クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...

がいとう

2話 再びの転移

 風舞 






「マジかいな」


 突如気を失った俺が目を覚ますと、そこは洋風の玉座の間のようなところだった。
 辺りを見回してみると教室内にいた全員が一人も欠けることなくここにいる。
 どうやら俺が一番最初に目を覚ましたようだ。




「ようこそいらっしゃいました。勇者様」




 玉座の横に立つ美少女が俺が起き上がったのを見て声をかけてきた。
 水色の髪をしていて、ものすごい美少女だ。
 だが、俺は騙されんぞ。
 王族が勇者に催眠や呪いをかけて思いのままに扱おうとする事はよくある話だ。


 なんて我ながらに失礼な事を考えていたら、水色の髪の美少女が再び口を開いた。




「いきなりこのような場に召喚されて不安かと思いますが、どうか皆様が目を覚ますまでお待ちください」




 どうやら俺が話しかけられても何も喋らないため、俺が混乱していると思ったようだ。
 いや、まぁ、急に美少女に話を振られたから、焦って何も言えなかっただけなんだけどね。


 そんな微妙に人見知りな俺は、とりあえずお姫様に会釈してから周囲を見回してみた。


 まず、玉座には国王だと思われるおじさんが座っている。
 がたいも良いしきっと強いんだろう。


 次に、俺達がいる玉座の正面に敷かれているレッドカーペットの両端には全身鎧の騎士がズラリと立っている。
 絶対強いな。
 体感的に俺の強さは変わってないだろうし、逆らったらけちょんけちょんにされそうな気がする。




 ………大人しくしとこう。




「んんっ、高音くん?」




 どうやら俺が周囲を見回している間に、土御門さんも起きたようだ。
 その他の生徒もチラホラと起き始めている。




「ここはいったい? 私はテストを受けていたはずじゃ」
「ああ、俺にもよくわかんないけど、どうやら気づいたら異世界に来ていたらしい」
「異世界? それって高音くんがテスト中にぶつぶつ言っていたあの?」




 あ、聞かれてたんですね。
 まずいな。
 変な奴と思われる前にごまかさないと。




「そ、そうだったか? と、とりあえず全員が起きたらあそこのお姫様みたいな人が説明してくれるそうだから、もうちょっと待ってようぜ」
「ああ、そう。そうね。あまり動き回らない方が良さそうだし」




 土御門さんはそう言って辺りを見回した。
 どうやら独り言の件はごまかせたようである。




「ところで高音くん。君、教室の外が暗くなる前に異世界に行きてぇって言ってなかったかしら?」




 ごまかせてねぇし。
 美人な土御門さんが満面の笑みでそう尋ねて来る。
 彼女が美人だからか綺麗な微笑みを向けられているはずなのに、めちゃくちゃ凄みがある。




「ごめんなさい。言いました。嘘ついてごめんなさい」
「よろしい。それで、この状況に心辺りは?」
「なんとなく呟いただけなので、何も」
「そう、それでは高音くんが原因ではないようね」




 そういうと彼女は顎に手を当てて何やら考え出した。
 どうやら一言で俺が原因ではないと信じてもらえたらしい。
 土御門さんマジ女神。
 俺はただ呟いただけなので原因じゃないはずだ。
 多分。


 俺がそんなアホなことを考えている間にも、周りの生徒たちは何人かで集まって何やら話し合いをしている。
 ここがどこで何があったのかについて真剣に話し合っているようだ。


 そんな緊張感の中で、俺は考えごとをする土御門さんを横目に眺めながらぼんやりしていた。
 今日も美人ですね、土御門さん。


 それから数分後、全員が目を覚ましたところでお姫様から声がかかった。




「それでは皆さまの目が覚めたようなので、説明をさせていただきます。私はラングレシア王国第一王女セレスティーナ。ここはラングレシア王国王城でございます」




 あー、知らん国だわ。
 やっぱり異世界だわ。
 ドッキリっていう線はないはず、騎士が来てる鎧とかクオリティ半端ないし。
 だって超強そうだもん。




「ここは皆様が住む世界とは異なる別の世界です。皆様を勇者様としてこの国に召喚させていただきました」




「異世界って事ですか?なんの為に僕達を呼んだのですか?僕達は帰れるのですか?」




 さすが主人公っぽい天満くん。
 俺は会釈しかできなかったのにめっちゃ堂々と話しかけてるよ。
 さすがだわ。




「そうですね。まず、ここは皆様が住んでいた世界からすると下位に存在する世界です。召喚の際は皆様の世界に穴を開けて上から下に落ちるように世界を飛んでいただきましたが、下位の世界から上位の世界へと上がるためにはこの世界すべての魔力を使ったとしてもエネルギーが足りないため、皆様を元の世界にお返しする事は出来ません。申し訳ございません」




