クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...

がいとう

35話 ゴブリンキング

 風舞






「ふぅ。これで終わりっと」




 オーク2体との戦闘を終えた俺は剣を鞘に収めて壁際に転移させておいたシルビアさんのもとに向かった。
 シルビアさんは具合が悪そうにダンジョンの壁にもたれかかっている。




「圧倒的、ですね」
「そんな事ないぞ。結構戦っててヒヤヒヤする」




 深い階層に向かうに連れて魔物の強さが大きく上がるという事はないが、魔物に合わせて作戦を毎回立てなくてはいけないのが結構キツイ。
 魔力もシルビアさんを守る為に消費も増えてるし、余裕があるという訳ではない。




「地図によるともうすぐ第10階層への階段があるはずだ。もう少し頑張ってくれ」
「その、ご迷惑をおかけして、すみません」
「はいはい。先に進みますよー」




 俺はシルビアさんをもう一度おぶってダンジョンを進み始めた。
 もうすぐゴブリンキングとの戦闘だ。
 今の俺のレベルが16。
 第10階層の適性レベルは20で迷宮王はその範疇を超えるとローズが言っていた。
 一応俺には転移者の力があるが、ゴブリンキングと渡り合えるのだろうか。






 ◇◆◇






 ローズ 自宅にて






「フーマくん遅いわねぇ」




 マイが何度目かわからないセリフを言った。
 さっきから5分に一回は同じセリフを言っておる気がする。




「これマイム。好きなの子が帰って来なくて不安なのは分かるが落ち着きがないぞ」
「べ、べべ、別に好きだから心配してるって訳じゃないわよ!?  全くミレンちゃんはおかしなことを言うのね!」




 マイが顔を真っ赤にしてそう答えた。
 フウマが財布を取りに行ったにしては中々帰ってこない事を不審に思った妾達は1時間ほど前に雲龍に行ったのじゃが、ボタンにとっくに店を出た後じゃと言われてしまった。




「それにしてもどこに行ったんですかねぇ。何かトラブルに巻き込まれていなければいいんですけど」
「なに。フーマは戦力としては心許ないが、あれで人間を相手にするのは慣れておるようじゃった。街中でならそう不覚は取らんじゃろうよ」




 フウマは初対面の人相の悪い大男に物怖じしない度胸を持っておるし、頭もキレる。
 それに転移魔法があるからいざとなれば瞬時に逃げてこれるじゃろう。
 大方、自分の意思で何かトラブルに首を突っ込んでおるのじゃろうな。
 あやつはそういう男じゃ。


 妾はお主が無事に帰ってくると信じておるぞ。
 じゃから早く帰って来てくれ。
 さっきから不安に駆られたマイが妾を力強く抱きしめていて少し痛いのじゃ。






 ◇◆◇






 風舞






「へクシッ!!」


 ダンジョンに俺のくしゃみが響き渡った。
 どうやら噂されているらしい。




「体調が…優れないの…ですか?  少し休んでは、どうですか?」
「いやいやシルビアさんに心配されるほどじゃない。多分俺の仲間が腹を空かして怒ってるんだろうよ。それにほら、ちょうど第10階層への階段を見つけたぞ」
「そうでしたか。ここまで連れて来て、いただきありがとう…ございます。ここからは、私一人で…向かいます」




 階段を確認したシルビアさんがそう言って俺の背中から降りた。




「って言うけどフラフラしっぱなしじゃないか」
「いえ、貴方のお陰で…大分休めました。もう…大丈夫です」
「ここまで一緒に来たんだ。最後まで一緒にやろうぜ。一人で戦うよりも二人の方が勝率も高くなるだろうからな」
「迷宮王は、他の魔物と比べものにならない位強い。貴方はE級冒険者にしては、破格の強さですが、迷宮王が相手では確実に、勝てるという…保証はありません」
「俺よりもシルビアさんが一人で戦う方が勝率低いと思うぞ。気が急くのは判るが、俺が息を整えるのを待ってくれ。シルビアさんは俺がここまで連れて来てやったんだ。そのくらい訊いてくれてもいいだろ?」
「そう言われては断れません。貴方はズルい…ですね」
「そうかよ」




