クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...

がいとう

51話 体調不良の原因

 ファルゴ






 喫茶店を出ておよそ10分後、俺はユーリアさんに案内されてエルフの里の訓練場に来ていた。
 室内訓練場は組手や型の確認をするための場所らしく、俺たち以外のエルフもそれぞれで訓練をしている。
 そんな光景を見ながらユーリアさんの後に続いて歩くと、訓練場の隅まで来たユーリアさんがこちらを振り返って口を開いた。




「それじゃあファルゴ。君は僕に何を学びたいんだい?」




 俺はユーリアさんに強くなりたいと言った。
 近頃フーマ達と旅をしていて常々感じていた事なのだが、俺は弱い。
 シェリーやミレンや舞にはステータスでも技量でも敵わないし、フーマにはステータスでも技量でもまさっているが本気の殺し合いになるとあいつと戦うのが一番怖い気がする。


 単純に強くなるには魔物を倒してレベルを上げ続ければ良いのだが、折角ユーリアさんが俺に指導をしてくれるというのなら、戦う上での技術や心構えを学ぶべきだと思う。




「俺は、戦う時の心構えを学びたいです」
「へぇ、強い魔法やスキルじゃなくて良いの?」
「はい。最近フーマを見ていて思ったんですけど、強い魔法やスキルよりもどう戦うかの方が大事だと感じました。確かに魔法やスキルがあった方が楽に戦えますけど、それを上手く使えこなせれば戦闘には役立ちません」
「なるほどねぇ。つまりファルゴはフーマの強さの秘訣を知りたい訳か」
「まぁ、はい。多分そうなんだと思います」




 フーマは俺よりレベルもステータスも低いし魔法も使えない。
 一緒に訓練をしても俺が負ける事はあまりないし、実際俺の目から見てもフーマの動きはまだまだ無駄が多い。
 それでもあいつは俺よりも魔物と上手く戦うし、死合いや本気の戦いでは俺よりも上の戦果を残す。
 自分よりも年下で経験も浅い奴より弱いのは悔しいが、俺が強くなるにはフーマの強さを理解する必要がある気がする。




「そうだねぇ、フーマの強さについては本人に聞くのが一番だと思うけど、フーマは真面目に答えてくれなさそうだしなぁ」
「そうなんすよね。フーマは自分が俺達の中で一番弱いと思ってるんで、そういう質問をしてもあまり良い答えが返ってこないんすよ」
「そっかぁ。それじゃあ、ファルゴはフーマの何が強いんだと思う?」
「頭の回転の速さや発想力じゃないですか?  この前のサイクロプスとの戦闘の時もフーマの作戦のお陰で被害無く勝てた訳ですし」
「うん。確かにフーマの考える事は突飛でありながらも効果的な事が多いし、ファルゴの言う事も一理あるね」
「ユーリアさんの考えは違うんすか?」
「違うという事はないけれど、フーマの一番の強さはそこでは無いと思うよ」
「それじゃあ、何が一番の強みなんですか?」
「それはね、恐怖心というかストレスを感じ辛いって事だよ」




 ストレスを感じ辛い?
 確かに戦闘中にビビってたら碌に剣も振れないし、気持ちで相手に負けてたら勝てるもんも勝てないけど、よりにもよってそれか?




「あー、少し言葉不足だったね。例えばだけど、ファルゴは戦闘中に敵に攻撃をもらった時、その傷を見るかい?」
「状況にもよりますけど、ついつい気になって見ちゃう事の方が多いかもですね」
「うん。普通はそうなんだけど、フーマは戦闘中に自分の怪我をあんまり見ないんだよね。攻撃をくらった時に自分の傷を見ちゃうと、思ったよりも大怪我だったらこれ以上攻撃されたく無いと思っちゃうし、軽傷だった場合もそれはそれでストレスが溜まる。フーマが自分の怪我を見ない理由は僕には分からないけれど、つまるところフーマは怪我や死ぬ事に対する関心があまり無いんだよ。
「それって強さと関係あるんですか?」
「怪我や死ぬ事への関心が薄いって事は、いかに相手を上手く殺すかだけを考えられるって事だからね。自分の体も道具として使えた方が限界まで戦えるでしょ?」
「ああ、なるほど」




 言われてみれば、フーマがマイムとの試合でやったというサラマンダーフラワーを使った自爆も自分を道具として見ているからこそ出来る事なのかもしれない。
 普通の奴はそれを思いついても実際に行動には移せないし、仮に出来たとしても戦闘中という極度の高ストレス状態でそれを成功させるのはかなり難しい気がする。




