クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...

がいとう

15話 静かな夜

 風舞






 夕飯のウサギ肉とレタスもどきのサンドイッチを食べた俺達は、近くにあった一本の木の下で肩を寄せ合って一枚の毛布にくるまっていた。
 毛布や寝袋は一つもないと思っていたが、舞が背負っていたリュックに一枚だけ入っていたため、3人でそれを使っている。
 舞が魔法で起こした焚き火に枝をへし折って火魔法で乾燥させた薪を放り込みながら口を開いた。




「それで、明日からはどうしましょうか。歩きながら話した通り、ユグドラシルまでこのまま進むのかしら?」
「そうだなぁ。アンの魔力拒絶反応を治す為にもどっちにしろユグドラシルまで行かなくちゃいけないんだし、それで良いんじゃないか?  今からソレイドに帰ってもみんなの迷惑になりそうだし」
「妾のせいですまぬ」
「ああ、ごめんごめん。そういう意味で言ったんじゃないんだ。ほら、ポケットに入ってた飴ちゃんあげるから元気出せって」
「むぅ。妾は子供じゃ無いんじゃが」




 そう言いながらも俺が差し出した飴玉を口に入れて舐め始めるローズ。
 今晩は一応ローズが一人でどこかに行ってしまわないように、俺と舞でローズを挟んで寝る事になっている。
 所謂川の字スタイルだ。




「それで今後の話だけど、出来れば馬車が欲しいな。走った方が早いってのはあるけど、荷物を抱えたまま歩くのは正直怠いし、幌付きの馬車なら少しは身を隠せるだろ」
「うむ。確かに妾の術で姿を変えられるとはいえ、3人分の術となると妾の魔力も目減りしてしまうからな。フウマの言う通り途中で馬車を入手した方が良いじゃろう」
「でも、馬車が手に入る様な大きい街となると、街道沿いに6日は行かないと無いんじゃないかしら?  馬だけならともかく、馬車はどこでも売ってる様なものではないでしょう?」
「確かに。それじゃあ馬か馬車は見つけ次第購入って事で、基本的には歩きの旅になるのか」
「まぁ、そうするしかないかの」




 そこまで話した後、俺達は少しの間3人揃ってパチパチと鳴る焚き火をただ黙って見つめていた。
 こうしてこの3人で静かに過ごしているのも気分的に久しぶりな気がする。
 ここ二日はジャミーさんとファルゴさんが一緒にいたし、密度の高い日々だったらそんな事を思うのかもしれない。


 そんな事を思っていると、いつの間にかローズを膝の上に乗せてその長い耳をコリコリしていた舞がふと思いついた様に口を開いた。




「そういえば、エルフの里ってどんな所なのかしらね」
「ああ、確かに。やっぱり木でできた家で質素な暮らしをしてるんじゃないか?」
「別にエルフだけが質素な暮らしをしておるという事はないぞ。確かに六百年ほど前までは肉を食わず、争いを何よりも嫌う種族であったが、今は他の人族と殆ど同じ暮らしをしておるはずじゃ」
「へぇ。それじゃあ、600年前に何か生活を変えるきっかけでもあったのか?  エルフって長命だから頑固なイメージがあるけど」
「うむ。エルフは妾達吸血鬼と同じくらい生きるし、閉塞的な環境で暮らしておったから当時はかなり排他的であったと聞いておる」
「因みに、吸血鬼は大体何年ぐらい生きるのかしら?」
「レベル1のままなら400年といった所かの。ただ、レベルの上昇によって寿命はかなり伸びるし、魔族で最高齢の叔母上はもう何千年生きておるのかわからんと言っておったから、種族毎の寿命の差など大したことではないじゃろうな。実際、比較的寿命の短い獣人でもそこそこレベルの高いボタンは数百年生きておる訳じゃし」
「それじゃあ、私もとりあえず千年間生きてみようかしら。ね、風舞くん!」
「ね!  …って、千年て取り敢えずで目標にする年月じゃないだろ。まぁ、別に構わないけど」
「ふん。まだ50も生きてないくせによく言うわい」




 舞の耳に手を伸ばしてみょんみょんしながら、意地悪そうな顔をするローズ。
 確かにまだ十年ちょいしか生きてない俺達には数十年後の事ですら分からないのに、千年なんて気の遠くなる年月想像もつかないよな。




「それで、600年前のエルフに何があったんだ?」
「ああ、そういえばその話の途中じゃったな。さて、どこから話したもんか」
「ねぇ風舞くん。折角だし何かを賭けて予想してみましょうよ」
「まぁ良いけど、舞は何を賭けるんだ?」
「そうね。私が当てたら1日風舞くんに私の言う事を全部聞いて貰うわ」
「全部ってマジかよ」
「マジよ」




 舞が二マーっと小悪魔の様な笑みを浮かべながら俺の方を見つめてくる。
 舞の言うことを一日中聞き続けるとか碌な事にならない気がする。
 ただでさえ舞には貸しだらけなのに、これ以上舞に頭が上がらない原因を作る訳にはいかない。
 ここは俺も同等の要望を出してやる気を出さなくては。




「それじゃあ、俺が当てたら舞には1日俺のメイドになってもらうか」
「ふ、風舞くんは鬼畜ね。きっと私のご主人様になったのを良い事にあんな事やこんな事、果てはそんな事まで命令してくるつもりなんだわ!」
「舞の従者姿は中々のものじゃし、期待しても、アブブブ!?」
「あら、ローズちゃん。またお仕置きされたいのかしら?」




