勇者にとって冒険の書は呪いのアイテムです

ハイイロチョッキリ

⑪かいまひるてです(6)

「久しぶりね、ヒルテデス。借りを返しに来たわ」

「塩辛かイカ飯でもしてやろーか、ベイベー」

リエルとベックの視線の先には巨大なイカ型の魔物がそびえ立っている。異常に発達した吸盤のついた2本の触腕と、8本の足を持っている。

海魔ヒルテデス。セツリが対峙した敵の中では圧倒的に大きい。あのひとつめの怪物や病魔パンデラを圧倒的に上回るサイズだ。

セツリは黙って水切りの剣を構える。

「ゴポポポ…勇者よ、仲間が気になるか?」

『はい』

「ゴポポポ…貴様の仲間はここにいる」

ヒルテデスが顔を奥に向ける。

ユージーンとミリが黄緑色のブヨブヨとした球体の中に閉じ込められている。

2人は目をつぶっており、意識は無さそうだ。

「ゴポポポ…仲間を返して欲しくば…」

「ちょ…セツリ!」

セツリはヒルテデスを無視して球体に突進し、リエルが声をかける間も無く水切りの剣を振るう。

しかし、球体はぬるり、とセツリの力をいなし無傷のままだ。

ヒルテデスの触手が鞭のようにしなり・・・、2連、3連とセツリに向かって叩きつけられる。

「ゴポポポ…無駄だ。その卵は我を倒さねば決して壊せぬ…その卵は」

『真空斬り!』

セツリはヒルテデスが卵と呼んだ黄緑の球体をユージーンやミリを傷つけないように注意を払って斬り払う。

しかし、やはりいなされてしまう。

セツリはチッ、と舌打ちする。

「ゴポポポ…「バルアーダ」!」

ヒルテデスが魔法を唱えると、セツリの身体の周りに無数の異空間が開き、黒い鞭が現れる。

鞭はセツリの身体を拘束し、間髪入れずヒルテデスの吸盤のついた大きな2本の触腕がセツリを高速で地面に叩きつける。

痛恨の一撃!

しかし、セツリは風の精霊の加護による金色のオーラに守られダメージを免れる。

致命的な一撃を一度だけ防ぐ金色のオーラ、『アリエス』は役目を終え、消失する。

「ゴポポポ…話を聞かぬ愚か者め!あの卵はいずれ孵化する。その時あの者達は我の忠実な僕となるのだ!気分を害した。すぐに殺してくれよう!」

ゴポポポ…!とヒルテデスは怒りの雄叫びを上げる。

海魔ヒルテデスが現れた!

「ほら、ブラザー、相手の話はちゃんと最後まで聞かなきゃさ、怒らせちまうぜ?…え?相手のペースに乗ってやる必要はない?はっはっはっ!確かに!」

ベックが大笑いする。

「いやいや、あの卵割ったら死んじゃうかもしれないし、向こうが遠隔で爆発させられるような仕掛けかもしれないでしょ?…まさか、セツリはそれはないと見越して攻めたの?」

リエルがセツリをたしなめようとして、はたと気づいてまじまじと見つめる。

『…はい(←※そんなことはないので目が泳いでいる)』

「流石勇者様ね。あの一瞬で初見の敵を…なんて洞察力!」

リエルは感心する。

「さて、まずは強化からね…「エルファ」!」

リエルはハープをかき鳴らし、セツリに攻撃速度上昇の魔法をかける。

緑色の光を受けたセツリはヒルテデスに向かって全速力で泳ぐ。

まずはヒルテデスの防御力の様子見で、水切りの剣を見舞う。

水の抵抗を全く感じさせぬ剣はヒルテデスの触手へ吸い込まれるように向かっていく。

美しい太刀筋だ、と戦闘中にもかかわらずリエルは思った。

しかし、触手に切れこみを入れる程度で大ダメージを与えた手応えはない。

ならば、とセツリは水中でそのままの勢いを殺さず、一回転し、その切れこみめがけて「真空斬り」を放った。

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