クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...

がいとう

17話 野球しようぜ!

 風舞






「手伝ってくれるってさ」
「あら、本当に上手くいったのね。今、もしもギルドマスターさんがダメだって言った時の為の策を皆で考えていたのよ」
「やっぱりガンビルドさんにも思うとこがあったんだろうよ」




 談話室から転移魔法で一時帰宅すると舞たちはリビングで紅茶を飲みながら待っていた。
 舞はガンビルドさんが意外と臆病であることを見抜いていたらしいが、今回は俺のやる時はやる男だという読みの方が正しかったようだ。




「さて、シルビアさんも準備はいいか?」
「はい。これでも私は獣人なのでここ最近の美味しいお食事で元気いっぱいです」




 剣と盾を装備したシルビアさんがキリっとした顔でそう言った。
 悪魔の叡智との戦いへの意気込みは十分なようである。




「マイムは…聞くまでもないな」
「ええ。シルビアさんやアンさんを傷つけた奴らなんかぎったんぎったんにしてやるわ!」




 舞が両手剣の柄に手を置きながら口角を上げてそう言った。
 今回の作戦はボタンさんは警邏隊長の方へ一人で行くし、ローズはアンさんの護衛でここに残るため、俺と舞とシルビアさんの3名で挑むことになった。
 戦闘経験的には不安のあるメンバーだが、それぞれのやる気も十分だし戦力的にも不可能ではないだろうという事でローズがこのメンバーで挑むことを許してくれた。
 そのローズが偶に見せる大人な顔で俺を見上げて口を開いた。




「フーマ」
「ん?  どうした?」
「お主の転移魔法はこの妾が認める一級品じゃ。気張りすぎずいつもの視野を保って戦うのじゃぞ」
「ああ。任せとけ!」
「マイム。お主は戦力的にはソレイドのほとんどの冒険者に引けを取らないはずじゃ。味方を巻き込まない様にだけ注意して思う存分やればよい」
「ええ。精一杯頑張るわね!」
「シルビア。お主の最大の強みは味方を何よりも大切にできる事じゃ。フーマとマイムを守ってやってくれ」
「私では力が及ばないかもしれませんが、粉骨砕身の思いで事に当たらしてもらいます!」
「うむ。その息じゃ」




 ローズが俺達一人一人に大きな戦いを前にしてアドバイスをくれた。
 さすが歴戦の魔王なだけあって、ただの言葉なのにいつもより戦えそうな気がしてくるから不思議だ。




「あとはそうじゃな。思う存分やってこい!」
「おう!」「ええ!」「はい!」
「みんな頑張ってなぁ」




 こうして俺達3人はローズとボタンさんに見送られて冒険者ギルドへと転移した。
 ここからが正念場だ。
 しっかりとやろう。






 ◇◆◇






 風舞






 談話室にてガンビルドさんとミレイユさんと合流した俺達は今回の作戦について話し合っていた。


 作戦の主な方針はこうだ。
 まず最初にミレイユさんが受付の奥にある裏口に鍵をかけて封鎖し、舞が正面の入り口の前を陣取って扉を閉めて誰も出入りができないようにする。
 その後、俺とシルビアさんが二人揃って酒場の真ん中で周りの人たちに聞こえる様に悪魔の叡智にされたことを大声で言いふらす。
 後は見覚えのある悪魔の叡智のメンバーを殴ってまわりながら、縛りあげていくだけである。
 もちろんガンビルドさんは無関係な人々の護衛だ。
 簡単だな。




「しかし、よくこんな無茶な計画を思いつきましたね」
「まぁ、俺が悪魔の叡智の奴らをぶん殴れる作戦って言ったらこれぐらいだろうしな」
「なに、こんな事件はさっさと終わらせるに限る。お前の作戦はいささか強引だが即効性はあるだろうから心配するな!」




 ガンビルドさんがそう言ってガッハッハと笑いだした。
 舞がそのガンビルドさんを見て俺に耳打ちをしてくる。




「彼のような剛毅な人物がどうして悪魔の叡智なんかに手を焼いているのか不思議だったのだけれど、何だか吹っ切れたみたいね。フーマくんは何をしたのかしら」
「俺は特になんもしてないぞ。わがままを言ってたらミレイユさんがガンビルドさんを励まして、ガンビルドさんが勝手にやる気になっただけだ」
「へぇ、そうなの」




 後ろから耳打ちをされた為、舞の顔は見えないが多分うっすらと笑っている気がする。
 今回の件は子供の無鉄砲な策に大人なガンビルドさんとミレイユさんがのってくれた。
 ただそれだけの事なのだ。




