転生者、兵器道を極める

山風狭霧

第4章 第2話 戦士の歌

スルク・ガレーの運命は奇々怪々であった。

 彼と比べても、同じ土俵には立てるほどの。

 彼の前世は、まず幼年の時から常人とは異なっていた。

 まず、幼い彼が置かれていた状況とは酷いものであった。

 それこそ、現代日本の「虐待」なんてものがキャラメルの様に思える程。

 薬物、タバコ、酒、ギャンブル…親の頭がイカれてるのに子供がイカれないハズがない。

 だが、彼が溺れたのは女でも酒でもなかった。

 そう、火薬だった。

 彼が青年と呼べる様になった頃には既に全ての銃器や爆発物の扱いは手馴れていた。

 そして、彼は義務教育も受けずに「傭兵」へとなった。

 外人部隊なんかとは余りに違う、人間ならば全員狂ってしまうような戦場で彼は何度も作戦を遂行した。

 そう、「遂行」したのだ。逃げて生き延びたのではなく。

 ただ、銃口から溢れ出る硝煙の臭いを求めて。

 彼の戦績は不明。ただただ、不明。

 そうだ、殺しすぎて、だ。

 彼は次第に、銃では我慢が出来なくなっていった。

 拳銃から、小銃へ。小銃から、狙撃銃へ。

 終いには重機関銃を歩きながら撃つまでに至った。

 だが、彼の求めるものは既に違うものであった。

 12.7mmから、20mmへ、30mmへ、40mmへ…

 彼の行き着く先は、戦車であった。

 10センチを超える口径は彼にとって夢その物。

 しかし、彼の人生は呆気なく幕を閉じた。

 それは、正規軍との戦闘であった。

 反政府組織からの依頼により護衛をしていた時だった。

 頭上から降り注ぐ30mm機関砲によって、彼の乗っていた旧式の戦車や味方は全員吹き飛んだ。

 そう、近接航空支援専用機「A-10」のGAU-8 「アヴェンジャー」 ガトリング機関砲による機銃掃射は、死に行く彼の脳裏にこびりつき、また夢となったのである。

 そして、彼は生まれ変わった。

 それも、彼にとってはとびきり素敵なユニークスキルを手に入れて。

 それは、テオバルトの「ワルキューレの騎行」にも比肩する。

 その名は、「戦士の歌」。

 その能力は、「ワルキューレの騎行」よりも強力だが、制約が強い。

 このスキルの能力とはー

 『どんな兵器でも創造・召喚できる』だ。

 制約は簡単だ。まず、その想像したものを共有する者と一緒に召喚を行わなくてはならない。次に、とてつもない量の魔力を使用すること、だ。あとは物理法則にも乗っ取らなければいけない。

 ただ、魔力とはそもそも人間と魔人の居る二大陸しか多く存在しない。

 だから彼はこの能力を活かせなかった。

 だが、もしもリュート大陸に発生する魔力溜りを使えれば。

 あれは生態系を守っていることは確かだが、少しばかり被害が多すぎる。有効活用してもいいだろう。

 しかもテオバルトは前回接触した時から魔力溜りの魔力を特別な容器に回収させており、既に大和数隻分は召喚できるが、まだ召喚するには足りない。

 いや、召喚したいものを集めるには、だ。

 レーダーや各種電子装置、そういう「電子的」な物が足りない。これは近代化に伴う最大の課題であり、テオバルト達が苦戦しているところであった。

 戦闘機だって、エンジンと電子装置さえあればステルス機さえもう作れる。

 まぁそんな装置を召喚するには何年かけて魔力を集めなければいけないのか分からないが。

 イージスシステムのデッドコピーであるカトブレパスシステムも本家本物と比べるとおもちゃの域を出ない。

 幸い技術水準や生産ラインは現代の為、開発さえ出来たら量産ができる所は強みであるが。

 これを打開できるスルクの能力はテオバルト達にとって救世主であり、スルクにとっても彼の追い求める兵器を開発できることは夢の環境である。

 こうして、現状に不満を抱いていた2人の転生者は協力することとなったのである。

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