世界最強のダンジョン攻略者、学校に入学して普通の人生(スローライフ)を目指す

すかい@小説家になろう

入学内定

 試験が止まったのは時間にすれば1時間も経たない時間だっただろう。
 予備も含めて再調整したシャドーは前と同じく5体、試験も先ほどと同じ流れで再開した。
 はじめこそざわついていたものの入学試験ということもあり特に何か起こす受験生もいない。滞りなく試験は進んでいく。


「さて、リカエルくんだな」
「はい」


 もちろん当事者の俺は他の生徒と同じというわけには行かず、その様子を窓から眺められる別室に連れて来られている。なんか偉いだろうなというローブの男性と話をする羽目になっているというのが今の状況だ。


「まずは詫びよう。我々の甘さが君に危険を招いた」
「いえいえ、それよりも試験を中断させてしまい申し訳ないです」
「それは君の気にすることではないだろう、何かルールに違反していなければ」


 これは思っていたよりも柔らかい反応だな?
 なんとかなるかもしれない。


「それで、だ。シャドーが壊れるということは普通はあり得ない」
「はい」
「まぁ、今年に関して言えばすでに例外がでておるのでな。何ともいいづらいところもあるが……」


 苦い顔で窓の外にいたマリーに目を向けている。
 先ほどの影響でマリーの周りに人が来ることはない。ぽつんと一人、自分の身体より大きな杖にもたれかかりながらため息を吐いていた。相変わらず人付き合いは得意ではないようだ。


「ダンジョンクリア組は、別でしょう」
「そう言ってくれるならありがたい、だが、君はどうだ?」
「どう、とは?」
「シャドーがあのようになった理由はわかるか?」
「いえ、はっきりとは」
「そうか。だが考えている通りだ。あれは相手の強さに合わせるようにしてあるのだからな」
「なるほど……」


 簡単に言えば、俺の強さに反応した結果があの暴走、という話になる。
 明言しないのはそれを認めるとややこしいことになるとわかってくれているからだろう。


「その上で聞こう。君は、クリア組ではないのだな?」
「そう、見えますか?クリアしたのは4人。そしてダンジョンの性質上、新たにクリアしたものがでればすぐに大陸全土へ伝わります」
「その通りだ」
「だとすれば、答えるまでもないでしょう」
「ふむ。全く持って、その通りだ。君が将来、新たな一人となるかもしれんということだな」
「いや、私は攻略者を目指すつもりはありませんよ」
「そうか……あまり生徒の可能性を狭めてはならんとはいえ、もったいないと言わざるを得んな」
「色々な道が拓けるからこそ、このアカデミーへ入学を希望したのです」
「なら、しっかり君の未来が広がるよう、全力を持ってサポートさせてもらおう」
「じゃあ」
「ああ、リカエル=ギークくん。本アカデミーへの入学を歓迎しよう」
「ありがとうございます!」


 この瞬間俺の、新たな道への挑戦が始まったのだった。


 ◇


 あれからローブのおじさんとは色々話をさせてもらっていた。
 なんと学園長だったらしい。偉い気がするとは思ったが、思ったより偉い人だった。
 そこでこんな話をした。


「君が攻略者を望まないというのであれば、そして今回のこの状況を説明するにあたって、頼みたいことがある」
「なんでしょう?」
「君の入学は今決めた。それは揺るがない。が、クラス編成についてだ」
「あぁ」


 クラスはその歳の入学生の数にもよるが、大きく5つにランク分けされている。
 一番上はS、これはもう、完全にダンジョンクリア者を輩出するためのクラス。
 攻略者はダンジョンに現れる貴重な採集品、魔物の素材、そしてアイテムなどで生計を立てており、本当の意味でクリア、つまりボスを倒すことを目指しているものは全体の3割もいない。それでもまあ、ある程度はみんな目指しているが、階層をすすめば進むほど危険なダンジョンに命をかけるほどの人間は現実問題、少ないのだ。
 なので、ダンジョン内で生計を立てつつ、あわよくばクリアを目指すAランク、攻略者という職業だけで生きていける基準となるBランク、それ以外の職業と兼業となるCランク、そして、道楽や初心者を指すDランクとランク付けされている。
 アカデミーのクラスも、この攻略者のランク制度にもとづいて決められている。


「君にはCクラスへいってもらいたい」
「こちらとしても嬉しいです」
「そう言ってくれると助かる。いやなに、君がいいならSクラスへ行ってもらえば、シャドーを倒した新入生が2人ということで話題になるのだがな」
「暴走させただけで倒してはいませんよ」
「そういうことにしておこう。そしてだ、これを周りにどう説明するかを考えるとな」
「そうですね」