 俺はアイテムボックスから水筒を取り出してそれを飲みながらステータスカードを確認した。




 ◇◆◇


 フウマ タカネ


 レベル 16
 体力 62/62
 魔力 768/1396
 知能 1395
 攻撃力 551
 防御力 53
 魔法攻撃力 64
 魔法防御力 65
 俊敏性 55


 魔法 転移魔法LV8 火魔法LV1
 スキル ランバルディア共通語 魔力操作LV1 剣術LV1 気配遮断LV1 
 称号 異世界からの来訪者 勇者


 ステータスポイント 39


 ◇◆◇




 やっぱり魔力は十全とはいかないが、レベルも今日で4つ上がって各ステータスもそこそこに伸びている。
 ステータスポイントも僅かだがあるため、戦闘になってから必要に感じたものに使うつもりだ。
 今使って後で後悔するのも嫌だしな。


 俺は最終決戦に備えて少しでも情報を得ておくために、シルビアさんに迷宮王について聞いておくことにした。




「なあ、迷宮王について教えてくれ」
「わかり…ました。迷宮王とは、ダンジョンにいる…魔物の中でキング女王クイーンという名を冠する特殊な魔物の事を…指します。迷宮王は気本的に…群れることなく、1匹でいるため他に気を取られずに…戦う事ができますが…逃げられません」
「逃げられないってどういう事だ?」
「迷宮王がいる場所に…冒険者が入り込むとダンジョンが壁を作り出し…閉じ込められます。迷宮王を倒すか、冒険者が死なない限り…その壁は崩れません」
「そうか。辛いのに話させて悪かったな」
「問題…ありません」




 シルビアさんがそう言って階段に腰かけた。
 どう見ても戦えそうのないシルビアさんを、ダンジョンの外にある第10階層への転移魔法陣の上に転移させれば万事解決なのではないかとも考えたが、転移魔法陣が起動するときに強く発光する事を思い出して踏みとどまった。




 それにしても、迷宮王に勝つまでは閉じ込められんのか。
 それじゃあ危なくなったら転移魔法で逃げるっていう作戦は使えなさそうだな。
 見えない範囲に転移するだけでも大分魔力を持ってかれたのだ。
 迷宮王との戦いからは逃げられないというダンジョンのルールを破る転移はそもそも出来ない可能性が高い。




「やるしかないか」




 俺はアイテムボックスに片手剣以外の荷物を全て入れて準備を済ませた。




「よし、待たせたな。先に進もう」
「いえ、問題ありません。先に進みましょう」




 こうして俺達は二人で第10階層への階段を下って行った。
 いよいよ決戦だ。






 ◇◆◇






 風舞






 第10階層への階段を下って行って出た場所は薄暗くて長い直線の通路だった。
 通路の奥からは光が差し込んでいて逆光の為、奥がどうなっているのかは分からない。




「行きましょう」
「そうだな」




 俺はフラフラと歩くシルビアさんの後に続いて通路を進んだ。


 そうして通路を抜けて眩しい光に目を細めながらも俺達が辿りついた先は円形の大きな広間だった。
 円形の広場はバスケットコート2つ分くらいの広さで、壁にはいくつもの松明が掲げられている。
 広場の中心では、2メートルを超えるであろう筋肉質のゴブリンが座してこちらをギラギラと光る目で見ていた。


 俺達が剣を構えながら中央に向かって歩くと後ろの通路への入口がガラガラと大きな音を立てて閉まり始めた。




「悪いな。少し待っててくれ」




 俺はシルビアさんの肩に手を置き彼女をもと来た通路の階段のそばへと転移させた。
 彼女は俺に肩を掴まれた瞬間何か声を上げたが俺には聞き取れなかった。
 そうして、広間に俺とゴブリンキングを残して大広間の入口はズズンと音を立てて閉まった。




 グギャガオォォォォ!!




