帰らせたがりのヒロインから異世界生活を守り切る

すかい@小説家になろう

旅の報告

 キンズリー家での挨拶もそこそこに、ミュリを連れてロベリア様たちのいる新世界へ帰ることにした。 
 第二王子、ベイル=ルズベリーの言葉が気がかりだ。こういうときはとりあえず味方と合流しておくに限る。直感を信じ、帰路を急いだ。 
   


   
「あら、帰ってきたの」 
   
 心配をよそにロベリア様はいつも通りだった。 
   
「おかえりなさいませ、ソラ様。いかがでしたか?」 
「得るものはたくさんあった、と思う。色々話がしたい」 
   
 相変わらず忙しそうにしていたシャノンさんも捕まえ、報告会という形でまた四人で集まることになった。 
   
「キンズリー家でのことは、まあ特に何もなかった」 
「そう、じゃあ結婚もしないのね」 
「今は、ね!」 
   
 俺の報告にロベリア様は表情一つ動かさない。ミュリもぶれずに応えていた。 
 この話はキンズリー領に戻ってからも深く触れることはなかった。ミュリからしてみれば父の言葉わかりきっていたことであり、変わる必要もないんだろう。俺も今はまだ深く考えないでおくことにした。可愛い女の子に迫られるのはもちろん嬉しいが、そういうものはもう少し落ち着いてから考えたい。 
   
「ギルディア様は、いい王子だった」 
「でしょうね」 
「国内外の支持も厚く、何事もなければあの方が次の国王に納まるでしょう」 
「じゃあなんで国王はこんなこと始めたんだ?」 
「それが、兄、ギルディアに対する国民が抱える唯一の不安ね」 
「国王がそんなことしなければよかったってことか?」 
   
 その話では、国王がギルディア様を認めていないように聞こえる。いや、ギルディア様よりもふさわしい王がいるということか? 
   
「ミュリ様であればご存じかも知れませんが、ロベリア様の“戦闘姫”に対し、ギルディア王子の二つ名は、“死神”です」 
「え、初めて知ったよ!」 
「偉い物騒な名前がついてるんだな……。ミュリでも知らないってことは、王族だけの秘密か何かか?」 
「そうね……」 
   
 ロベリア様が言いづらそうにしながらも、一つ一つ説明してくれた。 
 ギルディア様には世継ぎがいない。正確には、いなくなった。過去2人の妻を娶ったが、どちらも若くして亡くなっている。一人は子を身ごもったまま亡くなり、もう一人は子をなしたもののその子も1年と持たず亡くなったらしい。 
   
「国王は世継ぎがいないことを心配しているってことか?」 
   
 嫁も子どももことごとく亡くなっているとなれば、“死神”と揶揄されるのも理解はできる。
 国にとって 世継ぎは大切だ。直系の子がいないとなれば混乱が起こるのは想像も容易い。今のようにあほほど王子王女が乱立しているのも困るが、その逆はもっと困るのである。だからこそ、王は多くの相手を娶り、子をなす。 
   
「心配されているのはそこではないわ」 
「“死神”の由来は、関係者がことごとく亡くなっていることとは関係ありません」 
   
 ロベリア様の言葉をシャノンさんがつなぐ。 
   
「じゃあなにが」 
「ギルディア様が各地から珍しい術者、亜人、その他を無差別に呼び寄せているというのは、もうお聞きになられましたね?」 
「ああ……」 
「あれは変態趣味があるというわけではないわ。れっきとした理由がある。もちろん、王家以外にそれが悟られることはなかったけれど」 
「王家は分かっているってことか」 
「そう……彼が様々な術者を集めている理由は、死を操る術を求めているからよ」 
「死を……」 
「死んだ妻や子は、いまだ彼の城内に保管されている。“死神”の由来は、死を操ろうとする彼の姿勢からついた二つ名よ」


 死神……死を司る神を目指す、か。あれだけ人が良かったギルディア王子の闇を聞き、戸惑う気持ちが抑えきれない。


「表面上は間違いなく一番良い人、一番国王にふさわしいわ」
「ただ、この事実を知っている王家とその関係者としては、一抹の不安を感じざるを得ないというのが、ギルディア王子に対する率直な思いです……」


