異世界に飛ばされたが選択肢を間違うと必ず死んでしまうなんてあんまりだ!~早く元の世界に帰らせてくれ!~
■警告と決意
バッと音が出る程の勢いで目覚める。
きょろきょろと辺りを見渡すと、武器作りの残骸が散らばっている。
だがバックからリーシェと一緒に作った弓がはみ出ていることから、夢を見ていたということでは無いのだろう。
「……強制的に死んだのか」
思い出すのはループ前の出来事。
俺は選択肢に無いものを選ぼうとし、意思を主張したら少しずつ目の前が真っ暗になっていった……
――そして今に至る。
「選択肢を無視することも、俺が新たに作ることもできないってことだな……」
思っていたよりも選択肢の拘束力は強く、ルールもあるらしい。
「こりゃ、選択した上でそれに反する行動を取ることも無理な気がしてきたな」
まだ試していないことを呟くが、この流れからして反する行動を取るのは危険な気がした。
選択肢が出たときは大人しく従った方がいいのだろう……
試してみたいという気持ちもあるが、死ぬ確率が高いと感じる行動は取りたくない。
「その検証はまた何を選んでも確実に死にそうな時だな……」
まぁ、そんな状況の時に今回のように上手く頭が回るかどうかわからないが。
――それにしても今回のループは色々と収穫があった。
選択肢についてまた少しわかったことがある、と言うのもあるが、武器ごとループできたのは大きい。
「あの男が来る前に旅立っちゃえばいいんだよな」
そう、武器は出来ている。食料だってその辺に果物が沢山実っているので、これを収穫さえすれば何時でも旅立てる。
勿論身体能力は変わっていないので、途中でモンスターに殺られるという可能性は変わらないが……
元々武器ができたら旅立とうと思っていたのだ。
あの男達が来るのは日が少し落ちてきた頃。
すぐに旅立てば出会うことはないだろう。
「……そうすればいい筈……なんだけど…………」
気になるのはリーシェのこと。
もしこのまま何も言わず俺が旅立ったら、彼女はどうなるのだろう。
あいつ等はエルフを探してた。理由はわからないが、どうみても仲良くなりに来てるわけではないのはわかる。
――もしかしたら殺されてしまうかもしれない。
「~っ」
頭をわしゃわしゃと掻きながら悩む。
幸い男達が来るまでは時間があるし、ループ前と同じ行動をすればリーシェに出会えることもわかっている。伝えてから森を出ても問題ない……はずだ。
「信じてもらえるかな……。」
問題はここだ。いきなり、日が落ちる頃に結界が壊されて謎の男達が君を襲いにくる! なんて言われても普通は信じないだろう。
「まっ、なるようになるか……?」
悩んでいても時間が過ぎていくだけだと思った俺は、とりあえず行動に移す。
ループ前と同じように森を進んでいき、疲れが出始めたところで近くの木に身体を預ける。
何処もかしこも似たような道を歩いている為、正直前回と同じ道だったかはわからない。
大丈夫だろうか? という不安はあるもののループ前と同じように、目を瞑ってみることにした。
木漏れ日と風が気持ちよく、今回も眠りの世界に落ちていくのだった。
――頬がいたい。
そう感じながら目を開けると、目の前にはリーシェが居た。
「……待っふぇた。」
少し変な言葉になってしまったのは、まだ頬をつねられているから。
待っていたと言う言葉に首をかしげながらも、あっ、生きてた。と言う彼女はループ前と全く同じである。
「君を待ってた」
改めて待っていたという言葉を口にする。
リーシェはパチパチと瞬きする。
「私を? なんで? 」
「日没に結界が壊されて、謎の男達がエルフを探しに来る。」
簡潔に伝えたいことを言うと、リーシェの顔が強ばっていく。
「なにそれ……結界が壊される………だからそれまでに結界の外にでも行けって言ってるの? 」
その声には怒気が含まれている。
信じてもらえず話を聞いてもらえないかも、とは思っていたがこの反応は予想外だ。
「え? なっ、何で怒ってるのかわからないけど本当なんだ! 信じてくれ! 」
「それが本当だというなら何故貴方はそんな事を知っているの? あなたはこの世界のことを何も知らなかった、異世界から来たって言ってたじゃないっ! ……そんなでたらめを言って、私達を結界の外に出すつもりなんでしょう?! 人間なんて……人間なんて信じられるものか!」
怒鳴り声が森に響く。彼女の目には何故か涙が溜まっており、エメラルドグリーンの瞳が揺れる。
「っ信じてもらえないとは思う。でも確かに結界は壊れてエルフを探す奴が来た!………俺には死んだらループする謎の現象が起きてるんだ。君が"リーシェ"という名前なのも前回のループで教えてもらった!これだけじゃ信用できないか? 」
リーシェは涙のたまった目を見開く。
名前を当てられ驚いたのだろう。
そう、今回まだ彼女は名前を俺に教えていない。
信じてもらえる切り札はこれしかないが、少しの効果はあるだろう。
リーシェは下唇を噛み俯く。
「………何で名前を知ってる? 」
「今言ったが、前回のループでリーシェ、君が教えてくれた」
「……仮にループが本当だとして、それを私に伝えて貴方に何のメリットがある」
潤んだ瞳を此方に向け、ぎゅっと自身の服をつかみながら問いかけてくる。
「メリットなんてないよ。リーシェの事が心配だった。それだけ」
真っ直ぐとリーシェを見つめる。
信じるか信じないか迷っている表情だ。
暫くの沈黙が俺達を包む。
そんな中、先に声を発したのはリーシェだった。
「………わかった。でも結界の外へは出られない。この森にいるのは私だけじゃないから…………でも忠告はありがとう。例え結界が壊されても、この森にあるエルフの村は幻術で更に隠してあるしきっと見つかりはしない。」
それじゃあ、と言いながらリーシェは去っていく。
完全に、ではなさそうだが少しは信じてくれた……よな?