「まぁ、それが分かったところで僕達凡人には到底真似できないんだけどね」
「そうなんすか?」
「だって、ファルゴは一日中剣を向けられていても普通に暮らせるかい?」
「ん?  よくわかんないすけど、結構嫌ですね」
「でも、フーマだったらこの剣邪魔なんだけど、ぐらいの感想で普通に暮らすと思うんだよね」
「あー、言いそう」
「でしょ?  フーマも恐怖心を感じていない訳では無いけれど、その恐怖心が薄いか敵や脅威に対してストレスを感じ辛いんだよね。いつも冷静で平常心でいられるって言えば分かりやすいかな」
「あぁ、確かにそれはどう鍛えたら良いか分からないですね」
「でもまぁ、一応同じ様な事が出来る様になる方法はあるよ?」
「そうなんすか?」
「うん。僕がファルゴに殺気を当て続けるからファルゴはそれをずっと耐え続けるとか」
「あぁ、なるほど。ユーリアさんの殺気に慣れて恐怖とストレスを感じていても動けるようになる訓練ですね」




 フーマが恐怖やストレスを感じ辛いのに対し、俺は恐怖やストレスを感じていても普段通りに動けるようになる訓練をするって事か。
 確かにそれなら微妙に過程は違うけれども、フーマと同じ様な精神状態で戦える様になる気もする。




「うん。でもまぁ、もしかするとファルゴの感覚がおかしくなって恐怖を感じない狂戦士になっちゃうかもだけどやるかい?」
「マジっすか」
「あはは。冗談だよ冗談。ちゃんと加減するから先ずは僕の殺気に耐えられる様になってもらって、それが出来る様になったらそのまま戦う訓練をしようか」
「うすっ!  よろしくお願いします!」




 何の成長もなしにセイレール村に帰りたくはないし、もう足手まといになんてなりたくない。
 折角フーマ達のおかげで今回の遠征にも同行できたんだ。
 もうシェリーに守られてばっかりなのはうんざりだし、そろそろ俺も強くなって良いだろう。
 俺はそんな事を考えながら、ユーリアさんの殺気に耐えるために身構えた。






 ◇◆◇






 風舞






 トウカさんの為の病食を作り終わって約二時間後、俺と舞はトウカさんの家のリビングで雑談をしていた。
 因みに、先ほど舞に紹介したフレンダさんも俺が間に入る事で会話に参加している。




「それにしても、ミレン達遅くないか?  ユーリアくんを呼びに行っただけなんだろ?」
「ええ。そのはずなんだけれど、少し遅いわね」
『何も心配する必要はありません。お姉様がエルフごときに害される訳無いでしょう?』
「まぁ、確かにミレンが誰かにやられてるのは想像できないですけど」
「それもそうね。あ、そういえばフーマくん。これ何だと思う?」




 舞はそう言うと、小さな透明な瓶をポケットから取り出して机の上にコトリと置いた。
 瓶にはコルクを灰色の布で包んだ様な特殊な蓋がされているが、中には何も入っていない。




「何って、瓶じゃないのか?」
「それはそうなんだけど、トウカさんの机の上にこれが何個もあったのよ」
『これは魔力が外に漏れづらくするための瓶ですね。主にポーションや毒消しを入れるのに使います。』
「これ、ポーションとか入れる奴だって。トウカさんもポーション作ってたんじゃないか?」
「でも、全部空の瓶だったし、材料になりそうな物は近くになかったわよ?」
「ん?  マイムは瓶がポーションとかの為の物じゃ無いって言いたいのか?」
「まぁ、ポーションといえばポーションなのだけれど。これ、もしかして世界樹の朝露が入っていたんじゃないかしら?」
「あぁ、なるほど。そういう事か」
『ん?  どういう事ですか人間。説明なさい。』
「多分なんですけど、トウカさんは世界樹の朝露を常用していたんじゃないかって事です。彼女は体調が悪いのを我慢して働いていたみたいですし、万病に効くという世界樹の朝露ならそれも緩和できると考えたんじゃ無いですか?」




 トウカさんは世界樹を管理するかんなぎだし、世界樹の朝露もいくつかストックしていてもおかしくない気がする。
 まぁ、エネルギードリンク感覚で飲むにはいささか高価すぎる代物である気もするけれど、ありえなくはないだろう。




「流石フーマくんね。その通りよ」
「まぁ、俺たちの世界じゃよくある話だしなぁ」
『フーマの世界には世界樹の朝露が広く流通していたのですか?』
「いや、世界樹の朝露程万能じゃないんですけど、それに似たようなものはありましたよ。それを飲むと飲むと疲労感や眠気を誤魔化せるんです」
『フーマの世界の飲み物ですか。気になりますね。』
「まぁ、半ばジュースみたいな物もあるんで今度出してあげますよ」




