美人なお姉さんに騙されて魔法使いになりました

すかい@小説家になろう

01

「魔法使いを連れてまいりました」
「うむ。そんなに固くなる必要もあるまい。面を上げ、余に顔を見せてくれ」
「失礼します」


 そんなやり取りを横目に、事態についていけない俺はあたりを見渡した。
 かの国民的RPGに出てくるような、俺のイメージ通りの玉座に座る王が、そこにいた。


「さて、魔法使い殿、わざわざ御苦労。聞けばアケミと同郷というではないか。非常に遠いところと聞いておる」
「はぁ……」


 畏まって膝をつき、王と思わしき人物と話していたのはさっきの美女だ。アケミというのか……。


「アケミをして稀代の天才と言わしめるお主をこの国へ迎えられたことを、喜ばしく思う」


 いつの間にか俺は稀代の天才になっていた。さっきまで冴えないフリーターだったというのに、大躍進である。


「さて、アケミからも聞いてはおろうが、余から正式に話をするとしよう」


 何も聞かされずに連れてこられたというわけにもいかず、話を聞く。俺としてもよくわからないままここにいるよりは、話を聞けた方がありがたい。


 聞けば、この国は魔王によって平和が脅かされており、それを救うべく各地から優秀な人材を呼び寄せ、その討伐へと向かってもらっているという、なんともベタな話だった。


「ということは、アケミさんが勇者……?」
「残念ながら勇者と呼べる存在は見つかっておらぬ」
「そこからスタート……」


 思い描くシナリオとは大きく異なるようだが、まあおおむね国王に言われて魔王を目指すという王道は守っているらしい。


「長旅の疲れもあろう。今日は城でゆっくり休まれるが良い」


 そういって、突然の謁見が終わった。






「さて、色々説明してほしいんだけど、アケミさん」
「ええっと……どこから説明すればいいかしら?」


 アケミさんはこの世界で魔法使い兼剣士らしい。それ、勇者じゃないのか?


「残念ながら、一目で勇者とわかるような人がいれば、それはもう化け物よ。私はなりそこねね」
「それなのになんで国王とつながってまで仲間を集める立場に……?」
「私、あなたと同郷と言ってたわよね?突然よくわからないところに放り出されて、頼れる先が思い浮かばないから、とりあえず王家を頼ったのよ」


 簡単に話しているが、もちろん何のメリットもなく保護してくれるほど、王はお人よしではなかった。独学で魔法を学び、元々習っていた剣道を元に、実践で鍛え、ようやく目に留まるところまで来てからの保護だったそうだ。


「その段階では自力で冒険者をできるようになっていたのだけど、その頃の私はよくわかっていなかったから」
「それで勇者探し……?」
「そうね。特にこれといって優れた能力があったわけじゃない私が、国王の目に留まるくらいに成長できるのだから、元の世界で探したほうが効率が良いと思ってね」
「てことは、簡単に帰れるのか?」
「私からすれば簡単だったけれど、あなたにとってどうかはわからないわ。もちろん、やり方は教えるけれど」


 試しに聞いた呪文を唱え、用意してもらった魔法陣を元に魔法を使おうとしたが、当然ながらいきなり成功することはなかった。


「まあ、これをすぐに成功されても困るのだけどね。戻ってこられるかわからないのだから」


 確かに今、元の世界に戻ってもここにまた来られる気はしない。そういう意味では失敗してよかったかもしれない。


「あら、帰りたくないの?」
「向こうに居たって特に何かできるわけじゃなかったし、ここで根拠もないながら魔法使いとして期待されてる状況は、悪くないと思う」
「そうね。ではまず、その根拠を作りましょうか」


 アケミさんの指導のもと、さっそく魔法使いとしての特訓が始まった。




―――




「まずは……そうね。魔法と聞いてイメージするものは?」
「んー。水とか火とか、風とかを操るような?」
「じゃあ、実際にやってみて」
「え?」


 そんな右手を上げてくださいみたいな気軽さで、何も教わらずにそんなことを言われても……。


「あれ?いま、火が出たような」
「この世界は元いた世界とは違って、あなたの思い描くことはある程度実現できるはずよ」


 私が見込んで連れてきたのだから。そう得意げに付け足すアケミさんは、元の世界より少し幼げに見えた。




 しばらく続けていると、ある程度、火や水、風を生み出したり、超能力のような、ものを浮かせたりといったことができるようになった。


「やっぱりあなた、才能があったわね」
「この才能が俺が貞操を守り続けてきた結果と言われると、何も言えない……」
「生かされたのだから、いいじゃない?」


 そういえば、アケミさんもこの世界では一目置かれる魔法使いだそうだ。
 そしてアケミさん自身が性欲と魔法使いの素質のつながりを見出していた。つまり……?


「あら、集中力が乱れてるわよ」
「っ!?」


 ある程度魔法が出せることがわかってからは、それをコントロールするトレーニングに移る。
時折こうしてアケミさんが妨害してくるのを耐え忍ぶのがトレーニングと言われているが、アケミさんの妨害がどんどん物理的なものになっていくのが気になって仕方ない……。具体的に言うと、胸が腕に当たっていた。


「勘弁してください……」
「刺激が強すぎたかしら?」


 さっきまで考えていたアケミさんも実は経験ないのでは説は、少し怪しげになった。
 そうこうしているうちに時も過ぎ、今日のトレーニングを終えることになった。




―――




「シャワー空いたわよ?」


 まだ湯気の立ち上るアケミさんの色気は、もはや俺には耐えがたいものになっていた。何の試練だこれは……。


「えっと、まさか一緒の部屋とは……」
「もう私は国賓扱いだから、部屋を分けるように言えばできるとは思うけれど、どっちがいいかしら?」


 悪戯気に微笑むアケミさん。俺の異世界生活は、この美女に振り回されていくことになるんだろう……。



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