クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...

がいとう

54話 ユグドラシル秘密攻略チーム結成

 風舞








「おはようフーマくん」




 ユーリアくんの家を出て翌朝。
 ベッドの上で俺が目を覚ますと、目の前に笑顔を浮かべた舞の顔があった。
 相変わらず惚れ直すほどの美人さんである。




「おはよう。ところでマイムちゃん」
「何かしら?」
「何やってんの?」
「ミレンちゃんにフーマくんを起こすように言われたからその通りにしたのよ」
「あ、そうっすか」


 どうして俺を起こすのに添い寝してんだよとか当然の疑問が浮かびもしたが、まだ舞とはしゃげる程目が覚め切っていない俺は、もう一度目を閉じて二度寝をすることにした。
 昨日は昼に起きた影響か中々寝付けなかったし、もう少しだけ寝ていたい。


 ていうか、久しぶりにフレンダさんとオセロの連戦をしたから凄い眠い。
 昨日初めてフレンダさんにオセロで負けたから俺も気合が入っちゃったんだよな。
 まぁ、負けたのは一回で、それも俺がミスをしたから負けただけなんだけど。


 そんな事を考えながら掛け布団を自分で掛けなおして惰眠をむさぼろうとすると、その様子を見ていた舞が掛け布団を放り投げて俺の体を揺さぶってきた。




「フーマくん。もう朝よ。起きてちょうだい」
「ギブミーファイブミニッツ」
「あと五分、ってそういうベタなセリフは日本語で言ってちょうだい。ほら、私はもうお腹空いてるんだから早く朝ごはんを食べに行きましょう」




 あぁ、舞が全く二度寝させてくれない。
 こうなったら俺の従魔を呼ぶしかないか。




「エルセーヌ」
「オホホ。お呼びですかご主人様」
「あと5分だけ寝たいから、その間結界を張ってくれ」
「あら、フーマくんはこんな女に頼むほど二度寝したいのかしら?  それじゃあ、私が永遠の眠りにつかせてあげるわ」
「と、思ったけどやっぱり無しで!もう完璧に目が覚めたから必要ないわ」
「オホホ。かしこまりましたわご主人様。それでは失礼いたします」




 俺の優秀な従魔はそう言うと、この前の様に空気中に溶け込むかの様に姿を消した。
 相変わらずどうやってるのか一切わからないぐらい素晴らしい消え具合である。
 そんな事を考えながら伸びをして欠伸を噛み殺していると、舞に頭を鷲掴みにされている俺の元へローズがやって来た。




「お、フーマも起きたようじゃな」
「ああ、お…は…よう」
「うむ。……どうかしたのかの?」
「背伸びた?」
「ほら!  やっぱりフーマくんは気付いたじゃない!」
「ちっ、この前は気づかんかったからいけると思ったんじゃが、賭けは妾の負けか」




 賭け?
 一体何の話だ?
 ていうか、やっぱりローズの身長は伸びてたのか?




「なぁ、賭けって何の事だ?  ていうか、結局ミレンの身長は伸びたのか?」
「あぁ、すまんすまん。実は昨晩エルセーヌが妾の元にアレを持ってきてくれたから、妾の力が少しだけ戻ったのじゃ」
「アレってアレの事か?  エルセーヌさんが持っていたとは」




 ローズの言うアレとは魔封結晶の事だろう。
 そういえば以前ローズが世界樹の近くに魔封結晶があるって言ってたけど、エルセーヌさんが持ってたのか。




「うむ。何でもエルフの里の近くに来たら突然力が増したから、その源泉を確認しに行ったら森の中にアレが落ちていたそうじゃ」
「あぁ、なるほど」




 エルセーヌさんは半分悪魔だから、魔封結晶の魔物を強化するという効果を受けたのだろう。
 それで魔封結晶を入手して自分で持っていたと。
 ていうか、エルセーヌさんは自分の話をされてるんだから出てくればいいのに。




「で、結局二人は何を賭けてたんだ?」
「秘密よ。例えフーマくんでも乙女の秘密を漏らすわけにはいかないわ」
「さいでっか。それじゃあ、俺は寝癖を直すついでに軽くシャワー浴びてくるわ」
「ええ。待ってるわね」
「妾も腹が減ったから早くするんじゃぞ」
「はいはい」




 そうして、俺はローズと舞に見送られながら客間に備え付けられた風呂へと向かった。
 そういえば起きてからフレンダさんの声を聴いてないけど、まだ感覚共有はしていないのだろうか。
 白い世界では眠くなる事はないから寝坊ってことはないんだろうけど、いつもうるさいフレンダさんがいないのは少し不思議だ。






 ◇◆◇






 風舞






 今日の朝食は何となく微妙だった。
 一応和食らしきものではあったが、海外の寿司バーで出てくる様な和食もどきが朝御飯として用意されていた。
 エルフの里に勇者がいたのはおよそ600年前の事だからこうなるのも仕方ないのだろうが、食べるなら微妙な和食ではなくてエルフの伝統料理とかが食べたかった。