 話を聞いて引っかかる部分が出てきた。


「なんで、王家しか知らない情報が元になった二つ名なんてついてるんだ?そんなわざわ広めるような嫌がらせをしてる王族がいるってことか」


 あの胡散臭い槍使いの顔が否が応でも思い出されてしまう。


「“死神”の名付け親は分かってはいませんが、候補となるのはお二方だけでしょう」
「嫌がらせ、と言い切れるかは何とも言えないけど、名付けたと考えられているのはお父様と、第二王子、ベイルお兄様ね」
「あいつか……」


 案の定思い浮かべていた名前が出てきた。


「あら、知っているの」
「戦ってきたからな」
「え?!」
「なんで一緒にいたミュリが驚くのよ……」


 ベイル王子との邂逅について三人に説明する。


「私もベイル王子と会ったことは聞いてたけど、山賊を引き渡したことしか知らなかったよ……なんでそんな無茶を……」
「完敗だった」
「当たり前です。国内最強の戦士を相手にしたのですから」


 良かった。あれより強い相手はいないらしい……。崩れかけていたプライドが少しだけ回復した。


「で、何か言われたの?」
「ギルディア王子に気をつけろ、と」
「そう……」


 ベイル=ルズベリー第二王子。公爵の爵位をもって独立している他の王子と異なり、国王直属の騎士団で団長を務めている。本人は王位継承については辞退を申し出ているが、騎士団長としての腕は確かで、ギルディア様に何かあれば推挙されるのは間違いないということだった。


「そんな二人が水面下で争ってるのか、この国は……」
「真意はわからないけどね、二人とも」
「それでルナリア様のところか」
「お姉様には単純に恩も繋がりもあるわ。けど、お兄様たちの元へ行かない理由を聞かれれば、これが理由ね」


 二人とも、話していて嫌な感じは受けなかった。そういうところを感じさせないような器の大きな人間であることも確かだろう……。
 ギルディア王子には滞在中ずっと世話になっていた。そこに敵意や害意はなく、言葉の端々に国を思う気持ちが溢れていた。
 一方ベイル王子に関しても、悪い印象は持たなかった。胡散臭い怪しいやつだという思いはあったが、正体が分かれば納得できる部分もある。あんなところでいつも通りの装備を見せびらかすわけにもいかなかっただろう。


 さて、とりあえず伝えるべき内容は一通り伝えた……よな?まあ忘れていたらそんなに重要じゃないってことだろう。ついでだが最後にこの情報も伝えておこう。


「近いうちにベイル王子が遠征を企画するらしい。ここにも来るって」
「大遠征が……」
「本当に次から次に色々出てくるわね……」


 あれ?ここまでの話に対してそんなに重要度が高いとは思っていなかったけど、この情報そんな大きいのか……。「みんなによろしく」くらいの挨拶のようなものだと思っていたが、どうも状況が違うらしい。


「ベイル王子はルズベリー王国騎士団長という立場上、あの人が宣言をして集められるときは、実質国を挙げての遠征になるんだよ!」


 ついていけない俺にミュリがフォローを入れてくれた。


「となると、それまでにこの都市もしっかり準備をしておかないとだな」
「ロベリア様の兵士団をつくり、戦力としての準備も行わなくてはなりません」
「都市運営についてはミュリ、いけるわね?」
「もっちろんですよ。お任せください」
「兵士たちのことはシャノン、あなたに任せるわ」
「はっ」


 すぐさまロベリア様の指示のもと、今後の動きが決まっていく。
 俺を置いてけぼりにして。


「俺は?」
「あなたは早く元の世界に帰らないの?」
「おいおいおい、ここでロベリア陣営最大戦力を手放すのか?!」
「冗談よ、帰るまでにやってもらうことができたわ」
「おう!そうこなくっちゃな」


 ようやくロベリア様にも利用価値を認められたらしい。これからの活躍によっては帰れと言われなくなる日も近いかもしれない……。そんな期待を胸に、ロベリア様からの初仕事を引き受けた。



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