クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...

がいとう

17話 雲龍にて

 風舞






「つきましたよ! ここです!」




 ミレイユさんに案内されてやって来たのはメインストリートから少し入ったところにある建物の二階だった。
 漢字で『雲龍』と書かれた木製の看板がドアの横に立てかけられている。
 高級料亭みたいな入り口だ。




「へぇ、ここがその火の国の料理店なのかなんか趣があるな」
「そうじゃな。では、入ってみるかの」
「そうね。もうペコペコだわ」
「ふふ、そうですね。早速入りましょう」




 お店の中に入ると少し薄暗い雰囲気の落ち着いた和風のお店だった。
 カウンター席とその向かいに掘りごたつのボックス席がある。
 俺達が店内に入ると奥から女性の店員さんが現れた。
 他に従業員がいなさそうなのでおそらく店主だろう。




「あらあら。ミレイユはんおこしやす。今日はお友達もご一緒なんやね。嬉しいわぁ」




 そう言って現れた女性は尻尾が9本あってもおかしくないような風格の一尾の狐獣人のお姉さんだった。
 はんなりとした雰囲気で京都弁のような話し方をする。




「はい。こんばんはボタンさん。こちらは私の専属冒険者のフーマさんとマイムさんとミレンさんです」




 俺達はミレイユさんの紹介に合わせて順に会釈した。




「あらあら。ミレイユはんが専属なんて優秀なんやね。ささっ、ずずいっと入ってな。今お茶を出すから待っとってなぁ」




 そう言って和服のボタンさんはパタパタと草履を鳴らしてカウンター内に入りお茶を入れ出した。
 店内には俺達以外の客がいなかった為、俺達は掘りごたつのボックス席に入った。
 座る前にミレイユさんが靴を脱ぐんですよと得意げに教えてくれたので俺と舞は微笑ましく思いながらそれに従い、順番に席に着く。




「なあ、専属って全員につくものじゃないのか?」




 俺はお茶を待つ間に、気になったことを聞いてみる事にした。




「そうじゃな。専属は大きな成長の見込みや功績を残しそうなものを受付の者が選んでサポートするシステムじゃ。全ての冒険者に専属がつくわけではないの」
「あら、それじゃあミレイユさんが私達を選んでくれたのね! 嬉しいわ」




 そう言って舞が隣に座るミレイユさんに抱きつく。
 ちゃんとモフりは我慢しているようだ。




「えへへ。私の以前の専属冒険者さんが別の街へ行ってしまってちょうど私が誰とも専属契約を結んでいなかったっていうのもあるんですけど、私も皆さんとお会いできてよかったです」
「そうだな。俺達もミレイユさんみたいな優秀な人が専属になってくれて嬉しいぞ」
「そうじゃな。これからもよろしくの」




 今日冒険者ギルドに帰還の報告に行って自分たちの番を待っている時、ミレイユさんが同僚の人をさりげなくフォローをしているのを見かけた。
 きっとかなり優秀なのだろう。




「えへへ。よろしくお願いします!」




 俺たちの言葉にミレイユさんが耳をぴこぴこさせてはにかむ。
 と、ちょうどそこへボタンさんがお茶とおしぼりを持ってやってきた。




「あらあら。仲良しさんやねぇ。はい、これはおしぼりやね。手を拭いてなぁ」




 そう言ってボタンさんが俺達に順におしぼりを渡してくれる。
 手前に座る俺と舞におしぼりを渡した後、俺の奥に座るローズにおしぼりを渡そうとしたちょうどその時、ボタンさんの豊かな胸が手を拭いていた俺の頭にのしかかってきた。




 どうやら俺達の靴を踏んでしまって躓いたようだ。
 料理の邪魔にならないくらいの薄っすらとした花の香りと女性特有の甘い香りが俺の鼻腔を刺激する。
 柔らかな感触と相まってもう、最高です。




「あらあら。重たいやんなぁ。今どくからちょっと待ってなぁ」




 そう言ってボタンさんはよっこいしょと声をあげて俺から離れた。
 ああ、もっとのしかかっていても良かったのに。




「ほんまにすまんかったなぁ。重たかったやろ?」
「重たいだなんてそんな事ありませんよ。俺は冒険者なんですから、気にしないでください」




 ボタンさんが申し訳なさそうにそう言うので、俺はキメ顔でボタンさんにそう言うと、




「あらあら、頼もしいなぁ」




 ―――ボタンさんがころころと笑ってくれた。
 と、その時横で頬杖をついていたローズに太ももをつねられた。
 おやおや嫉妬かいと思ってボタンさんから視線を外すとムッとしている舞と目があった。




「フーマくん。だらしない顔してるわよ?」
「おや、そうかい? そんな事ないと思うけど」




 俺は自分の顔を触って確かめてみる。うん、普通だ。




「鼻の下伸びてますよ。それに話し方も変です」
「そ、そげなことないわい! ああ、腹減ったな! ボタンさん注文を御願いします!!」
「あらあら」




 ミレイユさんにまで言われてしまった俺は逃げに徹する事にした。
 ただ、向かいに座る舞にさっきから足を踏まれているし、ミレイユさんには呆れた目を向けられ、頼みのローズは鼻で笑っているのでこの雰囲気からは全く逃げられた気がしない。
 だって、ボタンさんのおっぱいすごいふかふかだったんだよ?