 そんな事を考えながら満腹の腹をさすっていると、俺の横で紅茶を飲んでいた舞がターニャさんに話しかけた。




「ねえターニャちゃん。エルフの里に武器屋はあるかしら?」
「あるけど、どうして?」
「洞窟の中でサイクロプスと戦った話はしたでしょう?  その時に今まで使っていた剣が折れてしまったのよ」
「ああ、なるほどねぇ。それじゃあ、お店に行く前にうちの武器庫を覗いてみる?  結構古いのが多いけど、掘り出し物もあると思うよ?」
「でも、それはエルフの里の財産でしょう?  お父様の許可はとらなくて良いの?」
「武器庫を管理してるのはママだし、ママはこんな使いづらい武器が沢山あっても邪魔なだけだって言ってるから、物によってはタダでくれると思うよ」
「それじゃあ、取り敢えずその武器庫を覗かせてもらおうかしら」
「おっけー。あ、ミレン先生も一緒に行こうよ!  先生ならどれが良い武器かそれなりに分かるでしょ?」
「うむ。妾もエルフの里に受け継がれる武器は見てみたいし、同行するとするかの」
「シェリーちゃんも一緒に行く?  武器庫に行った後は訓練場に行く予定だから、また遊んであげるよ?」
「良いだろう。今日こそそのニヤケ面ぶん殴ってやるよ」




 おお、団長さん凄いやる気だな。
 ローズに聞いた話だと昨日はターニャさんにボコボコにされたらしいし、是非とも頑張ってくれ。




「フーマくんはどうする?」
「ああ、俺はちょっとやる事があるからパスで」
「やる事?」
「ファルゴさんとエルフの里を散策するつもりだ。ね、ファルゴさん?」
「ん?  そんな約束してたか?」
「嫌だなぁ、昨日ファルゴさんが気絶してるとき約束したじゃないですか」
「いやいや、気絶してる間に約束できるわけないだろ」
「まあまあ、取り敢えず行きましょ。ほら、立ってください」
「まぁ、良いけどよ」




 ファルゴさんはそう言うと、椅子から立ち上がって俺がいる出口の方へ歩いてきた。
 よしよし、これでファルゴさんもユグドラシル秘密攻略チームに巻き込めたな。




「ねぇ、フーマくん。エルフの里を散策するなら私も一緒に行きたいから少しだけ待っててくれないかしら?」
「悪いなマイム。男子高校生には男だけで羽目を外したい時があるんだよ」
「そうなの?」
「ですよね。ファルゴさん?」
「まぁ、男子こーこーせーが何かは分からないけど、男だけで遊びに行きたくなる日は確かにあるな」
「というわけだ。夕飯の時間までには戻るから俺達の事は放っておいてくれ」
「はぁ、分かったわ。でも、二人だけで危ないことはしないようにするのよ?」
「ああ、分かってるって」
「ファルゴもあんまり無茶するんじゃねえぞ」
「俺ももうガキじゃねぇから心配ねぇよ」
「ねぇねぇ、ミレン先生。あの二人お母さんみたいだよね」
「ふむ。確かに言われてみればそう見えるの」




 あのー、ローズさん。
 普通に聞こえてますよ?
 そういう事言うと、舞がまたお母さんごっことかやりたくなっちゃうから言わなくて良いんだよ?




「あ、フーマくん。ハンカチとティッシュはちゃんと持った?」




 ほら、やっぱりやったよ。
 それに物凄くいい笑顔じゃん。




「ああ、心配ないぞ。それじゃあ行ってくる」
「行ってらっしゃい。ちゃんとファルゴさんと仲良くするのよー」




 俺はそんな舞の見送りの言葉を背に受けて、宮殿の食堂を後にした。
 はぁ、帰ってくる頃にはお母さんごっこ飽きていてくれないかな。
 俺はそんな事を考えながら、横で腹を抱えて笑うファルゴさんの脇腹を小突いた。






 ◇◆◇






 風舞






 宮殿を出ておよそ十分後、俺とファルゴさんはエルフの里の中を流れる川の橋の下にいた。
 メインストリートである橋の上は道行くエルフ達でごった返しているが、橋の下には河川敷で遊ぶエルフの子供達がちらほらと確認できる程度の人気ひとけしかない。
 秘密のお話をするにはまさしくうってつけの場所と言えるだろう。




「で、こんな場所に俺を連れてきて何をするつもりなんだ?」
「その前に、先ずは俺の眷属を紹介しましょう」
「眷属を紹介って、ここには俺達しかいないぞ?」




 あ、そういえばファルゴさんとエルセーヌさんは顔を合わせた事ないのか。
 それで神出鬼没で有名なエルセーヌさんを知らないわけか。
 それじゃあお巫山戯ふざけで始めた俺の眷属のお披露目タイムも無駄にはならないな。




