世界最強のダンジョン攻略者、学校に入学して普通の人生(スローライフ)を目指す

すかい@小説家になろう

パーティー結成

 それからは興奮したフローラ姫と、それを止めることも忘れたシズクの質問ぜめにあった。
 なぜ死んだことになったのか、2年前に何があったのか、なぜ名を明かさなかったのか……。


「エル、行くなら私も連れて行って欲しかった」
「マリーも知ってるだろ。俺はソロでしか潜らなかったんだよ」
「むぅ……」


そもそもその時マリーは黄泉の国の攻略真っ最中だったはずだしな。


「そんなに厳しいダンジョンだったんですね……」


 俺の最後のダンジョンになった魔王の塔。そこで俺は自分を証明する唯一の力を失ったことを説明した。
 空の覇者。
 人類で唯一、空を自在に飛ぶ力を得たのが俺だった。2つのダンジョン攻略で得た力を合わせて初めて実現した魔法。その羽を、自信を、文字通り吹き飛ばした。


「空の覇者エルは謎に包まれていました。確かに空を飛ぶことは唯一の力ですし、有効な証明手段かと思いますが、それ以外でも、身分の証明は可能では?」
「シズクの意見はもっともなんだけどな。そうしたところで得られるものなんて、ほとんどないだろ?」


 シズクは信じられないものを見たような顔になったが、フローラ姫が間に入ったことですぐ表情が戻った。


「勲章も爵位もいらなかったってこと?」
「そうですね。別に貴族になりたいわけじゃなかったし、クリアしたダンジョンも有効に使ってくれればいいと思ってました。金は正直、もう要らないほど稼ぎはあったので」
「ん。エルはお金持ち」


 そういうマリーももはや下級の貴族くらいなら一生かけても稼ぎきれない額を抱えている。ダンジョンクリアの恩恵は大きい。


「と、いうわけでこの件は内密に頼みたいけど」
「それはもちろん……というより、本人にその気がなければ納得させられないでしょう。これまでに偽物はたくさん出てきていましたし」
「あ、そうなの?」
「はい。実はうちの子だったと歳が近い子供を推して謁見をせまる方は後を絶たず……」
「じゃあ俺、無理に隠さなくてもいいのか?」
「エルはすぐわかる」
「そりゃマリーは知り合いだから……あぁそうか。マリーの発言だけでもある程度保証になるのか」
「そうですね」


 なるほど。まあ確かに自分の子どもがエルとなれば、ダンジョンから得られる収入だけで領地を持たない貴族たちより稼ぎが得られるしな。
 ダンジョンは基本的にクリアした人間に権利がある。クリアしたダンジョンは危険なトラップやモンスターはいなくなり、至る所にアイテムが現れ、これを定期的に回収するだけで本人は遊び放題で孫の代まで暮らせるし、ここから税収を取るだけでその領地は100年安泰と言われていた。


「リカエルさんは、本当にそれでいいんですか?」


 シズクが問いかけてくる。


「というと?」
「貴族になるチャンスは誰にでもあるわけではありません。国家の中枢に関わるだけの功績があり、それを生かしてできることはたくさんあります。これまでの権利を取り戻せば、もうずっと遊び続けて暮らすこともできるはずですが」
「そうなりたくないから学校まで来た。というか、俺は何も知らないまま好き勝手やった結果があれってだけで、なにかにしっかり取り組んだことがなかったんだよ。だから、このままだとだめだと思った。攻略者を続けるための最大の武器はあそこに置いてきたままだ。あれを取り返しに行く度胸が俺にはない。だったら別の道を探すしかないだろう?」
「ですがそれなら、貴族として武官はもちろん、文官などという形も」
「そのための教育を受けてきた貴族から奪い取ってまでやりたくはないさ。それに武官なんて戦争もないんだから、やることは攻略者と同じになるからな」
「そう、ですか……」


 シズクはなにか思うところがあるようで表情が浮かばないが、反面フローラ姫はにこにこして声をかけてくる。


「素晴らしいです!それだけの功績をあげながらそのままではいたくないなんて!」
「ん。エルはすごい」


 どこかがフローラ姫の琴線に触れたようだ。ちなみにマリーはいつもこんな感じだ。


「確かに今、貴族でも攻略者でもなく、継ぐ家もないということであれば、職を見つけるために学校というのは合理的ですね」
「俺がそれ以外の方法が思いつかなかっただけなんだけど、よかったか」
「はい。もちろん何か決まったことがあるのであれば、例えば鍛冶師をめざすなら弟子入りしてしまったほうが早いでしょう。ですが、そういったことがあるわけではないのですよね?」
「そうなんだよ。俺は攻略者以外のことを知らないからな」
「ですがそれなら、Sクラスでも良かったかもしれませんね」
「そうなのか?」


 話を聞くとSクラスだからといって攻略者関係の話に寄せているわけではないらしい。というより、学園生活の多くでダンジョンに潜るという性質上、Sクラスは最も準備に時間がかからず、逆にCクラスは最もその準備に時間を割く必要がでてくるとのこと。確かに言われてみればそうだな……。


