鮮血のレクイエム

あじたま

Genocide編 9話 忘れられたメイド長

「……そっちはどうだアレン。」
「あぁ、問題ない。」
「…それじゃあ、行くわよ。」
現在俺たちは、なるべくバケモノどもに見つからないよう隠れながら例の目的地へと向かっている。どうも奴らは思っていたほど視力は良くないらしい。先ほども見つかりそうになった時が何回もあったが、すぐに視線から離れれば特に問題はなかった。
「ねぇ…アレン。」
「ん?どうしたアリス。」
「その……まだ私たちの他にも生きている人はいるのかしら。」
「いないと断定は出来ないが…まぁ可能性は低いだろうな。」
流石にこれほどの死体の山を見せられると、逆に生きていることが奇跡のように感じられる。…処刑場と言われるだけはあるな。
「…あの時と同じ。」
「あの時ってのはあれか?咲夜の言ってた異変の。」
「えぇ、辺りが血に染まったこの風景、鉄の匂い…。場所は違えどどことなく似ているわ。」
「……そうか。」
ふと横を見ると、アリスは少し肩を震えさせていた。…まだトラウマを引きずってるんだろうな。
「…おい、お前強がってんじゃねぇぞ。」
「は、はぁ?何よ突然…失礼ね。」
「向こうで何があったかは知らないが、気をしっかり持つことだな。」
「……ありがとう。」
(ふん…偶には優しくするのも悪くないか…いや、そうでもないな。)
(…アレンがあんな事言うなんて。明日は雨でも降るのかしら…。)

暫くしてようやく目的の公園までたどり着いた。だが入口から見ても特に物珍しいものは見当たらない。…ただ一つ気になることと言えば。
「この公園…死体どころか血の跡も見当たらないな。」
「むしろ今まで至る所に死体が転がっていたんだから、これが普通じゃないかしら。」
「取り敢えず中を見てみましょ。」
そう言って皆が警戒しながら公園へと足を踏み入れていく。俺も後を追うように敷地内に入った瞬間、それは起こった。突如として俺たちの周りに漂っていた紫色の霧が自分たちに集まってきたのだ。
「うわっ!急に霧が!!」
「う…何も見えないわ……。」
暫くして少しずつ霧が晴れていき、気が付くと俺たちの目の前に巨大な紅い館が現れた。それは何処か中世ヨーロッパを彷彿とさせる様な造りをしており、明らかに現代から見て異色の建造物だ。だが、驚くべき所はそこではない。
「おっおい!さっきこんな建物なかったよな!」
「あ、あぁ…俺の記憶が正しければ。」
「……咲夜、これって。」
「えぇ…間違いないわ。かつて幻想郷に存在し、私が長年仕えていた館、『紅魔館』よ…。」
「紅魔館…だと…。」

『おや、…これは随分と大人数のお客さんですね。いや、この場合お客さんではありませんか。』

「…っ!誰だ!!」
俺はとっさに声のした方向に銃口を向ける。そこには高身長で赤髪の女性が門の入口を守るように立っていた。
「あ…あなた…!!」
「それにしても不思議ですね。関係者以外はこの場所を認識できないようになっているはずですが…。」
「美鈴!私よ!この館に仕え、レミリアお嬢様に忠誠を誓った十六夜咲夜よ!」
「……申し訳ございませんが、その様な人は存じ上げておりません。」
「そ、そんな…!!」
「落ち着け咲夜!」
そう言って咲夜を落ち着かせる。だが自分のことを忘れられている現実が咲夜を押しつぶしている様だった。
「さてと…改めて自己紹介をしておきましょうか。私の名前は『紅美鈴』。この館、紅魔館の門番兼メイド長をしています。以後、お見知りおきを。」
「なっ…なんですって!!貴方がメイド長なんて…そこを退きなさい!お嬢様に直接聞きに行くわ!」
「悪いですがそういうわけにもいきません。何せ私はこの館の門番でもあるのですからね。どうしてもここを通りたければ、私を倒してからにしてください。」
そういうと相手はこちらを睨みつけるようにして構える。…見たところ格闘家だろうか。そう考えているとこころが俺たちの前に行き、長刀を相手へと向けながら口を開いた。
「美鈴は私が倒す。皆は先に紅魔館へ行って。」
「…そんな、貴方だけを残して先に行くなんて。」
「さっき咲夜はレミリアに直接会いに行くって言った。だったらこんな所で時間を減らす訳にはいかない。…違う?」
「そうね……貴方の言う通りだわ。」
「…いいんだな?こころ。」
「うん…。多分アレンより強い自信あるから大丈夫。」
「無表情でそんなこと言われても説得力ないんだが…。まあいい。」
「それじゃあ行こうぜ!アレン!」
「ああ。」
そう言って俺たちは門に向かって走り出す。それを見て相手がこちらに視線を移した。
「まさか真正面から来るとは…。ですがそう簡単にここを通すわけにはいきません!スペルカード!華符『芳華絢爛』!」
スペル宣言と共に相手の周りから一斉に弾幕が放たれる。だがこころの守りによって弾幕は俺たちに当たる前に相殺される。
「アレン達には一つたりとも被弾させない!」
「…少し変だと思っていましたが…なるほど、おとり作戦だったわけですか。」
「行って!アレン!!」
「ああ、分かってる!」
俺たちは全速力で門を抜け、建物の中へと向った。

