クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...

がいとう

33話 安全地帯

 風舞






 引き続き洞窟を進むこと数時間。
 そろそろ休みたいと思いはじめたぐらいで、たまたまセーフティーゾーンを見つけた俺達は、その中に魔物がいない事を確認してから中に入り、それぞれで休憩をしていた。


 グラズス山脈を抜けるこの洞窟は、到底1日で抜けられる長さではないため、途中で休憩をするために先人達の手によって造られた小部屋がいくつか存在している。
 この小部屋は通称でセーフティーゾーンと呼ばれ、この洞窟を通る人は途中でどこかしらのセーフティーゾーンで休憩や睡眠をとるのが普通だそうだ。
 ただ、いくら安全地帯セーフティーゾーンとは言っても、放っておけば魔物も住み着くため、使う前に中にいる魔物を追い払ったり、中に自分たちが入っている間に魔物が入って来ないように入り口を土魔法とかで閉じておく必要があるらしい。


 因みに、今回俺達が見つけたセーフティーゾーンは部屋数もそこそこにあり、石で出来た机や椅子、果てはトイレや浴槽までもがあったため、ここは今までかなりの人数が使ってきた場所なのだろうとユーリアくんが言っていた。
 その話を聞いた舞も、壁の一部をくり抜いて棚を作っていたし、こうしてセーフティーゾーンは成長していくのだろう。


 そんな事を考えながら、次はどんな家具が欲しいか舞と話していると、ファルゴさんと団長さんとユーリアくんの話が聞こえてきた。
 因みに、ローズは石のソファの上に座る俺と舞の間でスヤスヤと眠っている。
 こいつ、やっぱり見た目相応の行動を取る事が多いよな。
 甘いものが好きだったり、頭撫でられて喜んだり、こうして昼寝も時間がある時は毎日してるし。




「なぁ、サイクロプスってどんくらいデカイんだ?」
「そうだねぇ、僕も今までで一回しか見たことがない珍しい魔物なんだけど、そいつは僕の身長の10倍くらいの大きさだったよ。だいたい僕の目の前にサイクロプスのふくらはぎがあったぐらいかな」
「マジかよ。そんなんどうやって戦えば良いんだ?」
「僕が戦った時は大勢の人で魔法を打ち続けて倒したけど、ここじゃあ難しいかもしれないね」
「あぁ、私もデカくなれたら良いのになぁ」
「いやいや、シェリーがデカくなったら俺は困るぞ」
「あん?  ファルゴは私が大きくなったら、私の事嫌いになっちゃうのか?」
「ば、馬鹿野郎おめぇ、そんな訳ないだろ!  俺はどんなシェリーでも大好きだぞ!」


「ちっ、バカップルめ」
「ちょ、ちょっとフーマくん!?  どうしてファルゴさんの頭に向かって投げナイフを投げようとしているのかしら?」
「いや、別にファルゴさんの頭を標的に練習しようとしただけで、ファルゴさんの頭に当てるつもりはないぞ?」




 10日ほど前に始めた投げナイフの練習だが、どうやら俺はこれが結構得意みたいで、割と思ったとおりに投げられる。
 中学生の時に買ったダーツを休日のヒマな時によくやっていたから、この世界に来た時に投擲とかが才能としてあったのかもしれない。
 多分、今なら豪運のスキルとかもあるし、ダーツの大会とかに出たら結構な好成績を残せる気がする。
 もちろん、リア充の頭にナイフをぶち当てるのも余裕で出来るはずだ。




「いやいや。ファルゴさんの頭を標的にしてる時点で、当てる気満々でしょう?」
「そんな事ないぞ。そいっ!」
「って本当に投げたわ!?」




 俺の投げたナイフがくるくると回りながら放物線を描き、団長さんの顔をじっと見つめているファルゴさんの方へと飛んでいく。
 よし、これで狙い通り恥ずかしい前髪になるな、と思ったのだが俺の思惑と共にナイフは外れ、カランと音を立てて壁に当たって地面に落ちた。


