クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...
12話 全裸の戦い
舞
「それで、さっきから思ってたんだが、なんでこんなところに魔族がいるんだ?」
ローズちゃんの腕を掴んだまま、シェリーさんが獰猛に笑う。
ローズちゃんは目の色を赤から青に変えることで、今までは吸血鬼ではなくエルフと言って通してきた。
今日この時までローズちゃんは街や村では珍しいエルフとしてそれなりに人々の注目を集めていたが、今回の様にその正体を疑われる事はなかったと思う。
おそらく、団長さんの人を見抜く力はミレイユさんよりも数段上手なのだろう。
そんな事を考えながら重心を低くして二人の動きを注視していると、腕を掴まれたままのローズちゃんが余裕の笑みを見せながら口を開いた。
「そう言えば、お主らは勘が鋭いのも取り柄じゃったな」
「それは魔族だって認めてるって事で良いのか?」
「うむ。確かに妾は魔族で間違いないぞ。より厳密に言うなら吸血鬼じゃな」
「そうかよ」
そう言うとシェリーさんがローズちゃんの顔面に向かって左手の拳を振り抜いた。
ローズちゃんは一歩前に踏み込む事でそれを避け、床を踏み砕いてシェリーさんのバランスを崩す。
シェリーさんはローズちゃんの右手を掴んだまま体勢を整えようとするが、
ローズちゃんに肘を殴られることで捕んでいた腕を無理やり振り解かれた。
二人は互いに距離をとって同時に口角を上げながら睨みあう。
「魔族の癖にやるじゃないか。たった一発で肘が砕かれちまった」
「ふん、妾の手首を粉々にしたくせに良く言うわい」
ローズちゃんがそう言いながら回復魔法をかけて自分の手首を治す。
シェリーさんはそれを見て舌打ちをし、左手のみでファイティングポーズをとった。
「ほれ、優しく撫でてやるからさっさとかかってこんかい」
「ちっ、舐めるな!」
そう言ったシェリーさんが縮地で一気に距離をつめて、下段の蹴りを放つ。
ローズちゃんはそれをジャンプして躱し空中でお得意の回し蹴りを放ったが、
シェリーさんがしゃがんでそれを避け左手で鋭いアッパーを放った。
顔に迫る拳を左手で受け止めようとしたが、思ったよりもシェリーさんの拳の威力が強かったのか、ローズちゃんはそのまま後方へと吹っ飛んでいく。
確かに今の拳は少し離れて見ている私にも拳圧が感じられるほどだったし、飛ばされるのも無理はないかもしれない。
ローズちゃんは風呂場の壁へと一直線に吹っ飛んでいく。
そこへニヤリと笑みを浮かべたシェリーさんが、縮地を使いながら回し蹴りをして追い討ちをかけた。
先程ローズちゃんがやった回し蹴りを選ぶあたり、どうやらシェリーさんは負けず嫌いらしい。
ドガンッッ!
