クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...

がいとう

44話 結界

 風舞






 ローズに椅子にされるのを耐えかねて逃げた後、俺はターニャさんと気まずそうに話していたトウカさんを連れてエルフの里の時計台に来ていた。
 時計台には限られた者しか入れないらしいが、里長の一族の証を持つトウカさんと600年前の勇者やターニャさんと同じ黒髪の俺は結構すんなり入る事が出来た。


 ちなみに、里長の一族の証というのはトウカさんが首から吊るして服の中にしまっている円形のドッグタグの様なものである。
 さっきの門番というか時計台の管理人っぽいエルフはそれを見て物凄く驚いていたし、このエルフの里ではかなりの効力を持つものであるみたいだ。




「へぇ、結構良い景色ですね」
「ええ。ここは里を一望できる私が幼い頃からのお気に入りの場所です」
「いやぁ、こんなに素晴らしい場所を教えてくださってありがとうございます」
「ふふふ。もしお気に召した様なら滞在中はいつでもこちらにいらしてください。下の者にフーマ様の顔を覚えておく様に申し付けておきますので」
「あ、ありがとうございます」
「ふふ。どういたしまして」




 あぁ、ヤバいなぁ。
 トウカさん凄い美人じゃん。
 何となく勢いで彼女をお姫様抱っこしてここまで連れてきたけど、さっきから緊張しっぱなしで何を話しているのか自分でもよく分からない。


 何というか、トウカさんが生物の本質を見通す力を持っているためか、俺の考えている事も見透かされてる気分になるんだよな。
 ボタンさんの力は記憶を読む力だったから別に大した事は無かったんだけど、リアルタイムで読み取られてると思うと凄い緊張する。
 ていうか、トウカさんの大人の余裕みたいなのが凄い眩しいんだよ。


 そんな感じでトウカさんの尊みに溺れそうになっていると、感覚共有をしているフレンダさんが声をかけてきた。




『おい人間。心臓の音がうるさいのですが』
「あぁ、はいはい。すみませんね」
『まったく、貴方にはお姉さまというものがありながらエルフごときに現を抜かすとは何事です』
「そういうことは言わないで良いんですよフレンさん?」
「ふふふ。お二人は仲がよろしいのですね」
「そうですか?」
『いえ、この人間は私のお姉さまの下僕に過ぎないので私と仲良くなることなどありません。私とこの人間では住む世界が違うのですから』
「いつもコーラを飲んではオセロしてる庶民派のフレンさんがなに偉そうな事言ってるんですか」
『そういうことは言わないで良いんですよ人間?』
「ふふっ、ふふふ」




 あ、またトウカさんが口元を押さえて上品に爆笑してる。
 昨日も思ったけど、トウカさんって笑いの沸点がかなり低いんだよな。
 今も恥ずかしそうにしながら涙を拭いつつ腹を抱えて笑ってるし、よっぽど俺とフレンダさんのやり取りがツボに入ったらしい。
 その、そんなにウケると話をしていた俺達としても恥ずかしいんですけど。




『まったく、おかしなエルフですね』
「まぁ、泣き上戸よりは笑い上戸の方が良いんじゃないですか?」




 そうして景色を眺めながら待つ事数分、フレンダさんと話をしていた俺にようやく笑いから解放されたトウカさんが話しかけてきた。




「すみませんフーマ様。お見苦しいところをお見せしました」
「そんな、別に見苦しいなんて事はありませんよ」
「ふふふ。ありがとうございますフーマ様」
「い、いえ」
『はぁ、そろそろ本題に入りたいのですけれど』
「すみませんフレン様、お時間を取らせました。それで、フーマ様の中にミレン様の妹であるフレン様がいらっしゃるという事でしたが」
「あぁ、そういえばそのためにここに来たんでしたね」
『はぁ、これだからフーマは愚昧だと言われるのです』
「はいはい。それで俺の中にフレンさんの魂があるって話なんですけど……何を説明すれば良いですかね?」




 説明するといってもフレンダさんの本名とか出自とかは話す訳にはいかないし、どこまで説明していいものかわからない。
 トウカさんがフレンダさんの正体を知ることになったら、彼女自身に迷惑がかかるかもしれないし慎重に話さないと。




「それでは、フレン様がフーマ様の中にいらっしゃる原因に心辺りはありませんか?」
「えーっと、ある日突然フレンさんが俺の中にやって来ました」
『はぁ、それではいくら何でも理解できないでしょう。いいですか……』




