攻略対象たちが悪役令嬢の私を熱く見つめてきます!
口づけを捧げたい
馬車の中の温度が一気にはねあがったように感じた。
ドロレスによってきつく締め上げられたコルセットも相まって息苦しくてたまらない。
理紗はエドアルドの視線から逃れたくて窓に目を向けた。
そのガラス越しにも王子がこちらを注視する様が見てとれた。
許す、とは言えない。
けれど正直なところ理紗の心はほだされかけていた。
サロンで一緒に踊った時からエドアルドに心を許しはじめている。
さきほどの熱烈な称賛にも自尊心がくすぐられた。女性は自分を美しく思わせてくれるものには弱いものだ。美しい宝石や精緻なドレス、見目麗しい男性からの賛辞……。
理紗もやはり例外ではない。
「頼む、メアリローズ…」
切なく懇願され、理紗は心のうちで身悶えた。
──そんな声音は卑怯だと思う!
気力をふりしぼり、つとめて冷静な口調で返した。
「──だめ」
「なぜ」
うっ。
「だめなものはだめ」
「なぜだと聞いている。私を見ろ、メアリローズ」
くううっ。それもだめっ!
「──そんなに私が嫌なのか…?」
寂しそうな声に思わず振り返ると、思ったより近くにエドアルドの顔があった。いつのまにか距離が近づいている。
前回と同じように顔の横に手をつかれ、腕の檻のなかに囲いこまれた。キラリと紺碧の瞳が満足感に輝くのを理紗は見逃さなかった。
まったく、油断も隙もない!
理紗の目がつり上がる。
「そうね嫌かも。少なくとも意思を無視されるのは気に入らないわ」
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