螺旋階段

山田 みつき

9

紀一「なぁ、お前も多少は飲めるんだから、少しぐらい、いや、もう少しぐらいは付き合え。」


大黒柱とも言えぬ紀一が私に、珍しく酔って『男語り』をしてきた。
私は紀一と一緒に不味い焼酎を一気に飲んだ。
恭子を真似て、恭子に"似たなぁ"と言われた優越。

桜は楽しそうだ。
私は其れを不愉快と呼ぶ。
紀一も多分、不愉快だろう。

そう思い、まるでカウンターレディーの様に紀一に接客をしてみせる。


香澄「ねぇ、"紀一さん"、次は何になさいますか?」

紀一は、やれやれと言う顔で私に笑いジワを作って、次は私にお酒を次いでくれた。


紀一「なぁ…香澄。お前は。」


怖かった。
紀一が何を喋り出すのか。
口角が歪むのをそっと抑える。


香澄「なんですかぁ~?」


私は笑ってのけるけれど、紀一の横顔は半端なく、落ちぶれた親父そのものだ。
私は、哀れにさえ想う。


紀一「俺は、恭子を好きでお前と言う女を"産ませた"んだ、解るか?」


私の中で呼吸は乱れ、けれども、この哀れなオッサンには敵わないと聞き続ける。
うん?うん?と。
相槌しか打つ事が出来ない。


香澄「…。」


紀一の子どもじみた、その演出力。
私は"読めない"。


紀一「お前はぁ、昔っから、面白くなくて~…ヒック…桜はいつも面白れぇなぁ~。」


また。
また比較するんだ。
私は幼い頃からの、父母のこの家庭の中、馴れたもので、お酒にも強くなってしまい。
嗚呼、きっとこの人は、明日には忘れてしまうのであろう。

この言葉の意味も。
私が傷付いた事も。

よく、クラスメイトの女子が言っている。


『男ってガキだよね~』


ちょっと解った気がした。
だから私はーー。


香澄「紀一さん?桜チャンと比べたら嫌よ(笑)私は此所のママですからね!しっかりして下さい!…な~んてね?たまには赦しますよ(笑)」


紀一が色目で私を見た気がした。
私は容赦なく、恭子への復習劇が始まったと実感した。


紀一「おい…カレシはいるのかな~?」


紀一は完全に赤ん坊だ。
何にも考えて居ないのだろう。

けれど歳の功には追い付く事は出来なかった。
其れすら、其れ以下。


紀一が迫って私に接吻する。
私はやめてと拒む仕草をしたが、完全に勝ち誇った。

"桜、もし何処かに隠れているなら見ていたら面白いわ"


あとね、あとね、『あの女もね。』


香澄「…んんッ…ん…あ、あたし、一応新人ですからぁ~んっ…」

紀一「俺は、若いのが好きだ。後、その繊細で何も知らない少女と女の境目が好みだ。」


私は紀一に腕を取られたフリをして、力を緩めた。
もう、どうでも良かった。
紀一は私に貪った。
この男は、私が初めてだなんて知らない。
けれど。
いいんだ。
『恭子』と『桜』に私は勝った。


桜「あ…姉貴。」


やっぱりか。
見てたんだ。
こいつ、ずーっと苦労知らずで、臆病者だからなーんにも知らないもんね。

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