 それを聞いて周りのクラスメイトはざわつき出す。




「そ、そんな。帰れないの?」
「う、嘘だよね?」
「どうせ何かのドッキリなんでしょ?」


「勝手に呼び出しておきながら、お返しすることが出来ず申し訳ございません。ただ、この国はある魔王によって滅亡の危機に瀕しているのです。どうか、どうか…私達をお助けください!」




 そう涙ながらに語るセレスティーナさん。
 クラスメイトのみんなは言いたいことがあるような顔をしているが美人なセレスティーナさんの必死な様子を見て何も言えずにいる。


 それよりも、なんで俺達に帰れないなんて話したんだ?
 こういうのって帰還を餌に頑張らせるのが定番なんじゃないのか?
 国家崩壊の危機なら真面目に話すよりもなんとしてでも戦力にする為に嘘をつくのが普通だろ。


 そう思ってセレスティーナさんを疑いつつ眺めていると、うっすらと指輪が光っている事に気付いた。


 これ、定番のやつやん。
 あの指輪は多分呪いの指輪だな。
 やっぱり王族は敵だったか。




「ねえ、土御門さん」
「何かしら?私は今お姫様の話を聞いているところなのだけれど」
「この話、なんかおかしくないか?」
「ええ、そうね。国家の危機にしては詰めが甘いように感じるし、国王が一言も喋らないのも不自然に感じるわ」




 マジかよ。
 土御門さんはなんで気づいたんだ?
 異世界物が好きって訳はないだろうし、ただただ賢いのか?
 普通、急に知らんとこに拉致られて少なからずパニックになってる状況で予備知識もなく気づかないだろ。




「あのお姫様の指輪なんだけど、多分呪いの道具だと思うんだよな。魅了系の」
「呪い?そんなものあるのかしら?いえ、でも異世界だしあってもおかしくないかも」
「ああ。だからあの指輪は見ない方がいいと思うぞ」
「そうね。それと声も聞かない方がいいかもしれないわ」
「え、なんで?」
「人間の脳は音にも割と敏感だからよ。もしかすると、呪いを音に乗せてるかもしれないわ。視覚と聴覚以外の五感に訴えかけるなら食事に細工するだろうし」
「な、なるほど」




 ヤバくない?
 土御門さん天才すぎでしょ。
 どんだけ賢いんだよこの娘。




「でも、音を聞かないようになんてどうすればいいんだ?」
「イヤホンをつけて音楽でも聞いていたらいいんじゃないかしら」
「でも、そんなことしたら目立たないか?」
「おそらくこの世界にはイヤホンなんてないだろうから大丈夫よ。それに、怪しまれても今日中に何とかして城から抜け出すわ」
「あ、そう」




 土御門さんが凛々しい顔で俺の方を向いてそう言った。
 すごいやる気を感じる。 
 心なしか目がキラキラしてる気がするけど、気のせいだよな?




 そういう訳で、俺と土御門さんはあのお姫様が話をしている間、音楽を聞きながら適当に目をそらしとくことにした。
 周りのクラスメイトを眺めていたが、彼らはどんどんセレスティーナさんに夢中になっていってるような気がする。
 呪いにかかっちゃったのかもな。
 まぁ、ドンマイ。


 そうして、かれこれ10分くらい経ったあたりで、玉座に一番近い騎士が何やら数十枚のカードののったトレイを持ってやってきた。
 それまでの間あのお姫様は多分ずっと話していたと思う。


 騎士が歩いているのを見ていると、土御門さんに横からつつかれてイヤホンを外すようにジェスチャーをされた。
 土御門さんはもうイヤホンを外している。


「あのステータスカードっていうカードを配ったら外に移動するそうよ」
「話を聞いてたのか?」
「読唇術よ。どうやら日本語と全く同じ言語を使ってるようね」
「あ、そうですか。」




 土御門さんの有能っぷりに脱帽しつつ、騎士からカードをもらった俺はそのカードを確認してみた。
 カードは何らかの金属でできていて、名前、レベル、スキル、体力、魔力、攻撃力、防御力などなど、よくあるRPGのステータスが数字の入りそうな欄のみ空欄になって書かれている。