俺にできるのはここまでだし、幻術で隠してあるというなら大丈夫か……
そう思いながら俺は旅立つのだった――
◇
――俺は旅立った…………筈だったのに何故まだ森にいるのだろう。
日は沈み、また大きな音と共に地が揺れたのももう暫く前。
どうしてもリーシェの事が気になり、森の入り口で立ち止まってしまっていた。
幸い謎の男達には出会っていないので、生き延びてはいる。
俺がここにいてもどうしようもないんだから、早く移動すればいいのだが、どうしても嫌な予感がして立ち止まってしまう。
――バキッという木の音
心臓が跳ねる。
あの男達だろうかと恐る恐る音の出た方を見ると月明かりに照らされたリーシェが居た。
「リーシェッ!!!!」
突然のことに驚いたということもあるが、それよりも驚くことは、彼女が血塗れだからだ。
右腕はなくボタボタと血が流れ落ちている。
腕以外のあちこちも傷だらけで、目も虚ろだった。
今にも倒れそうな彼女を支える。
ぬるりとした血の感触が気持ち悪い。
「……ッ………」
息も絶え絶えながらもなにかを伝えようとしている。
「……っ…おね……が…い……ほんとに……ルー…プ……してるなら……っ………わた…したち……エルフ……のむ……たす――」
最後までいう前に彼女は息絶えた。
途中の言葉は"助けて"だろうか。
心臓がばくばくする。助けて? 俺は忠告した。
これ以上どうしろっていうんだ。
色んな感情がぐるぐると回る中、恐らく返り血であろう血塗れの鎧を着たあの男が現れた。
「あらぁ~? どうして人間が居るのかしらぁ?」
「………」
「まぁいいわ。その後ろのエルフ、私に寄越しなさい。そしたら見逃してあげる」
「………嫌だって……言ったら?」
「そんなの……わかるでしょう? 」
フフッと笑いながら近づいてくる。
以前も謎の威圧感は感じていたが、それよりも背筋がぞくりとする様な冷気にも似た何か。
これが殺気というやつだろうか。
早くリーシェを差し出してしまえばいい。
別に俺には彼女が、エルフの村がどうなろうか知ったこっちゃないじゃないか――
なのに……なのにどうして既に死んでいる彼女を守っているんだ。
今まで見た誰よりも可愛かったから? この世界で初めて会った人だから? 情報をくれたり、武器作りを手伝ってもらったからか?
