クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...

がいとう

25話 悪魔の祝福

 風舞






 食料の買い出しも終わった俺たちは冒険者ギルドに黒い玉について何かしらの情報を求めてやってきた。
 今は昼前なので冒険者ギルドにはちらほらと人がいるだけで混雑はしていない。
 俺たちが受付に向かうとカウンターを拭いていたミレイユさんがこちらに気づき挨拶をしてくれた。




「こんにちは皆さん。今日はどうなさいましたか?  見た感じダンジョンの探索って感じではなさそうですけど…」
「ええ。今日は少し訪ねたいことがあって来たのよ。これに見覚えはあるかしら?」




 そうい言うと舞はポケットから黒い玉をとりだしてミレイユさんに見せた。
 それを見たミレイユさんは驚いた顔をした後、舞の手のひらに自分の手を重ねて黒い玉が周りからは見えないようにして質問を返した。




「これをどこで?」
「ああ、俺が路地で拾ったんだ。ミレンが言うには特殊な麻薬らしいから何か情報はないかと思ってな」
「そうでしたか。では、詳しいお話は奥でしましょう」




 そう言うとミレイユさんが奥の相談室を使うことをギルドマスターに告げて受付の脇の通路に入っていったので、俺たちも後に続いた。
 ミレイユさんの後に続き相談室に入ると彼女が俺たちにお茶を入れてくれた。
 この紅茶上手いな。
 後で茶葉がどこで手に入るか聞いてみよう。


 俺が紅茶を堪能していると、向かいのソファーに腰かけたミレイユさんが真面目な顔で話を始めた。




「さて、皆さんはこれが何か知っていますか?」
「いや。それが何かは知らんが、それを服用した場合の効果は妾がスキルで調べたから知っておる」
「そうですか。では、これから話す内容は他言無用にお願いします」




 俺達は揃って頷いた。
 それを確認したミレイユさんが続けて説明をする。




「これは悪魔の祝福という名前で最近出回り始めた薬です。一時的な全能感とステータスの一部上昇をもたらしますが、体内に毒を蓄積し強い依存性もあります」
「ふむ。効果は妾がほぼ調べた通りじゃったが毒性まであったとはな」
「はい。使用を続けたことによる死者もすでに何名か出てしまっています。そして、この悪魔の祝福ですが若い初心者の冒険者の方々に出回ってしまっているようです」
「なるほどね。それで出どころは分かっているのかしら?」
「いえ。冒険者ギルドの方でも秘密裏に調査しているのですが、未だ有力な情報は得られていません」
「ん?  なんで悪魔の祝福の存在を公表して全面禁止にしないんだ?」




 麻薬の使用を禁止すれば少なからず被害に会うやつも減ると思うんだが。




「その、非常に言いづらいのですが。どうもギルド職員の中に今回の件に関与している者がいるようでして」
「なるほど。つまり冒険者ギルドの評判を落とさないためには内々に処理する必要があるというわけね」
「はい。マイムさんのおっしゃる通りです」
「ふむ。それで解決の目途は立っておるのかの?  いつまでも悪魔の祝福の存在を隠し通せる訳でもないじゃろう?  現に死者も出ておる訳じゃし」
「その、恥ずかしい話なのですが解決の目途は全く立っておりません。実際に悪魔の祝福を使用していた可能性のある者に話を聞き出そうとしたのですが、呪術による制約で売人について話せないようにされていました。初心者の冒険者の方には呪術に対抗できる方が非常に少ないので何回か取引をしているうちに呪術にかかってしまうようです。売人の情報が掴めなくては冒険者ギルドとしてはどう動けばいいのかわかりませんし、本当に困ってるんですよ」
「ふーん大変なんだな」
「フーマさんも人ごとじゃないんだから気をつけて下さいね!  初心者の冒険者さんは狙われているんですよ!」
「あ、ああ。気をつけるよ」