「そのカードに血を垂らすとステータスが反映されるらしいわ。私達は上位の世界からきたからステータスポイントが最初から高くてステータスの伸びも良いそうよ。あと、ステータスポイントっていうものを割り振れば好きな魔法やスキルが使えるようになるらしいわ」
「なるほど。血を垂らすのか」
「外に出たら針を配ってステータスの更新をするらしいけど、移動中にやるわよ」
「なんで?もう逃げんのか?」
「ええ。とりあえずは自分の安全を確保しないことにはどうにもならないわ」
「ああ、なるほど」




 正直土御門さんが日本にいた時とは別人に見える。
 心なしかウキウキしてるようにも見えるし、なんかめちゃくちゃ張り切ってる。
 まあいいんだけどね。


 その後、移動が始まってからも俺達は小声で話しを続けた。




「それじゃあ、俺は転移魔法をとってみる。それなら二人で簡単に逃げれるだろうしな」
「それなら転移魔法のLVと魔力、知能とかは十分に上げといた方がいいと思うわ」
「ああ、なるほど。詠唱とかに時間がかかっても困るからか」
「さすが高音くんね。その通りよ」
「で、どこに飛べばいいんだ?」
「そうね、前に3000キロほどかしら?」
「距離を稼ぐのはわかるけど、なんで前?」
「室内で方角も分からないし、なんとなくよ」
「ああ、そうですか」
「それと、出来るだけ上の方に跳ぶべきね。地面の位置がわからないし、地中に転移するなんて私は嫌よ」
「そんな行き当たりばったりで大丈夫かね」
「きっとなんとかなるわ。最悪私が風魔法をとって飛べばいいしね」




 なんで土御門さんはこんなに無計画なのに満面の笑みなんだろうか。
 後、絶対この娘ファンタジーとかRPGとか大好きだよね。
 普通の女子高生は詠唱とか知らないと思うんだけど。




「他には何かある?」
「指を切って血を垂らしたら何があってもすぐにステータスカードを更新して、すぐに転移してちょうだい」
「まあ、たしかにもたもたして捕まってもあれだしな」
「そういうことよ。それじゃあ私は高音くんの左腕に抱きついてるから一思いに右手の親指を噛み切りなさい」
「マジかよ」
「マジよ」




 土御門さんはそう言った途端にさっそく俺に抱きついてきた。
 彼女のいい香りと胸の感触がすごくいい感じだ。
 ぶっちゃけ今なら魔王でも勝てそうな気がする。
 指噛み切るくらいわけないわ。
 よし、




「いっつっ!!」
「急いでっ! 高音くん」
「おうっ!」




 俺の指からステータスカードに血を垂らした途端にステータスカードに数字が表示されていく。
 俺のステータスポイントは4623。
 どうやらこのステータスポイントを割り振ってステータス、魔法、スキルに割り振るようだ。
 とりあえず俺は転移魔法を覚えるぞと思いながらステータスポイントを使うイメージをしてみた。




 転移魔法 LV1 自分を視界内の地点に転移できる。




 おおっ説明まで出るのか。
 これならどのくらい強化したらいいか簡単に分かりそうだな。
 よし、このまま強化するか。




 転移魔法 LV2 対象物を視界内のみ転移できる。




 ちっ、これじゃあダメだな。




「高音くん。まだ?」
「ごめん。もうちょい待って」
「急いでちょうだい。このままじゃいつバレてもおかしくないわ」




 土御門さんが歩きながらも急ぐよう促してくる。
 土御門さんが俺に抱きついている為に、周りのクラスメイト達はものすごく騒然としている。
 す、すげぇ恥ずかしい。


 強化続行。




 転移魔法 LV3 手に触れているものを異空間に収納できる。




 まだか。




 転移魔法 LV4 自分と自分に触れているものを視界内のみ転移できる。




 これも違う。


 そうして強化を続けて転移魔法LV8でようやく目当てのものが出た。




 転移魔法 LV8 自分と自分に触れているものを好きな場所に転移できる。ただし、消費魔力は距離に依存する。




「よしっ!」




 俺が目当ての転移魔法を覚えたその時、ついに1人の騎士に俺達が勝手なことをしているのがバレた。




「おいっ! そこのお前っ! 何をしている!?」
「高音くんっ! 急いでっ!!」


 くそっ、これじゃあ魔力と知能にどれだけ振ればいいかわからない。
 しかし、俺に怒鳴った騎士はもう目の前まで迫っているため、検証している暇はない。
 俺は一か八か残りのすべてのステータスポイントを魔力と知能に半分ずつ割り振った。




「おいっ!! お前、勝手なことをするなっ!」




 騎士がそう言って俺の腕を掴もうとした瞬間、俺の転移魔法は成功した。




「テレポーテーション!!」



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