「逃げたわね」
「逃げましたね」
「逃げたの」




 やっぱりダメみたいだ。






 ◇◆◇






 風舞






 無理やり注文を始めた俺から順に料理を頼み、待つ事数分。
 ようやく腹を空かせた俺たちの目の前に料理が並んだ。
 品名からは異世界の食材を知らない俺と舞にはどんな料理かわからなかったので、ミレイユさんのオススメを頼んだ。
 ローズも一緒だ。




「おお、これが!!」




 俺達は目の前にならんだ料理にゴクリと喉を鳴らす。
 ミレイユさんのオススメの料理は親子丼のような見た目の丼ぶり料理だった。
 肉はクイックドードという魔物のものらしい。
 ソレイドのダンジョンの52階層で現れるようだ。




「それじゃあ、いただきます」
「いただきます」
「女神に感謝を。賜ります」
「うむ。いただくぞ」
「はい。召し上がってなぁ」




 それぞれの食前の挨拶をすませた俺達は同時に食べ始めた。




「美味い!」
「そうね。ここまでの料理となるとなかなかないわ」
「うむ。これはなかなかのものじゃな」
「ですよね? ボタンさんの料理はやっぱりソレイド一ですよ!」
「あらあら。嬉しいわぁ」




 卵は白身と黄身を完全にとききらないことでプリプリとした白身の食感と黄身のふんわりした食感を楽しめ、カツオ出汁のような風味をふんわりと感じる。
 また、肉はというとジューシーなもののくどさはなくこれもまた美味い。
 白米も日本で食べたものと同等かそれ以上かもしれない。
 要はめちゃ美味い。




「「おかわり!!」」
「あらあら。ちょっと待ってなぁ」




 夢中になって食べていた俺と舞は同時に一杯目を食べ終えると即座におかわりをした。
 いや、本当に美味いんだよ。
 これならいくらでも食えそうな気がする。




「はい。お待ちどぉさまぁ。そうだ、そこの瓶のソールの実を砕いたものをかけるとさっぱりするからよかったらかけてみてなぁ」




 そう言ってボタンさんが指差した机の隅に置いてあった瓶を俺達はふりかけて食べてみた。
 瓶の中には黒っぽい粉が入っている。




「おお。ピリピリするけど香りがいいな」
「そうじゃな。ソールの実にこのような使い方があったとは。眠気覚ましぐらいにしか使えんと思っておったわ」
「ふむ。これは山椒に似ているかしら」
「ピリピリして美味しいです」




 皆ソールの実がお気に召したようだ。
 確かに山椒に似ている気がする。
 実がなっているところを一度確かめてみたいな。


 そんな事を考えながらもその後も楽しい食事は続き、お吸い物も飲んだ俺達は食後のお茶を飲みながら、ほっと一息ついた。




「ふう。うまかったな」
「そうね。また来たいわ」
「あらあら、嬉しいわぁ。待ってるからいつでも来てなぁ」
「そうですね。また皆で来ましょう!」
「そうじゃな。また来ようかの」




 その後、ボタンさんとたわいない話をした俺達は邪魔にならない内に店を後にした。






 ◇◆◇






 風舞






 ボタンさんの店を出た帰り道、ミレイユさんの家が冒険者ギルドのすぐ近くらしいのでそこまで送ってから帰る事にした俺達は雑談をしながら歩いていた。




「ボタンさんいい人だったな」
「あら、それってどういう意味かしら?」
「別に変な意味じゃないぞ」
「あらそう。それならいいわ」




 舞がそう言ってくすくす笑う。




「そうですね。でも、ボタンさんはああ見えてS級の冒険者でもあるんですよ? あの有名なフラム・レッドさんと同じランクなんです。凄いですよね!」




 ミレイユさんがそう教えてくれた。
 俺の中でのボタンさんのイメージははんなりとした京美人って感じだが、確かに魔物に苦戦している姿は想像できない。




「ふむボタンと言ったか。あやつ、かなりの実力者じゃな。妾の全盛期の8割ほどの力を持っておると思うぞ」




 ミレイユさんの話を聞いたローズが俺の横に並んで日本語でそう言った。




「マジかよ。そんなに強いのか」
「マジじゃ。看破を使ってみたがことごとく弾かれてしまったわい。いくら妾がそのような技が苦手とは言え、魔王たる妾のスキルを弾くような奴はそうおらん」




 そうして隠れた実力者ボタンさんに出会った俺達は彼女の底知れなさを感じながら帰路を歩んだのだった。





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