クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...

がいとう

12話 結構な豪邸でした。

 風舞






 武器を買った俺達一行は、夕暮れまでまだしばらくありそうなのでダンジョンの様子を見にいく事にした。
 街はダンジョンを中心として放射状に広がっているため、多くの通りからダンジョンの様子を目に入れる事が出来る
 見た感じだと、ダンジョンは塔のように上に登っていく形式ではなく、地下へと潜っていくタイプのようだ。




「ソレイドの街のダンジョンは何回層まであるんだったけか?」
「ソレイドのダンジョンは100階層までじゃな。10階層ごとに迷宮王と呼ばれる強い魔物がおるスタンダードな迷宮じゃ。初心者から強者まで挑戦できる癖のない迷宮じゃの」
「なるほど。それでここまで人が集まる大きい街になったのね」
「100階層って深い方なのか?」
「いや、そこまで深いわけではないの。今見つかっておるダンジョンで一番深いのは推定1000階層と言われておるが、ダンジョンは一回層だけのものとか二つの塔からなるものもあるからの。一概に階層の多さが攻略難易度とはいえんのじゃ」




 二つの塔からなる迷宮とかあんのか。
 それじゃあどこを目指して進んでけばいいのか分からなくなりそうだ。
 そんなダンジョン事情を話しながら歩いていると街の中心に向かうにつれて人が増えてきた。




「ダンジョンって大体何人くらいで攻略するのかしら?」
「うむ。一番安定しておるとされる人数は前衛2人、後衛2人、回復や支援をこなす者1人、それと荷物持ちやマッピングや斥候をする者が1人の計5人じゃな」
「そうかー。じゃあ俺たちもあと2人は欲しいな」
「妾達はマジックボックスが使える者が2人おるし、前後衛をこなす者が2人と前衛が1人じゃ。それに勇者と魔王じゃからな、回復と補助もじきに自分でそれなりにはこなせるようになる。理想を言うなら回復役が1人欲しいが、そこまで必死にメンバーを探す必要もなかろうよ」
「私は可愛いシスターさんを仲間にしたいわ!」




 かくして歩くことしばらく。
 俺たちはようやくダンジョンの前にたどり着いた。
 ダンジョンの上にはそれを管理する冒険者ギルドの建物が建てられている。
 魔物が溢れた際には建物ごと崩して時間を稼ぐらしい。
 異世界は逞しいな。




「あれは転移魔法陣かしら?」


 土御門さんが指差した方向には淡い黄緑色の光を出す円形の魔法陣がある。
 今の時間帯は皆今日の探索が終わった頃なのかあまり入っていく人はおらず出て来る人の方が多い様だ。




「そうじゃな。あれを使えば10層ごとに転移できる。正確には転移魔法とは違うものじゃが、効果は変わらんしそれで良いじゃろ」
「ん? 転移魔法じゃないのか?」
「うむ。ダンジョンはその成り立ちから未だ解明されておらぬ謎多き場所じゃ。あれも基本的には何故か魔物には反応せんしの。一説ではダンジョンは神が創っておるらしいぞ」
「この世界には神が実在するのかしら?」
「うむ。奴等は聖域から出てくる事が少ないからあまり人の目にとまる事はないが、確かに存在しておるぞ。妾も神の一柱と知り合いじゃしの」
「まじかよ。さすが魔王だな。その神はどんなやつなんだ?」
「まあ、いずれ旅をしている内に会うことになるじゃろ。その時のお楽しみじゃな」




 その後も俺と土御門さんがローズにダンジョンについて質問をしていると、気づいた頃には日が傾いていた。
 どうやら大分熱中していたようだ。
 ローズが心なしか疲れているように見える。




「そろそろ夕刻の鐘がなるんじゃないか?商人ギルドに向かったほうが良いと思うぞ」
「あら、もうそんな時間なのね。ありがとうローズちゃん。為になったわ」
「うむ。参考になったなら幸いじゃ。そうじゃの。迎えの者が探しにくるじゃろうが、妾達の方からも商人ギルドの方へ出向くとするかの」