サイドチェンジ こころ

「少し考えれば分かることだったのに。…不覚でしたよ。」
「それは単に馬鹿なだけだと思う。」
「これは手厳しいですね。まぁ、貴方を通さなかっただけ良しとしましょうか。」
そう言うと美鈴は私に向って構えをとる。当然私も長刀を構えた。
「…一つ言っておきましょう。ここは幻想郷ではありません。言ってしまえば『外の世界』です。」
「そんなこと…とっくの前から分かってる。」
「いや…こころさん、貴方は分かっていません。あの世界とこの世界の根本的な違いを…。」
「……違い?」
そう言われて考えてみる。建物…文化?いや違う。そんなこと今は関係ない。もっと重要なこと……。
「スペルカードルール…。」
「そう、その通りです。あの世界では争いごとが起きた場合、スペルカードルールに則った『弾幕ごっこ』で勝敗を決めていました。…ですがここは先ほども言ったように外の世界。つまりこのルールは成立しないんです。」
「でもさっきスペルカード使ってた。」
「あれは…そうですね、体が馴染んでいるからでしょうか。癖みたいなものですね。」
「だったら…。」
「…この世界が残機一つで見逃してくれると思いますか?…むしろ、向こうの世界が優しすぎたんですよ。…正しくは『霊夢さん』が生まれてからですが。」
「だったらどうやって決着を…。」
「ふふ…もう気が付いてるんじゃないんですか?簡単です。あのルールができる前の絶対無二の方法…」

『デスマッチ(殺し合い)ですよ。』

サイドチェンジ アレン 

「外見は真っ赤だったが、館内も真っ赤なんだな。」
「ええ。それが紅魔館と呼ばれる理由の一つよ。」
「取り敢えずは、その咲夜の主人を探し出せばいいんだろ。でも見たところかなり広そうだがどうするんだ。」
「咲夜はある程度は内装を覚えてるのか?」
「当然よ。何せこの館の身の回りを管理していたのは殆ど私なのだから。」
「私も何回か用事で来たことがあるから覚えてるわよ。」
「館内の構造を知っている人が二人もいるんだったら、分かれて探した方が早いかも知れないな…。」
そうなるとどうやってペアを決めるかだが…まぁ、考えるまでもないか。
「俺はアリスと組む。ルイスより一緒に戦った回数が多いから合理的だろ。」
「まぁ普通に考えたらそうなるわよね…。」
「なら私はルイスとになるわね。」
「決まりだな…。それじゃあ、例のお嬢様を探すとするか。」
俺たちは二手に分かれ、紅魔館の探索を始めた。

サイドチェンジ ルイス

「そう言えばルイスはアレンとどういった関係なのかしら?」
「ん、そうだなぁ…まぁ昔からの仕事仲間みたいなもんだな。数年前に色々あって…それからの付き合いだ。」
「色々、ね…。」
「あぁ。最初はあいつかなり冷たい奴だったな。」
正直俺とアレンの出会いはそこまで良いものではない。状況が…状況だっただけに。