 そうして説明役をフレンダさんにとられた俺は、景色をボンヤリと眺めながらフレンダさんの難しい説明を聞く事となった。
 フレンダさんは自分がミレンの妹だと改めて語り、俺の魂に入ってくる時に使った術の話や、感覚共有の概略、更には俺のギフトの花弁を引き剥がした件まで説明したのだが、細かいところは俺には専門的すぎてちんぷんかんぷんだった。
 ただ、トウカさんには理解できる内容だったらしく時々質問をしながらも一通りの内容は把握したらしい。
 ………お二人とも賢いんですね。




「なるほど。大変興味深いお話でした。ありがとうございましたフレン様」
『いえ。まさかエルフの中に私の話を理解できる者がいるとは思いもしませんでした。貴女、名前は?』
「私はトウカ。現エルフの里長の義理の娘でございます」
『はぁ、つまらない自己紹介ですね。いいですか、私は貴女が誰の娘だろうと興味ありません。貴女自身の話をなさい』
「ちょっとフレンさん。いくら何でも失礼ですよ」
『ふん。少しは見込みのあるエルフだと思ったのですが、思い違いだったみたいです』
「はぁ、そんな事言ってるから友達出来ないんですよ?」
『は、はぁ!?  友達ぐらいいます!  それに、私がまだ自分の肉体にいた頃は配下にも慕われる素晴らしい女性だったのですよ!』




 この反応は絶対友達いないだろ。
 ローズも魔王時代は友達が少なかったらしいし、姉妹揃って大変な奴らだな。




「はいはい。すみませんトウカさん。うちのフレンさんが失礼しました。ただ、口が悪いですけどトウカさんの事は気に入ったみたいなので仲良くしてやってください」
「いえ、フレン様は私の手落ちを指摘してくださっただけですし気にしていませんよ。それに、私自身はフレン様のような見識の広い方と交流を持てた事を光栄に思います」
「ですってよフレンさん。もっとトウカさんを見習ってください」
『おいフーマ!  何故私が聞き分けのない子供の様な扱いを受けねばならないのです!』
「そういえば、ユーリアくんがトウカさんなら俺の魂の傷というか、ギフトを無理やり使った代償を治せるかもって言ってたんですけど、実際のところはどうなんですか?」
『ちょっと、無視するんじゃありません!』
「あぁ、はいはい。今お話し中なんで少し待ってくださいね、」
『ふん。この借りは後で必ず返しますから覚えておきなさい!』
「分かりましたよ。それで、どうなんですか?」
「あ、ああ、はい。そうですね。やってみない事には分かりませんが、おそらく治せると思いますよ」
「ま、マジっすか!?」
「はい。フレン様のお話ですと、どうもフーマ様の魂はギフトの強制的な開花によって機能不全というかズレが生じている様なので、私がギフトを使ってそのズレを元どおりにすればおそらく以前のように魔法も使える様になると思います」
「それじゃあ、早速お願い出来ませんか?  お礼にトウカさんのお願いはいくらでも聞きますんで」
「えーっと、その…フーマ様の魂を治すのは構わないのですが、今すぐというのはちょっと」
「あぁ、そうですよね。魂を治すとなると何かと準備もあると思いますし、今すぐは無理ですよね」
「え、ええ。そうです。その、私の方で準備が出来次第フーマ様にお伝えしますので、もうしばらく待っていただけるとその。助かります」




 ん?なんでトウカさんは顔を赤くしてモジモジしてるんだ?
 今の話で恥ずかしがるとこあったか?
 まぁ、今は別にどうでも良いか。
 何はともあれトウカさんなら俺の魂のズレを治せるらしいし。




「はい!  俺はいくらでも待つんで、準備が出来たらいつでも呼んでください。例えどこにいても駆けつけますから」
「そ、そうですか。ありがとうございます」
「い、いえ。こちらこそ?」




 こうして何となくトウカさんの様子を見て不審に思いつつも、俺はようやく再び魔法を使える様になる方法にたどり着いた。


 いやぁ、ずっと魔法が使えなくて戦闘が大変だったけど、ようやくその苦労から解放されるのか。
 最近は舞も雷魔法を覚えて戦闘で魔法を使うようになってたし、結構羨ましかったんだよな。
 また魔法が使える様になったらまずは雷魔法を覚えて、後はアセイダル戦でギフトの力で無理矢理使った氷魔法のLV1も覚えたい。
 それにユーリアくんの使っていた状態異常系の魔法も知りたいし、今から凄く楽しみになってきたな。