 測定不能、とりあえずCクラスというのが妥当だろう。Bでもいいかもしれないが、ここには貴族たちも多くなる。貴族は優れた教育を受けてきているためある程度の水準までは到達しやすいし、攻略者を片手間でやっていても金は持っていることもあり、他のことを学ぶのを嫌がる。結果的になぁなぁに攻略者を目指すだけのものが多く、幅広い勉強というのには向いていない。
 また逆にDクラスというのは仮入学のレベルだ。次の年に試験に合格しなければ進学できないクラス。


「私としては願ったり叶ったりです。鍛冶や調理、鑑定や事務、色んな仕事が一番学べるじゃないですか」
「それはそうだが、その歳でそこに魅力を見いだせるのは君くらいだ」
「そうなんですか……?」
「まあ、今回はよかった。助かる」


 そんな形でしばらくたわいない話をした後、俺は合格確約という形でアカデミーを後にした。
 上々の滑り出しだろう。


 ◇


 そんな経緯もあって今日、入学初日。教室を探してさまよっていたが、よくよく考えたら普通は今日はじめてクラス編成が発表されるんだった。俺は事前に知らされていたが、流れに乗るために人だかりに向かって歩いていく。


「B!よし!よし!!!」
「やったな!一緒だ!」


「そんな……D……」
「でも合格してるだけいいじゃん、ここから頑張ろ!」


 合否は試験当日のうちに連絡されていたので、今日ここにいるのはみんな同級生ということになる。


「おい、姫様だ!」
「どっちの?」
「姫様って言ってんだから白に決まってるだろ!黒の方ならもっとこう、ウワァって感じだよ!」
「それもそうか」


 張り出されたクラス分けの結果より注目を集めているのは第3王女様。なんか白い方の姫とか呼ばれているな。多分だが、黒い方はマリーだな……。


「俺、声かけてみようかな……」
「やめとけって。お前Bクラスだろ」


 男たちがにわかにざわめき立つが、多くは遠目に見ているだけだった。だが、貴族はそうでもないようだ。


「お久しぶりです。フローラ王女」
「あら、どこかでお会いしましたっけ?」


 見てるこちらが苦しくなるほどの撃沈だった。
 多分身なり的にもある程度の貴族の子だろうに……。


「ふん、下級伯爵家程度で王族に覚えがあるわけ無いだろう」
「くっ……」


 悔しがる男を押しのけ、更に偉そうな男が前に出た。


「ご機嫌麗しゅう。姫様」
「ええ。ごきげんよう」
「フローラ様は今日も」
「ごめんなさい。まずはクラスを見たいの」


 こちらもだめだったらしい。まあそれはそうだろう。姫様だってクラス編成は気になるよな。
 とはいえあの試験結果なら、これでSじゃなきゃ誰がという話である。いや、マリーは例外だ。置いておく。


「やった!Sクラスよ!」
「おめでとうございます。姫様」
「あなたの番号もあるわ!」
「はい。私は姫様のそばにいることが仕事ですので」
「そうじゃないでしょう!あなたの実力よ!シズク!」
「ありがとうございます」


 シズクと呼ばれたのは試験の日も姫のそばに控えていた少女だ。
 目つきが鋭く、あまり他を寄せ付けるタイプではなさそうだ。ただ、実力は確かだった。あの日唯一刀を使ってシャドーを切り捨てている。シャドーに目に見えるダメージを与えられた数人の1人だった。


「これならあの人とも会えるわね」


 試験の日とは少し雰囲気が違うというか、一瞬見せた素に近い部分が全面に出ているように見える。
 あの日はシズクと呼ばれた子は近くにはいたが話してはいなかった。試験にあたってなにか取り決めでもあったのかもしれないが、その結果あの日は彼女なりに緊張していたのか、硬くなっていたということだろう。


「あの人とは?」
「私はあの人とお友達になりたいんです!あの実力なら間違いなくSクラスですよね」
「直接見ていないのでなんとも言えませんが……」


 姫があの人、とやらを探してキョロキョロあたりを伺っているのを周りの生徒も興味深そうに見ている。
 俺も気になるな。彼女ほどの実力者が目をつける相手って、マリーかな?よかったなマリー、お前、ここではぼっちにならずに済むじゃん。


「あ!いました!」


 見つけたらしい。ぐんぐんこちらを指さしてシズクの手を引っ張りながら向かってくる。嫌な予感がするがそのときにはもう手遅れだった。


「リカエルくん!私!やりました!Sクラスです!」
「それは、おめでとうございます」


 突然手を握られてそんな宣言をされたので、当然周りの騒ぎは大きくなった。

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