウカさんが話す光景を眺めながら自分で出した真っ赤な椅子に腰かけてコーラを片手に楽しそうにしている。
「そこを何とかお願いします。その、流石にこの格好は恥ずかしいです」
「そんな事無いですよ。トウカさんにその服はよく似合ってますし、フレンさんとお揃いなんですから恥ずかしくなどありません」
「そうですよトウカ。その服は私とお揃い……って、どうして私までこの格好をさせられているのですか!」
「え?  だって、トウカさんだけそんな破廉恥な格好をさせられてたら可哀想でしょう?」
「可哀想なのはなんの理由もなくこの様な格好されられる私の方です!」
「はいはい。そんなに嫌ならナース服にしてあげますから静かにしてください」
「おい!  別にバニーが嫌と言っているのではありません!」
「え?  じゃあ、バニーガールのままで良いんですか?」
「だから、私は何の理由もなく着せかえ人形にされるのが嫌なだけです!」
「あぁ、はいはい。それじゃあフレンさんの元の服を出したんで、自分で着替えてください」
「言われなくてもそうします!」
フレンダさんはそう言って俺の手から自分のドレスを引ったくって俺に背を向けると、ピタリと動きを止めてしまった。
「おい、どうして私の力を奪ったのですか?」
「え?  特に理由はありませんけど、どうかしましたか?」
「どうかしましたか?  ではありません!  これではギフトを使って衝立を作る事が出来ないではありませんか!」
「えぇ、別に俺はフレンさんが目の前で着替えていても気にしませんよ?」
「私が気にするのです!」
「えぇ、いっつも俺の体の感触を余すことなく体感してるんですから、たまにはフレンさんの裸ぐらい見せてくださいよ」
「誰がフーマなんぞに裸を見せますか!  はぁ、もう良いです。この格好のままでいます」
フレンダさんは疲れた顔でそう言うと、俺が出した学校の椅子に腰かけてちびちびとコーラを飲み始めた。
つい先ほどまではバニーガールの格好をしているトウカさんを見て楽しそうにしていたのに、現在は哀愁を漂わせながら遠い目をしている。
これほどまでに明日は我が身という言葉が当てはまるシチュエーションは中々無いだろう。
なんて事を考えながら、かなり見慣れてきたフレンダさんのバニーガール姿を見ていると、俺達の様子を黙って見ていたトウカさんが戦々恐々とした様子で口を開いた。
「ふ、フーマ様がこれ程までに恐ろしい方だとは思いませんでした」
「ん?  何か言いましたか?」
「い、いえ。何でもありません」
「それじゃあ話の続きなんですけど、トウカさんはこの世界に来るにあたってギフトを使ったんですよね?」
「は、はい。使いました」
「どうして俺が寝ている間にギフトを使ったんですか?」
「魂に干渉するためには魂の穏やかな間にギフトを使わないと弾かれてしまうおそれがあるため、フーマ様がお休みの間に使わせていただきました」
そう言えば俺に魂の治療をすると言ってくれた時のトウカさんは少しだけ恥ずかしそうな顔をしていた気がする。
なるほど、つまり魂に干渉するためには添い寝をしないとダメだったから恥ずかしかったのか。
「はぁ、俺の魂を治すためにギフトを使ってくれたみたいですからあまりこういう事は言いたくありませんが、トウカさんは自分の体を疎かにし過ぎです」
「しかし、私がフーマ様に出来る事はこのぐらいしか…」
「お礼をしたいと言うのなら、ついさっきしてくれた添い寝で十分なんですよ。俺はまだ万全ではないトウカさんが無茶をするのが凄く嫌ですし、見返りが欲しさにトウカさんの助けになろうと決めた訳ではありません」
「は、はい。申し訳ございません」
トウカさんは若干頬を赤く染めつつも、申し訳なさそうな顔で俯いて俺に頭を下げた。
若干トウカさんの口許がニヨニヨと緩んでいた気がするが、おそらく気のせいだろう。
「はぁ、次からはこういう事をしないと言うのなら許してあげますから、頭をあげてください」
「ありがとうございますフーマ様。この度は本当に申し訳ありませんでした」