 そんな事を考えつつ、赤くした顔をパタパタと手で仰ぐトウカさんから目を離して、沢山のエルフが行き交うエルフの里を見渡していると、俺に雑に扱われて大人しくしていたフレンダさんが真面目な声で話しかけてきた。




『フーマ。返事も会釈もせずに聞きなさい。この展望階の入口付近で結界を張っている者がいます』




 結界?
 それってフレンダさんがお得意だっていう結界魔法の事だろ?
 なんでそんな物をこの時計台の展望階で張るんだ?


 そんな事を考えながら、フレンダさんに言われたとおり返事もしないで展望台の石の柵に頬杖をついてエルフの里を眺めていると、俺の横にトウカさんが並んで同じ方向を見始めた。
 俺がトウカさんの方をチラリと見たあたりで、再びフレンダさんが口を開く。




『良いですか、相手はまだ私達が結界の存在に気がついてるとは思っていません。何が目的かは分かりませんが、制圧するなら今しかありません。まぁ、無理に戦うこともありませんが』




 なるほど。
 つまり相手が結界の中で油断している隙に逃げるなり攻撃したりするって事か。
 それじゃあまずは、どちらにしても自分達の手札を確認しないとか。




「そういえば、トウカさんはどんな魔法が使えるんですか?  エルフってみんな魔法が得意だって聞いてたんですけど」
「確かに他の人族に比べると魔法の使える者が多いですが、大した事はありませんよ。私は一応四属性の魔法は全て覚えていますが、その中でも得意なのは水魔法だけですし、他には回復魔法ぐらいしか自慢できるものはありません」
「へぇ、俺も近いうちに回復魔法を覚えようと思ってたんでその内教えてくださいよ」
「はい。私でよろしいのでしたら構いませんよ。ところで話は変わるのですが、今朝金庫が中々開かないとおっしゃっていましたが、あれはどうなりましたか?」




 金庫?
 あぁ、結界魔法の事か。
 俺は今朝はローズに殴られて気絶したままだったし、トウカさんが言いたいのはどうやって結界を破りますかとかそんな事だろう。




「えーっとそうですねー。鍵をなくしてしまったんで壊そうかと思ってたんですけど、硬さが分からないんで壊そうにも中々壊せないんですよね。思いっきりやって中身が壊れたら元も子もないですし」
『結界の防御力はおそらく皆無です。気配遮断の超上位互換だと思ってくださればそれで問題ありません。場所は出口に向かう際に直接指示をします。トウカは私が指示を出したらその方向に水魔法を速射してください。相手の出方も分からないので、後は臨機応変にお願いします』
「なるほど。それでは一度私に見せてくれませんか?  私も何度かそういう経験があるので、対処法も少なからず分かります」




 えぇ、何度か経験があるって、もしかしてこうやってつけられたり覗き見された経験があるって事か?
 そりゃあエルフの里長の娘という立場ならなら無くはないんだろうけど、対処法も分かるって慣れすぎだろ。




「そうですか。それじゃあ、早速見てもらえませんか?」
「はい。それではそろそろここを出ましょうか」




 トウカさんはそう言うと、クルリと振り返って階段のある展望階の入り口の方へゆっくりと歩き始めた。
 俺も数歩後ろからその後に続く。


 相手が隠密系の結界を使っているという事なら、俺の剣が届く範囲には立たないだろうというのは分かるが、仮に相手が攻撃してくる様ならトウカさんの水魔法に頼るしかないのか。
 トウカさんは平気そうにしてはいるもののまだまだ本調子には見えないし、出来れば戦闘には巻き込みたくない。
 はぁ、とは言っても相手の実力が分からない内は俺に有効な攻撃手段があるかは分からないし、フレンダさんの策に乗るしかないんだよな。


 俺がそんな事を考えながら出口の方を向いてトウカさんの後ろをテクテク歩いていると、俺の視界を共有しているフレンダさんが再び口を開いた。




『やはり、あそこの階段の左横の柱の前にいますね』




 フレンダさんの言う柱まで約15メートル。
 このペースで歩いて行くと数秒後にはすれ違うんだけど、頼むからちょっかい出して来ないでくれよ。


 そんな事を祈りながら歩き、結果を張っている人がいるという柱まで後3メートルとなったその時、フレンダさんが口を開いた。




『あれ?  この結界の癖はもしかして…』




 え?それってどうすれば良いんだ?
 攻撃しろとは言われてないからスルーで良いのか?