全部当てはまるかもしれないし、全部違うのかもしれない。
正解はわからなく、ごちゃ混ぜの感情が頭を駆け巡る。
ただ……ただ、彼女が死ぬのは嫌だと思った。
「……俺は…っ……絶対にリーシェを渡さないぞ……!」
ガクガクと震えながら口にする言葉。
フンと鼻で笑われる。
「出会いが違ったら惚れちゃってたかもしれない位カッコいいわぁ~。でも残念。邪魔するなら好みのタイプでも見逃すことはできないの」
さ・よ・な・ら
そう言いながら振り落とされる大きな剣。
本当に一瞬なのだろうがスローモーションの様にも見える。
"ザシュッ"という音と共に痛みと熱さを感じ飛び散る自分の血が目に入る。
――絶対に
絶対に助けてみせるから――
微かに動かせた手でリーシェの左手を握りしめ俺の世界は幕を閉じた。
きょろきょろと辺りを見渡すと、武器作りの残骸が散らばっている。
だがバックからリーシェと一緒に作った弓がはみ出ていることから、夢を見ていたということでは無いのだろう。
「……強制的に死んだのか」
思い出すのはループ前の出来事。
俺は選択肢に無いものを選ぼうとし、意思を主張したら少しずつ目の前が真っ暗になっていった……
――そして今に至る。
「選択肢を無視することも、俺が新たに作ることもできないってことだな……」
思っていたよりも選択肢の拘束力は強く、ルールもあるらしい。
「こりゃ、選択した上でそれに反する行動を取ることも無理な気がしてきたな」
まだ試していないことを呟くが、この流れからして反する行動を取るのは危険な気がした。
選択肢が出たときは大人しく従った方がいいのだろう……
試してみたいという気持ちもあるが、死ぬ確率が高いと感じる行動は取りたくない。
「その検証はまた何を選んでも確実に死にそうな時だな……」
まぁ、そんな状況の時に今回のように上手く頭が回るかどうかわからないが。
――それにしても今回のループは色々と収穫があった。
選択肢についてまた少しわかったことがある、と言うのもあるが、武器ごとループできたのは大きい。
「あの男が来る前に旅立っちゃえばいいんだよな」
そう、武器は出来ている。食料だってその辺に果物が沢山実っているので、これを収穫さえすれば何時でも旅立てる。
勿論身体能力は変わっていないので、途中でモンスターに殺られるという可能性は変わらないが……
元々武器ができたら旅立とうと思っていたのだ。
あの男達が来るのは日が少し落ちてきた頃。
すぐに旅立てば出会うことはないだろう。
「……そうすればいい筈……なんだけど…………」
気になるのはリーシェのこと。
もしこのまま何も言わず俺が旅立ったら、彼女はどうなるのだろう。
あいつ等はエルフを探してた。理由はわからないが、どうみても仲良くなりに来てるわけではないのはわかる。
――もしかしたら殺されてしまうかもしれない。
「~っ」
頭をわしゃわしゃと掻きながら悩む。
幸い男達が来るまでは時間があるし、ループ前と同じ行動をすればリーシェに出会えることもわかっている。伝えてから森を出ても問題ない……はずだ。
「信じてもらえるかな……。」
問題はここだ。いきなり、日が落ちる頃に結界が壊されて謎の男達が君を襲いにくる! なんて言われても普通は信じないだろう。
「まっ、なるようになるか……?」
悩んでいても時間が過ぎていくだけだと思った俺は、とりあえず行動に移す。
ループ前と同じように森を進んでいき、疲れが出始めたところで近くの木に身体を預ける。
何処もかしこも似たような道を歩いている為、正直前回と同じ道だったかはわからない。
大丈夫だろうか? という不安はあるもののループ前と同じように、目を瞑ってみることにした。
木漏れ日と風が気持ちよく、今回も眠りの世界に落ちていくのだった。
――頬がいたい。
そう感じながら目を開けると、目の前にはリーシェが居た。
「……待っふぇた。」
少し変な言葉になってしまったのは、まだ頬をつねられているから。
待っていたと言う言葉に首をかしげながらも、あっ、生きてた。と言う彼女はループ前と全く同じである。
「君を待ってた」
改めて待っていたという言葉を口にする。
リーシェはパチパチと瞬きする。
「私を? なんで? 」
「日没に結界が壊されて、謎の男達がエルフを探しに来る。」
簡潔に伝えたいことを言うと、リーシェの顔が強ばっていく。
「なにそれ……結界が壊される………だからそれまでに結界の外にでも行けって言ってるの? 」
その声には怒気が含まれている。
信じてもらえず話を聞いてもらえないかも、とは思っていたがこの反応は予想外だ。
「え? なっ、何で怒ってるのかわからないけど本当なんだ! 信じてくれ! 」
「それが本当だというなら何故貴方はそんな事を知っているの? あなたはこの世界のことを何も知らなかった、異世界から来たって言ってたじゃないっ! ……そんなでたらめを言って、私達を結界の外に出すつもりなんでしょう?! 人間なんて……人間なんて信じられるものか!」
怒鳴り声が森に響く。彼女の目には何故か涙が溜まっており、エメラルドグリーンの瞳が揺れる。
「っ信じてもらえないとは思う。でも確かに結界は壊れてエルフを探す奴が来た!………俺には死んだらループする謎の現象が起きてるんだ。君が"リーシェ"という名前なのも前回のループで教えてもらった!これだけじゃ信用できないか? 」
リーシェは涙のたまった目を見開く。
名前を当てられ驚いたのだろう。
そう、今回まだ彼女は名前を俺に教えていない。
信じてもらえる切り札はこれしかないが、少しの効果はあるだろう。
リーシェは下唇を噛み俯く。
「………何で名前を知ってる? 」
「今言ったが、前回のループでリーシェ、君が教えてくれた」
「……仮にループが本当だとして、それを私に伝えて貴方に何のメリットがある」
潤んだ瞳を此方に向け、ぎゅっと自身の服をつかみながら問いかけてくる。
「メリットなんてないよ。リーシェの事が心配だった。それだけ」
真っ直ぐとリーシェを見つめる。
信じるか信じないか迷っている表情だ。
暫くの沈黙が俺達を包む。
そんな中、先に声を発したのはリーシェだった。
「………わかった。でも結界の外へは出られない。この森にいるのは私だけじゃないから…………でも忠告はありがとう。例え結界が壊されても、この森にあるエルフの村は幻術で更に隠してあるしきっと見つかりはしない。」
それじゃあ、と言いながらリーシェは去っていく。
完全に、ではなさそうだが少しは信じてくれた……よな?
