クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...
59話 反省会とお説教
トウカさんの家に戻った後、家の外で魔物の返り血や汗をユーリアくんの水魔法で洗い流してさっぱりした俺達は、同家のリビングにて初めての世界樹攻略の反省会をしていた。
因みに、エルセーヌさんは返り血を浴びるどころか汗の一滴すらかいていなかったため、俺達が水浴びをしている間はリビングで一人優雅に紅茶を飲んでいた。
主人である俺は死ぬ気で戦っていたのに、従魔のエルセーヌさんが全く疲れてないのを見ると何となく複雑な気分になる。
「それで、あの魔物の大群だけどどうやって突破しようか?」
「やっぱり範囲攻撃をできるやつを何人か揃えるしか無いんじゃないか?」
「範囲攻撃が出来るやつってなると、ユーリアさんとミレンか?」
「オホホ。私も一応出来ますわ。」
「うーん。それでも、三人だけだと世界樹の上まで行く前に魔力切れになりそうだよね。」
「ああ。出来れば魔法以外に何かしらの攻撃方法を用意したいんだけど、サラマンダーフラワーの粉だけじゃ流石に不安だしなぁ。」
サラマンダーフラワーの粉は爆発物だから乱戦になるとどうしても使い辛いし、魔物を片っ端から爆破して回るというのは現実的ではない気がする。
せめて転移魔法だけでも使えたら巨石を降らせたり転がしたりして魔物を轢き殺しながらす進めるから大分楽になるんだけど、今は再び魔法が使えるようになる目途が全く立ってないからなぁ。
「そういえば、マイム達には世界樹がダンジョンだって話はまだしてないんだろ?」
「はい。ここ数日のマイムはターニャさんと行動を共にしてることが多そうだったので、まだ話してないです。」
「それじゃあ、マイム達に世界樹の中の様子を伝えてからもう一度皆で攻略方法を考えようぜ。俺達だけで話してても良い案は浮かばなそうだし、今は疲れすぎてて頭が回らねぇ。」
「それもそうですね。それじゃあ、今日のところは解散してまた明日攻略方法を話し合いますか。」
「うん。僕もそれで良いと思うよ。経験豊富なミレンさんなら何かしら良い案を思い浮かぶかもしれないしね。」
「それじゃあそういう事で。エルセーヌさんも何か世界樹について新しい情報が入ったら教えてくれ。」
「オホホ。了解いたしましたわ。それでは、私はハシウスに今回の探索の報告をしなくてはならないので失礼いたしますわ。」
「ああ。お疲れさん。手伝ってくれてありがとな。」
「オホホ。ご褒美を期待していますわね。」
エルセーヌさんはそう言うと、いつもの様に空気中に消える様にしてどこかへ行ってしまった。
そういえば、エルセーヌさんにグリーンエイプの投石から守ってもらった時に何かご褒美をあげる約束をしてたんだよな。
何を要求されるのか少し不安だ。
「それじゃあ、俺達も宮殿に戻るわ。」
「ん?家でご飯を食べていかないのかい?」
「ああ。ここで飯を食ったらそのまま寝そうだし、完全に気を抜くとそのまま泊まってっちゃいそうな気がするからな。」
「別に泊まって行っても構わないけれど、それだとマイムに怒られそうだからやめておいた方がいいかもね。」
「ああ。それじゃあまた明日な。」
「お疲れ様でしたユーリアさん。」
「うん。ファルゴとフーマもお疲れ様。それじゃあ、また明日ね。」
こうして、俺とファルゴさんはトウカさんの家を後にして宮殿へと向かった。
エルフの里に入る前に警備兵のエルフに止められて一悶着あったが、いつの間にか俺のポケットにエルセーヌさんの持っていた許可証が入っていたため、特に問題もなく宮殿まで戻って来ることができた。
おそらくエルセーヌさんが俺達と別れる前に俺のポケットに忍ばせておいたのだろう。
相変わらず優秀なのかそうでないのか分からない従魔だ。
「なぁ、フーマ。昼飯はどうするつもりだ?このまま宮殿に入っても飯は用意されてないだろ?」
「ああ。そういえばそうでしたね。どうします?」
「俺は疲れてるからどっかの店に入ってゆっくり飯を食いたいんだけど……あ、あれマイム達じゃないか?」
近くにレストランでもないかと周囲を見回していたファルゴさんが指さす方向を俺も見ると、ちょうど舞とローズが知らないエルフの女性とこちらに歩いて来るのを見つけた。
なんとなくターニャさんに雰囲気が似てるし、もしかするとターニャさんのお母さんかもしれない。
そんな事を考えながら舞達の方を向いていると、俺を見つけた舞が満面の笑みで走り寄って来た。
もしかして半日俺と会えなかったのが寂しかったのかと思って舞が抱き着いて来るのを両腕を広げて待っていたのだが、舞は腰に差していた刀を抜いて俺の目の前に突き出して来た。
「フーマくん!」
「ご、ごめんなさい!嘘ついたのは謝るから斬らないでくれ!」
「嘘?何の事かしら?」
「え?………いや、何でもないぞ。それよりも、その刀はどうしたんだ?」
あれ?
