クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...
2話 準備
風舞
ソレイドにある俺達の家の前にて、俺と舞とローズの3名はアンの魔力拒絶反応を治すのに必要な世界樹ユグドラシルの朝露を採りに行く旅のために、馬車に必要な荷物を運びこんだりと早朝から準備をしていた。
俺はまだ魔法が使えないままのためアイテムボックスに全部入れていくという楽ができず、今回は馬車を使っての移動となる。
一応ローズもアイテムボックスを使えるが、ローズの場合は何回も出し入れするには魔力消費が多すぎるため彼女のアイテムボックスには貴重品以外入れていない。
「ふぅ、これで最後ね」
「ああ。食料と水も積んだし、毛布とか薬とかも運び込んだから問題ないだろ」
「まあ、ここから一番近い町は馬車で五日の距離にあるらしいし、何か足りなさそうだったらそこで買えばいいわね」
「それもそうだな。っと。馬の調子はどうだミレン?」
俺は馬車の荷台から飛び降り、馬の世話をしていたローズに話しかけた。
この馬車と馬は商人ギルドに長旅に出るから旅に必要な物を一式揃えてくれと頼んだら用意してくれたものの一部である。
ローズがこの馬車と馬を見て「商人ギルドのジェイとか言う男はなかなかのやり手じゃな」とか言ってたし、結構良いものなのだろう。
「うむ。ファイアー帝王の体調と気力は共に申し分ない。こ奴は大人しくて良い子じゃし、予定通りに馬車を進めてくれるじゃろうな」
ローズがファイアー帝王の首を撫でながらそう言った。
因みにファイアー帝王という謎センスな名前は舞とローズの両名によって付けられたものである。
なんでも二人で名前に入れたい言葉を出し合ったとかなんとか。
まぁ、それはともかく。
今日もソレイドの天気は良好だし馬の調子もいいなら絶好の出発日和と呼べるだろう。
そんな感じで幸先の良さを感じながらファイアー帝王を眺めていると、シルビアさんとアンが家の中から二人揃って出て来た。
「申し訳ありません皆様。出発の準備はもう終わってしまったようですね」
「ああ、気にすんな。そこまで荷物が多かった訳でもないし、結構早く終わったからな。それにアンの様子を見てきてくれって頼んだのは俺なんだからシルビアさんが謝ることないぞ」
「ありがとうございますフーマ様。そう言って頂けると幸いです」
「シルビアさんは相変わらず真面目だな。もっと肩の力を抜いてアンと話してる時みたいに接しても良いんだぞ?」
「そ、そういう訳には」
「そうだよフーマ様。シルちゃんと仲良くお話できるのは一番の親友である私だけの特権なんだから、先ずはフーマ様はもっとシルちゃんと仲良くならないと駄目だね」
シルビアさんに支えられながら玄関から出てきたアンが人差し指を立てて軽く振りながらそう言った。
「もっと仲良くってどういう事だよ」
「そうだね、例えばシルちゃんをフーマ様が抱きしめて頭を撫でてあげるとかかな」
「ちょっとアン!?」「フーマくん!?」
驚いた声を上げながらアンの方を見るシルビアさんと、目を三角にして俺の方を見る舞。
表情こそ違えど、二人の動きはシンクロしていた。
「えぇ、できればもう少し簡単な奴で頼む」
「そうだなぁ、それじゃあシルちゃんも私みたいに呼び捨てで呼ぶってのはどう?  『さん』を付けてると他人行儀な感じがするし、シルちゃんはフーマ様よりも年下だし従者なんだよ?」
「まぁ、言われてみればそれもそうだな」
アンの言うようにシルビアさんは俺と舞よりも一つ年下だし、この前俺の従者となったのだからさんを付けて呼ぶのもおかしい気がする。
なんとなく惰性で同じ呼び方だったが、この機会に変えてみてもいいかもしれない。
「シルビア。俺達が留守の間この家とアンの事を頼んだぞ」
俺がシルビアさんに向かってそう言うと、それを聞いた彼女は目を見開いたまま固まってしまった。
「おーい。大丈夫か?」
「ほらシルちゃん。ちゃんとお返事しないと」