 ゴブリンキングが俺という挑戦者を見て立ち上がり雄叫びを上げた。
 俺の皮膚がビリビリと揺れるのを感じる。
 俺は剣を構え直してゴブリンキングに向かって高らかに叫んだ。




「来いよデカブツ!  さっさと倒させて貰うぞ!!」






 ◇◆◇






 シルビア






「どうして」




 彼が私を残して迷宮王との戦闘を始めてしまった。
 私が足手まといになると彼は考えたのだろう。
 思えば始めて出会った時から彼には助けられっぱなしだった。
 あの時は寝不足の余り周囲に注意がほとんど向いていなかった為に、彼がタスクボアを仕留めるまで私はその存在にすら気づかなかった。


 彼は私に優しかった。
 始めて出会った時から私は彼に対して良くない態度をとっていたのに、彼は私の為ににここまでおぶって魔物を退けながら連れて来てくれた。
 私の様子から、流石にあの男に言われた期限が明日に迫っているとは気づいていないだろうが、もう私には時間が残されていない事に気がついたのだろう。
 彼は今も私の為に命を賭して戦ってくれている。




「どうか、死なないでください」




 思わず溢れたその言葉が私が心から望む彼への唯一の願いだった。






 ◇◆◇






 風舞






 威嚇した俺へゴブリンキングが俺の身長くらいある大剣を持ちながらドスドスと走ってくる。
 ゴブリンキングという名前だけあって見た目は全然違うが、やる事はゴブリンと同じだ。
 俺はゴブリンの時と同じようにゴブリンキングが剣を振りかぶったタイミングでゴブリンキングの背面に転移した。




「ここっ!」




 俺を見失ったゴブリンキングはその動きをピタッと止める。俺はその隙だらけな背中を剣術を使って思い切り斬りつけた。




「ソニックスラッシュ!」




 俺の斬撃はゴブリンキングの背中の真ん中あたりをしっかりと捉えた。
 しかし、ゴブリンキングの分厚い筋肉を少し切り裂いただけで致命傷には遠く至らなかった。
 俺は転移魔法で距離をとって思わず愚痴を零す。




「硬すぎだろおい」




 ゴブリンキングは俺に斬られたためか、その目に激しい怒りを浮かべて俺の方へと剣を出鱈目に振り回しながら走って来た。
 俺は自分よりも足の速いゴブリンキングから転移魔法で逃げ回りながら作戦を考える。




「もう少しデカかったら足の腱を狙うんだが」




 ゴブリンキングは俺よりもでかいとは言え、身長は2メートルちょいしかない。
 俺の技量では剣を振り回しながら走り回っているゴブリンキングの腱にピンポイントで剣を当てる事はできないだろう。




「仕方ない。ステータスポイントを使うか」




 俺はこの状況を打破する為にステータスポイントを使って火魔法を強化する事にした。
 ローズが火魔法はLV2で攻撃に使えるファイアーボールが覚えられると言っていた。
 遠距離攻撃が欲しい今の俺には最適な魔法だろう。
 俺はステータスカードをアイテムボックスから取り出して逃げ回りながら残りのステータスポイントをほとんど使って素早く火魔法をLV2に上げた。




 火魔法 LV2  小さい火の玉を作り出して飛ばせる。




 ゴブリン相手なら種火に使う魔法で一撃で倒せたのだ。
 攻撃に使う魔法ならゴブリンキング相手でも十分に効くはずだ。
 俺はゴブリンキングから一度距離をとって思うがままにファイアーボールの詠唱を始めた。




「炎よ、求めに応じてあいつをぶち殺せ!  ファイアーボール!」




 俺が放ったバレーボールの倍ぐらいの大きさのファイアーボールは、俺に向かって走って来ていたゴブリンキングの顔に直撃した。




「よし、命中!」




 俺がファイアーボールが当たった事で少し気を抜いた瞬間、俺の目の前にゴブリンキングの大剣が迫っていた。
 為すすべもなく大剣に吹っ飛ばされた俺はそのまま地面を何度も転がって倒れた。
 あまりの衝撃に脳が揺さぶられて意識が飛びそうだったが、すんでの所で踏み止まった俺は顔のみを動かしてゴブリンキングの様子を確認した。




