受験生でしたが転生したので異世界で念願の教師やります -B級教師はS級生徒に囲まれて努力の成果を見せつける-

haruhi8128

来訪

「聖女様―!!」
「お顔を見せて下さーい!」

聖女一行が王国の王都に到着した。
それはそれは凄い騒ぎで、馬車を王城まで通すのに警備隊が四苦八苦したほどである。

「じゃあ、行ってくるわ」
「喧嘩するなよ?」
「大丈夫よ、争いは同じレベルでしか生まれないのよ?」

完全にフラグ立てていったな……。

聖王国からの訪問の予定が丁度学園が夏休みに入るタイミングであり、ライヤはフルタイムで聖女の対応に関わることになってしまった。
教師の休暇はどこに消えたのだろうか。

「緊張しますね……」
「何度も言うけどさ、緊張するような相手じゃないぞ?」
「ライヤさんは一度会ってるからそうかもしれませんけど、いかに話通りの人だったとしても他国の要人ですよ? 緊張しない方が嘘です。それに、実はライヤさん緊張してますよね?」

ギクリ。

「4年前にも美人だった人が今度は自分に求婚している状態で会いに来たんですから、そりゃあ緊張もしますよねぇ?」
「少し意地悪になったか?」
「いいえー?」

今頃、聖女を含めた使節団が王様を筆頭とした王国の要人たちに挨拶を行っている頃だろう。
一介の案内役に過ぎないライヤとヨルはその場に行くことは無い。
聖女からしてみれば自分が求婚した相手がいないのは不自然に思うかもしれないが、その情報は王国では伏せられている。
もちろん、挨拶の場にいる要人たちには共有されているので何か言われたところで問題なく対応もできるだろう。
その情報共有があった時に「またこいつか」という声が多くあったそうだが。



ガチャリ。

ライヤとヨルが2人でトランプで遊んでいたところにドアの開く音がして、2人は急いで立ち上がる。

「ライヤだ!」

ドアを開けたのはアンのようだが、一番に部屋に入ってきたのは聖女こと、ミリアリア。
にぱっ、と笑顔を見せ、ライヤに駆け寄る。

「お久しぶりです、聖女様」

そのまま抱き着こうとしたミリアリアだったが、ライヤが慇懃に一礼したことで立ち止ます。

「ライヤ……?」

悲しそうなミリアリアの声に心が痛むが、これが王国側が出した結論である。
特別顔が良くはない(失礼)ライヤをミリアリアが気に入ったのは聖女という身分に影響されない態度をとったからであろうと。
ライヤの魔法の腕は既に王国側も認めるところだが、聖女の判断基準には入っていないだろうと。
となれば、一番角が立たないのはライヤがミリアリアに他人行儀に接することで興味を失ってもらう事。

「アンちゃん?」
「なんでしょう」
「ライヤに何かしたの?」
「いえ、何のことかわかりかねます。聖女様に対して案内役に命じられたライヤが丁寧な応対をするのは当然では?」
「……」

頭を下げているライヤにもわかる。
今にもミリアリアが涙をこぼしそうになっていることが。

「ねぇ……、ライヤ……。私、頑張ったんだよ……? 字も覚えたし、料理も出来るようになったよ……? お化粧だって、覚えて……」

堪え切れなくなったのか、ストンと床に女の子座りをするミリアリア。
ライヤは唇を嚙んで堪える。
ライヤとてミリアリアのことが嫌いなわけではもちろんない。
5年前は馬鹿だなとは思いながらも明るいミリアリアの態度に好感を持っていた。
今は自分のためにと色々なことを頑張ってきたのだという。
これで嫌いになるわけがない。
むしろ、好感度は上がる。
だが、それはそれとして王国側の人間として、この役割を果たさねばならないのだ。

「あぁ、もう! やめよ、やめ、こんなの!」

声を上げたのはアン。

「ほら、涙拭きなさい! 折角の化粧が可哀想でしょ。ライヤも顔を上げなさい」

顔を上げると、ハンカチで顔を隠したミリアリアとやれやれと言った様子のアン。

「謝りなさい、ライヤ」
「え、俺ぇ!?」
「いいから」

促されるままにミリアリアの前に跪く。

「ごめんな。こうするって方針だったんだ。俺だって別にやりたくはなかった」
「……嫌いになったんじゃないの……?」
「互いに接点もなかったんだから嫌いになりようがないだろ? それを言ったらミリアリアの求婚もわからないんだが……」

ぼそぼそと話すライヤ。

数秒の静寂。

ゴシゴシッ!

「あぁ! 私のハンカチ!」
「これで王国の意地悪はなかったことにしてあげるわ」

化粧を落としたミリアリアはそれでも、以前にもまして綺麗だった。

「ライヤ! 私と結婚して?」
「それとこれとは話が別です」
「なんで!? それに敬語に戻ってるぅ~」

やはり馬鹿は馬鹿か。
少し安心した。

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