回し蹴りを両腕をクロスさせて防いだローズちゃんは真後ろへ風魔法を放つ事でその勢いを殺し、壁との直撃は何とか回避する。
風呂場の床にスタリと着地したローズちゃんが肩を軽く回しながら、少し驚いた顔をして口を開いた。
「ふむ。思ったよりもやるではないか」
「ちっ、今のを受けて無傷かよ。化け物め」
「なに、妾に魔法を使わせただけでも誇って良いと思うぞ」
現在のローズちゃんは魔封結晶の1つから力を完全に吸いとった事で、ほとんどのステータスが四桁に近くなっている。
今の戦闘を見る限りシェリーさんも同じくらいのステータスがあるのだろうが、技量においてはローズちゃんの方がかなり上のようだ。
何というか、シェリーさんは自分の感覚に頼り過ぎな気がするのだ。
おそらく今までは猛獣の様な野生の勘と戦闘センスだけで、戦い抜いてきたのだろう。
あれならステータスにおいては少し劣る私と良い勝負をするぐらいの強さしかないと思う。
ずば抜けた戦闘センスを持っているのに、技を知らないなんて勿体無いわね。
二人を見ながらそう考察していると、壁に穴が開いて外から丸見えになっているお風呂場に、勢い良くドアを開けて金髪を三編みにした丸眼鏡の女性が現れた。
「ご無事ですか団長!  って、右腕を怪我してるじゃないですか!」
「ああ。そこのチビにやられた」
「お前が団長を、殺す!」
丸眼鏡の人はそう言うと腰に差していた双剣を抜いて、ローズちゃんへ攻撃を仕掛けようとする。
私は縮地を使って丸眼鏡の人の前に割り込み、そのまま風魔法を放って吹き飛ばした。
私の魔法は練度と正確さにおいては風舞くんやローズちゃんの魔法には遠く及ばないが、魔法攻撃力の高さによってそこそこの威力がある。
風の奔流に呑まれた女性はそのまま真後ろへと吹っ飛んでいき、脱衣所の壁に当たって悶え始めた。
「あっちの丸眼鏡の人は私に任せといてちょうだい!」
「うむ。お主なら武器がなくとも余裕で勝てる相手じゃろうが、油断するでないぞ」
「分かったわ。ローズちゃんも頑張ってね!」
そこで話を切り上げた私は、丸眼鏡の人の後を追って脱衣所の方へ素早く向かった。
ローズちゃんが魔族だとバレてしまったし、手早くあの人を片付けて逃げる準備をした方が良いわね。
私は今後の予定を立てつつ、目の前の戦闘に向けて精神を研ぎ澄ませていった。
◇◆◇
風舞
「おい!  やっぱり詰所で誰かが戦ってるみたいだぞ!」
「ちっ、無事でいてくれよシェリー!」
焦りを顔に浮かべながらそう言い合うジャミーさんとファルゴさん。
確かに二人の言うようにセイレール騎士団の詰所の辺りで土煙が上がり、激しい戦闘音が聞こえてくる。
ヤバイな。
俺のスキルの1つである直感が、戦っているのは十中八九舞とローズだと告げている。
まさか団長さんやネーシャさんと戦ってるんじゃないよな?
もしそうならどうやってこの前を走る二人に弁解すれば良いんだよ。
そんな不安を胸に二人の後を追って詰所に辿りつくと、家の前の小さな庭でローズと団長さんが全裸で戦っている光景が目に入ってきた。
詰所から少し離れた所では、沢山の人がその戦闘の行方を見守っている。
「おいシェリー!  なんでミレンとお前が戦ってるんだ!  ていうか服はどうした!」
「うるせぇ!  今集中してんだから邪魔すんな!」
ファルゴさんの呼びかけに団長さんが真剣な表情で投げやりな言葉を返す。
ジャミーさんとファルゴさんはこの光景を見て何が起こっているのか理解できないといった感じで、焦りを顔に浮かべながらも呆然としている。
「おいミレン!  俺も一緒に謝ってやるから、さっさと戦闘をやめて頭を下げろ!」
「妾は別に何もしておらんし、最初に殴りかかって来たのは此奴の方じゃ!」
「嘘つけ!  それじゃあ何で、団長さんとガチで戦ってるんだよ!」
「それは今は言えぬ!」
今は言えないってどういう事だよ。
舞とローズがあの後団長さんを怒らせたから戦闘になったんじゃないのか?
そう言えば、普段ならこういう騒ぎの中心にいそうなお転婆娘の舞はどこに行ったんだ?