「トウカさんが俺のためにギフトを使ってくれたのはちょっぴり嬉しいですから、そんなに謝らないでください。それに、トウカさんに頭を下げさせていると思うと、何となく居心地が悪いです」
「それでは、そろそろ元の格好に戻してはくださいませんか?」
「え?  嫌です。トウカさんは悪い事をしたんだから最低限の罰は受けてください」
「こ、この格好が最低限の罰なのですか。やはりフーマ様は恐ろしいお方ですね」
「はいはい。それよりも、トウカさんはちゃんと自分の体に戻れるんですか?」
体調が万全ではないのにギフトを使った事はいただけないが、それよりもむしろフレンダさんの様にこの世界から出られなくなってしまわないかの方が気になる。
確かフレンダさんは俺の魂から出る魔力が邪魔で出られないと言っていたけれど、ギフトの能力でここまで来たトウカさんの場合はどうなるのだろうか。
「はい。先ほどフーマ様が目を覚ます前にフレン様に指摘されて試してみたのですが、問題なく自身の体に戻れそうです。ただ、私のこの姿はフーマ様の魂に投影した言わば虚像の様なものなので、自身の体に戻るというよりは遠隔操作しているこの虚像から自身の肉体へ意識を戻すと言った方が適切かもしれません」
なるほど。
つまりこの目の前にいるトウカさんはトウカさんの本体じゃなくて、遠隔操作用のアバターみたいなものなのか。
それならこのトウカさんが俺の魂から出る魔力で万が一出られなくなっても問題なさそうだな。
これは俺の勘でしかないのだが、トウカさんの魂に干渉するギフトが媒介にしているものは魔力とは全くの別物の何かである気がするし、このアバターから自身の体に意識を戻す時に魔力の壁に遮られる事も無いはずだ。
「それを聞いて安心しました。トウカさんまでフレンさんみたいに俺の中から出られなくなったら流石に大変でしたからね」
「おい、それはどういう意味ですか?」
「別に他意はありませんよ。フレンさんだって戻れるなら自分の体に早く戻りたいでしょう?」
「まぁ、それはそうですけれど」
立ち上がって俺に詰め寄っていたフレンダさんはそう言うと、何か諦めたような顔をして溜息をつきながら元の席へと戻って行った。
んん?
何となくフレンダさんの元気がない気がするけど、どうしたのだろうか?
まぁ、ここで聞いても教えてくれなそうだから今気にしても仕方ないんだけど。
そう考えた俺は、トウカさんに引き続き話を聞くことにした。
「それよりもトウカさん。トウカさんは俺の魂を治療するためにここまで来てくれたそうですけれど、魂の治療って具体的にはどうやるんですか?」
「治療自体はもう既に始めていますよ。現在は治療のついでにフーマ様の世界にお邪魔している状態です」
「へぇ、俺には治療されてる感覚が無いんですけど、今この時も俺の魂は良くなっていってるんですか?」
「はい。ただ、現在も引き続きフーマ様の魂を正常な形に戻していっている途中なのですが、フーマ様の魂の損傷が激しくておそらく現実世界の時間で2日は完治までに時間がかかると思います」
「え、流石に2日も待ってられないですよ?」
「ですので、明日の朝まで出来る限りフーマ様の魂の治療を進めて、残りは全てが終わった後に行いたいと思うのですがよろしいですか?」
「どうせダメって言っても勝手にやるんですよね?」
「ふふふ。フーマ様が私と二人きりで寝てくれるのなら考えなくもありませんが、おそらく勝手にやると思います」
「じゃあ、やる事が終わった後に治療の続きをお願いします」
「そうですか。私からすると少し残念ですが、フーマ様のお願いなら聞かざるを得ませんね」
トウカさんはそう言うと、少しだけ意地悪そうな顔をしながらふんわりと微笑んだ。
これはここ最近で思い始めた事なのだが、トウカさんもユーリアくんの実の姉なだけあってSっ気があると言うか悪戯好きな気がする。
もう少し遠慮が無くなってきたらトウカさんが俺に対して何をしてくるのか微妙に不安にであるが、少しだけ楽しみでもある。
