勇者にとって冒険の書は呪いのアイテムです

ハイイロチョッキリ

⑩かいていとし(4)

しばらくしてセツリの前にリエルが現れた。

その後ろには年老いた男性の魚人がいる。

男性の魚人は上半身には服をまとい、長く伸びきった銀髪と同様に長い銀色のヒゲを生やしている。

「お主が地上からきた客人じゃな?リエルから話は聞いた。あの海魔ヒルテデスと戦おうとしているのじゃな?」

老人は髪の間から鋭い眼光でセツリを見つめる。

『はい』

「ふむ…。不思議じゃのう。お主からはただならぬ力を感じる。しかしじゃ、お主がどんなに強くとも、海中では身動きが取れぬ。それではどうやってもヒルテデスを倒すことはできないじゃろう」

老人は長いヒゲを撫でながらゆっくりと事実を述べる。

「長老」

「わかっておる」

リエルに長老と呼ばれた老人は頷いた。

「実は遥か昔、お主のように地上から来た客人がおった。ヘンリ様という若者じゃ。ヘンリ様は仲間と共に海に巣食っていた魔物達を退治して我ら人魚を救ってくれたのじゃ」

長老はごそごそと服のポケットから拳大の水色の玉を取り出した。

「これはその時ヘンリ様の仲間であるフラトニール様が我々にくださった宝玉じゃ。「記憶の玉」という。フラトニール様はこうもおっしゃってた。「いずれ、再び魔物達がこの海域に悪さをするかもしれない。その時、地上からその魔物を退治する力を持った者が現れるだろう。その者にこれを渡しなさい」、と。そして我ら人魚の一族はそのお話を代々引き継いで今日まで来たのじゃ。まさか本当に現れるとはな」

ヘンリ様とは恐らく勇者ヘンリ、そしてフラトニール様というのは冒険の書を作った賢者フラトニールのことだろう。

セツリは長老から記憶の玉を受け取った。

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