俺とアンがシルビアさんの顔の前で手を振ったり腕を掴んで体を揺らしたりすると、ようやく放心状態から戻って来たシルビアさんが両手をふりながら口を開いた。
「は、はい。すみません。大丈夫です。私は元気です」
「お、おう。それなら良いんだが」
「もう、ちゃんと嬉しいなら嬉しいって言わないとだめだよシルちゃん」
「ちょ、ちょっとアン!?」
顔を真っ赤にしながら尻尾をブンブンふって慌てた様子でそう言うシルビアさん。
「だってもう2か月はフーマ様達に会えないんだから言いたいことは言っておかないと」
「それはそうなんだけど」
「ほら、シルちゃん」
そう言ってシルビアさんの背中をぐいぐい押すアン。
なんか告白する子とそれを応援する仲のいい友達みたいに見えてきたな。
時々校舎裏で見かけるやつ。
まぁ、俺がこの位置に立ってるのは初めての経験なんだけど。
「あ、あの。フーマ様」
「ど、どうした?」
「その、フーマ様の無事なお帰りを心よりお待ちしております。それと、出来るだけ早く帰って来てくれると、その…嬉しいです」
シルビアが俯きがちに顔を真っ赤にしてそう言った。
やばい。
なんか凄い胸の辺りが熱くなるのを感じる。
「あ、ああ。出来るだけ早く帰って来るから待っててくれ」
「はい。お待ちしております」
シルビアがそう言ったのを見てなんだか気まずくなった俺が目をそらすと、ローズに押さえつけられている舞と、いつの間にかやって来たボタンさんとミレイユさんとガンビルドさんが俺達の方を微笑まし気に見ているのが目に入った。
「っていつからそこにいたんだ!?」
「ついさっきやよ。フーマはんがシルビアはんを呼び捨てにしたあたりやろか」
「結構初めから見てたんだな」
「すみません。なかなか入って行くタイミングが掴めなかったもので」
ミレイユさんが申し訳なさそうな顔をしながらそう言った。
確かに俺がミレイユさん達の立場でも入って行くのは躊躇いそうな空気だったし仕方ないかもしれない。
俺がそんなことを思っているとローズに解放された舞がミレイユさんの元へ寄って行って声をかけた。
「ミレイユさんが謝る事ではないわ。それよりも、お見送りに来てくれたのね!」
「はい!  私の専属冒険者の皆さんが遠出するんですから当然ですよ!」
「ガンビルドさんもこんなに朝早くからありがとうございます」
「俺とフーマの仲じゃねぇか。そんな水臭いこと言うんじゃねぇよ!」
ガンビルドさんが近所迷惑になりそうなくらい豪快にガハハと笑った。
まぁ、ここらは家と家の間がそこそこ空いてるから大声を出しても問題ないんだけど。
俺がそんな事を考えながらガンビルドさんを見上げていると、ボタンさんが俺の服の裾を掴んで皆から少し離れた後で小さい声で話し始めた。
「アンはんとシルビアはんの様子はうちが気にかけておくから心配あらへんよ。それと、これが世界樹のふもとにある集落の長への紹介状やね。多分必要になると思うから大事に持っといてなぁ」
「何から何まで悪いな」
「そんなん気にしいひんでええんよ。ただ、その代わりと言っては難やけど、今度またうちと二人でお酒を飲んでくれへん?」
「ああ。そんな事でいいならいつでも誘ってくれ」
「あらあら、またフウマはんと一緒に朝を迎える事になるかもしれへんよ?」
「マジでやめてくれ。ただまぁ、ボタンさんとお酒を飲むのは結構楽しかったからその時は頼む」
「あらあらあら、それじゃあフウマはんが帰って来るんを楽しみにしてるんよ」
ボタンさんはそう言うと俺の前髪をあげておでこに軽くキスをした。
彼女は俺を皆から隠すように立っているので誰も俺がキスされたことには気が付いていない。
「な、何を」
「出発の前のおまじないやよ」
ボタンさんは口元を隠しながら上品に笑うと皆がいる方へ戻って行った。
俺はバクバクいっている心臓を抑えながら、なんとか悪態をつく。
「ちくしょう。あの女狐め」
こういう事を急にしてくるからボタンさんは油断ならないんだよな。
そんな事を考えながらも、俺は少しの間額をおさえたまま動けずにいた。
今日はおでこ洗わずにいよっと。