「まぁ、それはそれで良いとして、魂の治療が途中までだと俺の魔法はどこまで使える様になるんですか?」
「大まかな部分は朝までに治せますので元どおりの能力は発揮できるとは思いますが、ギフトの使用と新しい魔法の習得は魂に負荷ががかかりますので止めておいた方が良いと思います」
それじゃあ俺が今回の治療で転移魔法に加えて使えるようになるのは火魔法だけか。
出来れば新しい魔法を覚えたかったけど、火力の底上げとしては十分だし良しとしよう。
そんな事を考えながら明日からの自分の手札を確認していると、大人しくコーラを飲みながら話を聞いていたフレンダさんが会話に参加してきた。
「それでは、私がフーマの魂を治療した際に私の魂の一部をフーマに移植したのですが、それはどうなるのですか?  大まかな治療をすると言うのならそこの辺りにも手を加えるのでしょう?」
「はい。そこをお二人にお聞きしようと思っていたのですが、フーマ様の魂に結び付いているフレン様の魂はどうなさいますか?」
「どうって言われても困るんですけど、俺としてはあの魂にはフレンさんの記憶が入ってますし、魂をお返し出来たらと思います」
「いいえ、返す必要はありません。というより、フーマの魂で汚れた魂を返されたくありません」
「えぇ、俺の魂はそんなに汚くないと思うんですけど」
「私は一度人に与えたものを返されるのが嫌いなのです。あれはもうフーマのものなのですから、フーマの魂に吸収するなり廃棄するなりしてしまいなさい」
「返されるのが嫌いって言いますけど、ミレンとの思い出を取り戻したくは無いんですか?」
「はい。フーマが覚えていてくださるなら私はそれで構いません」
「そう、ですか」
俺としては元の持ち主であるフレンダさんが受け取ってくれた方が助かるのだが、この様子だとフレンダさんは断固として拒否しそうだし、どうやらそれは不可能の様だ。
あの記憶の中のフレンダさんは凄く嬉しそうにしてたからお返し出来ないのは心苦しいが、記憶の内容を俺から聞いて知っているフレンダさんが良いと言うのだから良いのだろう。
「それでは、フーマ様の魂にフレン様の魂を吸収させるという事で宜しいですか?」
「はい。フレンさんもこう言ってる事ですし、そうさせてもらいます」
「分かりました。既にフーマ様の魂とフレン様の魂は深く結び付いていましたから、私もそれが良いと思います」
「おいフーマ。貴方には私の魂を与えたのですから、くれぐれもつまらない死に方をするんじゃありませんよ」
「分かりました。折角フレンさんがくれた物ですから、大切にしたいと思います」
「と、当然です!  それでは、話も済んだ様なので予定通り私とオセロをしてください」
フレンダさんはそう言うと、俺の正面に椅子を移動させていそいそとオセロの準備を始めた。
そんなフレンダさんを見てトウカさんが俺の耳元で囁く様に話しかけてきた。
「フーマ様とフレン様は強い絆で結ばれているのですね」
「そうですか?  俺はしょっちゅう小言を言われてる気がしますけど」
「魂についてよく理解されているフレン様が自分の魂をフーマ様に持っていて欲しいと言うのが、何よりの証拠です」
「そうなんですか?  俺にはよく分からない感覚ですね」
「当事者であるフーマ様からするとそうかもしれませんが、温厚な私が嫉妬心を覚えるぐらいにはフレン様はフーマ様を信用していらっしゃいますよ」
「へぇ、あのフレンさんがねぇ」
そんな事を言いながらフレンダさんの方に顔を向けると、フレンダさんが楽しそうな顔をしながら俺に話しかけてきた。
「おいフーマ、早く机とオセロを出しなさい!  今日こそは連勝させてもらいますよ!」
「ほら、信用なさっているでしょう?」
「んー、俺にはただオセロが大好きな人にしか見えないんですけど」
「ふふふ。やはりフーマ様は可愛いらしいお方ですね」
この可愛いらしいお方ですねってセリフは今までにも何度か聞いているけれども一体どういう意味なのだろうか。
