現代魔法の使い方

すかい@小説家になろう

現代魔法の使い方

「最近変なニュースが多いなぁ?」


 向かいの机から、また仕事をサボって先輩が声をかけてくる。


「またケータイでテレビ見てるんですか?怒られますよ?」
「お前が黙っててくれりゃ大丈夫だって。また奢るからな?」
「はいはい……」


 こんなダメ人間全開の行動を取っているのに、社内での評価は高い。成果だけ見れば確かにとても優秀な社員だった。
 勤務態度に多少問題があったとしても、愛嬌で誤魔化せる。いや、それ以上にきっちり結果を出している。
 いつの間にか、時には不思議なほど都合よく事が運んで、とにかく先輩は、結果として毎回きっちり結果を出していた。


「ほら、ついに人が空飛んだとか出てきたぞ。映像付きで」
「そんなもん今時いくらでも合成できますって」
「夢がないなぁ、うちの後輩は。ほら、テレビでも言ってるぞ?魔法使いだって」


 魔法使い。
 最近になって増えた奇妙なニュースに対して、面白半分に世間を騒がせている言葉だ。


 台風が来ているのに一部の地域にだけ雨が降らなかったり、学校に入った不審者が子どもに返り討ちにあったり、銀行から金が消えたり……。
 確かに不思議なことが重なるし、不思議な力を持った人物が出て来たと考えるのは楽しいかもしれない。


「今は仕事で手一杯で、そんなニュース楽しんでる余裕ないんですよ……」


 自分に不思議な力が宿るならともかく、俺に関わりのないところで何が起きても目の前の仕事は減らない……。


「そんなんじゃ楽しくないだろ〜?楽しまなきゃ損だぞ?」
「先輩と違って上手いことできないんで……」
「そりゃそうだ!今同じくらいの仕事されたら、俺のいる意味がないだろ。あ、そう考えると後輩は仕事ができないでいてくれないと困るのか」
「俺が出来なきゃ先輩が尻拭いで仕事増えるだけですよね」
「仕事が増えるのは勘弁だなぁ」


 そんなことを言っていても、俺がやってることくらいならうまいことすぐに処理してしまうんだろうと思う。


 なんだかんだと色んな部署や職場をフラフラして来たが、どこにでも仕事のできる人はいた。
 毎日すごい勢いで契約を取ってくる人、画期的なアイデアを出し続けられる人、それを実現していく力を持った人、それらをまとめる能力のある人……。


 目の前の先輩に、そういった人たちの持っていたオーラはまるで感じられない。ぶっちゃけてしまうなら俺と何が違うんだと言えるくらい、のんびりした人だ。
 なのに周りに評価され、時には周りに助けられ、時には運にも助けられ、なんだかんだとうまくいく人だった。


「魔法使いがいるんだとしたら、先輩じゃないですかね」
「お?急にどうした」
「だって先輩、そんだけなんもしてないのに、また昇格しましたよね」
「言うなぁ?俺だってやるときはやるんだぞ?」
「それは知ってますけど、ここに座ってる時の先輩はいつもやらない時の先輩ですしね……」
「手厳しい後輩だなぁ。まあ確かに、なんもしてないのに昇級昇給を繰り返してたんじゃぁ、魔法だろうなぁ」
「そんな魔法あるなら、今すぐ欲しいですね」
「そうかぁ?俺はあんまり、そういうところで使いたくねぇなぁ」
「先輩が魔法使いなら、何しますか?」
「透明人間になって銭湯に行く」
「ベタですね……」
「良いんだよ。こういうのは欲望に素直な方がな!」


 魔法を使うまでもなくうまくやってる人だと、その力で仕事をどうこうしようという発想にはならないのだろう。


「俺が魔法使いなら……」




 ーーー




 次の日、突然先輩はいなくなった。
 ニュースでは、これまでの奇妙な出来事が全て魔法の仕業だったと大真面目に語られている。
 魔法使いの疑いのある人物は処罰の対象になるらしい。


「いつの時代のニュースだって話ですよね」


 いつもの調子で向かいの席に声をかけても、あの陽気な声は返ってこない。


「やっぱり先輩、魔法使いだったんですね。だから逃げて……」


 そういうことなんだろう。
 あんなにうまくやりくりしていたはずなのに、一日で逃亡生活になってしまうなんて……。
 まぁでも、これまでズルをしてきた分と考えれば、仕方がないのかもしれない。


「先輩なら、どこにいってもうまくやりそうですしね」


 返ってくる声はない。


 その日、先輩が開けた席に俺が就くようにと、打診を受けた。やっぱり真面目にコツコツやるもんだな。棚ぼたでこんな幸運にありつけることもあるんだから


 ニュースではまだまだ魔法使いの話題が尽きない。


「俺が魔法使いなら、もっと仕事で楽するために使いたいですね」


 昨日先輩に答えた言葉を繰り返す。
 先輩はなんて返事をしたんだったか。




―――


「自分が楽になった分は、どっかにしわ寄せがいくんじゃないか?」
「そんなもんなんですかね?まあでも、そうなってもあんまり関係ない相手なら、何も感じないし気づかないんでしょうね」
「俺みたいにこう、女子風呂を覗くくらいが丁度良いんだよ」
「それはもう直接迷惑を掛けてますからね?」




―――




 そんなことを言っていたくせに、先輩はやっぱり仕事に魔法を使っていたのだろうか。
 もしかしたらそのしわ寄せってやつが、俺のとこに来てたのかもしれない。やたら仕事が多かった気もする。


「その辺、どうなんですか?先輩」


 いくら声をかけても、返事はない。


「楽になっても、楽しくはないですね……」


 願いが叶っても思い通りにいかないものだ。


「次はもっと、うまく願うことにしますよ」


 魔法使いでもあるまいし、次なんて起こるはずはないんだけどな。



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