「それじゃあ特に質問もないならさっさと始めようぜ。俺は今日中にボスを捕まえに行きたいからこんな所でもたもたしてたくないんだ」
「はい!  がんばりましょうね!  えいえいおー!」
「お、おー」「おー」「ふふっ。おおー!」「ウオォォォ!!!」




 ミレイユさんのその可愛い掛け声にそれぞれが続いて俺達の作戦は始まった。




「さて、ショータイムだ」
「ええ。最高のパーティーにしましょ」




 俺の小さい独り言を舞が拾ってそう言ってくれた。
 一回言ってみたかったんだよな。コレ。






 ◇◆◇






 風舞






 舞とミレイユさんとガンビルドさんが部屋を出て行った後、タイミングを見計らう必要がある俺とシルビアさんはまだ談話室に残っていた。




「さて、準備はいいか?」
「はい。あの、フーマ様。このような機会を設けてくださってありがとうございます。本来なら足手まといの私はここには立っていられなかったでしょうから、凄く嬉しいです」
「相変わらず真面目だな。この前も言ったがそんなに人の事ばっか気にしてたら禿げるぞ」
「は、禿げません!」
「それに、今回のこれは俺がやりたいからやるんだ。あいつらは路上で寝てた俺を拉致ったり、呪術をかけて無理やり言う事を聞かせようとかしてきたから、結構ムカついてたんだ」
「ふふっ。フーマ様らしい理由ですね。私も自分の鬱憤を晴らすために精一杯頑張ります!」
「おう。けちょんけちょんにしてやろうぜ!」
「はい!」




 こうして俺とシルビアさんは揃って談話室から冒険者ギルド中央の酒場へとやって来た。
 ローズに借りた真っ赤な鎧を着た俺と行方不明であったはずのシルビアさんは結構な注目を集めている。
 シルビアさんを見て驚いているやつは多分敵だな。
 だって、彼女が行方不明だって知ってるのは俺達か悪魔の叡智しかいないわけだし。


 そんな事を考えつつも酒場の中央の席に腰かけた俺は向かいに座ったシルビアさんに大声で話しかけた。




「そういえば、聞いてくれよ。この前悪魔の叡智とかいうしゃばい組織に絡まれて、お前には呪術をかけたから言うことを聞けって脅されたんだよ!」
「それは大変でしたね。かくいう私もその組織に私の大切な友達の病の治療法を教えてやると嘘をつかれて、その見返りにいつの間にか悪魔の祝福という麻薬の実験体にされていたんです!」




 俺達が大声でそんな話しをし始めたもんだから、冒険者ギルドの中はしんと静まり返った。
 半分以上の人達がキョトンとした顔で俺達を見つめているが、中には焦った顔をしている奴らも結構いる。
 俺はそれに気づかないふりをして話を続けた。




「へぇ、そいつは災難だったな。他にもなんかされたのか?」
「はい。あちらにいるミレイユさんが治してくれたので怪我は消えましたが、ある日騙されて悪魔の叡智の建物に呼び出された私は男達に殴られて弄ぶかのようにナイフで切られました。ああ、ちょうどそこに座っている人にやられましたね」




 シルビアさんがそう言って端の方に座っている男を指さして睨みつけた。
 ああ、あの男か。
 シルビアさんを助けに行った時にそういえばいた気がする。
 その男が立ち上がって焦りを顔に浮かべながらも俺達に話しかけて来た。




「お、おい嬢ちゃん。適当な事は言っちゃいけねぇ。嘘はよくねぇぜ。そうだろ?」
「へー。あれ?  おっさん、これなんだ?」




 俺は近づいてきた男のポケットに手を突っ込んでアイテムボックスから悪魔の祝福を取り出しておっさんに見せつけた。




「ど、どうしてそれが?」
「へぇ。これを知ってんのか?  これはなんだ?」
「し、知らねぇ」
「嘘はよくねぇぜ。そうだろ?」




 俺はつい先ほどの男のセリフを真似して男にニッコリと笑みを向けた。
 男はまさか自分のポケットに悪魔の祝福が入っているとは思わなかったためか黙って俯いてしまった。
 そりゃあ身に覚えがないだろうな。
 だって入ってなかったし。




「お前が知らねぇようだから教えてやろう!  こいつは悪魔の祝福といって一時的にステータスを上げる代わりに毒を体内に蓄積して強い依存性まであるくそったれな麻薬だ。そうだよな、ミレイユさん!」
「はい!  近頃初心者の冒険者さんをターゲットにそれを売ってお金を荒稼ぎしている人達がいて、私も困っています!」