一度ゆっくり話を聞いてみたいんだけど、トウカさんの意図を知るのが微妙に怖い。
「おいフーマ、早くしてください」
「あぁ、はいはい。今出しますからちょっと待ってください」
「まったく、相変わらずフーマは愚鈍ですね」
「フレン様、観戦させていただいても宜しいですか?」
「はい。トウカは私達の対局をしっかりと解析して力をつけるのですよ」
「ありがとうございますフレン様」
「別に礼を言われる程の事ではありません。それではフーマ、今回は先手を貴方に譲りますから一手目をお願いします」
こうしてトウカさんに魂の治療をしてもらっている間、俺はバニーエルフやバニー吸血鬼とオセロをしながら穏やかな時間を過ごした。
ちなみに朝になるまで続けたオセロの戦績は、俺が全勝でフレンダさんとトウカさんが3対2の比率でフレンダさんの方が勝ち数が多かった。
フレンダさんはライバルの出現に少しだけ焦っていたみたいだが、新しい遊び相手が現れて嬉しそうにしていたのが今夜の印象的な一幕であった。
「ほーん。つまり、トウカさんは俺の魂の治療をするために来てくれたという訳ですか」
「は、はい。その通りです」
「で、ギフトを使って俺の魂に干渉したらこの世界に迷い混んで、俺が起きるまでトウカさんとオセロをしていたと」
「はい。私も人族の魂に干渉した事はあまり無いのですが、この様に明確な世界をお持ちの方はかなり珍しいと思います」
「へぇ」
「そ、その、フーマ様?  そろそろお許しいただけませんか?」
「もちろん駄目です」
俺は学校の安っぽい椅子に偉そうにふんぞり返りながら、眼の前のウサミミエルフ、じゃなくてバニーガールの格好をしたトウカさんにそう言った。
ちなみに、トウカさんにこの格好をさせる様に俺に勧めてきたフレンダさんは俺とトウカさんが話す光景を眺めながら自分で出した真っ赤な椅子に腰かけてコーラを片手に楽しそうにしている。
「そこを何とかお願いします。その、流石にこの格好は恥ずかしいです」
「そんな事無いですよ。トウカさんにその服はよく似合ってますし、フレンさんとお揃いなんですから恥ずかしくなどありません」
「そうですよトウカ。その服は私とお揃い……って、どうして私までこの格好をさせられているのですか!」
「え?  だって、トウカさんだけそんな破廉恥な格好をさせられてたら可哀想でしょう?」
「可哀想なのはなんの理由もなくこの様な格好されられる私の方です!」
「はいはい。そんなに嫌ならナース服にしてあげますから静かにしてください」
「おい!  別にバニーが嫌と言っているのではありません!」
「え?  じゃあ、バニーガールのままで良いんですか?」
「だから、私は何の理由もなく着せかえ人形にされるのが嫌なだけです!」
「あぁ、はいはい。それじゃあフレンさんの元の服を出したんで、自分で着替えてください」
「言われなくてもそうします!」
フレンダさんはそう言って俺の手から自分のドレスを引ったくって俺に背を向けると、ピタリと動きを止めてしまった。
「おい、どうして私の力を奪ったのですか?」
「え?  特に理由はありませんけど、どうかしましたか?」
「どうかしましたか?  ではありません!  これではギフトを使って衝立を作る事が出来ないではありませんか!」
「えぇ、別に俺はフレンさんが目の前で着替えていても気にしませんよ?」
「私が気にするのです!」
「えぇ、いっつも俺の体の感触を余すことなく体感してるんですから、たまにはフレンさんの裸ぐらい見せてくださいよ」
「誰がフーマなんぞに裸を見せますか!  はぁ、もう良いです。この格好のままでいます」
フレンダさんは疲れた顔でそう言うと、俺が出した学校の椅子に腰かけてちびちびとコーラを飲み始めた。
つい先ほどまではバニーガールの格好をしているトウカさんを見て楽しそうにしていたのに、現在は哀愁を漂わせながら遠い目をしている。
これほどまでに明日は我が身という言葉が当てはまるシチュエーションは中々無いだろう。
