螺旋階段

山田 みつき

3

紀一が嗜むものは総てにおいて暗記する程、私はまだまだ恭子より長けてなかったが、割と脳内に叩き込まれていた。

幼稚な脳味噌の方が覚えが早く、時々、恭子を追い越す早さでこなしてしまう時の、あの恭子と云う女の視線が恐怖だったのかもしれない。

私は近所のコンビニエンスストアへ向かった。
何故か足の裏がボツボツとする、健康サンダルと言うものなのか。

恭子の履いているその、ピンクの健康サンダルで走るのが何故か大人になった気がして好んでいた。

其処のコンビニエンスストアには、半分タバコ屋、それから酒屋にもなっている様子で、どうやら個人経営だと思う。

老婆と髭の生えた男がいつも店を回していて、髭の男はどうやらその老婆の息子だと思った。


老婆「いらっしゃい。香澄ちゃん、またいつものお買い物?偉いねぇ、まったく。いつもので良いのかな?」

この老婆はいつも把握していてくれる。
私はズル賢い脳味噌で、レジの前の飴を人差し指で弄ぶ様にしていた。

本当は、この老婆が居なければ、健史朗と云う、この老婆の息子はもっと私に『愛を』与えてくれる。
けれど今日は居ないから飴で我慢する。

私は指先でレジの飴を弄ぶ事を止め、老婆が持ってきた、紀一のお酒と煙草を待っていた。

香澄「はい。有難う、おばさん!」

やっぱり指先は見られて居た様だ。
老婆は利用価値すら測れない眼鏡が下がっていて、その視線で私に話し掛けるのだ。

老婆「オマケだよ、お嬢ちゃん。」

香澄「おばさん!あ、有難う!」

老婆「ママに見られる前に食べちゃいな。」

香澄「うんっ!」

私は一つだけ目の前で口に含み、『美味しい』ってはしゃいで見せた。
老婆のシワシワな笑顔に罪悪感を覚えた。

私は、ピンクのサンダルで袋をブラ下げて、家まで向かった。
家の前には、恭子が居た。
慌てて、ズボンのポケットに飴を隠す。


香澄「マ…ただいま、買い物行ってきたよ♪」


恭子を見上げると、口唇から血液が流れていた。


香澄「...ママ!!」


慌てて恭子に駆け寄ると、私の手から袋を奪い取った。
そして、恭子は私に告げたんだ。


恭子「…お帰りなさい。遅いじゃない?貴方は羨ましいわね。なんて御身分ですこと。私は、今日はお酒の臭いを嗅ぎたくないの。…出来るわよね?香澄。」


私は、雪に滴る、恭子の口唇から零れる赤いものを見つめていた。
只、ひたすらに、紀一からの愛情を受けた証だと、恭子に初めての憎しみを抱いた。

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