世界最強のダンジョン攻略者、学校に入学して普通の人生(スローライフ)を目指す
秘密の共有
散々注目を集めたため場所を変えるべきというシズクの案を受け、上流貴族街に入った。途中でマリーに合図は出したから、後から追いついてくるだろう。
もうこうなったら俺はマリーと組むしかない。ここまで目立った以上、自衛のためにはそうするしかない。そう決めた。
「ここです!」
「ここは?」
いかにも金持ちたちのための店が立ち並ぶ通りの中で、ひっそり佇むように地下へと続く階段がある。入り口に店名が書いてあるから、喫茶店の類だとは思うが。
「大丈夫です。姫様の親戚の方が運営するカフェですよ」
シズクが説明してくれた。
「それって、王族ってことか?」
「元、ですね。王家として活動し続ける方は珍しいんです。ほとんどは王位を継がないので」
「にしても、普通どっか貴族と結婚していくんじゃないのか?」
「それはそうなんですが……まあ、入りましょう」
「わかった、けど、もう1人いいか?」
「ん?誰かいるんですか?」
「ああ、出てきていいぞ」
声をかけると、それまで何もなかったはずの空間から、身体より大きな杖を抱きかかえるように立つ少女が現れた。
「これは……」
「久しぶり、マリー」
「ん」
相変わらず無口だが、合図にもすぐ気づいてくれた。ダンジョン攻略に当たって、妹分のように接してきたのがマリーだ。基本的なスキルは俺が教えている。
「これは……クリア組と繋がりがあるなんて……やはり何かあるのですね、あなたには」
「今から行くところは、信用できるんだな?」
「私たち以外入らせないようにしましょう」
階段の下で早く早くと手招きするフローラ姫が愛らしい。マリーを見て一瞬驚いたようだが、歓迎してくれるようだった。
◇
「紅茶とお菓子を人数分。それから、持ってきたらそのあとは人払いを」
「かしこまりました。お嬢様」
階段を降りると濃い茶色で統一された落ち着いたカフェがあった。カウンターにいた男性にシズクが何か告げると、奥にあった個室へ案内された。
「ここは私の伯父が経営しているお店なの」
「伯父って……王位継承権があったのに辞退したっていう……?」
「そう!私のお父さんに王位を譲って、身分を捨てて商売を始めたの!」
4人で席に着くとフローラ姫が色々説明してくれた。
どうも今の国王の兄は変わり者で、王位に全く興味がなく、下手に継承争いに巻き込まれないよう弟を指名して自らは継承権を破棄、さらに公爵家を新たに設けたり他の貴族家に入ることもなく自由になったらしい。これが許されるのもこの国特有だろう。色々緩い部分が多いのだ。
「そうは言っても王位継承権1位で辞退したのは異例だよな」
「まぁ……叔父様は少し変わってらっしゃるから……」
その言葉の意味は、直後お菓子と紅茶が運ばれてきたタイミングで身を持って理解させられた。
「あらぁ〜。フローラちゃんよく来たわね。シズクちゃんもお久しぶり〜。ずいぶんイケメン捕まえてきたじゃなーい。私にも紹介してぇー」
「えへへ。お久しぶりです。伯父様」
「……」
強烈なのがきた。
見た目は角刈り色黒の筋肉質なおっさんだが、フリルのついたエプロンとどうやってつけてるのかピンクのリボンを頭につけている。ダンジョンでも稀に見る異様な光景だった。
「こっちは同級生のマリーさんとリカエルくん!マリーさんはクリア組の方ですし、リカエルくんも暴走するシャドーを止められるくらい凄いんですよ!」
フローラ姫はあまり気にしない性格なのか、慣れているのか動じず話しているが、マリーなどもはや杖に顔を完全に隠してしまっている。
「あらあらあら。凄い子たちじゃない〜!私もBランクの攻略者をしてたからマリーちゃんは知ってるわ〜」
「ひっ」
マリーは完全に怯えてしまっていた。
「ふふ。可愛らしいお嬢ちゃんね。大丈夫よ。私は女の子はとって食ったりしないから」
ウインクしながら語尾にハートマークをつけて語る姿が余計マリーを怖がらせていたが、気を悪くすることもなくむしろ可愛い子ね、と上機嫌だった。
「で、こっちの子はとって食っていいのかしら?」
