美人なお姉さんに騙されて魔法使いになりました
06
「相変わらずここは奥に行くまで魔物がいないな」
「そのほうが、都合が良いでしょう?」
「え?」
魔王がいると言われたはずの洞窟の奥には、アケミさんがいた。
「なんで……?」
「あら、ここに誰がいると聞いてきたのかしら?」
「魔王だけど……」
「なら、答えはわかっているでしょう?」
「そうか。もうアケミさんが倒したのか」
「どこにも戦った形跡はないでしょう?」
「それは、アケミさんなら楽勝で……」
「冒険者なら、こういうときは最悪を想定するものよね?」
「……」
考えうる最悪。俺の中で考える最悪は……。
「アケミさんが、魔王?」
「正解よ」
答えと同時に背後で一瞬、光が漏れた。アケミさんが大規模の魔法を使う時に見る、魔法陣が光ったものだろう。
「のんびりしていいのかしら?」
「何をしたかもわからないのに、動けな……えっ!?」
激しい揺れに襲われる。同時に激しい音。俺の入ってきた道は、完全にふさがれていた。
「私と二人の密室は、相変わらず嫌かしら?」
「毎度毎度喜べない状況だからなあ……」
「まあそう言わず、少し話をしましょう」
「いきなり襲いかかられるより話ができたほうがありがたいな」
「襲われたくはないのかしら?」
こんな状況でも、これまでと同じように俺をからかって楽しむアケミさんに、悪意は感じられない。いや、悪意はいつもあるのか?ややこしいな。
とにかく魔王と言うには、敵意が全く持って感じられなかった。
「まずは……そうね。魔物がどうやって生み出されているか、教えていなかったわよね?」
この世界のことは、ほとんど全てアケミさんから習ってきた。今回もいつも通りだ。
「魔物はね、人の魔力よって生み出されるの」
「どういうことだ?」
「たとえばここにいたクリスタルスパイダー、徐々に強くなっていったのに気付いていたかしら?」
気付いていない。むしろ毎回戦うたびに楽勝に……いや、言われてみればはぎ取った素材の硬度には差があったかもしれない。
「あなた自身の成長が大きくて気付けなかったのね。実際、さっき倒した時のクリスタルスパイダーは、あなたが最初に倒した時に比べれば倍以上の強さだったわ」
「そんなに?!」
「あなたの使った魔力が大きくなればなるほど、次に生まれる魔物は強くなる」
ギルドでの話を思い出す。最近魔物が強くなったという話、あれは……。
「あなたの魔法は、予定より強力になりすぎた」
「だから魔王として俺を倒すのか……?」
「それならもっと簡単に、たとえばあなたが寝ている間にでも元の世界に送り返せばよかっただけね」
「それもそうか……」
俺を無理やりこの世界に連れてこれたのだから、逆も出来ると考えるのが妥当だろう。
「魔王を倒す目的は、覚えているかしら?」
「この森にいる魔物を扇動している存在を消せば、魔物の被害を抑えられるって理解していたけど」
「その通りね。魔物が魔力を元に生まれるなら、供給源を断てばいいと考えたの」
それは確かにそうだが。
「今いる魔物は?」
「魔物は自らの生命を維持するために、魔力が必要なの」
「供給を断てば自然と消えるってことか?」
「そう考えているわ」
「魔力を求めて人里に来たりは……」
「その可能性も考えたのだけど、魔物たちにそこまでの知恵はなかったわ」
すでにアケミさんは実験を繰り返していたそうだ。
「森の奥深くに魔物が少ないのが、その証明ね」
「あそこには他の魔物もいたのか?」
「私がこの世界に来たころには、もう少しいたわね」
あそこまで踏み込む人間が減った結果、魔物は数を減らした。これを元に仮説を組み立て、実際に魔物を捕らえての実験までして、確信に至ったらしい。
「魔王を倒したのだから、森の魔物は放っておけばいなくなる。こういってしばらく森への出入りを制限できれば、魔物はいなくなる。これが私の結論よ」
「冒険者として生きてる人間を説得できるのか?」
「そのために、このパフォーマンスをするの」
「パフォーマンス?」
「国から出してもらった依頼書の報酬、見たでしょう?」
「あの莫大な金か?」
「それだけじゃないわ。望みを一つ叶える、と書いてもらったはずだけれど?」
そういえばそんなことが書いてあった気がする。ベタな話だと流したが……。
「ヒナタ、あなたは勇者として生きて」
「アケミさんは……」
「私の姿を見られれば、二人で仕組んだものと思われてしまう」
「俺は戻って倒したぞと言ってくればいいのか?」
「それでは誰も信じないでしょう」
「じゃあどうしろと……」
嫌な予感が頭をよぎる。
「私を殺して、この女こそが魔王だったと伝えればいい」
「また無茶苦茶な……」
何もそんなことしなくても……。いや待て、それじゃ都合が悪い部分がある。
「国には、アケミさんから依頼を出すように指示したとか言ってなかったっけ」
「そうね」
「じゃあアケミさんが黒幕なら、話があわなくなるだろ」
「すべて、王に話しているわ」
「それは……」
この筋書きまで話しているというのなら、確かに……。
「悩んでいるところ悪いのだけど、そろそろ時間もないわ」
「悩むっていうか……本当にこんなことする必要が」
「あなたが私を殺さないなら、私があなたを殺すわ」
「なんで?!」
「私は国に依頼を出した時に、同時に依頼を受けているの」
「つまり……?」
「私が勇者で、あなたが魔王でも構わない。最近の魔物が強くなったのはあなたの責任も大きいのだから、あながち間違いでもないことだし」
無茶苦茶に聞こえるが、アケミさんは本気だった。
