転生者、兵器道を極める

山風狭霧

第1章 第17話 全機、撤退せよ

 「しっかし…指揮官も無茶させるなぁ…」

 指揮権を一部移譲されている彼でも《オペレーション:autumn thunder》の発令は予想外だった。

 元々この指令は未だ未完成であったのだ。

 その原因として「未だ制式採用されず改良・改善が必要なジェット機」が挙げられる。

 しかも秋水は特に。ランディングギアごと開発が必要だったのを、試製のを無理やり使っている。

 臨時に作成されている滑走路も間に合うかどうか…いざとなったら近くの湖畔等に不時着させるしかない。

 そう彼は独り言ちながら、すっかり冷めたコーヒーを司令室の中1人啜った。




 「うおらぁぁ!!!」

 砲塔を旋回させ、砲身で魔物を殴りつける。

 魔物の腹に当たり、その体躯を吹き飛ばす。

 マングースは既に撤退し、囮となったレーベ数輌が奮戦する。

 「くそ、もう持たない…!」

 車輌に登られ、装甲を削る音がする。

 対抗手段は既に無く。

 救援が来るかどうかも不明。そもそも車体に纏わられているため攻撃出来るかどうか。

 最悪こちらが魔物ごと撃破される可能性も有り得る。

 戦車砲では魔物の数を一掃するには足りない。やるなら自走砲や迫撃砲だ。

 緊急防護魔壁、なんていう装備もあるにはあるが…

 持続時間は1分程。ただの延命措置にすら役不足だ。

 そもそも耐えられるかどうか…。

 『こちらティーガー01!全車緊急防護魔壁を展開しろ!航空支援が来る!急げ!!』

 「なっ…!?」

 「馬鹿!早く起動させろ!」

 戸惑っていた俺の横で仲間が叫ぶ。

 「あっああ!分かった!」

 その言葉でなんとか体を動かし、起動させる。

 その瞬間、青い光が車体を包んで行き、触れた魔物は弾き飛ばされる。




 『全機、攻撃開始!』

 百式を除く全ての機体がまるで急降下爆撃を行うかのように直下へと機首を向ける。

 火龍が残っている戦車隊に向けて800kg爆弾を投下し、離脱する。

 空戦特化仕様の震電改は増槽を付けていたが、ほとんどの機体は既に交戦した為パージしている。

 秋水と震電は地上にぶつかる寸前まで機関砲や機銃を掃射し続ける。

 戦車に纏わりついた魔物が肉片として散らばり、返り血がこちらにも届きそうになる。

 …戦車は青い膜が張られていて、何故か全ての弾丸を弾いていた。

 射撃をやめ、機首を上げようとするとてつもないGが襲う。

 あわや失神、という所で体勢を建て直す。

 横目には、大型化しまるでガンシップ仕様、とでも言える百式に取り付けられた機関砲が戦車隊に近付こうとする魔物を吹き飛ばすのが見える。



 …大分魔物を蹴散らした頃、燃料が気がかりとなってきた。

 撤退しようにも戦車隊はいつ魔物に襲われるか分からない。

 そんな時に、

 《全機、作戦を終了。撤退せよ》

 俺達は味方を見捨てるのか、と言いそうになった。

 当たり前だ。こんだけ俺達を扱き使わせて、それでみすみす死なせるなんて許すものか。

 仮に燃料不足で墜落したとしても、戦車隊を守りきってやる、と啖呵を切ろうとした。

 だが、その時前方に見える大量の——



 機影。それは大量の軍用航空機。

 零戦に隼、疾風、三式に五式戦闘機、屠龍、紫電、紫電改、強風、雷電、烈風、天山、流星、彗星等の日本軍機だけでは無い。

 bf109、fw187とJu87、Ju88等のドイツ軍機。

 P-38にP-51、F4UとF6F、B-17とB-29等のアメリカ軍機。

 スピットファイア、シーファイアにモスキートやスクア等のイギリス軍機。

 第二次世界大戦に活躍した名作機が自分達の横を通り過ぎ、戦闘機が、爆撃機が森ごと破壊するかのように攻撃を加える。

 全てを燃やし尽くし、全てを薙ぎ倒す。

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