「だだだだめですよ!ダメですからね!?」
筋肉漢女の目がこちらへ向いたが、フローラ姫が必死に食い止めてくれていた。ありがたい……。さすがは友達思いの慈愛の姫様だった。
「うふふ。大丈夫よ。フローラちゃんのお友達をとったりしないから。その可愛い反応が見れて私は満足。さて、邪魔者はこの辺で退散させてもらうわね。しっかり人払いは済んでるから、心置きなくゆっくりしてちょうだい」
「いつもありがとうございます」
「はぁ〜い。ごゆっくり〜」
喋る間もないまま去っていった。
「えっと……まずは何から話そっか?」
マリーは怯え、俺は状況についていけず、シズクは何を考えてるかわからない顔をしているが、フローラ姫は何事もなかったかのように話を始めた。
「まずはパーティーについてでしょう」
なんだかんだシズクがまとめ役をやってくれるようだ。
「えっと、この4人でメンバーってことでいいんじゃないの?」
「それはまずこの2人に確認しないと」
シズクがマリーを見るとまたビクッと身体を震わせて杖に隠れてしまった。感情の読みにくいシズクだがちょっとショックを受けている様子が見えた。
「ありがたい申し出なんだけど、俺としては一緒にパーティーを組むつもりはない」
「えっ」
こういうのはなるべく早く切り出さないとどんどん言いづらくなる。今更感もあるが、先に宣言しておこう。
「理由を聞いても?」
固まるフローラ姫は置いておいて、シズクが場を仕切り直す。
「俺の目的とフローラ姫たちの目的が一致してない。ダンジョンのクリアを目的とするパーティーに入る気は無いんだ」
「でもこの目標は建前だというのが共通認識ですよね?」
「もちろんわかってる。ただ、それでもな」
アカデミー生のパーティーはそのほとんどが目的をダンジョンクリアに置く。現実的な目標は別で持つとしても、誰もが最高の到達点を一旦の目標にするという形だ。
だからフローラ姫のいうことは特におかしくはない。
「まだマリーには聞いてないけど、俺はマリーもダンジョン攻略を目的としてないように思ったから呼んだんだよ」
「そうなの?」
フローラ姫に声をかけられてまたビクッとなりながらも、コクコクと頷くマリー。
「まあ、クリア組で2つ目に挑んだのは、空の覇者だけだものね」
「そっかぁ。マリーちゃんはこの学校で何を?」
「ん……私も、攻略者以外の勉強がしたくて」
「リカエルくんと一緒かぁ」
予想通りマリーも俺と目的は一致していた。その先の理由もなんとなく見当はついているしな。
「じゃあ私もそっちの目的に合わせるから、それならだめかなぁ?」
「姫様?!」
「だって、クリアを目標に掲げるのは建前って、シズクも言ってたじゃない?」
「それはそうですが……」
「マリーちゃんもいるし、確かにクリア組がいるのにクリアが目標じゃだめよね」
「ですが……そもそもお2人は?」
なるほど、そうきたか……。
どうしたものかと考えているとマリーが爆弾を落とした。
「私は、エルがいるならいい」
「エル……?」
「気づいて、ない?」
きょとん、とした様子のマリーに対し、エルという単語に理解が追いつかない2人。
「リカエルは偽名。エルはエル。だから私はここにいる」
「え、え?エル?エルってあの?」
「空の覇者……」
フローラ姫とシズクの表情が驚愕に染まった。クリア組のマリーの言葉だからこそ、死んだはずの名前もすんなり受け入れられたんだろう。
しかししまったな……。マリーは隠すつもりはなかったというか、最初からバレてることがわかっていたからいいんだが、それ以上広めるつもりはなかった。
「みんな、知らなかった?」
相変わらずきょとん、とした様子のマリーを見て、俺は諦めて声をあげた。
「人違いじゃないか?」
俺は往生際が悪かった。
「そんなことはない。エルはエル。見たらわかる。それに、死んでれば私はわかる」
「はぁ……。俺が隠してたのは察してくれてなかったのか」
「内緒、だった?」
「内緒だったよ。もういいけどな」
「え、え、それじゃあ本当に?」
「あなたが空の覇者、なのですか?」