てっきりファルゴさんと街をぶらぶらするって嘘ついて世界樹に行ったのがバレたのかと思ったけれど、そうじゃないのか?
「そう、そうなのよ!見て!ターニャちゃんとファーシェルさんが私に刀をくれたの!」
「へ、へぇ。良かったな。」
「うん!この刀は妖刀星穿ちって言うのよ!」
舞がそう言って見せてくれた刀は、舞がつい最近まで使っていた両手剣と同じくらいの長さの綺麗な日本刀だった。
ただ、普通の日本刀とは違ってうっすらと魔力を感じる。
「もしかして、これ魔剣なのか?」
「ええ。元は錆びついたただの刀だったんだけど、錆を落としたり砥いだりしてたら魔力を放出し始めたのよね。」
「へぇ、因みにどんな効果なんだ?」
「それが、全く分からないのよ。フーマくんの炎の魔剣とは違って元から魔力を持ってるタイプの魔剣だっていう事は分かったんだけれど、それ以外は何も分からないのよね。」
「ふーん。まぁ、マイムも気に入ってるみたいだし良いんじゃないか?」
「ええ!まさかここまで良い刀が手に入るとは思わなかったわ!」
目をキラキラさせながら舞ちゃんが刀をブンブンと振り回してそう言った。
ちょ、ちょっと舞ちゃん?
さっきから刀が俺の頭を掠りまくってて冷や汗が止まらないんですけど。
「な、なぁマイム。ターニャさん達にもらったって言ってたけど…。」
「あぁ、そういえばそうだったわ。こちらファルシェールさん。ターニャちゃんのお母様よ。」
「ああ、やっぱりそうだったのか。初めまして、フーマです。」
「ああ。お前が噂のフーマか。初めまして私はファーシェルだ。」
ファーシェルさんはそう言いながら俺と握手をして獰猛に笑った。
なんとなく軍人さんの気配がひしひしとする。
ていうか、俺の手を握る力が強すぎて凄く痛いんですけど。
「どうじゃ?中々見込みがありそうなやつじゃろ?」
「ああ。これはかなり強くなりそうだな。」
何かローズとファーシェルさんが俺を見ながらそんな事を言っている。
また舞とローズが俺のとんでもない噂を流したのか。
俺は絶賛グリーンエイプの群れにお困り中の大したことない奴なのに。
そんな事を考えながら年長者達の話に聞き耳を立てていると、今の今まで蚊帳の外にいたファルゴさんが俺の元へやって来た。
「なぁ、フーマ。そろそろ飯を食いに行かねぇか?さっきから腹が鳴りっぱなしだ。」
「あら、フーマくんたちもお昼ご飯はまだなのかしら?」
「ああ。どっかに食べに行こうかって話してたところでちょうどマイム達を見かけたんだ。」
「それじゃあ、私とミレンちゃんもこれからお昼だから一緒に行きましょう。」
「そうだな。…そういえば、団長さん達は一緒じゃないのか?」
「ええ。シェリーさんはターニャちゃんと訓練場にいると思うわよ。」
「そうなのか?」
「ええ。大体3時間ぐらい前に訓練場に行ったから、まだいるんじゃないかしら。」
「それじゃあ、やっぱり俺はシェリーと合流するわ。あいつが何やってんのか気になるしな。」
「ふふふ、アツアツね。」
「うるせぇよ。それじゃあな。」
そうして手をひらひらと振りながら立ち去ろうとするファルゴさんを、ローズと話をしていたファーシェルさんが呼び止めた。
「ファルゴと言ったか。少し待ってくれ。」
「俺っすか?」
「ああ。お前一人で行っても訓練場には入れないだろう?私も訓練場に戻るつもりだったから、中まで連れて行ってやろう。」
「あぁ、そういう事ですか。それじゃあ、よろしくお願いします。」
「というわけだ。私はこれで失礼させてもらう。」
「うむ。また機会があったら話をしよう。」