 ちっ、前髪を切り落とすつもりで投げたのに、団長さんがファルゴさんを押し倒したために、狙いがズレてしまった。
 彼女は第六感が良く働きそうな赤い狂人なだけでなく、俺と同じ様にスキルの直感もそこまでLVが高くはないが持っているらしいし、この程度の攻撃じゃあ見ていなくても避けられるのか。
 断じて愛の力で避けたとかではないはずだ。
 これは彼女のいない俺が新婚のバカップルの愛に負けたとか、そういうわけではないのだ。




「おいフーマ!  いきなり何をするんだ!  危ねぇだろうが!」
「大丈夫ですよファルゴさん。ちゃんとファルゴさんの頭を狙ったんで、団長さんには当たらないはずです」
「それだと俺に当たるんですけど!?」
「まぁまぁ、ファルゴはいつでも私が守ってやるから心配すんなよ。それよりも、フーマにもサイクロプスとどうやって戦うのか聞いてみようぜ。フーマは変な戦い方が好きなんだろ?」
「ああ、それは僕も気になるね。フーマは自爆覚悟でサラマンダーフラワーの根っこの粉をばら撒いて、それに火をつけてマイムを倒そうとするぐらいだし、きっと面白い案を出してくれると思うよ」
「はぁ?  フーマはそんな事してたのか?  ていうか、よく2人とも無事だったな」
「ふっふっふ。私は情熱的な女だから炎の攻撃は効かないのよ」
「え?  マジで?」
「嘘よ」
「なんだそりゃ。でも、マイムなら本当にその内、炎耐性とか身につけそうだよな。ってそれよりも、どうだフーマ。何か思いついたか?」
「そうですねぇ、」




 サイクロプスを倒す方法か。
 15メートル強ある巨人を倒すには、ユーリアくんが以前やったという様に遠くから弾幕を張って一方的に攻撃するのが一番楽なんだろうけど、洞窟内ではそんな高火力の攻撃をばら撒いたら崩落とかが起こりそうだからそれはできない。
 となると、同じ理由で水攻めや火攻めは無理そうだし、どうしたもんか。




「ああ、そういえば、洞窟の道幅ってこの後広くなったりするのか?」
「ん?  どうしてそう思ったんだい?」
「だって、ここら辺の洞窟の高さじゃ図体のデカいサイクロプスは通ってこれないだろ?」
「ああ、それもそうね」
「なるほどね。それで、フーマの質問の答えだけど、エルフの里の方の洞窟の入り口はかなりの広さがあるよ。だいたいエルフの里の方から歩いて一時間ぐらいの辺りから、急に天井が低くなって道幅も縮まるね」
「となると、サイクロプスがいるとしたらその辺りって事になるのか」
「うん。僕とミレンさんは多分その辺りで出てくるんじゃないかって予想してるよ。まぁ、あくまでサイクロプスの話は噂だから、本当にいるのかはわからないんだけどね」




 はぁ、サイクロプスがいるのが狭い通路とかだったら何とかなりそうだったけど、広い場所だと色々と大変そうだな。
 広い場所だと煙を起こしてサイクロプスの視界を塞ぐという案は使えないし。


 しかしそうなると後は、最初に何とかしてサイクロプスの足を止めて、ヒットアンドアウェイを繰り返すしかない気がする。
 サイクロプスに走り回られながらどデカい棍棒を振り回されたら結構キツいだろうし、足を止めさせるのは例えどんな作戦でも必要になってくるだろう。




「それじゃあ、とりあえずはサイクロプスに気付かれる前に足の腱を切り裂くしか無いんじゃないですか?」
「あん?  それはかなり難しくないか?  私にはサイクロプスにバレずに近くまで寄って行くなんて事多分出来ないぞ」
「それじゃあ、魔法とかを使って遠くから攻撃するのはどうですか?  洞窟を壊さない様に足の腱だけを狙う感じで」
「うーん。それも厳しいと思うよ。僕が昔戦ったサイクロプスは魔力の流れが見えるみたいだったし、サイクロプスの硬い皮膚を突き破れる魔法となると、詠唱をしている間にバレちゃうだろうね」
「それは中々大変そうね。あ、でも、ここで寝てるミレンちゃんなら気配を消すのも上手だし、片足の腱だけなら一撃で切り裂けるんじゃないかしら?」
「あぁ、確かにミレンならそのぐらいやってのけそうな気がする」