 舞が自分の前に座るローズの口に手を当てながら水魔法を使う。
 あーあ。
 毛布濡れちゃってんじゃん。
 まったく、何やってんだよ。




「ふ、フウマ。絶対に当てるのじゃぞ!  マイをぎゃふんと言わせてやるのじゃ!」
「はいはい。舞もそろそろローズを離してやれ。耳が赤くなってるぞ」
「むぅ。風舞くんはローズちゃんに甘いわね」




 舞がそう言いながら膝の上に置いていたローズを解放し、一度立ち上がって伸びをした。
 舞の耳を離したローズは這い這いで俺の方へやって来て、俺の脚の間にもぞもぞと入ってくる。
 今晩は結構冷えるし、薄着のローズには少し寒いのかもしれない。


 それにしても、こいつは魔王としての威厳を出さない時はひっつき虫になるんだな。
 今も俺の胸に後頭部をこすりつけてくるし、魔王時代の反動で人肌が恋しいのかもしれない。


 そんな事を考えていると、二の腕を抱いて少しぶるっとした舞が俺の横に毛布をかけながら入って来た。




「さて、それじゃあちょっと考えてみるか」
「うむ。頑張るのじゃぞ」
「ふふん!  絶対に負けないわ!」




 拳をギュッと握ってやる気満々の舞を横目に、俺はエルフについて考える為に目を閉じた。


 600年前のエルフは争いを嫌い野菜も食べない様なこれぞエルフって感じの種族だった。
 それで文化が変わるような出来事があったという事らしいが、


 ………。
 駄目だ。何も分からん。




「なぁ、舞。もう少しローズにヒントを貰ってからにしないか?  流石に情報が少なすぎる」
「それもそうね。それじゃあ一人一個ずつローズちゃんに質問をする事にしましょう」
「というわけでローズ。問題の答えは言わないように説明を頼むぞ」
「うむ。何でも尋ねるが良いぞ」
「それじゃあ、俺から聞くぞ。エルフが変わる原因となったのは災害とかの自然的な現象か、それとも人為的な出来事のどっちだ?」
「ふむ。中々にいい質問じゃな。エルフが変わったのは自然現象が原因ではない。これ以上は答えに近くなり過ぎるから控えるかの」




 自然現象じゃないとすると、何かの集団か人物が関わっているって事か。
 昔のエルフは頑固だって言ってたし、その人物か集団がエルフの里に新しい風を吹き込んだのかもしれない。




「次は私の番ね。私はエルフの種族的な特性を聞きたいわ」
「そうじゃな。先程も言った通りエルフは長命で魔法に長けたものが多い。耳も尖っておるし、魔族における吸血鬼が人族におけるエルフだと言っても良いじゃろう。後は、エルフは美形が多いというのも有名な話じゃな」
「なぁ、ローズ。俺達は吸血鬼についてもそこまで知らないし、その説明じゃよく分からないぞ」
「ああ、言われてみれば吸血鬼について話した事は無かったの。そうじゃなぁ、妾達吸血鬼は魔族の中でも戦闘能力が極めて高く寿命も長いが、子孫を残す力が非常に弱い事で有名な種族じゃ。その証拠として子を成しづらいだけではなく、異種族との間の子供はその相手の種族の子供である事が非常に多いのじゃ」
「なるほど。それじゃあハーフヴァンパイアとかは産まれないのかしら?」
「いや、吸血鬼と異種族の間に子を成した時に2番目に多く産まれるのが混血種じゃ。一般的には人族や鬼族など、吸血鬼と姿がよく似ている種族と子を成した時に混血種が産まれ易いと言われておるの」
「へぇ、種族がある世界だと出産事情も色々あるんだな。あと、前から気になってたんだけど、ローズは血は吸わないのか?  吸血鬼っていうぐらいだから吸わないって事はないんだろ?」
「あぁー。それはじゃな、その」
「どうしたのローズちゃん?  目が物凄い泳いでるわよ」
「う、うむ。その、恥ずかしい話なんじゃが、妾は血が飲めんのじゃ。一口飲んだだけでも酔いが回ってしまって敵わん」
「え?  血を吸うのって吸血鬼にとっては酒を飲むのと変わんないのか?」
「うむ。吸血鬼にとって血液は嗜好品の類じゃな。別に生きていくだけなら必要のないものじゃ」




 へぇ、てっきりローズは長年の修行で吸血衝動を克服したとかで血を飲まなくなったと勝手に思っていたが、そもそも血液自体生きていく上では摂取しなくていいものだったのか。
 血を飲むのは酒を飲むのと似たようなものらしいし、吸血衝動を抑えられない吸血鬼はただのアル中と変わらないのかもしれない。


 それにしても、ローズが血において下戸だというのは少し意外だ。
 魔王とかやってたぐらいだから、血液をワイングラスに入れて飲んでそうなのに。
 そんな事を考えながらローズのつむじを眺めていると、舞がローズのほっぺたをつつきながら意地悪そうな顔をしてローズに話しかけた。




「ふふっ。ローズちゃんは血を飲んだら直ぐに酔っちゃうなんて、可愛らしいわね」
「これマイよ。大人をからかうものではないぞ。わ、妾にだって苦手なものの一つや二つあるんじゃ!」
「ふふ、ごめんなさいね。酔っ払って目を回しているローズちゃんを想像したら可愛いかったからついついからかってしまったわ」
「も、もう良いじゃろ!  さっさと600年前エルフに何があったのか考えんか!」




 ローズがニマニマとする舞を押しのけながら少し必死になってそう言った。
 血が飲めないっていうのはローズにとってそこまで恥ずかしい事なのか。
 今度からローズをからかう時はこの事をいじっても良いかもしれない。


 俺はそんな事を思いながら、再びエルフが文化を変えるに至った出来事を予想し始めた。

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