壁に穴が開いて風呂場の中が外から見える様になっているが、そこに舞の姿は確認できない。
戦闘音はローズと団長さんの起こす音以外聞こえないし、舞がここにいない理由がちっとも分からない。
そんなことを考えながら周囲をキョロキョロと見回していると、ネーシャさんを肩に背負った舞が玄関のドアを開けてなに食わぬ表情で出てきた。
「あら、フーマくん。帰って来たのね」
「あ、ああ。それより、俺達が出掛けている間に何があったんだ?」
「え、えーっと。それは後で話すわ。それよりも、今はミレンちゃんとシェリーさんの戦闘を止めた方が良いんじゃかしら?  流石にこれ以上騒ぎが大きくなるのはマズイと思うわよ」
舞が横にネーシャさんをそっと下ろしながらそう言う。
ネーシャさんは一見した感じ外傷は無いようだが、気を失っているようでピクリとも動かない。
「それじゃあ、舞もあの二人を止めるの手伝ってくれよ」
「わ、私はまだ水着のままだし、武器もないから取って来るわね!」
そう言った舞がタタタッとまた詰所の奥の方へ戻って行ってしまった。
えぇ?
それじゃあ何で出てきたんだよ。
何ていうか、舞の様子が少しおかしかったし何か事情でもあるのか?
そんな感じで新たに増えた疑問に首を傾げていると、横に立っていたジャミーさんが俺に声をかけてきた。
「おい、フーマ。これは一体何が起こってるんだ」
「いや、俺に聞かれても何が何だか分かんないです。でも、そろそろあの二人を止めないと不味くないですか?」
「ああ。それはそうなんだが、俺にはあそこに割り込める自信がないぞ」
ジャミーさんかがローズと団長さんの戦闘を見ながらそう言う。
確かに今も激しい攻防を繰り広げているあの中に割り込んで行って、二人の気をそらすのは至難の技だろう。
ファルゴさんとネーシャさんの喧嘩の時と違って、そこまで興奮していないローズはともかく、団長さんは魔力を当てたくらいじゃ動きを止めそうにない様に見える。
ただ、この前のアセイダルとの戦闘の時のように、二人の動きを大して見切れないが、スキルの直感と豪運と称号の大物食いで自分の実力を誤魔化したら戦闘に割り込めるんじゃないか?
というか、舞の様子もおかしかったし、何としてでも二人の戦闘を素早く止めて事情を聞かなければならない気がしてならないのだ。
さっきから俺のスキルとは全く関係なく、頭の奥の方から早く事態の収拾をつけないと取り返しのつかない事になるぞと警鐘が響いて鳴り止まないし。
「ジャミーさん、ファルゴさん。あの二人の動きを一瞬だけ止めるんで、そうしたら団長さんを二人がかりで押さえてもらって良いですか?  ミレンの方は俺が何とかします」
「何とかって本当に出来るのか?  フーマはあの中で攻撃を一発でも貰えば間違いなく即死するんだぞ!」
「はい。それは分かってるんですけど、俺の戦闘はいつも格上ばっかりなんで今回も何とかなると思いますよ」
「そうは言うが、流石にフーマ一人にそんな重役を押し付ける訳には」
「ファルゴさん!  大事なお嫁さんの裸をこんなに沢山の人に見られたままで良いですか?」
「言い訳ないだろ!」
「それじゃあ、その片手剣借りますね。俺の直感が必要だと言ってるんで」
そう言ってから俺はジャミーさんが腰に差していた片手剣を左手で引き抜き、右手には自分の片手剣を持ってローズと団長さんの方へスタスタと歩いて行った。
後ろでジャミーさんとファルゴさんが何か言っているが、俺はそれを無視して真っ直ぐ歩く。
考えるな。
頭を空っぽにして豪運と直感と大物食いに全てを委ねろ。
きっと俺のスキルのLVはアセイダルとの戦闘を経て少なからず上がっているだろうし、多分どうにかなるはずだ。
俺は出来るだけ余計な事を考えず、されど二人の動きをしっかりと注視して両手に持った剣を構えた。
ローズはそんな半ば無我の境地に入っている俺を見て何も言わずに口角を上げ、それに対する団長さんは俺が剣を構えながら近づいてくるのを見て、少なからず俺に注意を払っている。
「邪魔をするな!」
二人のすぐ目の前まで俺が近づいたタイミングで放たれたローズの蹴りを団長さんが半身になって躱し俺の方へ向かって鋭い蹴りを放って来た。
