異世界に飛ばされたが選択肢を間違うと必ず死んでしまうなんてあんまりだ!~早く元の世界に帰らせてくれ!~

やまと餅

■初めての死

 ――目が覚めたら大草原だった
「何処だここ……」




 ◇


 状況を整理しよう。
 俺は学校の帰り道だったはずだ。
 突然視界がぐにゃりと歪んで、浮遊感を感じたと思ったら、大草原に立っていた。
 ……状況整理終わりである。


 漫画などでよく見る異世界転移というやつだろうか? なんて、すぐに切り替え、意外と冷静に考えられたのは、あまりにも非現実的で夢の様だからだろうか。


「でも夢……じゃないんだよな?」


 頬をつねってみるが普通に感覚はあるし、思考もしっかりしている。
 よくありがちなステータスとかはみれたりするんだろうか? と思い、ステータス……ステータスと頭の中で念じてみたり、言葉に出してみるが特に何も起きない。


 漫画やアニメじゃ異世界に飛ばされた奴は、何かしらの特典を貰えていたりするが、ステータスも見れないし、何かが変わったような感覚もない。
 今の俺には、何かしらの特典があったとしても確認することはできないし、この疑問への答えを持ち合わせている者もここには居ない。


 ――暫くどうしたものかと悩んでいると、突然目の前にゲームウインドゥのようなものが現れた。


 ―――――――――――――
 ・移動する
 ・此処に留まる
 ―――――――――――――


「何だこれ? 選択肢か? 」


 うーん……と悩む。
 だが悩んでいてもこの不思議な現象は消えることもなく、正解もわからない。


「……まぁ、ここに居ても仕方ないしとりあえず歩いてみるか」


 そう呟いた瞬間、ウインドゥ画面から此処に留まるという文字が消え、を選択肢しました。という文字が現れる。
 何だかゲームをやっている気分だ。


「なんか俺がイメージしてた異世界とは違うなぁ……」




 さて、移動すると決めたのはいいが、どの方向に向かうかは決めていない。向かう方向の選択肢は出ないようだ。
 キョロキョロと辺りを見渡すと、よく目を凝らさないと見えないが、遠くに森のような何かが見える。うっすらとその森に膜のような物が見えるのは気のせいだろうか? 
 気にはなったが、ここが異世界ならばモンスターがでるかもしれない。
 安易に森のような場所に向かうのは危険だろうと考え、森とは反対方向に歩いてみることにした。


「まっ、そのうち町くらいはあるだろ。」




 この後この選択を後悔するとは知らずに――










 …………
 どれくらい歩いただろうか。
 明るかった空もかなり暗くなってきた。


 何度か"このまま移動する"か"引き返す"かという選択肢が出たが、全て移動するを選択肢し続けた。
 草原な為、街頭などもなく、これ以上暗くなると歩くのも困難になるだろう。
 町とは言わずとも、歩いていればそのうち人ぐらいには会えるだろうと思っていたが、甘かったようだ。
 歩き始めは風が気持ちいいなぁ、なんて呑気だったが何もない草原をずっと歩いていると、この世界に居るのは自分だけか? という不安に襲われるのは仕方ないだろう。


「此処に留まるっていう選択肢が正解だったかな……」


 今さら後悔しても遅いが、選択肢があったということは、正解のルートと外れのルートがあったのかもしれない。そんな考えがよぎってつい呟いてしまう。


「……大丈夫、もう少し歩けば誰かに出会えるさ。きっと大丈夫」


 不安な気持ちを隠すように、そう自分に言い聞かせ歩いていく。




 辺りが真っ暗になり、どの方向に歩いているのかもわからなくなってきた頃、後ろの方からガサッとなにかが動く音が聞こえた。
 心臓が跳ねる。
 誰かに出会えるかもしれないという希望もあるが、ここは異世界で草原である。
 ゲームや漫画ならモンスターが出るような場所だ。無意識に、バクバクとする心臓をおさえるように胸を掴んでいた。


 息を圧し殺し恐る恐る後ろを振り返る――








「グルル……ッ」


 案の定、そこには狼のような生き物が居た。
 ヨダレをだらだら滴ながら、牙をむき出しにして唸っている。今にも襲いかかってきそうだった。
 こんな状況なのに一瞬頭の中で『モンスターが現れた! "戦う""逃げる"』なんて考えてしまったのはゲームの様に出る選択肢に既に毒されてしまっているのかもしれない。


 ――良く見ると小さい。ウサギのような小ささであった。
 これなら襲われても勝てるかも? なんて一瞬でも考え、"逃げる"という選択を自ら潰してしまったさっきの自分を呪ってやりたいほど後悔する。
 小さな身体の何処にそんな力があるのか、そう思うくらいに飛びかかってきた力は強く、俺は後ろに倒れこんでしまった。


「……っ! まって! まって! タンマッ!」


 そんな言葉もむなしく、狼のような生き物は腕を噛み、足を噛んでいく。
 もちろん抵抗をしたが、噛まれている間に、腕を振ろうが足を振ろうが、殴ってみようが狼のような生き物は怯まない。
 それどころか噛んだ箇所を引きちぎっていく。


「ヒギィッ! グッ! ギ……ッ」


 噛まれる度、引きちぎられる度、痙攣のようにビクンッと跳ねる身体と飛び散る血。
 痛い。熱い。苦しい。
 何処かでここは夢だと思っていたが、これが夢ではないのだと思い知る。
  


 ――嫌だ!嫌だ!いやだ!!!
 こんなところでゲームオーバーなんて冗談じゃない!
 死にたくない!死にたくない……っ!




 そんな思いもむなしく、狼のような生き物が首もとに噛みついた瞬間、俺の世界は終わりを告げるのだった。








 ――Game Over

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