ソレイドにある俺達の家の前にて、俺と舞とローズの3名はアンの魔力拒絶反応を治すのに必要な世界樹ユグドラシルの朝露を採りに行く旅のために、馬車に必要な荷物を運びこんだりと早朝から準備をしていた。
俺はまだ魔法が使えないままのためアイテムボックスに全部入れていくという楽ができず、今回は馬車を使っての移動となる。
一応ローズもアイテムボックスを使えるが、ローズの場合は何回も出し入れするには魔力消費が多すぎるため彼女のアイテムボックスには貴重品以外入れていない。
「ふぅ、これで最後ね」
「ああ。食料と水も積んだし、毛布とか薬とかも運び込んだから問題ないだろ」
「まあ、ここから一番近い町は馬車で五日の距離にあるらしいし、何か足りなさそうだったらそこで買えばいいわね」
「それもそうだな。っと。馬の調子はどうだミレン?」
俺は馬車の荷台から飛び降り、馬の世話をしていたローズに話しかけた。
この馬車と馬は商人ギルドに長旅に出るから旅に必要な物を一式揃えてくれと頼んだら用意してくれたものの一部である。
ローズがこの馬車と馬を見て「商人ギルドのジェイとか言う男はなかなかのやり手じゃな」とか言ってたし、結構良いものなのだろう。
「うむ。ファイアー帝王の体調と気力は共に申し分ない。こ奴は大人しくて良い子じゃし、予定通りに馬車を進めてくれるじゃろうな」
ローズがファイアー帝王の首を撫でながらそう言った。
因みにファイアー帝王という謎センスな名前は舞とローズの両名によって付けられたものである。
なんでも二人で名前に入れたい言葉を出し合ったとかなんとか。
まぁ、それはともかく。
今日もソレイドの天気は良好だし馬の調子もいいなら絶好の出発日和と呼べるだろう。
そんな感じで幸先の良さを感じながらファイアー帝王を眺めていると、シルビアさんとアンが家の中から二人揃って出て来た。
「申し訳ありません皆様。出発の準備はもう終わってしまったようですね」
「ああ、気にすんな。そこまで荷物が多かった訳でもないし、結構早く終わったからな。それにアンの様子を見てきてくれって頼んだのは俺なんだからシルビアさんが謝ることないぞ」
「ありがとうございますフーマ様。そう言って頂けると幸いです」
「シルビアさんは相変わらず真面目だな。もっと肩の力を抜いてアンと話してる時みたいに接しても良いんだぞ?」
「そ、そういう訳には」
「そうだよフーマ様。シルちゃんと仲良くお話できるのは一番の親友である私だけの特権なんだから、先ずはフーマ様はもっとシルちゃんと仲良くならないと駄目だね」
シルビアさんに支えられながら玄関から出てきたアンが人差し指を立てて軽く振りながらそう言った。
「もっと仲良くってどういう事だよ」
「そうだね、例えばシルちゃんをフーマ様が抱きしめて頭を撫でてあげるとかかな」
「ちょっとアン!?」「フーマくん!?」
驚いた声を上げながらアンの方を見るシルビアさんと、目を三角にして俺の方を見る舞。
表情こそ違えど、二人の動きはシンクロしていた。
「えぇ、できればもう少し簡単な奴で頼む」
「そうだなぁ、それじゃあシルちゃんも私みたいに呼び捨てで呼ぶってのはどう?  『さん』を付けてると他人行儀な感じがするし、シルちゃんはフーマ様よりも年下だし従者なんだよ?」
「まぁ、言われてみればそれもそうだな」
アンの言うようにシルビアさんは俺と舞よりも一つ年下だし、この前俺の従者となったのだからさんを付けて呼ぶのもおかしい気がする。
なんとなく惰性で同じ呼び方だったが、この機会に変えてみてもいいかもしれない。
「シルビア。俺達が留守の間この家とアンの事を頼んだぞ」
俺がシルビアさんに向かってそう言うと、それを聞いた彼女は目を見開いたまま固まってしまった。
「おーい。大丈夫か?」
「ほらシルちゃん。ちゃんとお返事しないと」
俺とアンがシルビアさんの顔の前で手を振ったり腕を掴んで体を揺らしたりすると、ようやく放心状態から戻って来たシルビアさんが両手をふりながら口を開いた。