団長さんの攻撃が始める前に動き出していた俺は、その攻撃をファルゴさんの剣でそらし、
続くもう片方の脚で放たれる蹴りを自分の片手剣を団長さんの股関節に這わせる事で無理矢理止めさせる。
怯えるな。
どうせ俺の実力じゃ敵わないのは分かってるんだ。
ここで手を緩めずに一気に攻めろ。
団長さんは俺の片手剣が自分に密着している為、一度下がって距離を取ろうとしたが、
俺はスキルや称号に導かれるままに、そこへ向かってジャミーさんの剣をぶん投げた。
「良くやったのじゃ」
団長さんは回避中に飛んでくる片手剣に気をとられて、身を低くしたローズが縮地を使って切迫していた事に寸前まで気づかなかった。
俺の力ではまだまだ決め手に欠けるが、そこは俺の師匠が補ってくれるらしい。
団長さんがローズの両手の掌底をくらって、真後ろに吹っ飛んで行く。
そこでようやくファルゴさんとジャミーさんが、団長さんの元へ走って行ってその身を抑えるために動き始めた。
ふぅ。何とかなったみたいだな。
俺はファルゴさんとジャミーさんの様子を横目に確認しつつローズに小声で話しかける。
「おい、何があったんだよ」
「うむ。あの赤髪の娘に妾が魔族である事を見破られてしまったのじゃ。今舞が中で最低限の荷物を纏めておる様じゃし、このまま村の外まで逃げるぞ」
「マジかいな」
俺は全裸で真面目な顔をして話す間抜けなローズを見ながら、ついついそんな台詞を漏らした。
どうしてこうなった。
「それで、さっきから思ってたんだが、なんでこんなところに魔族がいるんだ?」
ローズちゃんの腕を掴んだまま、シェリーさんが獰猛に笑う。
ローズちゃんは目の色を赤から青に変えることで、今までは吸血鬼ではなくエルフと言って通してきた。
今日この時までローズちゃんは街や村では珍しいエルフとしてそれなりに人々の注目を集めていたが、今回の様にその正体を疑われる事はなかったと思う。
おそらく、団長さんの人を見抜く力はミレイユさんよりも数段上手なのだろう。
そんな事を考えながら重心を低くして二人の動きを注視していると、腕を掴まれたままのローズちゃんが余裕の笑みを見せながら口を開いた。
「そう言えば、お主らは勘が鋭いのも取り柄じゃったな」
「それは魔族だって認めてるって事で良いのか?」
「うむ。確かに妾は魔族で間違いないぞ。より厳密に言うなら吸血鬼じゃな」
「そうかよ」
そう言うとシェリーさんがローズちゃんの顔面に向かって左手の拳を振り抜いた。
ローズちゃんは一歩前に踏み込む事でそれを避け、床を踏み砕いてシェリーさんのバランスを崩す。
シェリーさんはローズちゃんの右手を掴んだまま体勢を整えようとするが、
ローズちゃんに肘を殴られることで捕んでいた腕を無理やり振り解かれた。
二人は互いに距離をとって同時に口角を上げながら睨みあう。
「魔族の癖にやるじゃないか。たった一発で肘が砕かれちまった」
「ふん、妾の手首を粉々にしたくせに良く言うわい」
ローズちゃんがそう言いながら回復魔法をかけて自分の手首を治す。
シェリーさんはそれを見て舌打ちをし、左手のみでファイティングポーズをとった。
「ほれ、優しく撫でてやるからさっさとかかってこんかい」
「ちっ、舐めるな!」
そう言ったシェリーさんが縮地で一気に距離をつめて、下段の蹴りを放つ。
ローズちゃんはそれをジャンプして躱し空中でお得意の回し蹴りを放ったが、
シェリーさんがしゃがんでそれを避け左手で鋭いアッパーを放った。
顔に迫る拳を左手で受け止めようとしたが、思ったよりもシェリーさんの拳の威力が強かったのか、ローズちゃんはそのまま後方へと吹っ飛んでいく。
確かに今の拳は少し離れて見ている私にも拳圧が感じられるほどだったし、飛ばされるのも無理はないかもしれない。
ローズちゃんは風呂場の壁へと一直線に吹っ飛んでいく。
そこへニヤリと笑みを浮かべたシェリーさんが、縮地を使いながら回し蹴りをして追い討ちをかけた。
先程ローズちゃんがやった回し蹴りを選ぶあたり、どうやらシェリーさんは負けず嫌いらしい。
ドガンッッ!