「そうだよ。俺もクリア組。エルの名前で攻略者をやってたよ」
観念して白状した。
もうこうなったら俺はマリーと組むしかない。ここまで目立った以上、自衛のためにはそうするしかない。そう決めた。
「ここです!」
「ここは?」
いかにも金持ちたちのための店が立ち並ぶ通りの中で、ひっそり佇むように地下へと続く階段がある。入り口に店名が書いてあるから、喫茶店の類だとは思うが。
「大丈夫です。姫様の親戚の方が運営するカフェですよ」
シズクが説明してくれた。
「それって、王族ってことか?」
「元、ですね。王家として活動し続ける方は珍しいんです。ほとんどは王位を継がないので」
「にしても、普通どっか貴族と結婚していくんじゃないのか?」
「それはそうなんですが……まあ、入りましょう」
「わかった、けど、もう1人いいか?」
「ん?誰かいるんですか?」
「ああ、出てきていいぞ」
声をかけると、それまで何もなかったはずの空間から、身体より大きな杖を抱きかかえるように立つ少女が現れた。
「これは……」
「久しぶり、マリー」
「ん」
相変わらず無口だが、合図にもすぐ気づいてくれた。ダンジョン攻略に当たって、妹分のように接してきたのがマリーだ。基本的なスキルは俺が教えている。
「これは……クリア組と繋がりがあるなんて……やはり何かあるのですね、あなたには」
「今から行くところは、信用できるんだな?」
「私たち以外入らせないようにしましょう」
階段の下で早く早くと手招きするフローラ姫が愛らしい。マリーを見て一瞬驚いたようだが、歓迎してくれるようだった。
◇
「紅茶とお菓子を人数分。それから、持ってきたらそのあとは人払いを」
「かしこまりました。お嬢様」
階段を降りると濃い茶色で統一された落ち着いたカフェがあった。カウンターにいた男性にシズクが何か告げると、奥にあった個室へ案内された。
「ここは私の伯父が経営しているお店なの」
「伯父って……王位継承権があったのに辞退したっていう……?」
「そう!私のお父さんに王位を譲って、身分を捨てて商売を始めたの!」
4人で席に着くとフローラ姫が色々説明してくれた。
どうも今の国王の兄は変わり者で、王位に全く興味がなく、下手に継承争いに巻き込まれないよう弟を指名して自らは継承権を破棄、さらに公爵家を新たに設けたり他の貴族家に入ることもなく自由になったらしい。これが許されるのもこの国特有だろう。色々緩い部分が多いのだ。
「そうは言っても王位継承権1位で辞退したのは異例だよな」
「まぁ……叔父様は少し変わってらっしゃるから……」
その言葉の意味は、直後お菓子と紅茶が運ばれてきたタイミングで身を持って理解させられた。
「あらぁ〜。フローラちゃんよく来たわね。シズクちゃんもお久しぶり〜。ずいぶんイケメン捕まえてきたじゃなーい。私にも紹介してぇー」
「えへへ。お久しぶりです。伯父様」
「……」
強烈なのがきた。
見た目は角刈り色黒の筋肉質なおっさんだが、フリルのついたエプロンとどうやってつけてるのかピンクのリボンを頭につけている。ダンジョンでも稀に見る異様な光景だった。
「こっちは同級生のマリーさんとリカエルくん!マリーさんはクリア組の方ですし、リカエルくんも暴走するシャドーを止められるくらい凄いんですよ!」
フローラ姫はあまり気にしない性格なのか、慣れているのか動じず話しているが、マリーなどもはや杖に顔を完全に隠してしまっている。
「あらあらあら。凄い子たちじゃない〜!私もBランクの攻略者をしてたからマリーちゃんは知ってるわ〜」
「ひっ」
マリーは完全に怯えてしまっていた。
「ふふ。可愛らしいお嬢ちゃんね。大丈夫よ。私は女の子はとって食ったりしないから」
ウインクしながら語尾にハートマークをつけて語る姿が余計マリーを怖がらせていたが、気を悪くすることもなくむしろ可愛い子ね、と上機嫌だった。
「で、こっちの子はとって食っていいのかしら?」
「だだだだめですよ!ダメですからね!?」
筋肉漢女の目がこちらへ向いたが、フローラ姫が必死に食い止めてくれていた。ありがたい……。さすがは友達思いの慈愛の姫様だった。