俺にできるのはここまでだし、幻術で隠してあるというなら大丈夫か……
そう思いながら俺は旅立つのだった――
◇
――俺は旅立った…………筈だったのに何故まだ森にいるのだろう。
日は沈み、また大きな音と共に地が揺れたのももう暫く前。
どうしてもリーシェの事が気になり、森の入り口で立ち止まってしまっていた。
幸い謎の男達には出会っていないので、生き延びてはいる。
俺がここにいてもどうしようもないんだから、早く移動すればいいのだが、どうしても嫌な予感がして立ち止まってしまう。
――バキッという木の音
心臓が跳ねる。
あの男達だろうかと恐る恐る音の出た方を見ると月明かりに照らされたリーシェが居た。
「リーシェッ!!!!」
突然のことに驚いたということもあるが、それよりも驚くことは、彼女が血塗れだからだ。
右腕はなくボタボタと血が流れ落ちている。
腕以外のあちこちも傷だらけで、目も虚ろだった。
今にも倒れそうな彼女を支える。
ぬるりとした血の感触が気持ち悪い。
「……ッ………」
息も絶え絶えながらもなにかを伝えようとしている。
「……っ…おね……が…い……ほんとに……ルー…プ……してるなら……っ………わた…したち……エルフ……のむ……たす――」
最後までいう前に彼女は息絶えた。
途中の言葉は"助けて"だろうか。
心臓がばくばくする。助けて? 俺は忠告した。
これ以上どうしろっていうんだ。
色んな感情がぐるぐると回る中、恐らく返り血であろう血塗れの鎧を着たあの男が現れた。
「あらぁ~? どうして人間が居るのかしらぁ?」
「………」
「まぁいいわ。その後ろのエルフ、私に寄越しなさい。そしたら見逃してあげる」
「………嫌だって……言ったら?」
「そんなの……わかるでしょう? 」
フフッと笑いながら近づいてくる。
以前も謎の威圧感は感じていたが、それよりも背筋がぞくりとする様な冷気にも似た何か。
これが殺気というやつだろうか。
早くリーシェを差し出してしまえばいい。
別に俺には彼女が、エルフの村がどうなろうか知ったこっちゃないじゃないか――
なのに……なのにどうして既に死んでいる彼女を守っているんだ。
今まで見た誰よりも可愛かったから? この世界で初めて会った人だから? 情報をくれたり、武器作りを手伝ってもらったからか?
全部当てはまるかもしれないし、全部違うのかもしれない。
正解はわからなく、ごちゃ混ぜの感情が頭を駆け巡る。
ただ……ただ、彼女が死ぬのは嫌だと思った。
「……俺は…っ……絶対にリーシェを渡さないぞ……!」
ガクガクと震えながら口にする言葉。
フンと鼻で笑われる。
「出会いが違ったら惚れちゃってたかもしれない位カッコいいわぁ~。でも残念。邪魔するなら好みのタイプでも見逃すことはできないの」
さ・よ・な・ら
そう言いながら振り落とされる大きな剣。
本当に一瞬なのだろうがスローモーションの様にも見える。
"ザシュッ"という音と共に痛みと熱さを感じ飛び散る自分の血が目に入る。
――絶対に
絶対に助けてみせるから――
微かに動かせた手でリーシェの左手を握りしめ俺の世界は幕を閉じた。
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