回し蹴りを両腕をクロスさせて防いだローズちゃんは真後ろへ風魔法を放つ事でその勢いを殺し、壁との直撃は何とか回避する。
風呂場の床にスタリと着地したローズちゃんが肩を軽く回しながら、少し驚いた顔をして口を開いた。
「ふむ。思ったよりもやるではないか」
「ちっ、今のを受けて無傷かよ。化け物め」
「なに、妾に魔法を使わせただけでも誇って良いと思うぞ」
現在のローズちゃんは魔封結晶の1つから力を完全に吸いとった事で、ほとんどのステータスが四桁に近くなっている。
今の戦闘を見る限りシェリーさんも同じくらいのステータスがあるのだろうが、技量においてはローズちゃんの方がかなり上のようだ。
何というか、シェリーさんは自分の感覚に頼り過ぎな気がするのだ。
おそらく今までは猛獣の様な野生の勘と戦闘センスだけで、戦い抜いてきたのだろう。
あれならステータスにおいては少し劣る私と良い勝負をするぐらいの強さしかないと思う。
ずば抜けた戦闘センスを持っているのに、技を知らないなんて勿体無いわね。
二人を見ながらそう考察していると、壁に穴が開いて外から丸見えになっているお風呂場に、勢い良くドアを開けて金髪を三編みにした丸眼鏡の女性が現れた。
「ご無事ですか団長!  って、右腕を怪我してるじゃないですか!」
「ああ。そこのチビにやられた」
「お前が団長を、殺す!」
丸眼鏡の人はそう言うと腰に差していた双剣を抜いて、ローズちゃんへ攻撃を仕掛けようとする。
私は縮地を使って丸眼鏡の人の前に割り込み、そのまま風魔法を放って吹き飛ばした。
私の魔法は練度と正確さにおいては風舞くんやローズちゃんの魔法には遠く及ばないが、魔法攻撃力の高さによってそこそこの威力がある。
風の奔流に呑まれた女性はそのまま真後ろへと吹っ飛んでいき、脱衣所の壁に当たって悶え始めた。
「あっちの丸眼鏡の人は私に任せといてちょうだい!」
「うむ。お主なら武器がなくとも余裕で勝てる相手じゃろうが、油断するでないぞ」
「分かったわ。ローズちゃんも頑張ってね!」
そこで話を切り上げた私は、丸眼鏡の人の後を追って脱衣所の方へ素早く向かった。
ローズちゃんが魔族だとバレてしまったし、手早くあの人を片付けて逃げる準備をした方が良いわね。
私は今後の予定を立てつつ、目の前の戦闘に向けて精神を研ぎ澄ませていった。
◇◆◇
風舞
「おい!  やっぱり詰所で誰かが戦ってるみたいだぞ!」
「ちっ、無事でいてくれよシェリー!」
焦りを顔に浮かべながらそう言い合うジャミーさんとファルゴさん。
確かに二人の言うようにセイレール騎士団の詰所の辺りで土煙が上がり、激しい戦闘音が聞こえてくる。
ヤバイな。
俺のスキルの1つである直感が、戦っているのは十中八九舞とローズだと告げている。
まさか団長さんやネーシャさんと戦ってるんじゃないよな?