 そのミレイユさんの話を聞いて、しんと静まり返っていた一同が騒然としだした。
 やっぱり俺みたいな新人なんかとは違って冒険者ギルドでも信頼が厚くて人気のあるミレイユさんの話の方が信憑性があるのだろう。




「だってよ。副ギルドマスターさん。大事な話の途中に何してんだ?」




 俺は事前に人相を聞いておいたひょろ長い体形の副ギルドマスターゲードの真後ろに転移してその腕を掴んだ。
 ゲードの手には何か魔道具のようなものが握られている。




「い、いつの間に」
「ついさっきだよ」




 俺はそのままいきなりの転移に驚いて隙だらけのゲードの頭を剣の峰で殴った。




「ぐっ、何をする」
「やっぱり結構レベル高いか。わり、頼むわマイム」




 俺は舞の目の前にゲードを連れて転移した。
 舞は俺が何かをするか分かっていたらしく、既に剣を振りかぶって待っていた。
 俺はさっとその場にしゃがみ込むが、ゲードはまたもや急な転移に状況を把握しきれず突っ立ったままである。




「ぶっ飛びなさい!」




 舞の豪快なスイングで両手剣の側面が腹に当たったゲードはそのまま錐揉み回転をして飛んでいき、壁にぶち当たった。




「お、良いコントロールだな。被害ゼロだ」
「ふふん!  このぐらい余裕よ!」


 俺はいきなりゲードが吹っ飛ばされた為に再び静まり返った人々の間を縫って歩き、倒れているゲードの持ち物を探り始めた。




「あ、こいつは悪魔の祝福もってんのか。それと、この魔道具っぽいのはなんだ?」




 俺がそう言いながらゲードが握っていた魔道具を取り上げると、ゲードが俺を睨みながら話しかけてきた。




「お、おい。私を誰だと思っている!!」
「知ってるよ。悪魔の叡智の幹部だろ。ほら、さっさとゲロっちまえよ」




 俺は剣をゲードののど元に突き付けながらゲードに自首するように促す。




「私はそのような組織な事など知らん!」
「嘘ですね」




 ゲードのその言葉をいつの間にか俺の横に立っていたミレイユさんが否定した。




「な、何を根拠に」
「私の目は嘘を見抜けることを知っているでしょう?  貴方達は今まで私が悪魔の祝福について尋ねても誤魔化し通してきましたが、遂にボロを出しましたね」




 ミレイユさんがそう言いながらゲードさんを見下ろした。
 え?  ミレイユさん嘘ついてるか判別できんの?
 ていう事は俺達が自分の立場とか名前とか偽ってるのバレてるって事か?
 そんな感じで俺が内心焦っているとゲードが唸り始めた。




「ぐ、ぐぐ。そこまで言うなら証拠を見せて見ろ!」
「なぁ。どうしてお前がそこまでデカい態度をとってんのかわかんないんだが、まずはこれを見てくれないか?」




 俺はそう言いながらレイズニウム公国の公爵さん直筆の公文書を取り出した。




「これにはな。ソレイドで悪さしてるなんたらって貴族はもうソレイドに関わっちゃいけないって書いてあるんだが、意味わかるか?」
「そ、それが私に何の関係がある?」
「いやだからさ、俺達はこうして呪術を解けるしもう貴族にビビんなくていいから大々的にお前らをふんじばれるんだけど」
「クソっ!  あの醜いクソ貴族は権力に恐れをなして逃げ出したのか!」




 ゲードはそう言って頭を掻きむしり始めた。
 ボタンさんの調査によってこいつが悪魔の叡智の主要メンバーだとは判っていたが、証拠がなかったからこうしてボロを出してくれて助かった。




「なぁ。こいつはもう黒だし、そろそろ口を閉じさせていいか?」
「そうですね。話は後で聞き出せば良いでしょうから、お任せします」
「ま、待て!  私は悪魔の叡智なんぞ知らん!  私は利用されていただけなんだ!」




 俺が剣を振りかぶりながらミレイユさんと話をしているとゲードが慌てた顔で否定しだした。
 えー。悪魔の叡智を知らないのに利用されてたってどういうことだよ。


 俺がそんな事を考えていると俺達の後ろから声がかかった。




「もういい。口を閉じろゲード」




 俺が振り返ってみると、そこには失望した様な目をゲードに向けるガンビルドさんが立っていた。




「が、ガンビルド」
「そうか。やっぱり俺には人を見る目がなかったんだな」




 ガンビルドさんは悲しそうな顔でそう言うと、その大きな拳をゲードの顔面に向かって振りぬいた。
 ガンビルドさんに殴られたゲードは顔を血だらけにしながら今度こそ気絶した。