「おいおい。そんなのありかよ」




 そこには顔を黒く焦がされながらも大剣を投げつけた姿勢でこちらを殺気のこもった視線で睨むゴブリンキングの姿が合った。
 ゴブリンキングが俺が吹っ飛ばされている途中で地面に刺さった自分の大剣を拾いに歩き始めたので、俺も痛みを堪えながら膝に手をつき何とか立ち上がる。


 自分の状態を確認してみると、切れ味の悪そうな剣が投げられただけだった為か鎧に深い切り傷ができているだけで、俺に切り傷はなかった。
 とはいえ、地面を転がった時に左手を折ったようだし、吹っ飛ばされた時に肋骨も折れた為か呼吸がおかしい。
 それに頭から血も流れていて少しクラクラする。




「ファイアーボールは一回で52も魔力を消費するのか」




 ステータスカードを使って自分の残り魔力を確認すると631になっていた。
 単純計算でファイアーボールは転移魔法とセットで後10回打てるが、これ以上攻撃をくらうと先に俺が死ぬ。




「ここからはチキンレースだな」




 俺は横に落ちていた片手剣を拾い上げて再度ゴブリンキングに剣を向けた。
 ゴブリンキングがこちらに向かって走ってくる。
 俺はゴブリンキングの後方に転移して右手に剣を握ったままファイアーボールを放った。




「ファイアーボール!」




 ゴブリンキングは背中にファイアーボールを受けてその動きを止める。
 やっぱりダメージはしっかりと入っているようだ。
 このまま押し切る!




「ファイアーボール!」「ファイアーボール!」「ファイアーボール!」




 俺は転移魔法を使ってゴブリンキングの後ろに回り込みながらファイアーボールを打ち続けた。
 先程のように剣を投げつけられてはかなわないので、出来るだけ転移魔法を使って一箇所にとどまらないようにしている。




 ゴギャグガァアァァ!!




 俺に為すすべもなくファイアーボールを当てられ続けられているゴブリンキングは苦悶の叫びをあげた。
 このままいけば勝てるかもしれない。
 そう思っていたが、分かっていた限界が来てしまった。




「チッ。もうファイアーボールを打てる分の魔力がないか」




 ゴブリンキングは俺からのファイアーボールが飛んでこないのを確認するとニヤリと口角を上げた。
 どうやら俺の魔力がもう残り少ない事に気がついたようである。
 俺は剣を片手にしっかりと握り、ゴブリンキングの方に向かって歩きながら言った。




「まあ、慌てるなよ。俺が今からそっちに行ってやる」




 ゴブリンキングに俺の言葉が理解出来ているわけでは無いだろうが、剣を持ったままゴブリンキングは動かなかった。
 単純に満身創痍なのかもしれない。




「行くぞ!」




 ゴブリンキングまで後7メートルといった所で俺は全速力で走り出した。
 ゴブリンキングが俺に向かって大剣を振り下ろしてきたので、その背後に転移する。
 流石に転移魔法にも見慣れてきただろうと思った俺はゴブリンキングの裏拳が飛んでくるのを確認する前にゴブリンキングが剣を振り下ろした真横に転移した。
 ゴブリンキングは突如目の前に現れた俺を剣で横薙ぎにして切り払おうとする。
 勿論そうくるのも判っていた。
 何せ一度やった事あるからな。
 ローズとやった時はもっと攻撃が素早く飛んできたぞ。


 ゴブリンキングの横薙ぎが当たる直前で俺は笑みを浮かべて転移魔法を唱えた。




「テレポーテーション!」




 無茶な姿勢で攻撃を無理矢理続けたゴブリンキングは俺の真下で一度体勢を整えようと動き始めたがもう遅い。
 俺はゴブリンキングの頭目掛けて真っ逆さまに落ちながら剣術を使って思いっきり剣を振り下ろした。




