転生者、兵器道を極める

山風狭霧

象形魔法 ー戦争と死の神ー

 中級ダンジョン─

 その難易度は、B級冒険者上位数名で攻略が最低限可能。

 ダンジョンにある宝物等を回収など出来ようもない。

 そしてそこに集まるのは、A級1名+α、B級2名、C級4名、B級相当1名、C級相当3名。

 計12名での攻略。





 「なんか…ここの魔物強くない?」

 「確かにな。いつもより数段強い」

 「私もそう思う…」

 「だが、たかが中級ダンジョンだぞ?」

 B級相当の彼女が喋りかけると、数人が答えだした。

 今出てくる魔物は上級相当の魔物らしく。

 …ただ、あの森の魔物より弱く感じるのは気のせいだろう。

 …それとは別に嫌な予感がする。






 ここで切り札兵器などを使うわけにはいかない。

 学園での順位は決闘でも変動する。

 「顕現せよ、我は深淵を詠う者。《セイレーン》」

 召喚された蒼い人魚のような化身が空を浮かびながら水魔法を使う。

 これが初めて聞いた「象形魔法」…言霊を仲介に、自分の精神やUSを魔法として、化身として創り出す。

 創り出された化身は「アイビス」と言う。

 常人ならば、まぁ発現できる所で常人では無いのだが、1つ。「神」の力が与えられたのならば、末尾に神が力を貸す。

 しかしこれだけ出し惜しみがないとなると、更なる手札があるということだ。つまり彼女は2つ持っている、なんてことが考えられる。

 …もしくはそれを考えない馬鹿か脳筋。

 どちらにせよ、「象形魔法」なんてものを知れたのはでかい。あの時得れるのは誰もが獲得できる可能性のあるものなのだろう。だから種類が少なかったのだ。

 ちなみに顕現できるのはこの場には2人のみ。

 …俺にもできるだろうか。

 「危ない!!」

 眼前には、巨大な…「獣」?


 ちがう!「ボス」!?でもなんでこんな所に!

 こんなん森のやつより強い!─


 
ッ!!

獣の腕が─






 不味い!逃げ─




 意識をハッキリさせ、目を開けると。


 獣の手が、振り下ろされる。











 目の前に何かが、間に入って─


 吹き飛ばされた塊は、多分ライリーで。


 彼女の血が、俺の顔に、頬に、瞼に─


 「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」






 あぁ、ご主人様、助かったかなぁ?


 ライリー、少し、眠く、なって、きちゃっ…た。







 …殺す。

 死んでも、殺す。

 ライリーを傷付けたのは、お前だ。

 お前が悪い。

 ライリーは何も悪くない。

 死ぬべきなのは俺なんだ。

 この世界に居たって、俺は悪人だ。

あぁそうだ!俺は人殺しだよ!


 だが!だがッ!













 …殺す。アイツを。絶対に。













 「…我は罪人。されど運命に抗い、我の眼前に立つ者は例え神であろうと許されざる愚行。我に、復讐を。汝に、天誅を。我は、運命の叛逆者。《イグニス・ジェイルブレーカー・『オーディーン』》」











 あのクソッタレな人生から。



 1度も助けてくれなかったクソみたいな神共から。



 張本人を殺し、傍観者を巻き込んだ。



 そんなクソみたいな生き方しか出来なかった俺から。




 全てからの脱獄者。





 故に、ジェイルブレーカー。






 兵器を召喚し戦争を起こす。




 奴らに2度目の「死」を与える。




 知識欲は万人も叶わず。




 故に、儂の力を与える。





 貴様は、これを使いこなしてみろ。





 …まだ、お主は強く、賢くなれる。




 使いこなせ。そして、救え。お前の、仲間を、愛しの人を。



 これは、前世の俺と、お前を見守っていた彼達からのサプライズプレゼントだ。





ーパッシブスキル発現「ネメシス」・「アレクト」・「ティシポネ」ー
 

 復讐は神に任せろ?

 やだね。


 俺がこの手で、「獣」を殺す。ライリーも、救う。絶対に。






 鎖で繋がれていた腕が、足が、次々と解き放たれる。


 四肢が自由となった彼は、顕現する。


 自分の、生まれ変わりに。


 復讐に固執した者は、再びヒトツとなり、力を獲る。


 今度は、失敗しない。いや、成功させる。


 行くぞ。





 「行くぞ、イグニス

 血塗れの黒騎士が、赫の翼を炎で形創る。

 兜からは緋色の目を煌めかす。

 ─ジェイルブレイカーが操る能力、2つの内の1つー


 彼が片手に持つ長剣の切先を、「獣」に向ける。

 すると突然、「獣」の体中が燃え出す。


 ー我に殺戮を。《復讐の焔》─


 全てを燃やし尽くせ。

 俺の、大事な人を、傷付けた全ての者を。

 黒騎士が唸り叫びながら力を全開にする。

炎によって創り出される短剣が、彼の持つ長剣と呼応し「獣」を切り裂く。

 そして長剣を模して召喚された炎が「獣」の四肢ごと地へと突き刺す。

 外皮を削るように長剣を振り下ろし、その刃が肉を、骨を焼き断つ。


 ー何度そうしただろうか。


 「トドメだ!イグニスゥッ!!」

 「ガアァァァァァ!!!!!」

 最後に、焔を纏う長剣で「獣」の首を飛ばす。

 …そうだ、ライリーは!?

 近くに倒れ伏している彼女を抱き抱え、状態を見る。




 …手遅れだ。彼女は既に眠っているかのように穏やかな顔をしている。…見るも無残な姿で。


 ーだけど、そんな運命なぞ許さない。


 ーそんなものなど、無くなってしまえばいい。


 彼女の為に赫の黒騎士が、もう片手に持つ大盾を掲げる。


 ー紡げよ、紡げ。《反逆の息吹》ー


 ライリーが死ぬという「運命」を編纂し、改変する。

 彼女の血肉や四肢が、まるで何も無かったかのように戻り出す。

 …しかし、頬に一つだけ、傷が残ってしまったが。

 ライリーの顔に生気が戻って行く。

 …ただ、反逆の息吹には欠点が2つある。片方は利点とも言えるが。

 
ーそれは、      「ご主人、様…?」        おっと、そんなことは今は置いておこう。

 「っ!ああっ!そうだ!」

 「よかった、生きてた…」

 にぱー、とその可愛らしい笑みを浮かべる。まるで、誇らしげに。

 「このっ…馬鹿野郎…」

 彼はまるで撫でるように、彼女の額に拳を下ろした。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品