なんて事を考えながら、かなり見慣れてきたフレンダさんのバニーガール姿を見ていると、俺達の様子を黙って見ていたトウカさんが戦々恐々とした様子で口を開いた。
「ふ、フーマ様がこれ程までに恐ろしい方だとは思いませんでした」
「ん?  何か言いましたか?」
「い、いえ。何でもありません」
「それじゃあ話の続きなんですけど、トウカさんはこの世界に来るにあたってギフトを使ったんですよね?」
「は、はい。使いました」
「どうして俺が寝ている間にギフトを使ったんですか?」
「魂に干渉するためには魂の穏やかな間にギフトを使わないと弾かれてしまうおそれがあるため、フーマ様がお休みの間に使わせていただきました」
そう言えば俺に魂の治療をすると言ってくれた時のトウカさんは少しだけ恥ずかしそうな顔をしていた気がする。
なるほど、つまり魂に干渉するためには添い寝をしないとダメだったから恥ずかしかったのか。
「はぁ、俺の魂を治すためにギフトを使ってくれたみたいですからあまりこういう事は言いたくありませんが、トウカさんは自分の体を疎かにし過ぎです」
「しかし、私がフーマ様に出来る事はこのぐらいしか…」
「お礼をしたいと言うのなら、ついさっきしてくれた添い寝で十分なんですよ。俺はまだ万全ではないトウカさんが無茶をするのが凄く嫌ですし、見返りが欲しさにトウカさんの助けになろうと決めた訳ではありません」
「は、はい。申し訳ございません」
トウカさんは若干頬を赤く染めつつも、申し訳なさそうな顔で俯いて俺に頭を下げた。
若干トウカさんの口許がニヨニヨと緩んでいた気がするが、おそらく気のせいだろう。
「はぁ、次からはこういう事をしないと言うのなら許してあげますから、頭をあげてください」
「ありがとうございますフーマ様。この度は本当に申し訳ありませんでした」
「トウカさんが俺のためにギフトを使ってくれたのはちょっぴり嬉しいですから、そんなに謝らないでください。それに、トウカさんに頭を下げさせていると思うと、何となく居心地が悪いです」
「それでは、そろそろ元の格好に戻してはくださいませんか?」
「え?  嫌です。トウカさんは悪い事をしたんだから最低限の罰は受けてください」
「こ、この格好が最低限の罰なのですか。やはりフーマ様は恐ろしいお方ですね」
「はいはい。それよりも、トウカさんはちゃんと自分の体に戻れるんですか?」
体調が万全ではないのにギフトを使った事はいただけないが、それよりもむしろフレンダさんの様にこの世界から出られなくなってしまわないかの方が気になる。
確かフレンダさんは俺の魂から出る魔力が邪魔で出られないと言っていたけれど、ギフトの能力でここまで来たトウカさんの場合はどうなるのだろうか。
「はい。先ほどフーマ様が目を覚ます前にフレン様に指摘されて試してみたのですが、問題なく自身の体に戻れそうです。ただ、私のこの姿はフーマ様の魂に投影した言わば虚像の様なものなので、自身の体に戻るというよりは遠隔操作しているこの虚像から自身の肉体へ意識を戻すと言った方が適切かもしれません」
なるほど。
つまりこの目の前にいるトウカさんはトウカさんの本体じゃなくて、遠隔操作用のアバターみたいなものなのか。
それならこのトウカさんが俺の魂から出る魔力で万が一出られなくなっても問題なさそうだな。
これは俺の勘でしかないのだが、トウカさんの魂に干渉するギフトが媒介にしているものは魔力とは全くの別物の何かである気がするし、このアバターから自身の体に意識を戻す時に魔力の壁に遮られる事も無いはずだ。
「それを聞いて安心しました。トウカさんまでフレンさんみたいに俺の中から出られなくなったら流石に大変でしたからね」
「おい、それはどういう意味ですか?」
「別に他意はありませんよ。フレンさんだって戻れるなら自分の体に早く戻りたいでしょう?」
「まぁ、それはそうですけれど」
立ち上がって俺に詰め寄っていたフレンダさんはそう言うと、何か諦めたような顔をして溜息をつきながら元の席へと戻って行った。
んん?