 なんせ、この前俺が気配遮断の練習をしてたら、後ろから気配を消して来たローズに後ろから驚かされたし。
 まぁ、その復讐はこの前、ローズのにょえいって叫び声を聞けたからもう済んでるんだけど。




「それじゃあ、もう片方の足の腱をどうするかだね。確かにサイクロプスが立てなくなれば幾分か楽に戦えるとは思うけど、しっかりと両足を使えない様にしておかないと急な片足での跳び上がりが来たら結構怖いし」
「あぁ、とは言え、なんかパッと良い案が浮かばないな。ミレンが片足を切れるとしても反撃を考慮するとそう上手くはいかないだろうし、不確定要素が多すぎる」
「まぁ、流石に見たこともない様な魔物を相手に作戦を立てるのも厳しいわよね」
「流石のフーマでもお手上げ、か」
「すみません団長さん。今回はあんまし期待に添えなさそうです」
「あぁ、気にすんな。何となく話の種としてフーマに話を振っただけだし、そもそもサイクロプスが本当にいるのかもわからないんだしな」
「そうだぞフーマ。サイクロプスなんて珍しい魔物そうそう出くわす事ないんだから、気楽に行こうぜ」




 団長さんとファルゴさんが微笑みながらそう言ってくれた。
 この二人の言うようにサイクロプスを見つけたという冒険者自体存在するのか怪しい噂だし、このままサイクロプスに出会わない可能性は十分にある。
 十分にあるのだが…




「これ、フラグよね」




 ですよねぇ。


 そんな感じでなんとなくサイクロプスの出現が濃厚になってきた気がする俺は、曖昧な笑みを浮かべつつ引き続きサイクロプスの攻略方法を考えておくことにした。
 はぁ、出来ればサイクロプスにはマジで会いたくない。






 ◇◆◇






 とある二人の兵士 エルフの里にて






「なぁ、そういえばお前。サイクロプスが現れたって話聞いたか?」
「ああ。魔眼が魔力の流れが見える効果のやつだろ。確か、ターニャ様が追い払ったっていう。俺、この前初めてサイクロプスが現れるまで、あの一つ目が魔眼だなんて知らなかったんだよな」
「あぁ、それは俺も同じなんだが、俺が話したいのはそっちじゃなくて昨日の晩に現れた方のサイクロプスだ」
「何?  もう一匹サイクロプスが現れたのか?」
「そうなんだよ。ただ、そっちのやつは世界樹の奥から急に現れたと思ったら、グラズス山脈の方へ一目散に走って行ったらしい」
「へぇ、それじゃあそのサイクロプスは魔眼がどんな効果かわからないのか」
「ああ。て言っても、山脈の方に行ったのなら里には関係ないだろうし、いくら世界樹への道の警備を任されているとはいえ、俺たちみたいなただの一般兵には関係ない話だろうけどな」
「それもそうだな。それより、俺この前初めてトウカ様を見たんだよ。なんか顔色がすごい悪そうだったけど大丈夫なのかね」
「はぁ?  人違いじゃねぇのか?  トウカ様を見たことあるやつなんて、宮殿に住んでるお偉いさんだけだろ」
「えぇ、この前俺が夜勤で働いてる時に現れて、トウカ様の名前の通行証を持ってたから間違いねぇと思うんだけどなぁ。それに、物凄い美人で俺にお疲れ様ですって微笑んでくれたし」
「はぁ、それは間違いなくお前の勘違いだな。モテなさすぎて幻覚を見るとは。今日の仕事が終わったら奢ってやるから元気出せよ」
「ち、違ぇって!  本当にトウカ様を見たんだ!」
「はいはい。あんまり騒いでると隊長に怒られるぞ。今晩は朝まで付き合ってやるから落ち着けよ、な?」
「はぁ、俺が見たのはトウカ様だと思うんだけどなぁ」




 その後も、エルフの里から世界樹ユグドラシルへと続く道への警備をしていた二人のエルフは、夜勤の者と交代した後で、約束通り朝まで飲み明かした。


 彼らの聞いたサイクロプスの話は警備兵内でのあくまで噂でしかないのだが、それが真実か否かはまた別の話である。

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