「うふふ。大丈夫よ。フローラちゃんのお友達をとったりしないから。その可愛い反応が見れて私は満足。さて、邪魔者はこの辺で退散させてもらうわね。しっかり人払いは済んでるから、心置きなくゆっくりしてちょうだい」
「いつもありがとうございます」
「はぁ〜い。ごゆっくり〜」
喋る間もないまま去っていった。
「えっと……まずは何から話そっか?」
マリーは怯え、俺は状況についていけず、シズクは何を考えてるかわからない顔をしているが、フローラ姫は何事もなかったかのように話を始めた。
「まずはパーティーについてでしょう」
なんだかんだシズクがまとめ役をやってくれるようだ。
「えっと、この4人でメンバーってことでいいんじゃないの?」
「それはまずこの2人に確認しないと」
シズクがマリーを見るとまたビクッと身体を震わせて杖に隠れてしまった。感情の読みにくいシズクだがちょっとショックを受けている様子が見えた。
「ありがたい申し出なんだけど、俺としては一緒にパーティーを組むつもりはない」
「えっ」
こういうのはなるべく早く切り出さないとどんどん言いづらくなる。今更感もあるが、先に宣言しておこう。
「理由を聞いても?」
固まるフローラ姫は置いておいて、シズクが場を仕切り直す。
「俺の目的とフローラ姫たちの目的が一致してない。ダンジョンのクリアを目的とするパーティーに入る気は無いんだ」
「でもこの目標は建前だというのが共通認識ですよね?」
「もちろんわかってる。ただ、それでもな」
アカデミー生のパーティーはそのほとんどが目的をダンジョンクリアに置く。現実的な目標は別で持つとしても、誰もが最高の到達点を一旦の目標にするという形だ。
だからフローラ姫のいうことは特におかしくはない。
「まだマリーには聞いてないけど、俺はマリーもダンジョン攻略を目的としてないように思ったから呼んだんだよ」
「そうなの?」
フローラ姫に声をかけられてまたビクッとなりながらも、コクコクと頷くマリー。
「まあ、クリア組で2つ目に挑んだのは、空の覇者だけだものね」
「そっかぁ。マリーちゃんはこの学校で何を?」
「ん……私も、攻略者以外の勉強がしたくて」
「リカエルくんと一緒かぁ」
予想通りマリーも俺と目的は一致していた。その先の理由もなんとなく見当はついているしな。
「じゃあ私もそっちの目的に合わせるから、それならだめかなぁ?」
「姫様?!」
「だって、クリアを目標に掲げるのは建前って、シズクも言ってたじゃない?」
「それはそうですが……」
「マリーちゃんもいるし、確かにクリア組がいるのにクリアが目標じゃだめよね」
「ですが……そもそもお2人は?」
なるほど、そうきたか……。
どうしたものかと考えているとマリーが爆弾を落とした。
「私は、エルがいるならいい」
「エル……?」
「気づいて、ない?」
きょとん、とした様子のマリーに対し、エルという単語に理解が追いつかない2人。
「リカエルは偽名。エルはエル。だから私はここにいる」
「え、え?エル?エルってあの?」
「空の覇者……」
フローラ姫とシズクの表情が驚愕に染まった。クリア組のマリーの言葉だからこそ、死んだはずの名前もすんなり受け入れられたんだろう。
しかししまったな……。マリーは隠すつもりはなかったというか、最初からバレてることがわかっていたからいいんだが、それ以上広めるつもりはなかった。
「みんな、知らなかった?」
相変わらずきょとん、とした様子のマリーを見て、俺は諦めて声をあげた。
「人違いじゃないか?」
俺は往生際が悪かった。
「そんなことはない。エルはエル。見たらわかる。それに、死んでれば私はわかる」
「はぁ……。俺が隠してたのは察してくれてなかったのか」
「内緒、だった?」
「内緒だったよ。もういいけどな」
「え、え、それじゃあ本当に?」
「あなたが空の覇者、なのですか?」
「そうだよ。俺もクリア組。エルの名前で攻略者をやってたよ」
観念して白状した。
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