セカンドストーリー ~俺と僕の物語~

ブタノスケ

僕と誰かとその後 最終話

その闇が晴れるまでいつまでかかったのだろうか?
時間の感覚は分からない。指一本も動かせないくらい体が重い。唯一動かせる瞼をゆっくりと開く。

「あら? 思ったより早いお目覚めですね」

頭上から不意に声がした。それはついさっきまで僕を助けると宣言してくれた女性の声だった。

「あ……あ……」

「無理に声を出さなくていいわ。今の貴方の体じゃまだ無理だから」

優しく女性はそう言って僕の頬を撫でる。どうやら僕は女性に膝枕をされているようで僕の視界に移るのは見慣れた太陽と青空、それと綺麗な女性の顔だ。

助けてくれたあの時は暗いのと必死でどんな顔なのかはっきり分からなかったが、女性は世間でいう美女と言われてもおかしく無いぐらいに綺麗だった。
黒い着物を纏い、長い髪を後ろで一つに纏め、目は細目で唇は薄いピンク色。顔には傷一つない綺麗な肌が太陽に照らされていた。ずっと見つめていると顔に火照りを感じたので思わず、視線を横に向ける。
そこで見えたのはいつもと変わらない白い砂浜と小さく波打つ海。まるで何事も無かったかのようないつもの光景に疑問しか浮かばなかった。

「不思議そうな顔をしていますね? まるで今までの事が夢であったかのような……そんな顔です」

その疑問に女性は落ち着いた様子で声をかけてくれた。僕はまだ動けないので視線を女性に戻して肯定の意味で見つめる。

「まず、貴方達が起こした事は夢ではありません。貴方の大事な人達は無事に本土まで無事に逃げました。しかし、代償として貴方の両親は死に貴方もまた死の淵にたたされた」  

「しかし、貴方は生き長らえた。四人分の命が貴方の命に火を灯した。ここまでは理解できますか?」

女性の言葉に幾つか記憶に無いことがあったが、今の状況では質問で返す事は出来ないのでとりあえず肯定の意味として女性の目を見つめた。

「そして、私は……あ、自己紹介がまだでしたね。私の名前は虎姫とらひめ。かつて竜姫と同じくして生まれた双子のようなものです」

虎姫。
その言葉には見に覚えがあった。それは島に人が殆どいなかった時代。確か千五百年前に竜姫と同格として崇められていた女性。
だが、それから時がたち島にある程度の人達が暮らし始めた頃に大きな飢饉が起きて、それが虎姫の仕業として当時の島長と島民と竜姫の三勢力で封印したとされる、今なお邪神として島の人々に恐れられている存在。
というのを父さんから散々教えられた。だから決して封印の祠がある境内の中の封印石には触らないようにと念を押された。

「ふ……ふう……いん……された……?」

「あぁ、そうですそうです。今から数えると千五百飛んで二十年前に封印されたその虎姫です」

僕は途端に恐怖を覚えた。動かない筈の体が少しだけ震え始める。邪神とされたこの女性が一体僕に何をさせる若しくはさせらるのか検討もつかなかったからだ。
だが、そんか僕の動揺に虎姫様は小さな笑みを浮かべた。それは邪神とは思えないような慈愛の笑み。

「そんな脅えなくても大丈夫ですよ。私は今さらこんな島に恨みも怒りもありません。あるのは只の呆れだけです」

「それに封印なんてもう五百年も前に解いていましたから、別にそれに関してもどうでもいいです」

虎姫様の衝撃過ぎる言葉に目が店になった。
五百前から封印を解いていたという事は……この島、常に危険が付きまとっていたのから!?

「まぁ、いつでも皆の前に顔は出せたのですがそれをしなかったのは貴方達、山名一族と竜姫の安全を守る為です」

「あ、安全?」

「おっ、どうやら大分体が慣れて来たのですね? 声がはっきりと出ていますよ」

いや、それは五百年の間知らない間にそんな危機が迫っていると分かったら声も出ます……ってあれ? 声だけじゃなくて腕や足も軽くなってきた気がする? なんで? 体が動かせるまでの衝撃だったのかな? 

「ふむ……どうやら“彼”も目覚めたようですね……」

「“彼”? 知っている人なんですか?」

「……“彼”というのは貴方に命を別けたもう一人の貴方。覚えていませんか?」

虎姫様の質問に必死に記憶を辿るが……なにも出てこない。だけど、どうしてだろうか目に涙がこみ上げて来て止まらない。

「あれ? どうして?」

拭っても拭っても涙は止まらない。悲しくもない。嬉しくもない。悔しくもない。だけど、溢れて止まらない。
そんな僕を虎姫様は優しく抱きしめてくれた。

「まだ色々と整理が出来ていないのでしょう。変な話題を出した私が悪かったです。申し訳ありませんでした。今はゆっくりとお休みなさい」

その虎姫様の言葉に流されるように、僕の意識はゆっくりと暗転していく。
そして、意識を手放す直前に聞き慣れた言葉が聞こえた気がした

ーーおめでとう。よくやったなーー


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