勇者にとって冒険の書は呪いのアイテムです

ハイイロチョッキリ

⑧はめつのびょうま(4)

聖属性の力を得た一行は圧倒的的な推進力で洞窟を進んだ。

ミリを後衛に、ミリの「ホーリ」で強化されたセツリとゾンビキラーを振るうユージーンがゾンビ達をほぼ一撃で撃退していく。

ゾンビ化の症状が末期となり、ミリの「アガペ」による回復が効かなくなった元人間達に対しては不謹慎だが、ユージーンが「ゾンビがバターのように斬れる」と評するように聖属性を付与された武器はまるで抵抗を感じさせずにゾンビ達を斬り裂いた。

強固な防具と状態回復付きの回復魔法、そして聖属性を持った一行は洞窟をすいすいと進み、やがてそれ・・と遭遇する。

「………なんだこの臭い」

ゾンビ達で嗅ぎ慣れ、麻痺した鼻がそれでも折れ曲がる程の強烈な悪臭がする。

その悪臭の先には大人ふた回りほどある体躯を猫背にして、黄緑色の肌からドス黒い液体を滴らせる人型の魔物がいた。

肩にかかる長い髪はまだらに生え、目は黄色く濁り、崩れかけた口からは唾液が滴り落ちる。

本能が警鐘を鳴らし続ける程の強烈な嫌悪感。

腰には元は何色だったかわからない垢まみれのボロ布が申し訳程度に巻かれている。

「…あれは、なんだかわかんねぇけどヤバい気がする」

『はい』

「…ヤバいですよ。あれはパンデラ。ゾンビ系の魔物でも上位に位置する魔物です。私も本の知識ですが、あれ一体で小国が滅ぶ破滅の病魔です。あんなものがなんでこんなところに」

ミリが身体を震わせて後ずさる。

「ヤバいです。早く逃げないと。あ…」

ミリが自分の右手の指先が黒くなっていることに気づく。

「ミリ!「アガペ」だ。急げ」

「あ、「アガペ」」

ミリは慌てて自分に状態回復の魔法をかける。しかし、回復のスピードよりもミリの指先が崩れ落ちる方が早かった。

痛みは感じない。

ボロリと落ちる感じに近い。同時に持っていた小鳥の杖が地面に転がる。

「あっ!あああ…」

右手の人差し指と中指が無くなっている。

そして傷口を見ると中は緑色に変色しており、グジュグジュと化膿している。

『命を大事に!』

セツリがとっさにミリの右手を肘から斬り飛ばした。

地面に落ちたミリの肘から先が一瞬で崩れ落ちる。

「なんだこれ、やべぇぇええ¥.&@“‘」

ユージーンの様子もおかしいことに気づいたセツリがユージーンを振り返るとぼとり、と何かが床に落ちた。

白い歯と髭が見える…ユージーンの下顎だ。

「あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーー!」

ユージーンが白眼をむき、ゾンビキラーをこちらに向ける。

「ゔゔゔぅぅううう」

ミリの方からする呻き声に目を向けると、彼女も白目をむき、よだれを垂らして左手で小鳥の杖を拾い上げたところだった。

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