 そういえば、俺も徹夜でゲームする時はたまに栄養ドリンクを飲んでたよな。
 あれ飲むと夜の間は結構持つんだけど、日が出てきた頃合からグロッキーになるから時々しか飲んでなかったけど。




「そろそろ話を進めてもいいかしら?」
「あぁ、ごめんごめん。それで何だっけ?」
「トウカさんが世界樹の朝露を常用してるんじゃないかって話よ」
「世界樹の朝露ねぇ」
「あら、何か気になる事でもあるの?」
「ああ。世界樹の朝露って万病に効くって聞いてたんだけど、それなら何でトウカさんの体調が悪いんだ?」
「確かに言われてみれば不思議ね。考えられるとすれば、世界樹の朝露が噂通りの効果じゃないかトウカさんが病気じゃないかのどっちかなんだけど、どっちも考えづらいわよね」
「そうなんだよなぁ。フレンさんはどう思います?」
『そうですね、おそらくトウカは過労で体調を崩しているのだと思いますよ。』
「でも、過労による体調不良ぐらい世界樹の朝露で治せるんじゃないですか?」
『ええ。確かに世界樹の朝露は身体的な病なら殆ど治せると私も聞いていますが、魂の病までは治せないのではないですか?』
「魂の病って何ですか?」
『十中八九、トウカは世界樹の管理をするためにギフトを使用しています。トウカがこうして寝込んでいる原因はギフトの使い過ぎによる魂の疲労でしょう。魂の状態異常は身体にも影響が出ますが、魂そのものを治癒しなくてはいくら身体の方を治してもその場しのぎにしかなりませんからね。』
「ギフトの使い過ぎか」
「ギフトの使い過ぎがトウカさんの体調不良の原因って事かしら?」
「ああ。そういえばミレンもギフトを長時間使ってると凄い疲れるって言ってたし、使い続ければ体調を崩してもおかしくないわな」
「なるほど。ギフトは魂と密接に結びついているものらしいし、ギフトを使い続ければ魂が消耗するというのも頷けるわね」




 トウカさんの体調不良の原因がギフトの使い過ぎによるものなら単純にギフトを使わない様にしてもらえばいいのだが、トウカさんの性格的にそれは難しい気がする。
 となると、後はトウカさんがギフトを使わなくていい状況を作るしか無いんだけど……。




「よし、世界樹ユグドラシルをへし折るか」
『は?  貴方は何を言っているのですか?』
「だって、世界樹を折ればトウカさんはこれ以上ギフトを使う理由がなくなるでしょう?」
『それはそうですが、仮に世界樹を折れたらエルフの里は滅びますよ?』
「え?  マジっすか?」
『はい。エルフの里はお姉様が他の魔族が手出しをしない様に目を光らせていたというのもありますが、エルフの軍隊が世界樹の薬草を使って瀕死の状態から何度でも回復する為に、各国が戦争を仕掛けなかったという背景もあります。万が一エルフが世界樹を失ったら間違いなくここは攻め込まれるでしょうね。』
「マジかぁ、流石にエルフが滅びるのは嫌だしなぁ」
「エルフの里が滅びるというのもあるでしょうけれども、仮に世界樹を折ったらトウカさんに嫌われるわよ?」
「あぁ、それは超嫌だ。よし、世界樹を折るのは無しにしよう」
「それが賢明な判断ね。…っと、ミレンちゃん達が帰って来たみたいだわ」




 舞はそう言うとソファーから立ち上がって玄関の方へローズを迎えに行った。
 ローズはユーリアくんを迎えに行ったらしいし、彼もきっと一緒だろう。
 そんな事を考えながら舞の後に続いて俺も玄関の方に行くと、ちょうど舞がドアの前に立ったタイミングでドアが開いた。




「今帰ったのじゃ」
「お帰りミレンちゃん。思ったよりも遅かったのね」
「うむ。まぁ、色々とあっての」
「色々って何だよ。……って何があったんだ?」




 俺も舞の横から顔を出して玄関先の様子を確認すると、気まずそうに頰をかくローズと同じ様に微妙に気まずそうな顔をするユーリアくん、それに白目をむいたファルゴさんと、それをおんぶするボロボロの服を着た団長さんが立っていた。




「うむ。話はするから、先ずは中に入らせてくれ」
「あ、ああ」




 そういえばエルセーヌさんも一緒に出かけたって舞が言ってたけど、あの人はどこに行ったのだろうか。
 またどっかで悪さしてなければ良いんだけど。
 俺はそんな事を考えながらドアを押さえてローズ達を迎え入れた。

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