「まぁ、待ってください。まだ召喚してないからどんなに周りを見回しても見つかりませんよ」
「召喚?  お前いつの間に召喚魔法なんて使えるようになったんだ?」
「そういう面倒な話は後です。取り合えず、俺の自慢の眷属を召喚するんで見ててください。俺の眷属の召喚シーンは凄くかっちょいいので瞬き厳禁ですよ」
「お、おお。召喚魔法なんて見るの初めてだから何だか緊張してきたな」




 わお、ファルゴさん完全に騙されちゃってるよ。
 別に俺は召喚魔法なんて使えないし呼べばエルセーヌさんが勝手に出てくるだけなのに、こんなにハードル上げて大丈夫か?
 後はエルセーヌさんの演出力とアドリブ力にかかってるんだけど、マジで頼むぞ。




「それじゃあ行きますよ」
「ああ、よろしく頼む」
「えーっと、汝は異なる二つの血をその身に宿せし偉大なる者なり……」




 お、俺の目の前に黒と紫色の光の魔法陣が出てきた。
 やるな、エルセーヌさん。


 ていうか、それっぽい詠唱が何も思い浮かばない。
 もう適当でいいや。




「我が求めに応じて顕現せよ。出でよ、エルセーヌ!!」




 俺がそう言って右手を魔法陣の方にバッと向けると、黒紫色の光の中から暴風と共にエルセーヌさんが現れた。
 おお、物凄い派手な演出だな。
 いかにも闇の眷属って感じでかなりカッコいいぞ。


 そんな事を考えながら感心していると、空中に現れたエルセーヌさんが風魔法で減速しながら優雅に着地し、片手を腰に当ててもう片方の手を口元に添えながら高らかに笑い始めた。




「オーホッホッホ!!  我が主の呼声に応じてエルセーヌ、只今馳せ参じましたわ!!」
「ぬわぁっ!  す、すげぇ。本当に召喚しやがった」
「ふっふっふ。どうですかファルゴさん。俺の眷属は凄い美人でしょう」
「オホホ。お褒めに預かり光栄ですわ」
「あ、ああ。……って、ちょっと待てよ。その耳、エルフじゃないのか?」
「オホホ。バレてしまっては仕方ありません。私の名はエルセーヌ。フーマ様の従者をしております」
「ん?  それじゃあ眷属じゃないのか?」
「はい。ちょっとファルゴさんをからかっただけです。さっきの魔法陣も只の演出ですね」
「ま、マジか」




 あ、ファルゴさんが口を開けて物凄く驚いた顔している。
 この世界にはマジックはあまり普及してないし、きっとファルゴさんもこういう偽物ショーを見るのは初めてだったんだろうな。
 それに、この世界には魔法といういかにもファンタジーな概念がある分、マジックとか手品を信じやすい人が多い気がする。
 実際にエルセーヌさんの登場シーンも魔法を使いまくってた訳だし。




「まぁ、いったんそれは置いといて。彼女はエルセーヌ。今は俺の部下です」
「オホホ。よろしくお願いしますわファルゴ様」
「あ、ああ。よろしく」




 まだファルゴさんの頭が追いついていないみたいだけど、このまま話を進めて大丈夫だろうか。
 まぁ、頭が働いていない方が話も早く進むし別にいいか。




「それじゃあ、これから何をするのか早速説明をしますね。エルセーヌさん、よろしくお願いします」
「オホホ。かしこまりましたわ」
「ぬわっ!?  これってもしかして結界魔法か?」
「はい。エルセーヌさんは結界魔法のスペシャリストなんですよ」
「マジか。結界魔法なんて難しい魔法を覚えてるやつ初めて見たぞ」
「あ、ちなみに、エルセーヌさんは多分ユーリアくんより強いですよ」
「え、マジで?」
「オホホ。わたくしなど大した事ありませんわ」
「ね、強そうでしょう?」
「あ、ああ。これは相当強いな」
「オホホ。私の事はもうよろしいですから、そろそろお話を進めてはいかがですか?」
「あぁ、そうだったな。で、ファルゴさんを連れ出した理由なんですけど、今から一緒にダンジョンに行きませんか?」
「は?  別にダンジョンに行くのは構わねぇけど、そんなのどこにあるんだ?  エルフの里の近くにダンジョンがあるなんて聞いた事無いぞ」
「どこって、あそこですよあそこ」
「あそこって、あっちには世界樹しかないぞ?」
「だから、今から世界樹の中に入って魔物を倒しに行くんですよ」
「は?」




 あ、ファルゴさんがまた口を開けて間抜けな顔をしている。
 まぁ、いきなり世界樹がダンジョンだって言われても訳分かんないよな。
 俺もエルセーヌさんから詳細な話を聞いた時は凄い驚いたし。


 俺はそんな事を考えながら、世界樹の方を見て固まってしまったファルゴさんが再び動き出すまでの間、エルセーヌさんと一緒にじっとファルゴさんを見守っていた。

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