「ああ。それではな。」
ファーシェルさんはそう言ってローズの頭をポンポンと軽く叩くと、ファルゴさんを連れて去っていった。
ローズは随分とファーシェルさんに気に入られたんだな。
「さて、それじゃあ俺達もそろそろ行くか。」
「うむ。そういえばフーマ。先ほど嘘をついたと言っておったが、あれは何の事じゃ?」
「あー、別に何でもないぞ。」
「そうかの?また面倒事に足を突っ込んだのではないかと思っておったんじゃが……。」
あれ?
何かローズがもの凄く俺の事を疑ってないか?
しっかりとグリーエイプの返り血も落として来たし、バレる様な事はないと思うんだけど。
「そんな訳ないだろ。俺はファルゴさんと一緒に街をブラブラしてただけだ。」
「あらそう。それじゃあ、どうしてフーマくんはオルトロスの鎧を着ているのかしら?」
「そ、それは慣れない街中で通り魔に刺されない様にするためだな。」
やっべ、鎧の汚れを落とす事だけを考えて鎧そのものの事が完全に頭から抜け落ちてた。
普通街中を歩くだけなのに鎧を装備する必要はないじゃんね。
「へぇ。ソレイドにいる時は大して鎧を着てなかったのに、今日は鎧を着たのね。」
「あ、ああ。最近自分の身を大切にすることに目覚めたんだ。」
「どう思う、ミレンちゃん?」
「十中八九嘘じゃな。」
「い、嫌だなぁ。そんな訳ないだろ?」
やばいやばい。
二人とも完全に俺の事を疑っている。
どうにかして誤魔化さないと間違いなく怒られる。
せめてユーリアくんがここにいたら上手く煙に巻けると思うんだけど……。
と思っていたその時、俺の頼りになる従者がこちらにやって来るのが見えた。
どうやら里長への報告を済ませて戻って来た様である。
よし、これで舞とエルセーヌさんが喧嘩を始めてくれれば俺の話は脇にそれてくれるはずだ。
「あ、エルセーヌさん!」
「ちっ、相変わらず神出鬼没な女ね。」
「オホホ。皆様お揃いでどうしたのですか?」
「ああ。それが、この二人が俺が午前中ファルゴさんと遊んでたのを嘘だって言うんだ。エルセーヌさんは俺達の様子を見てたから本当のこと知ってるだろ?」
頼む。
お願いだから俺の話に乗ってくれ。
そう思ってエルセーヌさんに目配せをすると、彼女がニヤリと笑うのが見えた。
あ、何かもの凄い嫌な予感がする。
「オホホ。本日のご主人様は私と橋の下で愛を語り合った後で、未調査のダンジョンの探索をして私に命を救われましたわ。」
「おい!お前よくも裏切ったな!」
「お、オホホ。く、苦しいですわ。」
「ねぇ、フーマくん?エルセーヌと愛を語り合ったってどういう事かしら?」
「それに、命を救われたとはどういう事じゃ?」
「い、いやぁ。…………すみませんでした!」
昼下がり、エルフの里の宮殿前にて。
沢山のエルフが行き交う天下の往来で、金髪の幼女と黒髪の美少女に土下座をする黒髪の少年とその横で首を絞められて悶えるゴシックドレスの金髪ドリル女の姿がそこにはあった。
あぁ、これは今までで最長のお説教になりそうな気がする。
俺は舞とローズに宮殿の中に引きずり込まれながらそんな事を思った。
_______________________________________________
「ほう。つまり、お主は世界樹が本当にダンジョンであるかを確認するために何の情報もないダンジョンに入ったという訳か。」
「はい。その通りです。ごめんなさい。」
「それにエルセーヌ。お主はダンジョンが如何に危険であるかを知っておきながらフーマを止めずに、共に未調査のダンジョンに入ったのか。」
「はっ!申し訳ございません!」