「でも、先生たちもまさか伝説の攻略者に教えてるなんて……ちょっとかわいそうですね」


 フローラ姫が茶目っ気のある人好きする表情で笑う。


「私達のクラスでも、マリーちゃんには教えにくそうにしてるから」
「私はエルから色々教わった」
「そうだったんですか?!私も教わりたい!」
「私も、伝説から直接の指導となればぜひ」
「勘弁してくれ……そんなガラじゃない」


 マリーは特別だっただけで、弟子も取りたくなかったくらいだ。


「そんなことない。エルは教えるの、とても、上手」
「そうなのですか?」
「私はもともと、死んだ魂と会話ができるだけだった。ダンジョンに潜って死なないように鍛えてくれたのは全部、エル」
「それって……」
「マリーさんに素質があったにしても、とんでもないですね」
「そんな大したことはやってない。全部授業でやるような基礎だよ」


 実際にCクラスの授業内容は非常に理にかなっていた。
 あの限られた期間でやるにしては、必要最低限に絞りながら実践を交えてしっかり教わったと思う。


「それをしっかり教えられるのがすごいんだよ!」


 フローラ姫が少しずつ慣れてきたのか言葉がフランクなものになってきている。


「まだ将来が決まってないなら、講師も1つの選択肢かもしれませんね。そう考えれば、Cクラスの経験は生きますし」
「なるほど……」


 実際のイメージは全くわかないけど、そう考えておくと前向きになれるのはいいな。


「ま、考えておくよ」
「はい!じゃあ、今日は……あれ?何しに来たんでしたっけ?」
「姫様……姫様がパーティーに勧誘してここに連れてきたんですよ」
「そうでした……。どうでしょう?お二方の目的には合わせます。実はシズクも、私に合わせてくれただけでダンジョンクリアはそこまでの目標ではないんです」
「逆にフローラ姫はなんでクリアを?」


 ダンジョンクリアはほとんどどのパーティーにおいても大目標に掲げられはする。これはSクラスでもCクラスでも関係ない。
 ただ、フローラ姫レベルになると話は変わる。ダンジョンクリアで得られるものなど、すでに持っているだろう。


「そうですね……私、好奇心が強いんです」
「それはなんとなくわかる」
「まだ世界で4人しか見たことのない景色を、私も見たい。それができるだけの、現実的な力もつけてきたつもりです」


 確かに学生としての実力は抜きん出たものがある。


「私はみなさんと違い、学生の間にしかこの夢を見ることができないのです。だから、なるべく強いパーティーで、一生で一度のわがままを叶えたいと思い声をかけたんです」
「あぁ……そうか」


 卒業後、いくら緩い王国とはいえ政略結婚など普通にある。というより、王家にいてそうならない方が珍しい。そうでなくとも文官としての活躍も期待されるだろうし、卒業後に時間が取れなくなるというのもわかる。


「ならなおさら、俺たちと組んでしまっていいのか?」
「はい。私はあなたたちの見た景色を見たかっただけです。その先の景色も見られるというなら、それに越したことはありません」
「シズクは?」
「私は姫様に従うだけです。ですが、私個人の意見を挟むのであれば、あなた方についていくことに少なからず興味も覚えています」
「なるほど……」
「私は、エルがいいなら、いい」


 さて、どうしていこうか……。マリーと俺が組む。これは確定でいいだろう。
 この2人と組んだときのメリットは……、あるのか?いや何かとマリーと2人より動きやすくはなるか。王家の後ろ盾があるという意味では。
 デメリットは周りの目か……それならSクラスでも良かったという話になる。目立ってややこしい話に巻き込まれる可能性も上がる。いっそエルであると公表は……やめておこう。冗談抜きで国を巻き込む事態に発展する。
 実際マリーの入学についても王国の囲い込みだと批判が上がったレベルだ。マリーはもともと王国民ではなく、帝国と王国の領地の間にある集落の生まれだ。集落の周辺は王国と帝国が睨み合いを続けている。
 俺も俺でややこしい話があるから、2人のクリア組が同時に入学となれば帝国のあれは間違いなく動くだろうからな。


「俺はあまり目立ちたくはなかったんだけど」
「エル。それはもう、遅い」
「だよなぁ……」


 最大のネックはある意味、解消されているわけだ。いや、解消はされていない。諦めだ。


「じゃあいいか……」
「ん」
「やった!よろしくおねがいしますね!」


 フローラ姫が立ち上がって手を握ってきた。癖なんだろうな、これ。


「私も、よろしくおねがいします」
「あぁ、よろしく」


 なし崩し的にパーティーが決まったが、まぁ望んでもこれ以上のメンバーは得られないと考えれば、良かったと思うことにしよう。


 その後は改めてお菓子に舌鼓をうった。全部あのおかまの筋肉乙女が作ったと聞いて、複雑な気持ちになったが、それはまあいいだろう。

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