帰らせたがりのヒロインから異世界生活を守り切る

すかい@小説家になろう

異世界の日常

 領地を手に入れ、ロベリア様に言われた通り立派な城や遠征時に利用できる宿などを建設する日々が続いている。
 仮住まいながら城のようなもの、はもうできており、すでにシャノンさんもロベリア様もこちらでの生活を始めていた。序盤こそ土魔法やシャノンさんの多様なマジックで建設を進めてきたが、最近は元のロベリア様の領地や、その他様々な地域から人呼び込み、仕事を与えている。
 手の空いた俺やシャノンさんは森の周辺調査を定期的に行なっていた。周りに存在する魔物をランク付けし、出現場所や使用魔術など様々な方向から魔物の情報を収集していた。


「狼男は一頭であれば構いませんが、複数で見つけたり、遠吠えを許した時は逃げたほうがいいですね」
「シャノンさんが戦うなら問題ないんじゃないの?」
「周囲の被害を気にしないで良いのであればなんとかなるかもしれませんが、基本的には戦わないで済むなら避けて通りたいところですね」


 強力な魔法は多かれ少なかれ周りに被害をもたらす。国に申請した正式な遠征でもないこの探索であまり目立った真似はするべきではないのは確かだ。


 この辺で最も強力な魔物は狼男だ。これをBランクとした。ちなみに魔法も気も扱えない一般の成人男性が武装した状態をDランクとしている。狼男は一人でいる時ならば、“見たら逃げろ”の危険な魔物である。
 ある程度の戦闘訓練を受けたものや、多少なりとも魔法や気を扱える人間がCランクだ。前回ロベリア様が戦っていた二足歩行する植物の魔物がCランクの上位といったところだった。
 人に近い形をしているほど動きに知性があり、使用する魔術も厄介になる。二足歩行の植物は身体の一部を伸ばしたりするだけだが、これだけでも魔法なしで対処するのは難しかった。
 実際に相手をした感想は


「これ、ロベリア様は魔法もなしで倒していたのか……」


 というものだった。二足歩行型の植物の魔物は極端に火に弱いので慣れると簡単に対処できるが、魔法なしで切り刻んで行くと考えると尋常ではない技量が必要だろう。


「この程度ならだれだってできるわよ。訓練すればね」


 ロベリア様は魔法も気も使えないことからか、自己評価はいつもこんなものだった。実際にはかなり恵まれた剣の才能があり、並みの男性の2倍は身体能力も高い。特殊能力を捨てて基礎体力的な部分に全振りしたステータスだった。
 そしてこれは後から気づいたことだが、前回の遠征で50人の領民へ指示を出していたのは全てロベリア様だった。戦いに慣れていない領民をうまく誘導し、強敵は自分に引きつけ、倒せる敵を倒せる味方に指示を出しながら振り分ける。
 この能力だけでもロベリア様の魔法や気を使いこなせないことを補ってあまりある能力を感じさせるのだが、王族でありながら、という部分が深いコンプレックスになり、あまり自分を高く見積もることはできなくなっているようだった。


 狼男は二足歩行する上、動物型である。声を使った魔術を用い、威嚇としての“声”の魔術は聞いたものを萎縮させ、相手の能力を一時的に下げることができる。力差がひどい場合は身動きすら取れなくなる強力な魔術だった。また、遠吠えは仲間を呼ぶ魔法だ。やってくるのは多くても5匹程度だが、一度呼ばれてしまえばねずみ算の法則で増えていく。大魔法なしで対処するのは難しくなるため、基本的に相対した時は遠吠えを許す前に倒す必要があった。


 最弱のDランクに指定しているのが、不定形のスライムや植物の魔物などである。これらは何の訓練も受けていないものが、武器を持って落ち着いて対応すれば倒せる。


 Cランク以上の魔物は森の奥に踏み込んで得た情報であり、普通に生活している範囲ではDランクを超えるような魔物は現れなかった。前回の遠征で二足歩行の植物の魔物が出てきたのはレアケースだったか、何らかの条件があったかはわからないが、いまはいいだろう。


 ちなみに魔物というより動物と言えるような、イノシシやシカのようなものも森には存在する。植物も食べられるものが結構あったので、シャノンさんの毒消しのマジックを使いながら少しずつ魔物の森の食材が増えて来ていた。
 雇った料理長は森で捕まえたり採取して来た食材を渡すたび、引きつった顔をしながらも引き受け、大抵のものは美味しく調理してくれていた。最近は慣れたのかむしろ嬉々として変わった食材を料理しているところすらある。


 基本的には生活に必要な人材しか連れて来ていなかったが、さすがに王族だけあって従者は結構いた。メイドや料理人など、この辺はシャノンさんが取りまとめているため詳しくはわからないが、城だけでも2.30人は人がいそうだった。
 さらに城下町のようなものも出来てきた。こんな魔物の森と隣接したわけのわからない辺境の地に誰が……と思ったが、探索の度に適当にその辺にいた建設作業中の人間に声をかけ、何人かずつ一緒に魔物と戦っていたことが大きく影響したらしい。


「大魔法使い二人の庇護のもと鍛えてもらえる」
「仕事はいくらでもある」
「ロベリア様もいらっしゃるのなら活躍すれば騎士として取り立ててもらえるかもしれない」


 などという噂が広まり、最近では呼んでもないのに人がやってくるようになっていた。とりあえず自分の住む家を建てさせるのが最初の仕事になるが、今後はこういった人たちをどうして行くかも考えなくてはならない。
 候補として、戦いが増えるのであれば私兵団を作ってもいいかと思っている。金は前回の遠征の報酬としてかなりもらっているしな……。
 王族でありながら金のかかる活動をほとんどしてこなかったロベリア様や、国王直属の形で働いて来た大魔法使いのシャノンさんに比べると大した額ではないものの、とりあえず新たな領地で人を雇って活動していけるくらいの金はあった。。
 シャノンさんいわく、周辺の探索で得られた情報を国へ届け出れば一定の報酬になるとのことだ。また、冒険者ギルドも情報を買い取ってくれる。森の魔物は非常に強力であり、ゲームなどでイメージしていたような自由なクエスト受注などはなかったが、国とは別に情報や素材を集め、利益を上げながら自分たちの冒険の助けとしている組織だった。
 冒険者ギルドに加盟している人間は思いのほか多く、遠征時しか利用されないと思っていた宿がコンスタントに収入が得られることもわかり、ここにも人材を配置することができそうだった。


 そんな生活をしばらく続けていた。シャノンさんやロベリア様の優秀な従者の活躍のおかげで何の苦もなく自分の領地が発展していくのは結構楽しく、色々なことが頭から抜けていたが、そういえば貴族からの接触があるだろうとルナリア様から聞いていたんだった。


「初めまして。ソラ=サクライ様。ミュリ=キンズリーと申します。今後領地を隣接するものとして、ご挨拶に参りました」


 初めての来訪者は、引っ越しのご挨拶にきたお隣さんだった。

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