受験生でしたが転生したので異世界で念願の教師やります -B級教師はS級生徒に囲まれて努力の成果を見せつける-

haruhi8128

授業参観

「あれはライヤが悪いでしょ!」
「いーや、あの年でそんなませたことを考えたアンが悪いね!」

 当時10歳だったのにアンは俺の発言から何を感じ取ったのか知らないが、真っ赤になってさっきまで師匠とすら呼んでいたライヤをぶっ叩いたのだった。

「勘違いさせるようなことを言うのがいけないでしょ!?」
「あれー? 俺は肩もみでもしてもらおうかと思ってたんですけど、何と勘違いしてたんですかねぇー!」
「そ、それは……」

 真っ赤になって叫んでたのに急にしおらしくなるアン。

「……言えるわけないでしょ……」

 ぐっ!!
 普段から快活なやつが急に大人しくなると、なんか刺さるものがあるな……。
 これがギャップ萌えか……。

「で、でだ。その時の感想は?」
「生徒たちに言う時は最後の部分はカットしてよね? そうねぇ」

 ちょっと考え込んだ後にアンは結論を出した。

「もっと強くなりたい、かな」




「なるほど。先生はお姉さまに2年生の時点でもう勝っていたのですね」
「いや、逆だな。2年生だからこそ、勝ってたんだ」
「?」

 2年生のころには確かに俺たちの間に実力差はあっただろう。
 あくまで、決闘においてだけだが。
 しかし才能とは、伸びるものだ。
 天才は子供の頃から天才であるのかもしれないが、そのまま大人になったところで大したことはないだろう。
 だが、その過程でより急激に成長し、大人になっても周りを圧倒できるからこそ天才なのである。
 例としては、プロ野球選手だ。
 全員プロ選手になれる時点で天才なのだろう。
 しかし、第一線で活躍し続けられる者は限られており、それが努力を惜しまなかった天才だと、俺は考える。

 ちょっと話はそれたが、アンはそれだったということだ。
 学年が上がるごとに魔力量も魔力制御も上昇し、7年生の頃の戦績だけで言えば負け越していたような気がする。
 だが、未だに総合戦績では負けていないのが俺の秘かな自慢である。

「と、まぁ、こんな感じの出会いだったが、どうだ? 面白かったか」

 ウンウンと頷く子供たち。
 こんなのでも面白いもんなんだな。

「まぁ、とにかくみんな成功してよかった。これで安心して授業参観に臨める」

 今日は授業参観前日。
 実はギリギリなのであった。

「だけど、本当にみんな頑張ったな。正直、間に合わないかと思ってたぞ?」
「ふん、当然だろ? お前とは才能が違うんだよ!」
「お前?」
「……先生」

 ゲイルは相当自慢げにするが、誇りにしていいと思う。
 俺は独学だし、もっと幼かったとはいえ、1か月はかかってたからな。
 2週間というのは相当に優秀な数字だ。

「それで、先生―。明日は何するのー?」

 マロンがのんびりとそんなことを言うが、俺はにやりと笑う。

「明日になってからのお楽しみだ」




「はい、じゃあ授業を始めていきまーす」

 授業参観は全てのクラスが同時に行われる。
 だから、やりたい授業が被ってどちらかが諦めるしかない状況が生まれるのだが、Sクラスは優先されるのでやりたいことが出来る。
 これはSクラスの先生になってよかったことだな。

「今日は、授業参観という事で親御さんが見に来ていますが、いつも通り頑張っていきましょー」
「「……」」
「はい」

 ウィル以外の子供たちの緊張感が半端じゃない。
 というか、親御さんたちまで緊張している。

「ウィル、シャロン。頑張るのよー」

 王妃が見に来ているからである。
 アンとウィルの親であり、シャロンの叔母である王妃は国内では王よりも敬われている唯一の存在と言っても過言ではない。
 武人気質で、キレたら終わりと言われる王を止められるのはこの人しかいないのだから。
 普段はやんわりしているから、そんなイメージはないのだが。

「昨日までの授業で、魔法の質を薄めるってことはできたな」

 声は出せないが、頷くみんな。
 うーん。
 他の貴族が俺に何かしないように牽制に来たか、ただウィルとシャロンを見に来ただけかは知らないが、子供たちが委縮しきってるぞ。

「で、今日は自分の適性が高い魔法以外の制御について教えていこうと思う」

 少々ざわつく親たち。
 それもそのはず。
 少なくとも1年生の入学して1か月経つか経たないかくらいでやるものではないのだ。

「で、この前俺に撃ったのがそれぞれの得意魔法ってことでいいよな?」

 記念すべき初回の授業である。
 あれが1か月前とは、1年が短く感じるな。

「なら、風魔法ならみんなあんまりやったことないよな」

 そう言いながら魔法を発動する。

「ほい」
「「?」」
「「!!」」

 生徒たちは頭上にはてなマークが飛び交っていたが、親たちは気付いた様子。
 経験値が違うな。

「足元を見てくれ」
「先生、飛んでます?」
「「!!」」

 俺は足元に風魔法を出して、2センチほど飛んでいたのだ。

「最初に魔法の威力を薄める方法を先にやってたのは、これを見越してたからだ」

 ニヤリとみんなを見やる。

「だって、飛びたいだろ?」
「「うん!」」

 お、元気が出てきたようだ。

「で、先に説明しておくと、自分を浮かすほどの風魔法をずっとやっとくっていうのはまぁきついからな? 俺がこうやってるのも割と無茶してる」

 トッと降りる。

「だが、お前らはSクラスだから、これからもっと魔力量が増えるからな。それを見越してのことだ。まだ魔力制御も甘いし、無駄が多いから浮くぐらいで精一杯だと思うが、心配しなくていい。いずれ楽に飛べるようになることだろうからな」

 改めて俺は飛び、上空をロールしたり、バク転のような動きをしながら手本を見せる。

「ここまでは出来なくていいまである。必要ないからな。だけど、まぁ出来たら今みたいに自慢できるよってことだな」

 もう俺のそんな言葉を聞いていないくらい目がランランとしている。

「気合入れるのはいいが、魔力薄めるのを忘れるなよ? 勢いあまって飛んでっても助けてやるけど、ならないに越したことはないからな?」
「きゃあぁぁ!!」

 言ってる間にシャロンがはるか上空へと飛んでいった。

 あぁ……。


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