 ミレイユさんにぷんぷんと怒られてしまった。
 ちょっと反省。
 俺も麻薬売りのお兄さんに絡まれないように注意しよう。






 ◇◆◇






 風舞






 その後それぞれの紅茶を飲み終わった俺達は、ミレイユさんにくれぐれも夜に一人で出歩かないようにしてくださいね!  と散々注意されて冒険者ギルドを後にした。




「それにしても呪術か。やっかいなものがあんだなぁ」
「そうね。初心者の冒険者には呪術に対抗できる人があまりいないって言ってたし」
「呪術は基本的に呪術を使えるか魔法防御がそれなりにないと防げんからの。低ランクの冒険者には辛いじゃろうな」
「魔法耐性と魔法防御って何が違うんだ?  俺は魔法耐性が高いって言ってたが」
「説明が難しいのじゃが。そうじゃの、魔法防御は魔法から身を守る盾で、魔法耐性は魔法の影響を受けづらくなる体質みたいなもんじゃの。魔法耐性は妾がお主用に適当に言っただけじゃからなんとも言えぬ。まあ、どちらも魔法が効きづらくなると思えば良い」
「結構やんわりしてんのな」




 そういえば俺の魔法耐性が高い理由が魔力の循環速度が早すぎるためだって言ってたが、俺みたいなケースはローズでも見たことがないらしいし説明が難しいのも無理ないか。




「まあ、お主らには大抵の呪術はかからんじゃろうから安心せい」
「あら、そうなの?」
「マイは魔法防御がそれなりにあるし、フウマは魔法耐性でほとんどの呪術は弾くじゃろうからな。初心者狙いの呪術では効かぬじゃろう。まあ、あの悪魔の祝福を作っている本人が出てきたらマイは危ないかもしれんがの」
「そんなにあれ作ったやつは強いのか?」
「うむ。あの丸薬は代償を払うことによって一時的にステータスを底上げする力が付与されておった。そんな真似ができるのは呪術LV5以上じゃからな。習得の難しい呪術をそこまで使うとなるとそれなりのやり手じゃろう」




 そんな強そうなやつなのか。
 俺は呪術もほとんど効かないらしいけど、普通に戦闘で負けそうだから会いたくないな。




「そう。出来ればそんな人に会いたくないわね」
「まあマイも鍛えていけば直ぐに魔力感知を覚えられる。そうすれば呪術を避けつつ戦えるじゃろうよ。呪術は相手に自分の魔力を流さんと発動せんからの」
「そうなのね。今日は魔力感知の練習をしてみようかしら」
「うむ。妾も協力しよう」
「お願いねローズちゃん!」




 二人はそう言うと手を繋いで歩き出した。
 うんうん。仲良きことは良きことかな。






 ◇◆◇






 風舞






 家に帰り昼飯を食べた俺達は庭に出て修行を開始した。
 今日の俺の目標は剣術スキルの習得である。
 ローズが実戦形式で教えてくれるらしい。
 一方の舞はローズに教わった方法で魔力感知の練習をしている。
 なんでも自分で適当に魔法を打ってそこから魔力を感知をするらしい。
 めちゃめちゃ難易度高そうだな。


 舞の両手剣を借りたローズが剣を片手で持って俺と向き合うと声をかけてきた。




「さて、転移魔法でもなんでも使って良いからかかってこい」
「ローズ、弱体化してるんだろ?  大丈夫なのか?」
「ふん。流石に今のフーマの実力ならお主が妾のステータスの倍であったとしても負けはせん。ステータスも妾の方が高いんじゃからさっさとかかってこい」
「怪我しても知らねえからな」




 俺は転移魔法を使ってローズの正面に一瞬で立ち、剣を振り下ろした。
 後ろだと読まれていると思い敢えて前に転移したのだが、ヒラリとかわされて回し蹴りを腹にくらってしまった。




「ほれ、言ったじゃろ?  大振りじゃ妾には当たらんから頭を使って戦うんじゃぞ」
「こなくそっ!!」




 俺はローズの剣を転移魔法で盗み、それを地面に突き刺して立ち上がった。




「ふふふ。これでもう戦えまい。もらったぁーー!!」




 2秒後、またもや回し蹴りをもらった俺は地面に倒れ伏していた。
 地面に突き刺してあった両手剣をローズが引き抜きニヤリと笑った。




「ほれほれ、まだ修行は始まったばかりじゃぞー」




 ローズが手をヒラヒラ振りながら眠たげにそう言う。
 くそう。ギャフンと言わせてやるからな!



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