何となくフレンダさんの元気がない気がするけど、どうしたのだろうか?
まぁ、ここで聞いても教えてくれなそうだから今気にしても仕方ないんだけど。
そう考えた俺は、トウカさんに引き続き話を聞くことにした。
「それよりもトウカさん。トウカさんは俺の魂を治療するためにここまで来てくれたそうですけれど、魂の治療って具体的にはどうやるんですか?」
「治療自体はもう既に始めていますよ。現在は治療のついでにフーマ様の世界にお邪魔している状態です」
「へぇ、俺には治療されてる感覚が無いんですけど、今この時も俺の魂は良くなっていってるんですか?」
「はい。ただ、現在も引き続きフーマ様の魂を正常な形に戻していっている途中なのですが、フーマ様の魂の損傷が激しくておそらく現実世界の時間で2日は完治までに時間がかかると思います」
「え、流石に2日も待ってられないですよ?」
「ですので、明日の朝まで出来る限りフーマ様の魂の治療を進めて、残りは全てが終わった後に行いたいと思うのですがよろしいですか?」
「どうせダメって言っても勝手にやるんですよね?」
「ふふふ。フーマ様が私と二人きりで寝てくれるのなら考えなくもありませんが、おそらく勝手にやると思います」
「じゃあ、やる事が終わった後に治療の続きをお願いします」
「そうですか。私からすると少し残念ですが、フーマ様のお願いなら聞かざるを得ませんね」
トウカさんはそう言うと、少しだけ意地悪そうな顔をしながらふんわりと微笑んだ。
これはここ最近で思い始めた事なのだが、トウカさんもユーリアくんの実の姉なだけあってSっ気があると言うか悪戯好きな気がする。
もう少し遠慮が無くなってきたらトウカさんが俺に対して何をしてくるのか微妙に不安にであるが、少しだけ楽しみでもある。
「まぁ、それはそれで良いとして、魂の治療が途中までだと俺の魔法はどこまで使える様になるんですか?」
「大まかな部分は朝までに治せますので元どおりの能力は発揮できるとは思いますが、ギフトの使用と新しい魔法の習得は魂に負荷ががかかりますので止めておいた方が良いと思います」
それじゃあ俺が今回の治療で転移魔法に加えて使えるようになるのは火魔法だけか。
出来れば新しい魔法を覚えたかったけど、火力の底上げとしては十分だし良しとしよう。
そんな事を考えながら明日からの自分の手札を確認していると、大人しくコーラを飲みながら話を聞いていたフレンダさんが会話に参加してきた。
「それでは、私がフーマの魂を治療した際に私の魂の一部をフーマに移植したのですが、それはどうなるのですか?  大まかな治療をすると言うのならそこの辺りにも手を加えるのでしょう?」
「はい。そこをお二人にお聞きしようと思っていたのですが、フーマ様の魂に結び付いているフレン様の魂はどうなさいますか?」
「どうって言われても困るんですけど、俺としてはあの魂にはフレンさんの記憶が入ってますし、魂をお返し出来たらと思います」
「いいえ、返す必要はありません。というより、フーマの魂で汚れた魂を返されたくありません」
「えぇ、俺の魂はそんなに汚くないと思うんですけど」
「私は一度人に与えたものを返されるのが嫌いなのです。あれはもうフーマのものなのですから、フーマの魂に吸収するなり廃棄するなりしてしまいなさい」
「返されるのが嫌いって言いますけど、ミレンとの思い出を取り戻したくは無いんですか?」