「は、はい。すみません。大丈夫です。私は元気です」
「お、おう。それなら良いんだが」
「もう、ちゃんと嬉しいなら嬉しいって言わないとだめだよシルちゃん」
「ちょ、ちょっとアン!?」
顔を真っ赤にしながら尻尾をブンブンふって慌てた様子でそう言うシルビアさん。
「だってもう2か月はフーマ様達に会えないんだから言いたいことは言っておかないと」
「それはそうなんだけど」
「ほら、シルちゃん」
そう言ってシルビアさんの背中をぐいぐい押すアン。
なんか告白する子とそれを応援する仲のいい友達みたいに見えてきたな。
時々校舎裏で見かけるやつ。
まぁ、俺がこの位置に立ってるのは初めての経験なんだけど。
「あ、あの。フーマ様」
「ど、どうした?」
「その、フーマ様の無事なお帰りを心よりお待ちしております。それと、出来るだけ早く帰って来てくれると、その…嬉しいです」
シルビアが俯きがちに顔を真っ赤にしてそう言った。
やばい。
なんか凄い胸の辺りが熱くなるのを感じる。
「あ、ああ。出来るだけ早く帰って来るから待っててくれ」
「はい。お待ちしております」
シルビアがそう言ったのを見てなんだか気まずくなった俺が目をそらすと、ローズに押さえつけられている舞と、いつの間にかやって来たボタンさんとミレイユさんとガンビルドさんが俺達の方を微笑まし気に見ているのが目に入った。
「っていつからそこにいたんだ!?」
「ついさっきやよ。フーマはんがシルビアはんを呼び捨てにしたあたりやろか」
「結構初めから見てたんだな」
「すみません。なかなか入って行くタイミングが掴めなかったもので」
ミレイユさんが申し訳なさそうな顔をしながらそう言った。
確かに俺がミレイユさん達の立場でも入って行くのは躊躇いそうな空気だったし仕方ないかもしれない。
俺がそんなことを思っているとローズに解放された舞がミレイユさんの元へ寄って行って声をかけた。
「ミレイユさんが謝る事ではないわ。それよりも、お見送りに来てくれたのね!」
「はい!  私の専属冒険者の皆さんが遠出するんですから当然ですよ!」
「ガンビルドさんもこんなに朝早くからありがとうございます」
「俺とフーマの仲じゃねぇか。そんな水臭いこと言うんじゃねぇよ!」
ガンビルドさんが近所迷惑になりそうなくらい豪快にガハハと笑った。
まぁ、ここらは家と家の間がそこそこ空いてるから大声を出しても問題ないんだけど。
俺がそんな事を考えながらガンビルドさんを見上げていると、ボタンさんが俺の服の裾を掴んで皆から少し離れた後で小さい声で話し始めた。
「アンはんとシルビアはんの様子はうちが気にかけておくから心配あらへんよ。それと、これが世界樹のふもとにある集落の長への紹介状やね。多分必要になると思うから大事に持っといてなぁ」
「何から何まで悪いな」
「そんなん気にしいひんでええんよ。ただ、その代わりと言っては難やけど、今度またうちと二人でお酒を飲んでくれへん?」
「ああ。そんな事でいいならいつでも誘ってくれ」
「あらあら、またフウマはんと一緒に朝を迎える事になるかもしれへんよ?」
「マジでやめてくれ。ただまぁ、ボタンさんとお酒を飲むのは結構楽しかったからその時は頼む」
「あらあらあら、それじゃあフウマはんが帰って来るんを楽しみにしてるんよ」
ボタンさんはそう言うと俺の前髪をあげておでこに軽くキスをした。
彼女は俺を皆から隠すように立っているので誰も俺がキスされたことには気が付いていない。
「な、何を」
「出発の前のおまじないやよ」
ボタンさんは口元を隠しながら上品に笑うと皆がいる方へ戻って行った。
俺はバクバクいっている心臓を抑えながら、なんとか悪態をつく。
「ちくしょう。あの女狐め」
こういう事を急にしてくるからボタンさんは油断ならないんだよな。
そんな事を考えながらも、俺は少しの間額をおさえたまま動けずにいた。
今日はおでこ洗わずにいよっと。
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