「そのほうが、都合が良いでしょう?」
「え?」
魔王がいると言われたはずの洞窟の奥には、アケミさんがいた。
「なんで……?」
「あら、ここに誰がいると聞いてきたのかしら?」
「魔王だけど……」
「なら、答えはわかっているでしょう?」
「そうか。もうアケミさんが倒したのか」
「どこにも戦った形跡はないでしょう?」
「それは、アケミさんなら楽勝で……」
「冒険者なら、こういうときは最悪を想定するものよね?」
「……」
考えうる最悪。俺の中で考える最悪は……。
「アケミさんが、魔王?」
「正解よ」
答えと同時に背後で一瞬、光が漏れた。アケミさんが大規模の魔法を使う時に見る、魔法陣が光ったものだろう。
「のんびりしていいのかしら?」
「何をしたかもわからないのに、動けな……えっ!?」
激しい揺れに襲われる。同時に激しい音。俺の入ってきた道は、完全にふさがれていた。
「私と二人の密室は、相変わらず嫌かしら?」
「毎度毎度喜べない状況だからなあ……」
「まあそう言わず、少し話をしましょう」
「いきなり襲いかかられるより話ができたほうがありがたいな」
「襲われたくはないのかしら?」
こんな状況でも、これまでと同じように俺をからかって楽しむアケミさんに、悪意は感じられない。いや、悪意はいつもあるのか?ややこしいな。
とにかく魔王と言うには、敵意が全く持って感じられなかった。
「まずは……そうね。魔物がどうやって生み出されているか、教えていなかったわよね?」
この世界のことは、ほとんど全てアケミさんから習ってきた。今回もいつも通りだ。
「魔物はね、人の魔力よって生み出されるの」
「どういうことだ?」
「たとえばここにいたクリスタルスパイダー、徐々に強くなっていったのに気付いていたかしら?」
気付いていない。むしろ毎回戦うたびに楽勝に……いや、言われてみればはぎ取った素材の硬度には差があったかもしれない。
「あなた自身の成長が大きくて気付けなかったのね。実際、さっき倒した時のクリスタルスパイダーは、あなたが最初に倒した時に比べれば倍以上の強さだったわ」
「そんなに?!」
「あなたの使った魔力が大きくなればなるほど、次に生まれる魔物は強くなる」
ギルドでの話を思い出す。最近魔物が強くなったという話、あれは……。
「あなたの魔法は、予定より強力になりすぎた」
「だから魔王として俺を倒すのか……?」
「それならもっと簡単に、たとえばあなたが寝ている間にでも元の世界に送り返せばよかっただけね」
「それもそうか……」
俺を無理やりこの世界に連れてこれたのだから、逆も出来ると考えるのが妥当だろう。
「魔王を倒す目的は、覚えているかしら?」
「この森にいる魔物を扇動している存在を消せば、魔物の被害を抑えられるって理解していたけど」
「その通りね。魔物が魔力を元に生まれるなら、供給源を断てばいいと考えたの」
それは確かにそうだが。
「今いる魔物は?」
「魔物は自らの生命を維持するために、魔力が必要なの」
「供給を断てば自然と消えるってことか?」
「そう考えているわ」
「魔力を求めて人里に来たりは……」
「その可能性も考えたのだけど、魔物たちにそこまでの知恵はなかったわ」
すでにアケミさんは実験を繰り返していたそうだ。
「森の奥深くに魔物が少ないのが、その証明ね」
「あそこには他の魔物もいたのか?」
「私がこの世界に来たころには、もう少しいたわね」
あそこまで踏み込む人間が減った結果、魔物は数を減らした。これを元に仮説を組み立て、実際に魔物を捕らえての実験までして、確信に至ったらしい。
「魔王を倒したのだから、森の魔物は放っておけばいなくなる。こういってしばらく森への出入りを制限できれば、魔物はいなくなる。これが私の結論よ」
「冒険者として生きてる人間を説得できるのか?」
「そのために、このパフォーマンスをするの」
「パフォーマンス?」
「国から出してもらった依頼書の報酬、見たでしょう?」
「あの莫大な金か?」
「それだけじゃないわ。望みを一つ叶える、と書いてもらったはずだけれど?」
そういえばそんなことが書いてあった気がする。ベタな話だと流したが……。
「ヒナタ、あなたは勇者として生きて」
「アケミさんは……」
「私の姿を見られれば、二人で仕組んだものと思われてしまう」
「俺は戻って倒したぞと言ってくればいいのか?」
「それでは誰も信じないでしょう」
「じゃあどうしろと……」
嫌な予感が頭をよぎる。
「私を殺して、この女こそが魔王だったと伝えればいい」
「また無茶苦茶な……」
何もそんなことしなくても……。いや待て、それじゃ都合が悪い部分がある。
「国には、アケミさんから依頼を出すように指示したとか言ってなかったっけ」
「そうね」
「じゃあアケミさんが黒幕なら、話があわなくなるだろ」
「すべて、王に話しているわ」
「それは……」
この筋書きまで話しているというのなら、確かに……。
「悩んでいるところ悪いのだけど、そろそろ時間もないわ」
「悩むっていうか……本当にこんなことする必要が」
「あなたが私を殺さないなら、私があなたを殺すわ」
「なんで?!」
「私は国に依頼を出した時に、同時に依頼を受けているの」
「つまり……?」
「私が勇者で、あなたが魔王でも構わない。最近の魔物が強くなったのはあなたの責任も大きいのだから、あながち間違いでもないことだし」
無茶苦茶に聞こえるが、アケミさんは本気だった。
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