「大丈夫ですよ。ギルマスには人を見る目はちゃんとあります。多くを見抜けるこの私が保証しますよ」
「そうか。俺には他人と深く関わる勇気がなかっただけなんだろうな」




 ガンビルドさんは自分の拳を見つめながら小さくそう呟くと倒れているゲードを一瞥した後に顔を上げて大声を張り上げた。




「いいか、よく聞け!  俺は麻薬なんぞを使って他人を貶める奴が許せねぇ!!  今すぐ悪魔の叡智の一員だって名乗り出てきた奴は一発ぶん殴るだけで許してやる!  黙ってるやつは俺が死ぬまで追いかけてふん縛ってやるから覚悟しろ!!」




 そのガンビルドさんの雄叫びにも似た話を聞いて動きだす奴は一人もいなかった。
 まぁ、そんなもんだよな。




「後は俺達に任せてください。ガンビルドさんは無関係な人の護衛をお願いします」
「おう、任せとけ!」




 俺は笑顔でサムズアップするガンビルドさんに目だけで一礼して、見覚えのある悪魔の叡智のメンバーの背後に跳んだ。
 勿論、剣を首筋に当てるのも忘れない。




「よぉ、お前とは顔見知りだから悪魔の叡智のメンバーを教えてくれたら逃がしてやるよ」
「あ、あいつとあいつ!  それにあいつもだ!」
「そりゃどうも」




 俺はそう言って再び舞の前にその男を連れて転移した。
 俺に連れてこられた職員の男は舞に吹っ飛ばされてゲードと同じ軌道を描いて飛んでいく。




「おお、流石だな」
「そうでもないわよ。少し手加減を失敗したから肋骨が折れたでしょうね。肺に骨が刺さってなければいいのだけれど」


「ちっ、囲め!  相手はたかがガキ二人なんだ。入口さえ開ければ余裕で逃げられる!」




 舞の話を聞いて恐れをなしたからか、悪魔の叡智のメンバーであろう十数人の冒険者が武器を構えて舞のいる入口に殺到した。
 どうやら舞の所を全員で特攻して逃げるつもりらしい。
 それなら大人しく殴られる方が楽だと思うぞ?




「ここは任せていいか?」
「ええ。この程度余裕のよっちゃんよ」
「チートキャラめ」
「ふふっ。フーマくん程じゃないわ」




 俺は舞のこの言葉を聞いてそんなことなくね?  と思いつつも、初めに話しかけてきた男を既に倒していたシルビアさんの元へ転移魔法で移動した。




「さて、舞のお手本はもう見たしシルビアさんもできるな?」
「はい?  何のことですか?」
「ほらほら、剣をしっかり構えて」
「は、はぁ」




 俺はシルビアさんが剣を構えるのをしっかりと確認してから、裏口にかかった鍵をこじ開けようとしている職員達の背後に回った。
 あ、女の職員さんもいるんだ。
 てっきり悪魔の叡智はおじさん軍団だと思ってたから少し以外。




「よぉ。野球しようぜ」




 俺はそこにいた職員全員を連れてシルビアさんの目の前に転移した。




「ほら振って!」
「は、はい!」




 俺が声をかけるとシルビアさんが構えていた剣を振り下ろした。
 やっぱり舞みたいに吹っ飛ばすのは無理か。
 まあ、あれができる方がおかしいかもしれない。




「はい次!」
「はい!」


「まだまだ!」
「はい!」


「もういっちょ!」
「はい!」




 腰を抜かしている職員や逃げようとする職員を押さえつけながら、シルビアさんが剣を当てやすい位置に次々に転移させていく。
 あれ?  こういう音ゲーあった気がする。
 そんな事を考えながら数人しかいなかった悪魔の叡智に所属している職員を片っ端からシルビアさんに剣で殴らせていたら直ぐに終わってしまった。




「やったな!  フルコンボだ!」
「はい!  最初はよくわかりませんでしたけど、途中から爽快でした!」




 シルビアさんは返り血のついた爽やかな笑顔で俺にそう言った。
 あれ?  今更だけど、これでいいのか?
 まぁ、シルビアさんは嬉しそうだし別にいいか。




「さて、マイムの方はどうかね」




 俺はおそらく無双しているであろう舞の方へ顔を向けながらそう呟いた。

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