「妾は謝れと言った覚えは無いが?」
「も、申し訳ございません!」
宮殿の俺達の宿泊部屋にて、俺とエルセーヌさんは遮音結界の中で正座をしながらお説教を受けていた。
ローズが俺とエルセーヌさんの前で腕を組みながら仁王立ちをし、舞はベッドに腰かけて目を閉じて座っている。
ちょ、超怖いです。
「はぁ、確かに世界樹がダンジョンであるとエルフに知られるのは問題があるから妾達に黙っておったというのも分からなくもないが、碌な計画も無くダンジョンに潜るのはいささか無用心すぎるのではないか?」
「おっしゃる通りです。何の情報も無しにダンジョンに入るなど命知らずでした。」
「私もダンジョンの危険性を知っておきながら慢心していました。」
「うむ。お主らの命はお主らだけのものではない。次からは事前に妾に相談するか、もう少しよく考えてから行動するんじゃぞ。」
「はい!もうローズへの相談なしに危ない事はしません!」
「私も以降は自分の力に溺れることなく行動するよう心付けますわ。」
「まぁ、今回はお主らが怪我をする事が無くて良かった。よくぞ無事に帰って来たの。」
ローズはそう言うと、俺とエルセーヌさんの頭を微笑みながらそっと撫でてくれた。
あぁ、俺はこの人に一生付いて行こう。
ローズの優しさに感動した俺は、涙を流しながらそう思った。
しかし、まだまだお説教は終わらない。
ローズが俺とエルセーヌさんの頭から手をどけたタイミングで、今の今まで沈黙を貫いていた舞が目を閉じたまま底冷えするような声で言葉を発した。
「あら、フーマくん?どうしてお説教が終わって安心した様な顔をしているのかしら?」
「い、いや、してないです。凄く神妙な顔をしてます。」
「オホホ。それでは、私はこの後少し用事があるので失礼いたしますわ。」
「おいこら!ちょっと待て!」
「オホホ。ご主人様の無事を心よりお祈り申し上げますわ。」
ちっ、エルセーヌさんが俺を置いて逃げやがった。
さては初めからローズの説教だけを受けて、とばっちりを受ける前に逃げるつもりだったな。
「なぁミレン。ちょっと助けてくんない?」
「まぁ、自業自得じゃな。マイムを心配させてその上他の女と遊んでおったんじゃから、怒られても仕方ないじゃろ。」
「そういう訳よフーマくん。何か言い残すことはあるかしら?」
「えーっと、できれば優しめの罰でお願いします。」
「安心なさい。フーマくんは今から私の言いなりになるという優しい罰を受けてもらうわ。むしろ、フーマくんにとってはご褒美かしら?」
「あ、これダメな奴だ。」
その後、俺は舞を背中にのせて四つ足を付きながらエルフの里の街に繰り出し、レストランでは舞の椅子になったまま口に料理を運ばれ、宮殿に戻った後も舞にマッサージをし続けてその日は終わった。
宮殿の中で遭遇したファルゴさん達やターニャさんやファーシェルさんに可哀そうなものを見る目や笑いを含んだ目を向けられたが、俺を助けてくれる人は誰もいなかった。
もう嫌だ。
宮殿ではエルフのメイドさん達に憐れみを含んだ向けられたし、街中では沢山のエルフに好奇の視線を向けられたからもうエルフの里にいたくない。
ベッドに入った俺は、枕を涙で濡らしながらそんな事を思った。
はぁ、結局朝から一度も現れなかったフレンダさんに慰めてもらうか。
久し振りにフレンダさんにナース服を着てもらってお医者さんごっこでもするとしよう。
俺はそんな事を考えながら、白い世界へと意識を運んだ。
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