『俺は俺のしたいようにさせてもらう。仲間がいても仕事の邪魔になるだけだしな。…ちっ、こんな年になって友達ごっこなんざ付き合ってられるかってんだ。』

「でも今はそこまでって感じじゃないかしら?」
「そうだな。…でも少し前まで本当に冷たい奴だったんだぞ?必要なとき以外俺と関わるなーだとか、邪魔だから一人にさせろーとか。最初は結構ムカついたが、あいつの過去を知ってからは…何となくあいつの行動の意味も分かる気がするんだ。」
「アレンの…過去…。少し気になるわね。」
「あぁでも、多分聞いても答えてくれないと思うぞ?あいつ完全に相手の素性を全て把握している奴にしか自分のことは基本話さないから。」
「そう、なら仕方ないわね。…それはそうと変ね。妖精メイドが一人も見当たらないわ。」
「この館は他にもメイドがいるのか?」
「えぇ。でも今のところ…っ!下がってルイス!」

『シンニュウシャノイチザヒョウヲカクニン。コレヨリ、マホウニヨルゲイゲキヲオコナイマス。』

「な、なんださっきのアナウンスは!?」
「これは…パチュリー様の設置型トラップだわ!」
咲夜がそう言い切ったと同時に無数の本が何処からともなく現れ、俺たちを囲んだ。
「くっ!こうなったら…。」
この状況が明らかに不利だと悟ったのか、咲夜はポケットから金色の古ぼけた懐中時計を取り出した。
「幻世『ザ・ワールド』!」

気づいた時には、既に廊下の端まで移動していた。恐らく時間を止めて俺をここまで運んだのだろう。
「走るわよ!ルイス!」
「んなもん分かってる!」
俺たちはこちらに向かって飛んでくる本に追いかけられながら目の前の扉まで全速力で駆けす。やがて扉の前までたどり着き、そのまま開け放った後、急いで扉を閉めた。
「はぁ…はぁ…何とかなったみたいだな。」
「えぇ…そうみたいね。」

『ヴアル魔法図書館へようこそ、侵入者さん。』

「だ、誰だ!何処にいる!」
『何処って…上にいるじゃないですか。』
「あ、あなたは!」
『おや、私を知っている方もいるみたいですね。ですが改めて自己紹介をしておきましょうか。』
そういうと一人の黒い羽の生えた女性が俺たちの目の前に降り立った。
「改めまして、私はこの図書館を管理するパチュリー様の秘書をしている『小悪魔』と申します。えっと…皆からは「こあ」って呼ばれてますね。」
「貴方も…私のことは覚えていないのかしら?」
「えっと…どこかでお会いしましたっけ?」
『あら…思っていたより早く来たのね』
「あっ!パチュリー様ー!言いつけの通り侵入者をここまで誘き寄せましたー!」
『ご苦労様、こあ。貴方は下がっていいわよ。』
「分かりましたー!」
「おっおい!あいつだけだと思っていたら、何か別の奴が現れたぞ!」
「さて…私が『パチュリー・ノーレッジ』よ。貴方達のことは魔法で監視していたから把握しているわ。」
「なるほど。この館に入った時から俺たちはあんたの手の中で踊らされてたって訳か。」
「その通りよ。だからレミィに会う前に貴方達を始末するためここまで誘き寄せたの。」
そう言いながらパチュリーは一冊の本を自分の手元に持ってきた。
「特に貴方、咲夜と言ったかしら?何だか貴方は真っ先に始末しなければならない気がしたのよね…。初対面なのに私たちのことを深く知っている様子、警戒しない方が不思議だわ。」
「…パチュリー様!私は戦うために来たわけではありません。ただ、お嬢様にお会いしたいだけで…!」
「そう…。なら尚更合わせる訳には行かないわね。貴方達にはここで死んでもらうわ。」
無数の魔導書らしきものがパチュリーの合図によって展開される。…どうやらもう話し合っても無駄みたいだな。
「……咲夜。」
「えぇ…分かってるわ。あの方はもう私の知っているパチュリー様でないことぐらい。この様子だと、きっとお嬢様も私のことを覚えてくださっていないでしょうね。…でも、それでも私はお嬢様に会わなければならない!たとえ私のことを覚えていなくても、伝えなければならないことがある。その為なら例えパチュリー様でも…!」
「なら私に見せてみなさい。その意思を…私にぶつけてみるがいいわ!」

続く

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