 俺達がちょうど商人ギルドに向かおうとしたその時、後ろから商人ギルドの受付のお兄さんに声をかけられた。




『皆様、お待たせ致しました。既に準備は整っております。このままお屋敷までご案内してよろしいでしょうか?』
『うむ、それで良い。よろしく頼むぞ』


「どうやら家まで案内してくれるそうじゃ。このまま取りあえず買った家まで行くが良いかの?」
「ああ、問題ないぞ」
「そうね。私も構わないわ」




 俺達はお兄さんに連れられて街を歩いた。
 後でローズから聞いたところ、北側の壁際にある家でダンジョンからは徒歩で十分くらいらしい。
 大きな家で日が当たる所はそこしか無かったそうだ。
 お兄さんが申し訳無さそうにしていた。


 お兄さんに案内してもらっている途中、路地裏で怪しい取引をしている男がいた。
 さすが異世界。
 やっぱりアンダーグランドな世界も広がっているようだ。
 セクシーなお姉さんとキャッキャウフフするようなお店とかもあるのだろうか。
 あるのならば少しのぞいてみたい。




「高音くん?」
「ああ、いやなんでもない」




 考え事をしていたら足を止めていたようだ。
 それから鐘の音を聞いて五分ほどで目的地に到着した。




「え、ここ?」
「家って言うから普通の一軒家を予想していたのだけれども、これは結構なお屋敷ね」
「そうか? 大した広さじゃないじゃろ。魔王城の使用人用の宿舎よりも大分小さいぞ?」
「いやいやいや。ここまでの邸宅って俺ら3人だけで使い切れる広さじゃないだろ」
「何、それならば使用人でも雇えば良い」
「そういう問題じゃない気がするのだけれど」




 商人ギルドのお兄さんに案内されたのは3階建ての豪華なお屋敷だった。
 庭は丁寧に手入れされた緑が生い茂り、館の方はワンフロアに10部屋程ありそうだ。
 こんなに部屋要らんだろと思ってしまうのは俺が庶民だからだろうか?




『それではご案内させて頂きますので、部屋や調度品の確認をお願いします』
『うむ。よろしく頼む』




 俺たちはお兄さんに案内されて屋敷を一通り見てまわった。
 屋敷の中には水洗便所や柔らかいベッド、大きな風呂もあったので俺の日本での生活よりも豊かな暮らしが出来そうである。
 土御門さんが風呂場の魔道具に魔力を流してびしょ濡れになる一幕もあったが特に問題なく部屋を一通り見終わった。




『うむ。問題はないようじゃの』
『それでは、私はこれで失礼致します。何か不備などが御座いましたら商人ギルドにお越しください』




 最後の一部屋を見終わり玄関に戻ると商人ギルドのお兄さんがお辞儀をしてさっさと帰って行った。
 無駄なことはせずに気を使わせない。
 仕事に生きる男って感じでカッコいい人だ。




「さて、夕飯を食べに行くからお主も着替えてこい。適当な部屋のクローゼットを開ければ服が入っておるはずじゃ」
「ん?俺は着替えなくても別にいいだろ」
「これから夜の街に繰り出すのじゃ。そのような仕立ての良さげな格好では絡まれるぞ?」
「はい。着替えてきます」
「うむ。それが良い」




 一階の端の部屋のクローゼットを開けると男性用の服が入っていた。
 紺のズボンと胸の辺りに紐がついたTシャツに薄めの上着を羽織った俺は腰に愛剣を差して玄関に向かった。




「あら、準備できたかしら?」




 玄関に戻ると土御門さんが既に着替え終わっていてローズと共に待っていた。
 長い黒髪をおさげにしてオフショルダーの赤いワンピースを着て腰に両手剣を下げている。
 色っぽい町娘の風貌と言った感じだ。
 こういう時には何か気の効いた一言を言いたい。




「土御門さん。凄い良い感じだな」
「ふふ。ありがとう。高音くんも良い感じよ?」




 土御門さんは口の前に手を当てながらそう言って微笑んだ。
 ああ、俺には女の子の服装を褒めるセンスがないのかもしれない。
 顔がカァっと熱くなるのを感じた。




「よし、準備できたようじゃの。それじゃあ行くぞ」
「ローズは着替えないのか?」
「うむ。エルフはフォーマルな格好をしている方が絡まれんからの。妾はこのままで良い。お主にチャンスをやれんですまんかったの」




 ローズに意地悪そうな顔でそう言われた。
 土御門さんもニヤニヤと笑っている。




「あー腹減ったな! さっさと行こうぜ!」




 俺はさっさと先に家を出た。
 断じて気まずくなった訳ではないぞ。
 本当だぞ。

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