「はい。フーマが覚えていてくださるなら私はそれで構いません」
「そう、ですか」
俺としては元の持ち主であるフレンダさんが受け取ってくれた方が助かるのだが、この様子だとフレンダさんは断固として拒否しそうだし、どうやらそれは不可能の様だ。
あの記憶の中のフレンダさんは凄く嬉しそうにしてたからお返し出来ないのは心苦しいが、記憶の内容を俺から聞いて知っているフレンダさんが良いと言うのだから良いのだろう。
「それでは、フーマ様の魂にフレン様の魂を吸収させるという事で宜しいですか?」
「はい。フレンさんもこう言ってる事ですし、そうさせてもらいます」
「分かりました。既にフーマ様の魂とフレン様の魂は深く結び付いていましたから、私もそれが良いと思います」
「おいフーマ。貴方には私の魂を与えたのですから、くれぐれもつまらない死に方をするんじゃありませんよ」
「分かりました。折角フレンさんがくれた物ですから、大切にしたいと思います」
「と、当然です!  それでは、話も済んだ様なので予定通り私とオセロをしてください」
フレンダさんはそう言うと、俺の正面に椅子を移動させていそいそとオセロの準備を始めた。
そんなフレンダさんを見てトウカさんが俺の耳元で囁く様に話しかけてきた。
「フーマ様とフレン様は強い絆で結ばれているのですね」
「そうですか?  俺はしょっちゅう小言を言われてる気がしますけど」
「魂についてよく理解されているフレン様が自分の魂をフーマ様に持っていて欲しいと言うのが、何よりの証拠です」
「そうなんですか?  俺にはよく分からない感覚ですね」
「当事者であるフーマ様からするとそうかもしれませんが、温厚な私が嫉妬心を覚えるぐらいにはフレン様はフーマ様を信用していらっしゃいますよ」
「へぇ、あのフレンさんがねぇ」
そんな事を言いながらフレンダさんの方に顔を向けると、フレンダさんが楽しそうな顔をしながら俺に話しかけてきた。
「おいフーマ、早く机とオセロを出しなさい!  今日こそは連勝させてもらいますよ!」
「ほら、信用なさっているでしょう?」
「んー、俺にはただオセロが大好きな人にしか見えないんですけど」
「ふふふ。やはりフーマ様は可愛いらしいお方ですね」
この可愛いらしいお方ですねってセリフは今までにも何度か聞いているけれども一体どういう意味なのだろうか。
一度ゆっくり話を聞いてみたいんだけど、トウカさんの意図を知るのが微妙に怖い。
「おいフーマ、早くしてください」
「あぁ、はいはい。今出しますからちょっと待ってください」
「まったく、相変わらずフーマは愚鈍ですね」
「フレン様、観戦させていただいても宜しいですか?」
「はい。トウカは私達の対局をしっかりと解析して力をつけるのですよ」
「ありがとうございますフレン様」
「別に礼を言われる程の事ではありません。それではフーマ、今回は先手を貴方に譲りますから一手目をお願いします」
こうしてトウカさんに魂の治療をしてもらっている間、俺はバニーエルフやバニー吸血鬼とオセロをしながら穏やかな時間を過ごした。
ちなみに朝になるまで続けたオセロの戦績は、俺が全勝でフレンダさんとトウカさんが3対2の比率でフレンダさんの方が勝ち数が多かった。
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コメント
音街 麟
フレンダさんも風舞の手に落ちたのか(確信