もしそうならどうやってこの前を走る二人に弁解すれば良いんだよ。
そんな不安を胸に二人の後を追って詰所に辿りつくと、家の前の小さな庭でローズと団長さんが全裸で戦っている光景が目に入ってきた。
詰所から少し離れた所では、沢山の人がその戦闘の行方を見守っている。
「おいシェリー!  なんでミレンとお前が戦ってるんだ!  ていうか服はどうした!」
「うるせぇ!  今集中してんだから邪魔すんな!」
ファルゴさんの呼びかけに団長さんが真剣な表情で投げやりな言葉を返す。
ジャミーさんとファルゴさんはこの光景を見て何が起こっているのか理解できないといった感じで、焦りを顔に浮かべながらも呆然としている。
「おいミレン!  俺も一緒に謝ってやるから、さっさと戦闘をやめて頭を下げろ!」
「妾は別に何もしておらんし、最初に殴りかかって来たのは此奴の方じゃ!」
「嘘つけ!  それじゃあ何で、団長さんとガチで戦ってるんだよ!」
「それは今は言えぬ!」
今は言えないってどういう事だよ。
舞とローズがあの後団長さんを怒らせたから戦闘になったんじゃないのか?
そう言えば、普段ならこういう騒ぎの中心にいそうなお転婆娘の舞はどこに行ったんだ?
壁に穴が開いて風呂場の中が外から見える様になっているが、そこに舞の姿は確認できない。
戦闘音はローズと団長さんの起こす音以外聞こえないし、舞がここにいない理由がちっとも分からない。
そんなことを考えながら周囲をキョロキョロと見回していると、ネーシャさんを肩に背負った舞が玄関のドアを開けてなに食わぬ表情で出てきた。
「あら、フーマくん。帰って来たのね」
「あ、ああ。それより、俺達が出掛けている間に何があったんだ?」
「え、えーっと。それは後で話すわ。それよりも、今はミレンちゃんとシェリーさんの戦闘を止めた方が良いんじゃかしら?  流石にこれ以上騒ぎが大きくなるのはマズイと思うわよ」
舞が横にネーシャさんをそっと下ろしながらそう言う。
ネーシャさんは一見した感じ外傷は無いようだが、気を失っているようでピクリとも動かない。
「それじゃあ、舞もあの二人を止めるの手伝ってくれよ」
「わ、私はまだ水着のままだし、武器もないから取って来るわね!」
そう言った舞がタタタッとまた詰所の奥の方へ戻って行ってしまった。
えぇ?
それじゃあ何で出てきたんだよ。
何ていうか、舞の様子が少しおかしかったし何か事情でもあるのか?
そんな感じで新たに増えた疑問に首を傾げていると、横に立っていたジャミーさんが俺に声をかけてきた。
「おい、フーマ。これは一体何が起こってるんだ」
「いや、俺に聞かれても何が何だか分かんないです。でも、そろそろあの二人を止めないと不味くないですか?」
「ああ。それはそうなんだが、俺にはあそこに割り込める自信がないぞ」
ジャミーさんかがローズと団長さんの戦闘を見ながらそう言う。
確かに今も激しい攻防を繰り広げているあの中に割り込んで行って、二人の気をそらすのは至難の技だろう。
ファルゴさんとネーシャさんの喧嘩の時と違って、そこまで興奮していないローズはともかく、団長さんは魔力を当てたくらいじゃ動きを止めそうにない様に見える。
ただ、この前のアセイダルとの戦闘の時のように、二人の動きを大して見切れないが、スキルの直感と豪運と称号の大物食いで自分の実力を誤魔化したら戦闘に割り込めるんじゃないか?
