勇者にとって冒険の書は呪いのアイテムです

ハイイロチョッキリ

⑦ぜったいぜつめい(4)

人喰い熊の顎が跳ね上がる。

「ギャウン!?」

人喰い熊は予想外の速度かつ威力での反撃に防御することもかなわず、もんどりをうって転がった。

ユージーンは間髪を入れず、転がった人喰い熊の頭に踵落としを放つ。

回避!

人喰い熊はショックから素早く立ち直り、決定的な一打を避ける。

人喰い熊の攻撃!

人喰い熊は大きな爪を振りかぶった。

ユージーンのカウンター!

地面を蹴って爆発的な速度で人喰い熊の懐に入り込み、振りかぶった腕の付け根目掛けて押し出すように蹴りを繰り出す。

回転軸を止められた人喰い熊の動きが止まる。

ユージーンの攻撃!

そのまま身体を空中で回転させ、セツリを抱き抱えながら左足で人喰い熊の側頭部を打ち抜く。

人喰い熊は威力に押され、後ろに数歩後退する。

人喰い熊は気を奮い立たせるためか、あるいはダメージのためか、頭をぶるぶるっ、と振る。

「いける!これなら…!………ッ!?」

ユージーンは突然、虚脱感に襲われる。

身体が鉛のように重くなり、力が入らない。

怪力の腕輪とステータスによって強化された筈の筋力でもセツリを抱き抱えるのがやっとの状態だ。

「ま…さか、もう時間…切れ…か?」

心臓の音が頭まで鳴り響くような激しい動悸、そしてそれに伴う息切れ。

口の中で血の味が広がる。

まるで長時間限界を超えて走り続けた後のような感覚だ。

頭から血の気が引き、手足にも痺れが走る。

人喰い熊を見ると半ば戦意を喪失しかけていたが、ユージーンの弱り方を見て、再び戦意を取り戻したようだ。

人喰い熊の攻撃!

ユージーンに向けて大きな口を開き噛み付く!

「「イフリ」!」

絶対絶命の状況でここまでか、と諦めていた時、人喰い熊の後ろから凛とした声が響いた。

同時に炎の玉が人喰い熊の背中を焼く。

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