「ソニックスラッシュ!!」




 ゴブリンキングは俺の渾身の一撃を受けてそのまま前に倒れ込んだ。
 片手が折れている俺も十分な受け身を取れずにそのまま地面に転がった。


 ゴブリンキングは俺を倒れたまま睨みつけている。
 どうやら脳にダメージを受けて体が動かないようだ。
 俺は痛む身体にムチを振るって立ち上がり、ゴブリンキングの頭の傷に指を突っ込んでトドメを刺した。




「くたばれクソ野郎。ファイアー」




 火魔法で頭を内部から焼かれたゴブリンキングは黒い霧になって魔石を残して消えた。
 それと同時に閉まっていた入り口と、その反対側にも通路が音を立てて開いた。




「フーマさん!」




 入口が開くと同時にシルビアさんがこちらに向かって走って来た。
 倒れるぐらい体調が悪いだろうに走って来るとは、よっぽど心配させてしまったらしい。




「無事に勝てたぞ」
「何が無事ですか!  血だらけになってるじゃないですか!」
「はいはい。シルビアさんは怒りっぽいな。病人なんだから大人しくしてないと駄目だぞ」




 俺がそう言って笑うとシルビアさんが泣きながら俺に抱き着いてきた。




「ちょ、痛い!  傷が痛むから勘弁してくれ!」
「離しません。これは私を一人にした罰です!」
「わかった。わかったからもう許してくれ」




 その後なんとかシルビアさんを落ち着かせて離して貰った後、怪我人の俺と病人のシルビアさんでお互いに肩を貸しあいながら新たに開いた道へ進むと第11階層への階段と転移魔法陣を見つけた。




「それじゃあ、シルビアさんはこれを持って外に出てくれ。俺は怪しまれない範囲で後から出る。ここは多分魔物も湧かないだろうし、少し休憩してから俺も外に出るから心配しないでくれ」
「本当に、お世話になりました。この恩は必ず返します」
「おう、今度パンでも食わせてくれよ」
「はい。必ず」




 シルビアさんはそう言って俺からゴブリンキングの魔石を受け取ると外へ出る転移魔法陣に入って行った。
 俺はシルビアさんの姿が消えたのを確認してからため息をついて壁にもたれかかる。




「はぁ。凄い疲れた。シルビアさんはこれで麻薬組織の依頼を達成できたはずだしこれで一件落着だな。仮に麻薬組織が治療法を教えてくれなくても、今度は俺達もアンさんを治す方法を探してやればいいしもうシルビアさんが悪魔の祝福を飲むような事にはならないだろ。ローズやボタンさんは何百年も生きている訳だから、その二人にさえ見当も付かないような病って事はないだろうしな」




 シルビアさんが治療法を得られるにせよそうでないにせよ、もう悪魔の祝福を売る組織と繋がりを持つことはあるまい。
 結局、麻薬組織については何も分らずじまいだが、それもシルビアさんにかけられた呪術が解ければ追々判るだろう。
 俺は一先ずの安心感を感じたからか、強い眠気を感じた。




「ふぅ。少し寝るか」




 激闘を超えた俺はダンジョンの中で目を閉じた。






 ◇◆◇






 舞






 ドサッ!!




 私がローズちゃんを抱きかかえながら風舞くんの帰りを待っていたら、玄関の辺りから何か物音が聞こえた。




「やっと帰って来たようね!  もうお昼を2時間も過ぎている事を文句言ってやるわ!」
「む?  この気配は、」




 ローズちゃんが何か言いかけていたが、私は玄関に向かって一目散に駆け出した。
 もうお腹もぺこぺこよ!  
 罰として美味しいご飯を沢山作ってもらわなくちゃ気が済まないわ!


 そう思って私が玄関に辿りつくとそこには待ち望んでいた風舞くんではなく、血だらけの茶髪の獣人さんが倒れていた。




「誰?」




 私が思わず声をかけるとその獣人さんは消え入りそうな声で私を見て少し話すと気を失ってしまった。




「お願いします。フーマさんを…助けてください」







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