セカンドストーリー ~俺と僕の物語~

ブタノスケ

渡り廊下の俺と僕

 ーー目を開ける。目の前に見えるのは小学生の学校で毎日のように通った渡り廊下。すす汚れた白のコンクリートで建てられ、古びた窓ガラスから見える景色は黒一色。まあ“いつも通り”だ。

「もう一年か……さて、今日はどんな用事なんだろうな?」

そう呟いて俺、矢岸やぎし隆也たかやはいつも通りに渡り廊下の大体真ん中まで歩く。すると、これまたいつも通りにある、謎の透明な壁が通路を遮っていた。
俺はその壁を背にして腰かけて、この夢を作り出したと思われる「僕」を待つ。

「そういやもう七年か……」

初めてこの夢を見たのは八歳の頃。あの時は変な夢だなと思いながらも、夢が覚めるまで「僕」と楽しく話したものだ。

「ごめん、待ったかな?」

懐かしい記憶を思い出しているとふと後ろ、透明な壁の向こう側から幼いだがしっかりとした声が聞こえた。
頭だけ振り返るとそこに立っていたのは「僕」がいた。
俺と違って「僕」はまだ幼いままの姿だ。
白い衣、例えるなら縁起が悪いが死に装束のはような寝巻きを着た坊主頭の凛々しい「僕」。これで八歳。それも“俺と同じ”というのに驚きだ。俺が八歳の頃はただのわんぱく坊主だというのに。

「で、今日はなんの話をしてくれるんだ? もしくは相談?」

「……相談、かな? いや決意を聞いて欲しいんだ」

なにやら神妙な表情で俺と同じように透明の壁に背を向けて座る。
そして、どう話すか悩んでいるのか数分間の沈黙。

「……真剣な話なんだな」

「……うん。でも聞いて欲しいんだ。僕は君と同じだから」

「……あぁ、分かってる。待ってるよ」

そう、「僕」は「俺」と同じ。別の世界で生まれ別の親に育てられ、違う時間軸、世界線で生きている「俺」。つまりは「平行世界の俺」と言えば分かりやすいのだろうか。
最初は何を言っているのか分からず俺の中では楽しい友人と会える夢という理解であったが、段々と年を重ねる事に「僕」が話してくれる内容がちゃんと理解出来てきた。

・まず、この夢は「僕」が「俺」に見させている事。「僕」はこの夢を道が繋がった=世界が繋がったと教えてくれた。

・これが出来るのはある島の神職の子供である「僕」だけであり、何か話したい事がある時に繋ぐらしい。

・それがなんで「俺」に来たのかというと、「僕」がいる世界と「俺」がいる世界が一番近かったから。つまりは偶然。

・この夢は俺は一年に一度だが、「僕」にとっては一月に一度若しくは半月に一度の頻度で繋ぐらしい。(ここで時間軸が違う事が分かった)

他にも細かい事を教えてくれたが、大事な部分としてはこれぐらいだ。ほんと偶然って凄いしなんと言っても「僕」が凄い。世界を繋ぐとかそっちの世界って超能力とかあんのか?と訪ねて見たところあるけど万人が使える訳では無いし、持っていない方が幸せに暮らせると苦い顔で言っていた。訳ありなのだろうからそこから深くは追及はしなかった。

「よし! じゃあ話すね」

言う言葉が決まったのだろうか勢いよく立ち上がり俺に体を向けて口を開いた。よし、どんとこい。

「明日、僕は竜姫様を島から逃がす!」

「……へっ?あ、え?」

予想を越えた決意の言葉に俺は言葉が出なかった。
逃がす? 誰を? 竜姫様? 何度も話の話題に出ていた女の子? でもそれって。

「あ、もちろん竜姫様だけじゃなくて先代様も一緒に」
「いやいやいや、そうじゃなくてだな。え? 逃がすってそれ前も聞いたけど……危険なんだろ?」

確か「僕」の親がそうしようと島の長に頼んだところ、こっぴどく怒られて更に神職を辞めさせられそうになったとか。

「うん……下手をしたらきっと長と島民が全員で止めに来ると思う……そうしたら僕たち家族の命は……」
「だろ? いや竜姫様を大事にしている気持ちは今までの話でよく分かってるけど、家族全員の命を投げ出す程なのか?」

ついつい強めの口調で喋り巻くしたてた俺に対して「僕」は俯き、そして目から一筋の涙が頬を垂らした。

「……竜姫様はね。長の……いや島民の道具なんだ……その一生を使い捨てられる……可哀想な……」

「道具?」

今までに聞いた事の無い話に、俺は壁から背を離して振り向き「僕」と真っ正面に向き合う。

「あと四日後に島の大きな祭りがある……そこで竜姫様は祭り中に各家に訪れて幸福と力をもたらす……それが大体三日間続くんだ……」

「幸福と力……凄いんだなその竜姫様って……」

「僕も最初はそう思っていた……だから祭りが終わった後の先代様はとても疲れた様子で……祭りが終わったら一週間の睡眠をとられていた……」
 
「一週間!? 普通なら病院行きだろ!」

「でも、一週間経ったらちゃんと起きていつものように身支度と朝の祈りをするんだ……でも、先代様の力が弱まってきたから、今年から、新しく先代様の娘様が竜姫様を受け継いで始まるんだけど……」

「……どうしたんだ?」

「……先代様が泣いて許して欲しいって頼んできたんだ……」
  
「許して欲しい?」

「そう……祭りの時は先代様が代わりになるからって……それを聞いて僕は初めて祭りの詳しい内容を父様から聞いたんだ……」

それから話してくれたのはそれは酷い内容だった。八歳の子供に聞かせるような話では鳴く酷く乱暴で性的な内容。聞いてる此方も怒りが沸いてくる。それを祭りと呼ぶ連中は生粋のイカれ野郎だな。

「竜姫様はまだ九歳……そんな子にそんな事をさせるなんて酷すぎる! それに今までそんな祭りを反対して止めなかった父様と母様を僕は怒った……そうしたら父様と母様も涙を流してずっと反対していた事を教えてくれた……それで怒った僕を……優しく抱き締めてくれたんだ」

「良い親だな、本当に」

「うん。それで先代様と父様、母様、僕の四人で話し合って決めたんだ。絶対にこの島から二人を逃がすって……でどうかな?」

「? いやどうって言われても……あれ? そういやその話し合いの中で竜姫様はいなかったのか?」

「うん。まだ幼いし、なによりちょっと泣いちゃうかも知れないから……」
 
幼いって……いや「僕」の方が年下のはずたろうに。

「じゃあ具体的な計画とかあるのか? 四日なんてすぐだぞ」

「うん、ない」

「……はっきりと絶望の言葉を言うな、お前は」

「だから繋がってる間に出来るだけの事を相談したいんだ! ダメかな?」

弱々しく訪ねる「僕」に笑顔で俺は良いぜの一言と笑顔で返した。

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