というか、舞の様子もおかしかったし、何としてでも二人の戦闘を素早く止めて事情を聞かなければならない気がしてならないのだ。
さっきから俺のスキルとは全く関係なく、頭の奥の方から早く事態の収拾をつけないと取り返しのつかない事になるぞと警鐘が響いて鳴り止まないし。
「ジャミーさん、ファルゴさん。あの二人の動きを一瞬だけ止めるんで、そうしたら団長さんを二人がかりで押さえてもらって良いですか?  ミレンの方は俺が何とかします」
「何とかって本当に出来るのか?  フーマはあの中で攻撃を一発でも貰えば間違いなく即死するんだぞ!」
「はい。それは分かってるんですけど、俺の戦闘はいつも格上ばっかりなんで今回も何とかなると思いますよ」
「そうは言うが、流石にフーマ一人にそんな重役を押し付ける訳には」
「ファルゴさん!  大事なお嫁さんの裸をこんなに沢山の人に見られたままで良いですか?」
「言い訳ないだろ!」
「それじゃあ、その片手剣借りますね。俺の直感が必要だと言ってるんで」
そう言ってから俺はジャミーさんが腰に差していた片手剣を左手で引き抜き、右手には自分の片手剣を持ってローズと団長さんの方へスタスタと歩いて行った。
後ろでジャミーさんとファルゴさんが何か言っているが、俺はそれを無視して真っ直ぐ歩く。
考えるな。
頭を空っぽにして豪運と直感と大物食いに全てを委ねろ。
きっと俺のスキルのLVはアセイダルとの戦闘を経て少なからず上がっているだろうし、多分どうにかなるはずだ。
俺は出来るだけ余計な事を考えず、されど二人の動きをしっかりと注視して両手に持った剣を構えた。
ローズはそんな半ば無我の境地に入っている俺を見て何も言わずに口角を上げ、それに対する団長さんは俺が剣を構えながら近づいてくるのを見て、少なからず俺に注意を払っている。
「邪魔をするな!」
二人のすぐ目の前まで俺が近づいたタイミングで放たれたローズの蹴りを団長さんが半身になって躱し俺の方へ向かって鋭い蹴りを放って来た。
団長さんの攻撃が始める前に動き出していた俺は、その攻撃をファルゴさんの剣でそらし、
続くもう片方の脚で放たれる蹴りを自分の片手剣を団長さんの股関節に這わせる事で無理矢理止めさせる。
怯えるな。
どうせ俺の実力じゃ敵わないのは分かってるんだ。
ここで手を緩めずに一気に攻めろ。
団長さんは俺の片手剣が自分に密着している為、一度下がって距離を取ろうとしたが、
俺はスキルや称号に導かれるままに、そこへ向かってジャミーさんの剣をぶん投げた。
「良くやったのじゃ」
団長さんは回避中に飛んでくる片手剣に気をとられて、身を低くしたローズが縮地を使って切迫していた事に寸前まで気づかなかった。
俺の力ではまだまだ決め手に欠けるが、そこは俺の師匠が補ってくれるらしい。
団長さんがローズの両手の掌底をくらって、真後ろに吹っ飛んで行く。
そこでようやくファルゴさんとジャミーさんが、団長さんの元へ走って行ってその身を抑えるために動き始めた。
ふぅ。何とかなったみたいだな。
俺はファルゴさんとジャミーさんの様子を横目に確認しつつローズに小声で話しかける。
「おい、何があったんだよ」
「うむ。あの赤髪の娘に妾が魔族である事を見破られてしまったのじゃ。今舞が中で最低限の荷物を纏めておる様じゃし、このまま村の外まで逃げるぞ」
「マジかいな」
俺は全裸で真面目な顔をして話す間抜けなローズを見ながら、ついついそんな台詞を漏らした。
どうしてこうなった。
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