『と、止まりなさい人間!』
「ぬわぁお!」




 フレンダさんがいきなり大声を出すもんだからびっくりして思わず声に出してしまった。
 やべー。
 流石に怪しまれたか?




『フーマ。私が言ったとおりにそのまま口にしなさい』




 ん?
 よくわかんないけど、結界に唯一気づいてるフレンダさんが言うならそうするか。
 そう考えた俺は立ち止まり、フレンダさんの指示に従う事にした。




『オホホ。その様な雑な結果で私の目を欺けると思ったのですか?』




 オホホ?
 何だそりゃ。
 普段のフレンダさんはそんな笑い方じゃないだろ。




『ほら、早く言いなさい』




 俺にはもうどうすれば良いのか分からないし、とりあえず言うしかないか。




「オホホ。その様な雑な結界で私の目を欺けると思ったのですか?」




 ……あれ?
 ちゃんと柱の方を向いて言ったのに反応が無いぞ?
 もしかしてそこにはいないのか?




『ちっ、面倒ですね。フーマ。そのまま柱の前まで歩いて行って抱きつきなさい』




 え?  凄い嫌なんだけど。
 仮に本当にそこにいた場合、絶対俺が攻撃されんじゃん。


 そんな俺の考え読んでの事か、フレンダさんが付け加えて言った。




『大丈夫ですフーマ。間違いなく攻撃される事はありませんし、仮にそれでも心配なら尻を叩くぞと唱えながら抱きつけば絶対に攻撃されません』




 えぇ、全然意味が分からないんですけど。
 尻を叩くぞって脅される密偵なんているのか?




『ほら、早くなさいフーマ』
「はぁ、尻を叩くぞー!」
「ヒィッ!」


 そうして諦めと覚悟のついた俺が柱に飛びかかると、俺は見たことのない女性を押し倒していた。
 見た目的な年齢は二十代後半ぐらいで、金髪をツインテールにしてその上ドリルになっている。
 わお、このドリルヘアーを実際にやってる人始めて見た。




『フーマ。そのままエリスに遮音結界を張るように命じなさい』
「え?  知り合い?」
『いいから早くなさい。少しその女と内々の話があるのです』




 フレンダさんと内々の話ってことは、もしかしてこの人魔族だったりするのか?
 それじゃあ確かにトウカさんには聞かせられないか。
 そう思ってトウカさんの方を見ると、ちょうど俺と目があったトウカさんがコクりと頷くのが見えた。
 どうやら少なからず事情を察して身を引いてくれるらしい。
 それじゃあ…。




「おいエリス。遮音結界を張れ」
「お、オホホ。何故わたくしが貴方の命令を聞かなくてはならないのですか?」
「ちっ、尻を叩くぞ」
「ヒィッ!  張ります張りますからそれだけは勘弁してくださいまし!」




 おっと、思わずイラっとして口調を荒くしてしまった。
 それにしても、尻を叩くって言われてここまで怯えるってどんなトラウマがあるんだよ。
 もしかしてフレンダさんが、以前この人に何かしらの嫌がらせをしてたのか?


 そんな事を考えながらエリスさんの上に馬乗りになっていると、俺の視界が若干暗くなった。




「へぇ、これが遮音結界か。結界っていうから立方体の箱みたいなの想像してたけど、膜みたいなもんなんだな」
『はい。フーマの想像しているような結界も存在しますが、空間を指定して結界を張るよりも、こういう結界は人物を指定して張った方が消耗が少ないですからね』
「へぇ、また賢くなりました」
「お、オホホ。先程から誰と話していますの?」




 さっきから何かこの人の声聞くと微妙にイラっとするんだよな。
 別に何も理由は無いんだけど、何となく怒りを感じてしまう。
 どっかでこんな感覚を体験したことがある気がするんだけど、何だったっけ。


 そんな事を考えながら最近の出来事を振り返っていると、フレンダさんが次の指示を出してきた。




『それではフーマ。手短に話を済ませてしまいましょう。フーマにはエリスの代理の主になってもらいます』
「は?」




 俺はフレンダさんの突拍子のない台詞を聞いて、思わず間抜けな声をあげてしまった。
 代理の主って何だよ?







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